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卒業後
488 星暦554年 橙の月 20日 明朗会計は大切です(13)
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シェイラが久しぶりに王都に来てウィルと休養日を過ごしています。
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>>>サイド シェイラ・オスレイダ
「で、ウドウ商会は大幅に規模を縮小、会頭はほぼ全財産を没収されて引退となった、と」
久しぶりに王都に遊びに来て、ウィルと夕食に行ってウドウ商会の話を詳しく教えて貰った。
一応通信機でちょくちょく話は聞いていたのだが、流石に夜で通信機にちょっと話す程度では細かいところまで話す暇がない。
今回ウィルにあってやっと詳細を聞いたのだが・・・中々凄い。
「ウドウ商会って何か怪しいことをやらなきゃあそこまで成功する訳は無いと思っていたけど、魔術師を食い物にしていたとはね~。
ギルドや政府に訴えるような貧窮した被害者を出さなかったから20年近くも発覚せずに続けられたとは、大したものね」
悪事というのは基本的に被害者の愚痴なり死体なりから話が広まって発覚するものだ。
まあ、脱税の場合は羽振りが良すぎてばれることも多いが、ウドウ商会は一応儲けていること自体は隠していなかったので、それなりに羽振りが良くても誰も疑問に思わなかった。
周りが思って居た以上に儲けていたことが裏帳簿で今回ばれた訳だけど。
被害者に『ぼったくられている』という自覚がないと20年近くも発覚しないで続くことがあるとは驚きだ。
「さっさと諦めて軍に入隊して借金の返済をしちまう若手魔術師以外に対しては、払えなくなるような額は貸さないように気をつけていたらしいぜ」
肩を竦めながらウィルが答えた。
「その、若手と若手以外の違いって何なの?
普通は若手に沢山貸す方が危ないと思うんだけど」
経験を積んだ魔術師の方が腕は良いし、伝手も多くなるから稼ぎやすくなるだろうが若手とそこまで大きな違いがあるとは思っていなかったが。
しかもウィルの口ぶりでは経験を積んだ魔術師に対して貸す金額に関しては大きくなりすぎないように気をつけていたという話で、自分的な常識と正反対だ。
「魔術学院を卒業して数年程度の若いのは、軍に入るって言ったら基本的に無条件に歓迎されるんだよ。
軍はいつでも魔術師不足に困っているからね。
だから借金があるって言ったらその分を軍がほぼ無利子で貸して、給与から無理のない程度での天引き返済を手配してくれる。
返済が続いている間は軍にいるから、軍としてもあまり沢山返済されたくないから返済額は少な目に抑えておくから十分日常生活には困らない以上のお金が貰えるし。
よっぽど軍と肌が合わないと言うんじゃない限り、軍に入った魔術師も特に不満はないみたいだぜ。
ただ、ある程度年がいって中堅ぐらいの年齢になってから軍に入るのは流石に辛いからね。
魔術師も入隊したがらないし、軍もそれ程歓迎しないわけだ。
ある意味、魔術師は若い方が借金を返しやすいのさ」
ウィルがワインのお代わりをこちらのグラスに注ぎながら答えた。
「なるほどねぇ。
つまり、若いのはちょっと無謀なほどに金を貸して容赦なく返済を迫っても特に問題は無いけど、中堅どころは下手にそんなことをすると大問題になりかねないから貸す金額も気をつけていたの?」
お礼にウィルのグラスにもワインを注ぎながら聞き返す。
ウィルが肩を竦めた。
「アンディがウドウ商会の番頭に話を聞いたところ、そこら辺はかなり気をつけて貸す金額を管理していたらしいぜ」
有能ねぇ。
そこまで有能なら魔術師を食い物にしなくてもそれなりに儲けられたでしょうに。
というか、魔術師を食い物にするのは違法行為じゃあなかったんだから、せめて脱税しなければもう少しまともな終結を迎えられたでしょうにね。
それとも発覚したら過払い利息の返済要求で破綻することは目に見えていたから、最初からがっつり儲けた金は貯め込んでおこうと税金も節約したのかしらね?
