シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

485 星暦554年 橙の月 14日 明朗会計は大切です(10)

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「この情報ってどの位正確だと思う?」
スタルノの工房から帰ってきたら、ソファでシャルロとお茶を飲んでいたアンディが何やら書類を差し出しながら聞いてきた。

この情報ってどの情報だよ?
そう思いながら書類を受け取って目を通したら、どうやらウドウ商会の財産状況のようだ。
俺が以前に情報を買った時は口で言われただけだったが、考えてみたら外部の人間に料金を貰って情報を提供するのだ。
書類で正式に出すに決まっているよな。
その分値段も高くなっているんだろうけど。

どうやら盗賊《シーフ》ギルドによるとウドウ商会は現金は金貨500枚~1000枚程度、土地を幾つかと店舗の建物及び美術品を幾つか持っているらしい。
更に別紙にウドウ商会の会長及びその妻が過去20年間に購入しためぼしい宝飾品のリストが記載されていた。

ふむ。
購入した宝飾品のリストは正確なはずだし、土地や建物の所有権もそうそう間違えはしないだろう。
そこそこ大きい商会の財産状況として特に変だとは思わないが。
あの商会のサイズにしては思っていたよりも多いが、大雑把すぎる魔術師達を食い物にしてきた分、商売に金を掛けずに儲けてきたから資産が多いのだろう。
「先祖代々からの宝飾品とかがあるとしたらそれは含まれていないだろうが・・・それなりに正確だと思うぞ?」

アレクが笑いながら俺にお茶を淹れてくれた。
「ウドウ商会は今の会長になって急激に成長した商会だからね。
先祖からの宝飾品とかはあまり無いと思うよ?
今の会長が余程の凄腕なんだろうと商業ギルドでは一目置かれていたのだが、その成功の秘密が魔術師のずぼらさを食い物にしていたとは驚きだったが」

アンディが眉をひそめた。
「だが・・・これだけ大きな商会がこの程度しか現金を持っていないなんてことがあるのか?」

アンディから書類を受け取ったアレクが中身を確認して肩を竦めた。
「金貨を貯めておいたってそれは金を生まないし、却って盗まれる危険があるだけだろう?
緊急で資金が必要になった時は商会ギルドからギルド会員権を担保に資金を借りられるから、大手商会の保有している現金額はこんなものだとおもうぞ」

へぇぇ。
そうなのか。
元々金貨は宝石や美術品に比べると嵩張る上に重いので、盗賊《シーフ》ギルドの一員ならスリ以外で金貨を狙うのは余程の初心者ということになる。
なので金庫にしまってある金貨の量というのにそれ程注意を払ったことは無かったのだが、確かに考えてみたら持っている資産の価値や商売の規模に対して商会の保有している金貨の量というのは少なかったかも知れない。

俺としては店舗に金貨があるのだろうと思っていたのだが、商会全体としてあまり沢山の金貨は保有しないんだな。

「商業ギルドから資金を借りられるのか。
だったらウドウ商会が傾くような金額の過払い金返済要求を出したとしても、商会ギルドと返済プランを相談して魔術院の方には一括で返せる訳だな?」
アンディが安堵したようにアレクに尋ねた。

アレクが肩を竦めた。
「その過払い金返済額が幾らかにもよるね。
実際に商売が一時的にでも傾くような金額だとしたら、魔術師がこれから一斉にウドウ商会を使うのを止めるのだから商業ギルドからの融資を返せない訳だろう?
だとしたら会頭は返済せずに持ち運びしやすい宝石にでも資産を変えて商会そのものを破綻させて債務を無効化させる可能性は高いぞ」

「と言うか、ウドウ商会って魔術師から法外な利息を取ってお金を貸す以外、どんな収入源があるの?
魔術師がウドウ商会の主たる収入源で、それがこれから枯渇する予定なんだとしたら別に商会が傾くような金額じゃ無くても過払い返金に応じないで商会を破綻させて逃げる方がお得なんじゃない?」
シャルロがクッキーに手を伸ばしながら疑問を投げかけた。

おお~。
鋭いじゃん。
確かに、今まで金に大らかすぎる魔術師から毟り取って儲けてきて、他に碌な収入源が無いのだとしたら・・・魔術師という収入源が無くなることが分かっている場合、馬鹿正直に過払い金の返金に応じるのでは無く、商会が資金不足で破綻したことにして資産を持ち逃げする方がお得だよな。

アンディが頭を抱えた。
「じゃあ、どうすればいいんだよ?」

アレクがにやりと笑った。
「金額しだいだが・・・ある程度以上の額ならば、国税局に緊急差し押さえ要請を出すことも可能だぞ」

楽しそうだねぇ。
もしかして、ウドウ商会のことが嫌いだったのかね?

しっかし。
何だって国税局が関わってくるの?


【後書き】
ウドウ商会の会頭は典型的な悪徳成金な人なので同業の人達から(それ以外の人からも)嫌われています。
なのでアレクはウドウ商会を潰せそうで内心嬉しかったりw
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