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卒業後
437 星暦554年 紺の月 26日 新しいことだらけの開拓事業(9)
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王都に転移したら、まだ魔術院には人がいた。
と言うか、時刻を確認したらまだ普通の勤務時間内だった。
一応時間の違いというのはアレクに説明されていたし、通信するときにはそれなりに計算する。
だが実際にもう日が落ちていた領事館から転移門を使って一歩進んだらまだ夕方のこちらに着くというのは違和感がある。
変なの。
これって東に向かって転移し続けたら永遠に同じ1日を過ごすことになったりするのかね?
だけど、幾ら東に廻ったって元に居た土地に戻ってきたら前の日だったって事はないだろう。この時間の違いってどうなっているのか微妙にその論理が納得できない。
アレクや学院長にでも聞いたら分かりやすいように説明してくれるのかね?
それはともかく。
まずはシェイラだな。
・・・その前に、王都で何か大事が起きていないか確認しておくか。
「ようアンディ、最近見なかったが年末はどうだったんだ?」
どうやら今日は受付当番だったらしい元クラスメートを見つけて、声を掛けた。
書類を整理していたアンディが顔を上げた。
「お久しぶり~。
何やら3人で大活躍しているらしいね?
新しい航路と補給島を発見しただけで無く、更に航海にがっつり役に立ちそうな真水の抽出用魔道具を開発したなんて、俺達の同期ではダントツの活躍だぜ?」
書類を片付けながら、アンディが立ち上がった。
「折角だから、ちょっと一杯お茶でも飲まないか?」
珍しいな、こいつがお茶に誘うなんて。
何かあったのか?
「おう。
ちょっとこの後シェイラを探したいんであまり時間は無いが、腹も減ったし軽く何かつまみながらお茶を飲ませて貰うよ」
魔術院の中にも軽食を食べられる場所はあるのだが、アンディは外に出た。
あれ?
勤務時間中じゃないの?
確かにさっき何やら同僚に一言断っていたが。
外に出ても良いのかね??
「そう言えば、最近王都で何か起きているか?
シェイラが急に家族から連絡を受けて王都に戻ってきているらしいんだが、戦争が始まるとかそう言う事ではないよな?」
流石に戦争が始まるんだったら幾ら開拓地で忙しくしているとしても連絡ぐらいは来るだろうが。
アンディが選んだ喫茶店は魔術院から近かったが、ちょっと一本裏に入った所にあるせいか、あまり人は入っていなかった。
と言うか、元々プライバシーを重視する顧客層が相手なのか、テーブルはそこそこ離れており、お互いの話し声も簡単には聞こえないようになっている。
そんな喫茶店の角にあるテーブルに座りながら、アンディがオーダーを出して店員を追い払った。
「戦争は、起きてはいない。
だけど、ガルカ王国との関係が微妙になっているので、あちらの方向に船は出さない方が良いと軍の情報部が勧告を出した。
魔術院も、南方への船はガルカ王国に寄港しないことを確認してから乗り込むようにと船上魔術師達に警告している」
ほおう?
つまり、戦争は起きてはいないがいつ喧嘩をふっかけられてもおかしくないと上層部は思っている訳だ。
・・・そう言えば、シェイラの馬鹿兄貴が南方の航路を使い続けたいとごねてたな。
何かがあって、親父さんが倒れたのか?
それとも馬鹿兄貴の船が警告に耳を貸さずに南方に船を出して拿捕されたのか?
「ちなみに、勧告に無視して船を出して、問題が起きた場合ってどうなるんだ?」
アンディが肩を竦めた。
「ある意味自業自得だからな。
対応は後回しになる。
勧告が出る前に出港した長期航海の帰りに被害に遭った場合などは、軍が救出に船を出すこともある。
だが、危険が分かっているのに船を出した場合は紛争が収まってから、ちゃんと解放されたかを確認する程度だな」
おい~。
そこまで扱いに違いが出るのかよ?
まあ、船を出して救出なんてことになったら費用は凄いことになるだろうからな。
警告されたのに危険を冒すような阿呆は自業自得と言うことになるんだろう。
「・・・もしかして、オスレイダ商会の船が出ているのか?」
あの阿呆兄貴だったらそのくらいしても不思議はないかも知れない。
そんな権限をあの親父さんが許したとは思えないが。
第一、その程度の知らせで倒れるようなタイプじゃないだろう、あの親父。
しっかし、どちらにせよシェイラが呼び出される理由にはならないよな?
幾ら有能とは言え、歴史学会に身を置いているシェイラに拿捕された船を助ける能力なんて無いんだから。
「・・・正規のオスレイダ商会の船ではないが、あそこの長男が他の商会と組んで船を出したらしいという噂は流れている。
他の船が出ないからこそ、南周りの航路に船を出せば大儲けになると考える人間はそこそこいるらしい」
店員がお茶とサンドイッチをテーブルの上に置いて離れるのを待って、アンディが答えた。
そりゃあ、他の商会が出せない時に船を出せば大儲け出来ると考えるのは必ずしも間違いではない。
通常であれば。
だが、今回は新しい航路で直接東の大陸から香辛料を買ってこれるのだ。
全然儲けにならない。
新規航路の噂って流れていないのか???
シェイラの弟のやつ、そんな阿呆な兄貴の問題にシェイラを巻き込むなよなぁ・・・。
【後書き】
まだシェイラに会えてない・・・。
次ですね!
と言うか、時刻を確認したらまだ普通の勤務時間内だった。
一応時間の違いというのはアレクに説明されていたし、通信するときにはそれなりに計算する。
だが実際にもう日が落ちていた領事館から転移門を使って一歩進んだらまだ夕方のこちらに着くというのは違和感がある。
変なの。
これって東に向かって転移し続けたら永遠に同じ1日を過ごすことになったりするのかね?
だけど、幾ら東に廻ったって元に居た土地に戻ってきたら前の日だったって事はないだろう。この時間の違いってどうなっているのか微妙にその論理が納得できない。
アレクや学院長にでも聞いたら分かりやすいように説明してくれるのかね?
それはともかく。
まずはシェイラだな。
・・・その前に、王都で何か大事が起きていないか確認しておくか。
「ようアンディ、最近見なかったが年末はどうだったんだ?」
どうやら今日は受付当番だったらしい元クラスメートを見つけて、声を掛けた。
書類を整理していたアンディが顔を上げた。
「お久しぶり~。
何やら3人で大活躍しているらしいね?
新しい航路と補給島を発見しただけで無く、更に航海にがっつり役に立ちそうな真水の抽出用魔道具を開発したなんて、俺達の同期ではダントツの活躍だぜ?」
書類を片付けながら、アンディが立ち上がった。
「折角だから、ちょっと一杯お茶でも飲まないか?」
珍しいな、こいつがお茶に誘うなんて。
何かあったのか?
「おう。
ちょっとこの後シェイラを探したいんであまり時間は無いが、腹も減ったし軽く何かつまみながらお茶を飲ませて貰うよ」
魔術院の中にも軽食を食べられる場所はあるのだが、アンディは外に出た。
あれ?
勤務時間中じゃないの?
確かにさっき何やら同僚に一言断っていたが。
外に出ても良いのかね??
「そう言えば、最近王都で何か起きているか?
シェイラが急に家族から連絡を受けて王都に戻ってきているらしいんだが、戦争が始まるとかそう言う事ではないよな?」
流石に戦争が始まるんだったら幾ら開拓地で忙しくしているとしても連絡ぐらいは来るだろうが。
アンディが選んだ喫茶店は魔術院から近かったが、ちょっと一本裏に入った所にあるせいか、あまり人は入っていなかった。
と言うか、元々プライバシーを重視する顧客層が相手なのか、テーブルはそこそこ離れており、お互いの話し声も簡単には聞こえないようになっている。
そんな喫茶店の角にあるテーブルに座りながら、アンディがオーダーを出して店員を追い払った。
「戦争は、起きてはいない。
だけど、ガルカ王国との関係が微妙になっているので、あちらの方向に船は出さない方が良いと軍の情報部が勧告を出した。
魔術院も、南方への船はガルカ王国に寄港しないことを確認してから乗り込むようにと船上魔術師達に警告している」
ほおう?
つまり、戦争は起きてはいないがいつ喧嘩をふっかけられてもおかしくないと上層部は思っている訳だ。
・・・そう言えば、シェイラの馬鹿兄貴が南方の航路を使い続けたいとごねてたな。
何かがあって、親父さんが倒れたのか?
それとも馬鹿兄貴の船が警告に耳を貸さずに南方に船を出して拿捕されたのか?
「ちなみに、勧告に無視して船を出して、問題が起きた場合ってどうなるんだ?」
アンディが肩を竦めた。
「ある意味自業自得だからな。
対応は後回しになる。
勧告が出る前に出港した長期航海の帰りに被害に遭った場合などは、軍が救出に船を出すこともある。
だが、危険が分かっているのに船を出した場合は紛争が収まってから、ちゃんと解放されたかを確認する程度だな」
おい~。
そこまで扱いに違いが出るのかよ?
まあ、船を出して救出なんてことになったら費用は凄いことになるだろうからな。
警告されたのに危険を冒すような阿呆は自業自得と言うことになるんだろう。
「・・・もしかして、オスレイダ商会の船が出ているのか?」
あの阿呆兄貴だったらそのくらいしても不思議はないかも知れない。
そんな権限をあの親父さんが許したとは思えないが。
第一、その程度の知らせで倒れるようなタイプじゃないだろう、あの親父。
しっかし、どちらにせよシェイラが呼び出される理由にはならないよな?
幾ら有能とは言え、歴史学会に身を置いているシェイラに拿捕された船を助ける能力なんて無いんだから。
「・・・正規のオスレイダ商会の船ではないが、あそこの長男が他の商会と組んで船を出したらしいという噂は流れている。
他の船が出ないからこそ、南周りの航路に船を出せば大儲けになると考える人間はそこそこいるらしい」
店員がお茶とサンドイッチをテーブルの上に置いて離れるのを待って、アンディが答えた。
そりゃあ、他の商会が出せない時に船を出せば大儲け出来ると考えるのは必ずしも間違いではない。
通常であれば。
だが、今回は新しい航路で直接東の大陸から香辛料を買ってこれるのだ。
全然儲けにならない。
新規航路の噂って流れていないのか???
シェイラの弟のやつ、そんな阿呆な兄貴の問題にシェイラを巻き込むなよなぁ・・・。
【後書き】
まだシェイラに会えてない・・・。
次ですね!
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