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卒業後
458 星暦554年 緑の月 9日 俺達専用の屋形船(6)
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>>> サイド とある船大工
「今日は面白い物を見せてくれるって話だが、ダルム商会の船だったら大体修繕とかにも関わっているから目新しい物はないぞ」
昨日連絡が入り、港で待ち合わせとなって倉庫に現れたのは先日会ったシェフィート商会の三男と何やら若い男2人だった。
アドリアーナ号の改修がやっと終わった所だったので比較的暇だったから付き合っているが、ダルム商会経由で来た話でも、何やら馬鹿みたいな計画で出来れば関わりたくないのだが・・・。
帆も無く、安定性や防水性を考える必要性の無い船の製作??
何を阿呆な事を言っているのやら。
『自分の云うとおりにやれば良い、出来上がった物に関して責任は問わない』と云われたところで、結局金を掛けて完成した船がドックから出したらそのまま沈んだなんてことになった時に責任を問れなかったなんて話は聞いたことが無い。
『少なくとも海に浮かぶのが船として前提条件だ』とか云うに決まっている!!
その『海に浮かぶ』という条件を満たすためにどれだけ俺達船大工が細心の注意を払ってバランスや防水機能に工夫していると思っているんだ!!!
船なんて、浮きさえすれば帆で何とか動かせるんだよ!!!
そこら辺を分かってないで偉そうなことを言う船主モドキが多すぎて本当に困る。
だからそこら辺はちゃんと分かっているダルム商会の仕事を主に取り扱っていたのだが・・・あそこ経由で変な若造達に仕事を頼まれるとは思わなかったぜ。
まあ、ダルム商会ですらこないだのアドリアーナ号ではちょっと失敗していたが。
少なくともあそこは船大工に改修を頼むだけで、文句は言ってこなかった。
「あ、おはようございま~す。
ちょっと、僕たちが求めている物に不安を持っているみたいなんで、1度どういう感じになるのかをお見せしようと思って」
シェフィート商会の三男の横に居た若いのが軽く手を挙げて声を掛けてきた。
「フェルダーさん、おはようございます。
私の仲間のシャルロとウィルです。シャルロ、ウィル、船大工のフェルダーさんだ。
フェルダーさん、私が先日言ったように、今度作ろうとしている屋敷船は『船』と言っても、家を海に浮かべられるようにしただけの物であれば良いのであって、船としての機能は必要ないんですよ。
その理由がこの二人。
中位以上の水精霊の加護があるんで、船を水や風から守って自在に動かしてもらえるんです。ただ、ちょっと想像が付かないと思うのでお見せしましょう」
そう言いながら、アレク・シェフィートが倉庫の奥に係留してあった船の方へ向かった。
・・・というか、『船だった物』だな。
マストは3本の内2本が折れており、当然帆も無く、甲板の板も所々穴がめくれ上がっているのを適当に修繕してあるだけだ。
「これは去年僕たちが見つけた沈没船なんだ。見つけた時は船に穴は開いてなかったんだけど、木が傷んでいたのか、水から引揚げたときに底が抜けたんだよね。
僕たちが欲しいのはこれより一回り大きいのになると思うけど、まあなんで防水性も安定性も気にしなくて良いと言っているかを理解して貰えると思うから、取り敢えずこれで実演して見せようと思って」
シャルロと紹介された若いのが明るく話しながら船の中に入っていった。
おい。
底が抜けているのか??
と言うか、態々こんなボロい船の底が抜けたのを修理するなんて、無駄だろうに。
そう思いながらついていったら、船の一番下の層にある資材置き場まで案内された。
というか、資材置き場だった場所で、今は何も置かれておらず・・・大きな穴から水の中を泳いでいる魚の姿が見えていた。
はぁぁ??
「なんだこりゃぁ?!」
「水精霊の加護があったら、船に穴が開いていても水が入ってこないように出来るし、帆が無くても船を動かすことも出来るんだ。
船その物も必要ないんだけど、流石に家を海の中を引きずって動くのはちょっと何かな~っていう気がするから、船の形を造ってその中に家をすぽっと入れたいんだよね。
取り敢えず、ちょっと動かすから上に戻ろうか」
若いのがにこやかに説明しながら甲板へ戻り始めた。
「王都の港でこの船が動いていたら周りからちょっと注目を集めちゃうから、港を出るまでは海面の下で進むね」
そう声を掛けられたと思ったら、突然船が沈み始めた。
「うゎぁぁぁ!!」
思わず悲鳴をあげてドックの方へ飛び移ろうとしたが、静かに横に立っていたもう一人の若いのに腕をつかまれ、船から踏み出せる前に水面下に沈んでいた。
濡れずに。
「ぁぁぁぁあああ?
・・・なんだこれ?」
自分が濡れていないし水がドーム状に甲板から離れている。
何が起きている??
「中位以上の水精霊が加護を与えていたら、船の周りを守るのなんて朝飯前なんだよ。
だから穴が開いていても中に水が入ってこないし、精霊が動かしているから帆も要らない。
別に精霊にとって昼も夜も関係ないから1日中動き続けるから普通の船よりもずっと速く、俺達が快適な部屋の中で寝ている間に目的地に着けるって訳」
ウィルと紹介された若い男が何やら説明していたが、頭上に他の船の底が動いているのを見回すのに忙しくて殆ど話は聞いていなかった。
海の中ってこんな感じなのか・・・。
上からの光でぼんやりと明るい水の中を魚が泳ぎ回り、時折上に船が通り過ぎる。
夢中になって周りを見ている間に、船が段々海面に近づき、やがて上に出た。
「もう港を出たのか!!!」
王都の港はそれなりに大きく、船の行き来も多い為に出航するのも時間が掛る。
実際に港を出るのに1刻以上掛ることも珍しくないのに・・・既にもう船は港の外に来ていた。
「早いでしょ?
これだったら転移門を使って目的地の傍の街に行って、そこから船を探して移動するよりも直接行く方が良さそうな感じだと思わない?」
シャルロと言う若者がにこにこしながら声を掛けてきた。
帆が無く、船底に穴が開いているなんて信じられない速度で船は動いていた。
信じられねぇ。
一級の軍艦でもとんでもなく風と海流に恵まれない限りこんな速度は出ない。
「これって魔道具じゃあないんだな?」
魔道具でこれを行えるならば、船の常識が根本から覆される。
帆が要らなくって海中を進めるなら今の形も必要ないかも知れない。
アレク・シェフィートが肩を竦めた。
「精霊の力というのは魔術師や魔道具の力を遙かに上回っているんだよ。
ある意味、自然の力その物だからね。
蒼流が片手間にやっているこの作業を魔道具でやろうとしたら・・・それこそ、この船の倉庫を埋め尽くすぐらいの魔石が動力源として必要になるかな?
だから今の帆船への需要は変わらない。
今回頼んでいるのは中位水精霊の加護という変則的な要素があって始めて可能な船なのさ」
何とも。
船底に穴が開いていても航海に支障が無いとはねぇ・・・。
確かにこれなら家を船の形に作っても航海できるだろう。
だが。
それって船とは言わないだろう??
【後書き】
考えてみたら、マストが壊れてて底に穴が開いている船でも構わないんだから、家をそのまま海の上を引きずるのも大して差が無かったりw
ただまあ、あまりにもそれだと身も蓋もないので、取り敢えず屋敷『船』に。
「今日は面白い物を見せてくれるって話だが、ダルム商会の船だったら大体修繕とかにも関わっているから目新しい物はないぞ」
昨日連絡が入り、港で待ち合わせとなって倉庫に現れたのは先日会ったシェフィート商会の三男と何やら若い男2人だった。
アドリアーナ号の改修がやっと終わった所だったので比較的暇だったから付き合っているが、ダルム商会経由で来た話でも、何やら馬鹿みたいな計画で出来れば関わりたくないのだが・・・。
帆も無く、安定性や防水性を考える必要性の無い船の製作??
何を阿呆な事を言っているのやら。
『自分の云うとおりにやれば良い、出来上がった物に関して責任は問わない』と云われたところで、結局金を掛けて完成した船がドックから出したらそのまま沈んだなんてことになった時に責任を問れなかったなんて話は聞いたことが無い。
『少なくとも海に浮かぶのが船として前提条件だ』とか云うに決まっている!!
その『海に浮かぶ』という条件を満たすためにどれだけ俺達船大工が細心の注意を払ってバランスや防水機能に工夫していると思っているんだ!!!
船なんて、浮きさえすれば帆で何とか動かせるんだよ!!!
そこら辺を分かってないで偉そうなことを言う船主モドキが多すぎて本当に困る。
だからそこら辺はちゃんと分かっているダルム商会の仕事を主に取り扱っていたのだが・・・あそこ経由で変な若造達に仕事を頼まれるとは思わなかったぜ。
まあ、ダルム商会ですらこないだのアドリアーナ号ではちょっと失敗していたが。
少なくともあそこは船大工に改修を頼むだけで、文句は言ってこなかった。
「あ、おはようございま~す。
ちょっと、僕たちが求めている物に不安を持っているみたいなんで、1度どういう感じになるのかをお見せしようと思って」
シェフィート商会の三男の横に居た若いのが軽く手を挙げて声を掛けてきた。
「フェルダーさん、おはようございます。
私の仲間のシャルロとウィルです。シャルロ、ウィル、船大工のフェルダーさんだ。
フェルダーさん、私が先日言ったように、今度作ろうとしている屋敷船は『船』と言っても、家を海に浮かべられるようにしただけの物であれば良いのであって、船としての機能は必要ないんですよ。
その理由がこの二人。
中位以上の水精霊の加護があるんで、船を水や風から守って自在に動かしてもらえるんです。ただ、ちょっと想像が付かないと思うのでお見せしましょう」
そう言いながら、アレク・シェフィートが倉庫の奥に係留してあった船の方へ向かった。
・・・というか、『船だった物』だな。
マストは3本の内2本が折れており、当然帆も無く、甲板の板も所々穴がめくれ上がっているのを適当に修繕してあるだけだ。
「これは去年僕たちが見つけた沈没船なんだ。見つけた時は船に穴は開いてなかったんだけど、木が傷んでいたのか、水から引揚げたときに底が抜けたんだよね。
僕たちが欲しいのはこれより一回り大きいのになると思うけど、まあなんで防水性も安定性も気にしなくて良いと言っているかを理解して貰えると思うから、取り敢えずこれで実演して見せようと思って」
シャルロと紹介された若いのが明るく話しながら船の中に入っていった。
おい。
底が抜けているのか??