だとしたらため込んだ金や裏帳簿まで差し押さえられたのは想定外というところかな。
「しっかし。
債務は基本5年、長くて10年で時効になって消えちまうのに、脱税の時効が15年なのって何か納得いかね~。
これってつまり、例えばアレクの親父さんが11年前に大儲けして誰かに金を貸していたとしても、その借金の取り立ては既に時効で出来なくなってしまっているけど、その大儲けをした時に税金を払い忘れていたらその税金の分はまだあと4年も取り立てはあり得るってこどだろ?」
ウィルがちょっと不満そうに肉にフォークを突き刺した。
う~ん?
何かちょっと誤解があるような?
「借金の時効っていうのは『契約された返済日から』5年よ?利子を払っていたらこれが10年になる訳ね。
つまりアレクのお父さんがお金を貸していたとして、その借金の証書に返済日が記載されていないというのならまだしも、ウンチャラ年か後に返すって記載されていたらその返済期日から5年経っていない限り時効は成立しないわ。そして利子を払い続けていたのだったらその11年前の借金は、返済期日が10年以上前だったのに利払いだけで返済を延期していたというので無い限り、まだ時効を迎えていない事になるわ。
税金に関しては・・・まあ、国が決めた規則ですからね。
国にとって有利になるのはしょうがないんじゃない?」
ウィルが首を傾げた。
「だけど、ウドウ商会からの借金は借りた日から計算していたぜ?」
「ああいう貸金業者の借金というのは基本的に返済日が設定されていないのよ。
ちょっとした突発的な理由でお金が必要になって借りるという想定だから、比較的直ぐに返すだろうということで『借りた翌日から返せる、返すまでは毎月利子を払う』という契約なの。
だから返済や利子の支払をしていなければ借りた日から5年、していたら10年で時効になる訳」
ふふふ。
色々知っているウィルも、借金に関しては詳しくないようね。
下町では貸金業者って無かったのかしら?
「へぇぇ。
下町じゃあ金なんて貸しても帰ってくるとは誰も思っていなかったから誰も貸さないんだよね。
そういうことも、これからは魔術学院で教えるようになるのかね?
実際に知り合いが引っかかったりするとそれなりに興味深いが、学生だったら聞き流して授業中に居眠りしていそうだなぁ」
もぐもぐと噛んでいたお肉を飲み込んでウィルが呟いた。
「ま、全然知らないよりは少しでも漠然と『こういう決まりがあったはず』というのを知っていたら問題が起きた時に詳しいことを魔術学院の講師なり魔術院なりに相談するでしょう。
そう言えば、明日は魔術学院に行くって言っていたけど、まだこの件で何か相談することがあったの?」
日中にちょっと街中の骨董街をぶらついている時にウィルが明日の予定を言っていたのだが。
家捜しならまだしも、会計知識的な新しい魔術学院での授業の話にウィルが関係があるというのはちょっと意外だ。
「いやいやいや。
授業の話に俺は全く関係ないよ。
明日、魔術学院に行くのは別口。
去年の魔力テストで見つけた下町の坊主と商会の娘っ子の魔術学院でのスポンサーに何故か任命されているんだけど、そいつらの様子をいい加減に見に来たらどうだって学院長からアンディ経由で言われてね。
考えてみたら新規航路の発見とか開拓とか戦争騒ぎでばたばたして、忘れていたからちょっと会いに行こうと思って」
ウィルがちょっときまり悪そうに笑いながら答えた。
「スポンサーって?」
「魔術学院の生徒で元々どっかの魔術師の弟子だとか親戚じゃない場合の、相談相手にがいた方がいいよね~っていった感じで指名される役割・・・みたいなもの?」
肩を竦めながらウィルが答えた。
・・・なんで貴方がスポンサーなのに疑問形な答えになるの?
