シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

460 星暦554年 緑の月 14日 俺達専用の屋形船(8)

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ダルム氏の視点から、アレク君の視点になります。

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>>>サイド フェルダン・ダルム

「ちょっとお伺いしたいのですが、小型ボートを動かす魔道具のようなものってあるかご存じですか?
今度作ろうとしている屋敷船は大きくてあまり小回りがきかないので、港以外で岸に行きたい時とかちょっと周辺を見て回る時用に小型ボートも必要かという話になったのですが・・・何分非力な魔術師ですからね。
あの二人がいない場合は私が手こぎというのはちょっと避けたいのですよ」
尋ねてきたアレク・シェフィートが苦笑しながら聞いてきた。

ふむ。
そう言えば、自分達用の屋形船を造るから船大工を紹介して欲しいと言われたが・・・屋敷船?
どう違うんだ?

「魔道具で動く小型ボート?
そんなものは聞いたことが無いな。
基本的に船というのはそれなりの人数の船員がいなければ動かせない代物なんだ。
つまり、当然の事ながら船には小型ボートを動かす人員も十分いるから、船主がそれを自力で動かす羽目になるという事態は普通は生じない。
だが・・・船を動かせる魔道具が造れるのだったら、それに対する需要はあると思うぞ。
かなりの出力が必要になるが、入港した船を動かすのにどの港でも苦労する時があるからな。
短時間で良いから、商船を引っ張って動かせる魔道具を発明したら需要はかなり高い。
うちも是非買わせて貰うから、試作品でも出来たら是非見せて欲しいね」

港を出れば風や海流に乗って動けるのに、湾になっている港で風が凪いでしまって出られないがために出発が遅れる交易船がどれ程あることか。
ガレー型の船なら人力で動かすことも可能だが、あれは外海に出るのには向いていない。普通の交易船の場合は港で大量の人員を雇って静止している船を動かすことになる。
大型船になったら、港の地形によっては実質的にそれが不可能なことも多い。

まあ、前回のアドリアーナ号の回収の際に5人も魔術師を使ってすら船を浮上させられなかったのだ。
複数の魔術師が協力した場合よりも出力の大きな魔道具の話はあまり聞かないから、そう考えると魔道具で船を動かすのは無理かな?

そんなことを考えていたら、アレクがため息をついた。
「魔術院の特許事務所の魔術回路には船の動力としての魔道具は見当たらなかったので、アファル王国では製造されていないとは思っていましたが・・・他の国でも見当たりませんか」

「まあ、そこは君たちが頑張って開発したらどうだ?
先日の真水抽出魔道具は中々大した物だった。
船の動力だって何とかなるのではないかと期待しているよ」
それを売り出す時にはダルム商会に話を持ってきてくれると嬉しいね。
ウチはシェフィート商会よりも海の交易関係には強いぞ~。

◆◆◆◆

>>>サイド アレク・シェフィート

「ダルム商会でも聞いたことが無いとのことだった」
態々会う約束を入れて尋ねたのだが、残念ながらダルム商会から期待した情報は得られなかった。

報告を受けたシャルロとウィルは、肩を竦めながらパディン夫人が焼いたケーキを切り分けて午後のお茶の準備を続けた。
「まあ、あそこが見たことがあるんだったら魔術院に魔術回路があるだろうとは思ったし。
諦めて他の魔道具を流用できないか、実験してみようぜ」
沸いたお湯をポットに注ぎながらウィルが答えた。

「僕としては、鉱山にある換気システムが有望なんじゃ無いかと思うんだよねぇ。
添付されていた設計図と仕様を見たら、かなり大きい感じだったからそれなりに強度と出力もあると思うし」
シャルロがケーキをお皿に載せながら付け加える。

「空気を動かす換気道具と、水を動かす推進機では掛る負荷が大分違うぞ?」
あまり大きな推進機だったら邪魔だろうし。

「まあ、俺達が使う分は固定化や強化の術を使っても良いんだし。
色々実験して実用性がありそうなのを見極めれば良いんじゃないか?
動かすと言えば、魔術院に偏屈の引きこもり魔術師が発明した水車の動力源となる魔道具があったぜ。
水の流れで水車を動かすんじゃ無くて、水車を魔道具で動かすことで水を高台にある自分の家まで引いていたようだった。
ある意味、動くということではこれも推進力になるかも?」
ウィルが砂時計を確認してお茶を注ぎながらコメントする。

水車ねぇ。
まあ、推進力が欲しいのだ。動きのある魔道具だったら設置の仕方次第で推進力を得ることは可能か?

「早速実験してみたいけど・・・船に付けるんだったら、小型ボートを買って実験した方が良いかな?」
ぽすん、とケーキを手にソファに座り込みながらシャルロが小さく首を傾げた。

「あまり何度も魔道具を付け替えるのは面倒だから、換気用の魔道具と水車用の魔道具を別々に試して改善していく為に、少なくとも2隻は買った方が良いだろうな。
明日にでも、廃棄予定の小型ボートが無いかダルム商会で聞いてみるか」
失敗したな。
考えてみたら試作品に船が必要になるのは当然のことなのだ。
今日、会いに言った際にこれも話を付けておけば良かった。

まあ、極端には急がないのだ。
先にまず動力源を造りながら、適当に序でがあるときに入手すれば良いか。


【後書き】
船のことは全然詳しくないので、適当な想像で書いてます。
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