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卒業後
479 星暦554年 黄の月 21日 明朗会計は大切です(4)
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「・・・何だこれは!!!
これを帳簿記録とは言わない!!」
イリスターナとタニーシャの家の仕事部屋に行って、『帳簿記録』として適当なメモや領収書らしき物が突っ込まれた引き出しを見せられたアレクが頭をかきむしりながら声を上げた。
ははは。
確かに、引き出しに関係ありそうな受け取りとかメモを適当に突っ込んでおいてもそれを『帳簿記録』とは言うのはちょっと無理がありそうだな。
俺だってそこまで酷くないぞ。
まあ、俺の場合領収書なんてほぼ無いからノートにメモを取っているだけだけど。
「・・・昨日、利子の領収書を纏めた物をそこから出したけど、もしかして何でもかんでもそこに入れているだけなのか??」
深く、大きく息を吐いて気を落ち着かせたアレクが今度は静かに2人に尋ねた。
静かになってもかなり怖い雰囲気のアレクに微妙に及び腰になりながら、タニーシャがイリスターナと顔を見合わせから答えた。
「一応、こちらのノートに売上は書いてあるわよ?
それを税務官に見せたらこれの2割を払えって言われたの」
渡されたノートをパラパラとめくって中を確認し、アレクがため息をついた。
「どれが魔術院の依頼か書いてないじゃないか。
これじゃあ税務官が収入の全部が一般依頼だと思って2割請求しても文句は言えないぞ。
第一、何で収益だけで費用が書かれてないんだ?」
「だって、殆ど費用なんて無いわよ?
偶に疲れたら辻馬車に乗る程度だけど、辻馬車じゃあ領収書なんてくれないし」
恐る恐ると言った感じでイリスターナが答える。
「まず、君たちはこの家を借りて家賃を払っているんだろう?
だとしたら、少なくともこの部屋の分の家賃は仕事上の経費だ。
面積ででも家賃を分けて、この部屋の分の家賃を毎月の費用として計上しろ。
仕事のために辻馬車に乗ったなら、どこからどこに乗ったのか、どの仕事の為に使ったのかをちゃんと記録しておけ。
意外とそう言った小さな費用も積み重なるんだ。辻馬車じゃあ領収書は貰え無いが、ちゃんと詳細を記録しておけば費用として認められる。
魔術院への年会費も払っているなら当然仕事の費用だ。
この黒板だって仕事用に買ったんだろう?
そう言う費用をちゃんと帳簿に付けるんだ。
取り敢えず、それ程費用が無いなら毎月の出納をノートに付けていって月ごとに収益と費用とを集計しておくだけで年末の税金の計算が楽になる」
引き出しの中にあったメモや領収書らしき物を取り出して時系列別に整理しながら、アレクが指示した。
うへぇ~。
毎月帳簿を付けるんか。
面倒くさそう・・・。
引き出しの中に突っ込んであった紙はそれなりの量があったので整理にもそれなりに時間がかかったが、その間イリスターナとタニーシャがずっとアレクに説教されていた。
アレクって意外と口うるさいんだなぁ。
普段はそんな感じはないのに。
やっと整理が終わったアレクがノートを取り出し、右側に2本の縦線を引いた。
「費用や収益がもっと色々と出てくるようになったら別々の帳簿を付けても良いが、現時点では全部を纏めた帳簿で良いだろう。
取り敢えず、一番右側の欄に費用、2番目の欄に外部からの収入、そして3番目の欄に魔術院からの収入を書き込むとする。
左側の大きめな空白の所には数字の内容の説明を書いておく。
そして月末に全部を集計していくんだ」
整理したメモや領収書などを見ながらアレクがノートに書き込みを始めた。
「この程度だったら領収書は月ごとに封筒にでも纏めておく方が良いだろう。
取り敢えずは紙挟みで留めておくが、あれは引き出しの中に適当に突っ込んでおくと外れることが多いからな。
封筒を買ってきて整理することを強くお勧めするぞ」
アレクが『強く』という所でイリスターナ達を睨みながら説明を続けた。
ははは。
俺も、必要経費なんてもんが個人的に発生した時は封筒に入れて時系列別に整理しておく方が良いみたいだな。
「家賃に関しては・・・ここは寝室2つに台所、食堂、リビングにこの仕事部屋という所か?」
アレクがイリスターナとタニーシャに尋ねた。
「食堂なんて無いわよ。
台所かリビングで適当に食べているわ」
タニーシャが肩を竦めて答える。
「ふむ。
では、家賃全額の5分の1としてここに入れておく。
成功して工房が別にある様な家屋に引っ越すようなことがあったら家賃の按分を変えるのを忘れないようにな」
ちゃちゃちゃっと数字を書き込みながらアレクが指示をした。
イリスターナ達の目が虚ろになってきてるぜ、アレク?