【後書き】
本当は休養日に、去年見いだしたアルヌとパラティアのせめてどちらかとお茶でもしたらどうだと学院長に言われていたのですが、ウィルはシェイラを優先したのでしたw
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>>>サイド シェイラ・オスレイダ
「で、ウドウ商会は大幅に規模を縮小、会頭はほぼ全財産を没収されて引退となった、と」
久しぶりに王都に遊びに来て、ウィルと夕食に行ってウドウ商会の話を詳しく教えて貰った。
一応通信機でちょくちょく話は聞いていたのだが、流石に夜で通信機にちょっと話す程度では細かいところまで話す暇がない。
今回ウィルにあってやっと詳細を聞いたのだが・・・中々凄い。
「ウドウ商会って何か怪しいことをやらなきゃあそこまで成功する訳は無いと思っていたけど、魔術師を食い物にしていたとはね~。
ギルドや政府に訴えるような貧窮した被害者を出さなかったから20年近くも発覚せずに続けられたとは、大したものね」
悪事というのは基本的に被害者の愚痴なり死体なりから話が広まって発覚するものだ。
まあ、脱税の場合は羽振りが良すぎてばれることも多いが、ウドウ商会は一応儲けていること自体は隠していなかったので、それなりに羽振りが良くても誰も疑問に思わなかった。
周りが思って居た以上に儲けていたことが裏帳簿で今回ばれた訳だけど。
被害者に『ぼったくられている』という自覚がないと20年近くも発覚しないで続くことがあるとは驚きだ。
「さっさと諦めて軍に入隊して借金の返済をしちまう若手魔術師以外に対しては、払えなくなるような額は貸さないように気をつけていたらしいぜ」
肩を竦めながらウィルが答えた。
「その、若手と若手以外の違いって何なの?
普通は若手に沢山貸す方が危ないと思うんだけど」
経験を積んだ魔術師の方が腕は良いし、伝手も多くなるから稼ぎやすくなるだろうが若手とそこまで大きな違いがあるとは思っていなかったが。
しかもウィルの口ぶりでは経験を積んだ魔術師に対して貸す金額に関しては大きくなりすぎないように気をつけていたという話で、自分的な常識と正反対だ。
「魔術学院を卒業して数年程度の若いのは、軍に入るって言ったら基本的に無条件に歓迎されるんだよ。
軍はいつでも魔術師不足に困っているからね。
だから借金があるって言ったらその分を軍がほぼ無利子で貸して、給与から無理のない程度での天引き返済を手配してくれる。
返済が続いている間は軍にいるから、軍としてもあまり沢山返済されたくないから返済額は少な目に抑えておくから十分日常生活には困らない以上のお金が貰えるし。
よっぽど軍と肌が合わないと言うんじゃない限り、軍に入った魔術師も特に不満はないみたいだぜ。
ただ、ある程度年がいって中堅ぐらいの年齢になってから軍に入るのは流石に辛いからね。
魔術師も入隊したがらないし、軍もそれ程歓迎しないわけだ。
ある意味、魔術師は若い方が借金を返しやすいのさ」
ウィルがワインのお代わりをこちらのグラスに注ぎながら答えた。
「なるほどねぇ。
つまり、若いのはちょっと無謀なほどに金を貸して容赦なく返済を迫っても特に問題は無いけど、中堅どころは下手にそんなことをすると大問題になりかねないから貸す金額も気をつけていたの?」
お礼にウィルのグラスにもワインを注ぎながら聞き返す。
ウィルが肩を竦めた。
「アンディがウドウ商会の番頭に話を聞いたところ、そこら辺はかなり気をつけて貸す金額を管理していたらしいぜ」
有能ねぇ。
そこまで有能なら魔術師を食い物にしなくてもそれなりに儲けられたでしょうに。
というか、魔術師を食い物にするのは違法行為じゃあなかったんだから、せめて脱税しなければもう少しまともな終結を迎えられたでしょうにね。
それとも発覚したら過払い利息の返済要求で破綻することは目に見えていたから、最初からがっつり儲けた金は貯め込んでおこうと税金も節約したのかしらね?
だとしたらため込んだ金や裏帳簿まで差し押さえられたのは想定外というところかな。
「しっかし。
債務は基本5年、長くて10年で時効になって消えちまうのに、脱税の時効が15年なのって何か納得いかね~。
これってつまり、例えばアレクの親父さんが11年前に大儲けして誰かに金を貸していたとしても、その借金の取り立ては既に時効で出来なくなってしまっているけど、その大儲けをした時に税金を払い忘れていたらその税金の分はまだあと4年も取り立てはあり得るってこどだろ?」
ウィルがちょっと不満そうに肉にフォークを突き刺した。
う~ん?
何かちょっと誤解があるような?
「借金の時効っていうのは『契約された返済日から』5年よ?利子を払っていたらこれが10年になる訳ね。
つまりアレクのお父さんがお金を貸していたとして、その借金の証書に返済日が記載されていないというのならまだしも、ウンチャラ年か後に返すって記載されていたらその返済期日から5年経っていない限り時効は成立しないわ。そして利子を払い続けていたのだったらその11年前の借金は、返済期日が10年以上前だったのに利払いだけで返済を延期していたというので無い限り、まだ時効を迎えていない事になるわ。
税金に関しては・・・まあ、国が決めた規則ですからね。
国にとって有利になるのはしょうがないんじゃない?」
ウィルが首を傾げた。
「だけど、ウドウ商会からの借金は借りた日から計算していたぜ?」
「ああいう貸金業者の借金というのは基本的に返済日が設定されていないのよ。
ちょっとした突発的な理由でお金が必要になって借りるという想定だから、比較的直ぐに返すだろうということで『借りた翌日から返せる、返すまでは毎月利子を払う』という契約なの。
だから返済や利子の支払をしていなければ借りた日から5年、していたら10年で時効になる訳」
ふふふ。
色々知っているウィルも、借金に関しては詳しくないようね。
下町では貸金業者って無かったのかしら?
「へぇぇ。
下町じゃあ金なんて貸しても帰ってくるとは誰も思っていなかったから誰も貸さないんだよね。
そういうことも、これからは魔術学院で教えるようになるのかね?
実際に知り合いが引っかかったりするとそれなりに興味深いが、学生だったら聞き流して授業中に居眠りしていそうだなぁ」
もぐもぐと噛んでいたお肉を飲み込んでウィルが呟いた。
「ま、全然知らないよりは少しでも漠然と『こういう決まりがあったはず』というのを知っていたら問題が起きた時に詳しいことを魔術学院の講師なり魔術院なりに相談するでしょう。
そう言えば、明日は魔術学院に行くって言っていたけど、まだこの件で何か相談することがあったの?」
日中にちょっと街中の骨董街をぶらついている時にウィルが明日の予定を言っていたのだが。
家捜しならまだしも、会計知識的な新しい魔術学院での授業の話にウィルが関係があるというのはちょっと意外だ。
「いやいやいや。
授業の話に俺は全く関係ないよ。
明日、魔術学院に行くのは別口。
去年の魔力テストで見つけた下町の坊主と商会の娘っ子の魔術学院でのスポンサーに何故か任命されているんだけど、そいつらの様子をいい加減に見に来たらどうだって学院長からアンディ経由で言われてね。
考えてみたら新規航路の発見とか開拓とか戦争騒ぎでばたばたして、忘れていたからちょっと会いに行こうと思って」
ウィルがちょっときまり悪そうに笑いながら答えた。
「スポンサーって?」
「魔術学院の生徒で元々どっかの魔術師の弟子だとか親戚じゃない場合の、相談相手にがいた方がいいよね~っていった感じで指名される役割・・・みたいなもの?」
肩を竦めながらウィルが答えた。
・・・なんで貴方がスポンサーなのに疑問形な答えになるの?
【後書き】
本当は休養日に、去年見いだしたアルヌとパラティアのせめてどちらかとお茶でもしたらどうだと学院長に言われていたのですが、ウィルはシェイラを優先したのでしたw
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