シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

443 星暦554年 紺の月 34日 新しいことだらけの開拓事業(15)

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シャルロの大叔父さんの視点です。

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>>>サイド ウォレン・ガズラート

「素晴らしいですよ、あの青年は!!!
どこで見つけたんですか?!
是非とも我らのために働いて貰いたい所です。知り合いなのですよね?ガズラート老からも声を掛けていただけませんか?!」

ジェルデ号がもう帰ってきたと連絡が来たので騎士団に顔を出したら、興奮しまくった副団長に捕まった。

どうやらシャルロの学生時代に調べさせた際の報告通り、ウィル青年は中々有能だったようだ。
魔術院で捕まえて何とか金で依頼を請けるよう説得してから6日で帰ってきたと言うことは、島に着いた後は実質1日程度で拘置所に侵入し、諜報人を見つけて情報を受け取ってきたことになる。

通常だったら最低でも5日ぐらい掛ってもおかしくない隠密活動であることを考えると、副団長が興奮するのも不思議では無いが・・・取り敢えず優先順位はそこまで高くないだろうに。
「既に誘って断られておる。
元々、魔術学院でもガイフォード家の次男とそれなりに親しくしていたという話だから、軍に入る気があったらあやつの誘いに乗っていただろうよ。
それよりも、入手した情報は何だった?」

こちらの言葉に冷静さを取り戻した副団長が、数枚の書類を差し出してきた。
「何カ所かで、宣戦布告と同時もしくはその直前に襲撃をする準備をしているらしき場所が見つかったようです。
どうやらガルカ王国は本気でこちらにちょっかいを出してくるつもりのようですな」

渡された書類にざっと目を通す。
軍港や主要な港町では無いもののそれなりに重要な都市を襲撃できる場所に、軍艦に見えないように偽装された船が集まっているらしい。
この調子なら、海だけでは無く地上も似たような準備が行われていそうだ。
「死に物狂いという感じだな」

これ程の数の兵力を動かしたとなったら、襲撃で幾つかの都市ぐらいは占拠しないとガルカ王国の経済が破綻してしまうだろう。
というか、既に実質破綻状態であるという報告が来ている。
それを誤魔化すための襲撃か。

何とも面倒な。
「王は何と?」

副団長が肩を竦めた。
「まあ、それなりに準備はしていましたからね。
海側に関しては『これで集中して守らなければならない地点が分かったので少し楽になったな』とおっしゃっていましたよ」

アイシャルヌには3対7で戦争になると言ったが、どうやらガルカ王は思っていた以上に馬鹿だったらしい。
もしくはテリウス教に借りを作りすぎて身動きが取れなくなったか。
一応の為と思ってシャルロを東大陸の方へ送り出しておいて正解だったな。
「上が馬鹿だと周りにも迷惑が掛って本当に困ったもんだの」

「だからこそ、あのウィル青年を勧誘したいのですよ!」
またもや副団長の頭がシャルロの友人へ戻ったようだった。

「既に誘って断られたのだろう?
嫌がっている人間を無理矢理働かせるようなことが出来るタイプの仕事では無いだろうに。
諦めて魔術学院で運動神経が良さそうな若いのに早い段階から唾を付けておいたらどうだ?
ウィル・ダントールは別に超人的な能力を持っている訳では無い。他の人間に同じスキルを取得させるのは可能だろう?
流石に魔術師の才能だけは訓練で取得出来る物では無いから、魔術学院出の若いのを訓練することになると思うが」

「ですが・・・」
諦め切れない様子の副団長にため息が漏れた。

「分かった。取り敢えず声は掛けておく。
正規に軍属になるのは断られても、今回のような突発的な案件を単独の依頼として請けてもらえるように話だけでもつけばそれで良いだろう?
あやつは特級魔術師のお気に入りで、儂の甥っ子の親友だ。
下手に強硬に押しすぎると痛いしっぺ返しが来るぞ」

シャルロから苦情が来たら儂がウィル君の味方をするつもりだというのが読み取れたのか、副団長が深くため息をついた。
「分かりました。
せめて単発依頼に関しては、是非お願いしますよ~」


さてね。
下町出身の人間というのは愛国心が平均以上に強いか、全く無いか、両極端になる事が多いのだが・・・軍からの誘いを嫌がるところを見ると、ウィル君は無い方なのだろうなぁ・・・。

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