486 / 1,038
卒業後
485 星暦554年 橙の月 14日 明朗会計は大切です(10)
しおりを挟む
「この情報ってどの位正確だと思う?」
スタルノの工房から帰ってきたら、ソファでシャルロとお茶を飲んでいたアンディが何やら書類を差し出しながら聞いてきた。
この情報ってどの情報だよ?
そう思いながら書類を受け取って目を通したら、どうやらウドウ商会の財産状況のようだ。
俺が以前に情報を買った時は口で言われただけだったが、考えてみたら外部の人間に料金を貰って情報を提供するのだ。
書類で正式に出すに決まっているよな。
その分値段も高くなっているんだろうけど。
どうやら盗賊《シーフ》ギルドによるとウドウ商会は現金は金貨500枚~1000枚程度、土地を幾つかと店舗の建物及び美術品を幾つか持っているらしい。
更に別紙にウドウ商会の会長及びその妻が過去20年間に購入しためぼしい宝飾品のリストが記載されていた。
ふむ。
購入した宝飾品のリストは正確なはずだし、土地や建物の所有権もそうそう間違えはしないだろう。
そこそこ大きい商会の財産状況として特に変だとは思わないが。
あの商会のサイズにしては思っていたよりも多いが、大雑把すぎる魔術師達を食い物にしてきた分、商売に金を掛けずに儲けてきたから資産が多いのだろう。
「先祖代々からの宝飾品とかがあるとしたらそれは含まれていないだろうが・・・それなりに正確だと思うぞ?」
アレクが笑いながら俺にお茶を淹れてくれた。
「ウドウ商会は今の会長になって急激に成長した商会だからね。
先祖からの宝飾品とかはあまり無いと思うよ?
今の会長が余程の凄腕なんだろうと商業ギルドでは一目置かれていたのだが、その成功の秘密が魔術師のずぼらさを食い物にしていたとは驚きだったが」
アンディが眉をひそめた。
「だが・・・これだけ大きな商会がこの程度しか現金を持っていないなんてことがあるのか?」
アンディから書類を受け取ったアレクが中身を確認して肩を竦めた。
「金貨を貯めておいたってそれは金を生まないし、却って盗まれる危険があるだけだろう?
緊急で資金が必要になった時は商会ギルドからギルド会員権を担保に資金を借りられるから、大手商会の保有している現金額はこんなものだとおもうぞ」
へぇぇ。
そうなのか。
元々金貨は宝石や美術品に比べると嵩張る上に重いので、盗賊《シーフ》ギルドの一員ならスリ以外で金貨を狙うのは余程の初心者ということになる。
なので金庫にしまってある金貨の量というのにそれ程注意を払ったことは無かったのだが、確かに考えてみたら持っている資産の価値や商売の規模に対して商会の保有している金貨の量というのは少なかったかも知れない。
俺としては店舗に金貨があるのだろうと思っていたのだが、商会全体としてあまり沢山の金貨は保有しないんだな。
「商業ギルドから資金を借りられるのか。
だったらウドウ商会が傾くような金額の過払い金返済要求を出したとしても、商会ギルドと返済プランを相談して魔術院の方には一括で返せる訳だな?」
アンディが安堵したようにアレクに尋ねた。
アレクが肩を竦めた。
「その過払い金返済額が幾らかにもよるね。
実際に商売が一時的にでも傾くような金額だとしたら、魔術師がこれから一斉にウドウ商会を使うのを止めるのだから商業ギルドからの融資を返せない訳だろう?
だとしたら会頭は返済せずに持ち運びしやすい宝石にでも資産を変えて商会そのものを破綻させて債務を無効化させる可能性は高いぞ」
「と言うか、ウドウ商会って魔術師から法外な利息を取ってお金を貸す以外、どんな収入源があるの?
魔術師がウドウ商会の主たる収入源で、それがこれから枯渇する予定なんだとしたら別に商会が傾くような金額じゃ無くても過払い返金に応じないで商会を破綻させて逃げる方がお得なんじゃない?」
シャルロがクッキーに手を伸ばしながら疑問を投げかけた。
おお~。
鋭いじゃん。
確かに、今まで金に大らかすぎる魔術師から毟り取って儲けてきて、他に碌な収入源が無いのだとしたら・・・魔術師という収入源が無くなることが分かっている場合、馬鹿正直に過払い金の返金に応じるのでは無く、商会が資金不足で破綻したことにして資産を持ち逃げする方がお得だよな。
アンディが頭を抱えた。
「じゃあ、どうすればいいんだよ?」
アレクがにやりと笑った。
「金額しだいだが・・・ある程度以上の額ならば、国税局に緊急差し押さえ要請を出すことも可能だぞ」
楽しそうだねぇ。
もしかして、ウドウ商会のことが嫌いだったのかね?
しっかし。
何だって国税局が関わってくるの?
