シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

439 星暦554年 紺の月 26日 新しいことだらけの開拓事業(11)

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変な頼み事や依頼を押しつけられないうちにさっさと東の大陸へ戻ろうと、シェイラとの夕食の後に家にも戻らずに転移門に向かった俺だったが・・・考えてみたら、向こうへ戻るためには転移門を使う必要があり、その為には魔術院に行く必要があるのだった。

それでも魔術院で忙しげに一直線で転移門に向かい、そのまま出てしまえば大丈夫だろうと思っていたのだが・・・。
転移門の使用申込書を書き込み、提出して振り返った瞬間こちらに猛然と進んでくる男と目が合ってしまった。

「ちょっと手洗いに行ってくる」
転移門の受付担当に声を掛けて、奥に進む。

目が合った男は魔術師には見えなかった。
魔術院の構造を知らなければ、奥の手洗いから外に出られることも知らないだろう。

しょうがない、取り敢えず何処かの宿にでも身を潜めて、夜中遅くにでも魔術院に戻ろう。
そんなことを考えながら魔術院を出ようとしたら、突然横から腕を捕まれそうになった。

「うわっ」
思わず掴もうとしてきた腕にナイフを突き立てようとしたら、それを避けた男が一歩下がって両手を挙げて見せた。
「怪しい者では無い。
少し依頼の話をしたいだけなのだが」

魔術院の裏口で待っている時点で十分怪しいよ。
「悪いが、今は別の事業で忙しくてね。
依頼は請けていないので他の人間にあたってくれ」

中で見かけた男もこいつの仲間だろう。
突然関係ない2組の人間に追われるいわれはない。
となったら、もう『忙しい。興味は無い』で振り切ってこのまま転移門を使って帰れば良いか。
開き直って魔術院の中に戻ろうとしたら、その扉から見たことのある老人が姿を現した。

「まあそう言わないでくれ。
5日ほど休みを貰ったと聞いたぞ?」

・・・なんでこんな所にシャルロの『ウォレンおじさん』が姿を現すんだ???

◆◆◆◆

「実は、オスレイダ商会の長男が乗った船には儂の知り合いの経営している商会も出資しておってな。
情報収集に励みながら南の諸島を向かっていたらしいのだが、捕まってしまった訳だ。
しかも捕まる直前に、何やら重要な情報を入手したと連絡があったのでこちらも困っているのじゃよ」
どうやってか手配した魔術院の会議室で、ウォレン氏が説明を始めた。

「身代金を払えば良いでしょうに」
シェイラの馬鹿兄貴、軍の情報収集に利用されるなんてとことん馬鹿なのか、運が無いのか。どちらにしても、迷惑な野郎だ。

「そうもいかん。
オスレイダ商会があの息子の身代金を出すと言うのだったらどさくさ紛れにこちらの人間の身代金も出せば良かったのだが、あそこが断ったからな。
残りの参加者は身代金なんぞ払える様な経済力がある商会ではないということになっている。
知り合いの傘下の人間だけが身代金を払って解放されるとなると要らん注意を引いてしまう」
肩を竦めながら老人が答えた。

ふ~ん。
どうやらシェイラの馬鹿兄貴は、今回だけではなく長期的に諜報を行っている組織と知らずに手を組んでしまったようだな。

だが、もうどうしようも無いだろう。
この際その商会の正体がばれても情報を持った人間の身代金を払って引き取るか、騒動が治まるまで待つしかないだろうに。

無関係な魔術師を巻き込まないでくれ。
「で?
シェイラに父親が身代金を払うよう説得しろと言うのか?
俺よりも、あんた達が直接交渉した方がいいだろ?」

俺が口を出したって怪しすぎる事に変わりはない。だったらもう開き直って軍がオスレイダ商会に協力を頼むべきだ。
あの親父さんだったらちゃんと口を噤むべき事は噤むだろうし。

「既に身代金拒絶の返事は伝えられてしまっているのでな。
今更払うと言っても怪しいだけじゃよ。
それよりも、儂らは情報だけを受け取りたい。
連中が拘束されている場所をやっと見つけたのだが、残念なことに海賊どもが拠点として使っている島にいるようで、近づけないのだよ」

ジジイの言葉に、嫌な予感が強まった。
「そんなもん、場所が分かっているならギリギリまで船で近づいて誰かが泳いで行けば良いだろうに。
もしくは空滑機《グライダー》で上から近づいて、適当な所に着陸するとか。
いくら何でも島の全ての場所に目が行き届いている訳では無いだろう?」
なんだったら空滑機《グライダー》を貸し出すぐらいなら構わない。
取り敢えず、俺を巻き込むな!


【後書き】
シェイラの家族とは関係無しに、巻き込まれそうなウィル君w
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