と言うか、態々こんなボロい船の底が抜けたのを修理するなんて、無駄だろうに。
そう思いながらついていったら、船の一番下の層にある資材置き場まで案内された。
というか、資材置き場だった場所で、今は何も置かれておらず・・・大きな穴から水の中を泳いでいる魚の姿が見えていた。
はぁぁ??
「なんだこりゃぁ?!」
「水精霊の加護があったら、船に穴が開いていても水が入ってこないように出来るし、帆が無くても船を動かすことも出来るんだ。
船その物も必要ないんだけど、流石に家を海の中を引きずって動くのはちょっと何かな~っていう気がするから、船の形を造ってその中に家をすぽっと入れたいんだよね。
取り敢えず、ちょっと動かすから上に戻ろうか」
若いのがにこやかに説明しながら甲板へ戻り始めた。
「王都の港でこの船が動いていたら周りからちょっと注目を集めちゃうから、港を出るまでは海面の下で進むね」
そう声を掛けられたと思ったら、突然船が沈み始めた。
「うゎぁぁぁ!!」
思わず悲鳴をあげてドックの方へ飛び移ろうとしたが、静かに横に立っていたもう一人の若いのに腕をつかまれ、船から踏み出せる前に水面下に沈んでいた。
濡れずに。
「ぁぁぁぁあああ?
・・・なんだこれ?」
自分が濡れていないし水がドーム状に甲板から離れている。
何が起きている??
「中位以上の水精霊が加護を与えていたら、船の周りを守るのなんて朝飯前なんだよ。
だから穴が開いていても中に水が入ってこないし、精霊が動かしているから帆も要らない。
別に精霊にとって昼も夜も関係ないから1日中動き続けるから普通の船よりもずっと速く、俺達が快適な部屋の中で寝ている間に目的地に着けるって訳」
ウィルと紹介された若い男が何やら説明していたが、頭上に他の船の底が動いているのを見回すのに忙しくて殆ど話は聞いていなかった。
海の中ってこんな感じなのか・・・。
上からの光でぼんやりと明るい水の中を魚が泳ぎ回り、時折上に船が通り過ぎる。
夢中になって周りを見ている間に、船が段々海面に近づき、やがて上に出た。
「もう港を出たのか!!!」
王都の港はそれなりに大きく、船の行き来も多い為に出航するのも時間が掛る。
実際に港を出るのに1刻以上掛ることも珍しくないのに・・・既にもう船は港の外に来ていた。
「早いでしょ?
これだったら転移門を使って目的地の傍の街に行って、そこから船を探して移動するよりも直接行く方が良さそうな感じだと思わない?」
シャルロと言う若者がにこにこしながら声を掛けてきた。
帆が無く、船底に穴が開いているなんて信じられない速度で船は動いていた。
信じられねぇ。
一級の軍艦でもとんでもなく風と海流に恵まれない限りこんな速度は出ない。
「これって魔道具じゃあないんだな?」
魔道具でこれを行えるならば、船の常識が根本から覆される。
帆が要らなくって海中を進めるなら今の形も必要ないかも知れない。
アレク・シェフィートが肩を竦めた。
「精霊の力というのは魔術師や魔道具の力を遙かに上回っているんだよ。
ある意味、自然の力その物だからね。
蒼流が片手間にやっているこの作業を魔道具でやろうとしたら・・・それこそ、この船の倉庫を埋め尽くすぐらいの魔石が動力源として必要になるかな?
だから今の帆船への需要は変わらない。
今回頼んでいるのは中位水精霊の加護という変則的な要素があって始めて可能な船なのさ」
何とも。
船底に穴が開いていても航海に支障が無いとはねぇ・・・。
確かにこれなら家を船の形に作っても航海できるだろう。
だが。
それって船とは言わないだろう??
【後書き】
考えてみたら、マストが壊れてて底に穴が開いている船でも構わないんだから、家をそのまま海の上を引きずるのも大して差が無かったりw
ただまあ、あまりにもそれだと身も蓋もないので、取り敢えず屋敷『船』に。
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