あまり1度に色々と教え込もうとしても無理があるぞ。
俺とシャルロが呆気にとられて見ている間に、アレクは1年分の帳簿を付け終えてしまった。
俺達よりも事業関連の事に強いのは知っていたが・・・アレクがここまで書類整理とか計算が速いとは知らなかったぜ。
ささ~と数字をページの上から下まで確認しながら左指で算盤の珠を何やら弾き、何故かそれで合計額が分かるって凄すぎる・・・。
全てを終えたアレクが帳簿を手に取って立ち上がったのは昼食前だった。
1年分の整理と帳簿書き込みって午前中だけで終わるもんなんだ。
意外~。
「よし。
昼食を食べに行って、その後に国税局に行って還付金の申請をするぞ」
はっきり言って、1年分の帳簿を付けるよりも領収書やメモを整理する(のとイリスターナ達に説教をする)時間の方が長かった気がする。
数字に関することでアレクに刃向かうことだけはしないでおこうと固く心に決めながら、俺は皆の後を追った。
【後書き】
まだ続きます。
次回は実は存在したセーフティネットに関してです。
これを帳簿記録とは言わない!!」
イリスターナとタニーシャの家の仕事部屋に行って、『帳簿記録』として適当なメモや領収書らしき物が突っ込まれた引き出しを見せられたアレクが頭をかきむしりながら声を上げた。
ははは。
確かに、引き出しに関係ありそうな受け取りとかメモを適当に突っ込んでおいてもそれを『帳簿記録』とは言うのはちょっと無理がありそうだな。
俺だってそこまで酷くないぞ。
まあ、俺の場合領収書なんてほぼ無いからノートにメモを取っているだけだけど。
「・・・昨日、利子の領収書を纏めた物をそこから出したけど、もしかして何でもかんでもそこに入れているだけなのか??」
深く、大きく息を吐いて気を落ち着かせたアレクが今度は静かに2人に尋ねた。
静かになってもかなり怖い雰囲気のアレクに微妙に及び腰になりながら、タニーシャがイリスターナと顔を見合わせから答えた。
「一応、こちらのノートに売上は書いてあるわよ?
それを税務官に見せたらこれの2割を払えって言われたの」
渡されたノートをパラパラとめくって中を確認し、アレクがため息をついた。
「どれが魔術院の依頼か書いてないじゃないか。
これじゃあ税務官が収入の全部が一般依頼だと思って2割請求しても文句は言えないぞ。
第一、何で収益だけで費用が書かれてないんだ?」
「だって、殆ど費用なんて無いわよ?
偶に疲れたら辻馬車に乗る程度だけど、辻馬車じゃあ領収書なんてくれないし」
恐る恐ると言った感じでイリスターナが答える。
「まず、君たちはこの家を借りて家賃を払っているんだろう?
だとしたら、少なくともこの部屋の分の家賃は仕事上の経費だ。
面積ででも家賃を分けて、この部屋の分の家賃を毎月の費用として計上しろ。
仕事のために辻馬車に乗ったなら、どこからどこに乗ったのか、どの仕事の為に使ったのかをちゃんと記録しておけ。
意外とそう言った小さな費用も積み重なるんだ。辻馬車じゃあ領収書は貰え無いが、ちゃんと詳細を記録しておけば費用として認められる。
魔術院への年会費も払っているなら当然仕事の費用だ。
この黒板だって仕事用に買ったんだろう?
そう言う費用をちゃんと帳簿に付けるんだ。
取り敢えず、それ程費用が無いなら毎月の出納をノートに付けていって月ごとに収益と費用とを集計しておくだけで年末の税金の計算が楽になる」
引き出しの中にあったメモや領収書らしき物を取り出して時系列別に整理しながら、アレクが指示した。
うへぇ~。
毎月帳簿を付けるんか。
面倒くさそう・・・。
引き出しの中に突っ込んであった紙はそれなりの量があったので整理にもそれなりに時間がかかったが、その間イリスターナとタニーシャがずっとアレクに説教されていた。
アレクって意外と口うるさいんだなぁ。
普段はそんな感じはないのに。
やっと整理が終わったアレクがノートを取り出し、右側に2本の縦線を引いた。
「費用や収益がもっと色々と出てくるようになったら別々の帳簿を付けても良いが、現時点では全部を纏めた帳簿で良いだろう。
取り敢えず、一番右側の欄に費用、2番目の欄に外部からの収入、そして3番目の欄に魔術院からの収入を書き込むとする。
左側の大きめな空白の所には数字の内容の説明を書いておく。
そして月末に全部を集計していくんだ」
整理したメモや領収書などを見ながらアレクがノートに書き込みを始めた。
「この程度だったら領収書は月ごとに封筒にでも纏めておく方が良いだろう。
取り敢えずは紙挟みで留めておくが、あれは引き出しの中に適当に突っ込んでおくと外れることが多いからな。
封筒を買ってきて整理することを強くお勧めするぞ」
アレクが『強く』という所でイリスターナ達を睨みながら説明を続けた。
ははは。
俺も、必要経費なんてもんが個人的に発生した時は封筒に入れて時系列別に整理しておく方が良いみたいだな。
「家賃に関しては・・・ここは寝室2つに台所、食堂、リビングにこの仕事部屋という所か?」
アレクがイリスターナとタニーシャに尋ねた。
「食堂なんて無いわよ。
台所かリビングで適当に食べているわ」
タニーシャが肩を竦めて答える。
「ふむ。
では、家賃全額の5分の1としてここに入れておく。
成功して工房が別にある様な家屋に引っ越すようなことがあったら家賃の按分を変えるのを忘れないようにな」
ちゃちゃちゃっと数字を書き込みながらアレクが指示をした。
イリスターナ達の目が虚ろになってきてるぜ、アレク?
あまり1度に色々と教え込もうとしても無理があるぞ。
俺とシャルロが呆気にとられて見ている間に、アレクは1年分の帳簿を付け終えてしまった。
俺達よりも事業関連の事に強いのは知っていたが・・・アレクがここまで書類整理とか計算が速いとは知らなかったぜ。
ささ~と数字をページの上から下まで確認しながら左指で算盤の珠を何やら弾き、何故かそれで合計額が分かるって凄すぎる・・・。
全てを終えたアレクが帳簿を手に取って立ち上がったのは昼食前だった。
1年分の整理と帳簿書き込みって午前中だけで終わるもんなんだ。
意外~。
「よし。
昼食を食べに行って、その後に国税局に行って還付金の申請をするぞ」
はっきり言って、1年分の帳簿を付けるよりも領収書やメモを整理する(のとイリスターナ達に説教をする)時間の方が長かった気がする。
数字に関することでアレクに刃向かうことだけはしないでおこうと固く心に決めながら、俺は皆の後を追った。
【後書き】
まだ続きます。
次回は実は存在したセーフティネットに関してです。
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