【後書き】
ウドウ商会の会頭は典型的な悪徳成金な人なので同業の人達から(それ以外の人からも)嫌われています。
なのでアレクはウドウ商会を潰せそうで内心嬉しかったりw
スタルノの工房から帰ってきたら、ソファでシャルロとお茶を飲んでいたアンディが何やら書類を差し出しながら聞いてきた。
この情報ってどの情報だよ?
そう思いながら書類を受け取って目を通したら、どうやらウドウ商会の財産状況のようだ。
俺が以前に情報を買った時は口で言われただけだったが、考えてみたら外部の人間に料金を貰って情報を提供するのだ。
書類で正式に出すに決まっているよな。
その分値段も高くなっているんだろうけど。
どうやら盗賊《シーフ》ギルドによるとウドウ商会は現金は金貨500枚~1000枚程度、土地を幾つかと店舗の建物及び美術品を幾つか持っているらしい。
更に別紙にウドウ商会の会長及びその妻が過去20年間に購入しためぼしい宝飾品のリストが記載されていた。
ふむ。
購入した宝飾品のリストは正確なはずだし、土地や建物の所有権もそうそう間違えはしないだろう。
そこそこ大きい商会の財産状況として特に変だとは思わないが。
あの商会のサイズにしては思っていたよりも多いが、大雑把すぎる魔術師達を食い物にしてきた分、商売に金を掛けずに儲けてきたから資産が多いのだろう。
「先祖代々からの宝飾品とかがあるとしたらそれは含まれていないだろうが・・・それなりに正確だと思うぞ?」
アレクが笑いながら俺にお茶を淹れてくれた。
「ウドウ商会は今の会長になって急激に成長した商会だからね。
先祖からの宝飾品とかはあまり無いと思うよ?
今の会長が余程の凄腕なんだろうと商業ギルドでは一目置かれていたのだが、その成功の秘密が魔術師のずぼらさを食い物にしていたとは驚きだったが」
アンディが眉をひそめた。
「だが・・・これだけ大きな商会がこの程度しか現金を持っていないなんてことがあるのか?」
アンディから書類を受け取ったアレクが中身を確認して肩を竦めた。
「金貨を貯めておいたってそれは金を生まないし、却って盗まれる危険があるだけだろう?
緊急で資金が必要になった時は商会ギルドからギルド会員権を担保に資金を借りられるから、大手商会の保有している現金額はこんなものだとおもうぞ」
へぇぇ。
そうなのか。
元々金貨は宝石や美術品に比べると嵩張る上に重いので、盗賊《シーフ》ギルドの一員ならスリ以外で金貨を狙うのは余程の初心者ということになる。
なので金庫にしまってある金貨の量というのにそれ程注意を払ったことは無かったのだが、確かに考えてみたら持っている資産の価値や商売の規模に対して商会の保有している金貨の量というのは少なかったかも知れない。
俺としては店舗に金貨があるのだろうと思っていたのだが、商会全体としてあまり沢山の金貨は保有しないんだな。
「商業ギルドから資金を借りられるのか。
だったらウドウ商会が傾くような金額の過払い金返済要求を出したとしても、商会ギルドと返済プランを相談して魔術院の方には一括で返せる訳だな?」
アンディが安堵したようにアレクに尋ねた。
アレクが肩を竦めた。
「その過払い金返済額が幾らかにもよるね。
実際に商売が一時的にでも傾くような金額だとしたら、魔術師がこれから一斉にウドウ商会を使うのを止めるのだから商業ギルドからの融資を返せない訳だろう?
だとしたら会頭は返済せずに持ち運びしやすい宝石にでも資産を変えて商会そのものを破綻させて債務を無効化させる可能性は高いぞ」
「と言うか、ウドウ商会って魔術師から法外な利息を取ってお金を貸す以外、どんな収入源があるの?
魔術師がウドウ商会の主たる収入源で、それがこれから枯渇する予定なんだとしたら別に商会が傾くような金額じゃ無くても過払い返金に応じないで商会を破綻させて逃げる方がお得なんじゃない?」
シャルロがクッキーに手を伸ばしながら疑問を投げかけた。
おお~。
鋭いじゃん。
確かに、今まで金に大らかすぎる魔術師から毟り取って儲けてきて、他に碌な収入源が無いのだとしたら・・・魔術師という収入源が無くなることが分かっている場合、馬鹿正直に過払い金の返金に応じるのでは無く、商会が資金不足で破綻したことにして資産を持ち逃げする方がお得だよな。
アンディが頭を抱えた。
「じゃあ、どうすればいいんだよ?」
アレクがにやりと笑った。
「金額しだいだが・・・ある程度以上の額ならば、国税局に緊急差し押さえ要請を出すことも可能だぞ」
楽しそうだねぇ。
もしかして、ウドウ商会のことが嫌いだったのかね?
しっかし。
何だって国税局が関わってくるの?
【後書き】
ウドウ商会の会頭は典型的な悪徳成金な人なので同業の人達から(それ以外の人からも)嫌われています。
なのでアレクはウドウ商会を潰せそうで内心嬉しかったりw
0
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる