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卒業後
435 星暦554年 紺の月 26日 新しいことだらけの開拓事業(7)
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「おはようございま~す。
今日は用水路を造りますね~」
朝食に出て来たジャレットにシャルロが声を掛けた。
3階建ての宿屋がまだ建設中なので、俺達も作業員達も国土省の人間も何人かのグループに分かれてパストン島に残っていた船員達が建てた幾つかの小屋に泊まっている。
食事に関しては食堂モドキな平屋があって、そこで皆食べている。一々臨時の小屋に料理用の設備なんぞ設置している暇は無かったからね。
どちらにせよ料理が出来るような人間は少ない。
というか、ちゃんと料理人も来ていたこと自体が驚きだった。凄いね。
ジャレット曰く、食事というのはこういう開拓作業ではモラルの面でも体力の面でも非常に重要なのだそうだ。
ジャレットの奥さんも忙しい時間帯は手伝っているが・・・あれってちゃんと給金は貰っているんかね?
下手に責任者の奥さんなんて立場だと、給金を欲しいと要求する相手が夫になってしまうせいでうやむやになって何も貰えてないんじゃないか?
それはともかく。
まだ寝ぼけなまこで半分眠っているような感じのジャレットが、あまり何も考えていない様子でシャルロの言葉に頷こうとしたところ、丁度通りかかった奥さんに背中を小突かれていた。
おや?
喧嘩か?
いや、何か奥さんに怒られるようなことがあったのかな?
小突かれて少し目が覚めたらしいジャレットが、軽く頭を振ってシャルロの方に向き直った。
「シャルロ。
考えたのだが、君たちはこれから5日ほど、休暇を取ってくれないかね?
今までの開拓だと、我々の計画は常に実施作業を監督して待ちながら行ってきていたんだ。だから今回のように作業が異様に早く進む案件でもつい作業を滞らせないようにと必死になって計画作業をしてきたのだが・・・これでは我々の方が倒れてしまいそうなんだ。
それに、見直して軌道修正が必要かの確認をする暇も無いし。
だからここで一旦休みを入れて、ちゃんと見直しておきたい。
作業そのものももう少しペースを落としても良いだろうし。
だからちょっと我々が追いつくのを待つ間、休暇でも取っていてくれないか?」
ジャレットの言葉に満足したように頷きながら、奥さんが調理場へ戻っていった。
ふむ。
確かに国土省の人間達の目の下に隈が出来てきたなぁとは思って居たが、どうやら奥さんが『何とかしなさい!』とジャレットに言い聞かせたようだ。
別に休暇にしなくても、用水路を造っていたって良いとは思うけどね。
流石にシャルロだってあれを1日で終わる訳では無いと思うし、後で何か変更することがあったら比較的簡単にできる。
ただまあ、俺達が働いていたらジャレット達は追い立てられるような気分になって休めないのかな?
「了解で~す。
じゃあ、空滑機《グライダー》で東の大陸まで行けるか、試してみる?」
シャルロが俺達の方に振り返って声を掛けてきた。
「良いね。
シェイラを招く前に、船を使わずに空滑機《グライダー》で済ませられるか確認したいし」
領事館までの往復に船を使わないで済めば大分時間の節約になる。
「私はちょっと島の他の部分をラフェーンと見て回ってくる。
薬草や珍しい植物があるらしくて、ラフェーンもじっくり見て回りたいと言っているのでね」
アレクは首を横に振りながら答えた。
「空滑機《グライダー》に2人で乗っていけば丁度良いんじゃないか?
そうしたら飛ばしていない方は休憩が取れるし、2人乗りだとどんな行程になるかも確認出来るし」
シェイラとパストン島まで空滑機《グライダー》で来るとなったら2人乗りなのだ。
2人乗りでどうなるかを確認しておきたい。
「そうだね~。
僕もケレナと来るのに2人乗りになる可能性が高そうだし。
じゃあ、お茶を飲み終わったら行こ~」
シャルロが頷きながら手元のクッキーをつまんだ。
開拓地に来ても朝・昼・晩の食事毎に食後にお茶とクッキーをしっかり取るシャルロは流石だ。
・・・考えみたら、ついでに東の大陸に行って焼き菓子の補給をしたいんじゃ無いか?
焼き菓子の缶の中身が減ってきていたのを今朝確認していたよな、お前?
◆◆◆◆
「ウィル~。
ちょっと下に降りて良い?」
パストン島を発って、半日ぐらいしたところでシャルロが声を掛けてきた。
交代で飛ばし、先程シャルロが昼食用のバスケットの中身を食べていたのだが・・・トイレに行きたくなったかな?
俺も出発して暫くしてから気が付いて、少し水分補給量を控えめにしていたのだが、シャルロはあまりそんなことを考えずに昼でもいつも通りにクッキーを食べながらお茶を飲んでいたのでもうそろそろなのだろう。
トイレという問題を考えると、シェイラと空滑機《グライダー》でパストン島に東の大陸から来るのは難しいかもなぁ。
「おう、良いぜ」
下を見たら、何やら氷の浮島の様な物が海面に浮かんでいたので、そこに向けて空滑機《グライダー》を降ろした。
蒼流に頼んだんだな。
しかもちゃんとトイレ用に白い氷の壁で遮られた小屋モドキなスペースまで出来ている。
流石だ。
浮島だけだったら俺も清早に頼めば作れると思うが、トイレ小屋まで作るというのは思いつかないしちょっと俺には無駄な魔力の使い方になる。
浮島に降り立ったら、シャルロは身軽に飛び降りて、小屋へ走って行った。
「2部屋創って貰ったから、ウィルもどう~?」
「おう、ありがとよ~」
小屋の中に消えていった背中に声を掛け、俺もノンビリ後を追った。
寒い夜中に何時間も屋敷の中が寝静まるのを待っていたり、日中から忍び込んで夜中まで馬小屋の天井裏で時間を潰したりといった事をやってきていた俺はそれなりに自然の欲求に耐えるこつを知っているが、考えてみたらシャルロがそんな訓練をしているわけが無い。
・・・態々トイレの我慢を考えて水分の摂取を抑制する必要は無かったな。
だが、この小屋をシェイラとの移動のために創るのはちょっと厳しいし、シェイラも嫌がりそうかも?
【後書き】
どうやらシェイラさんはパストン島に来るのに船を使うことになりそうですw
ウィルが迎えに行くときはグライダーでも良いかもだけど。
今日は用水路を造りますね~」
朝食に出て来たジャレットにシャルロが声を掛けた。
3階建ての宿屋がまだ建設中なので、俺達も作業員達も国土省の人間も何人かのグループに分かれてパストン島に残っていた船員達が建てた幾つかの小屋に泊まっている。
食事に関しては食堂モドキな平屋があって、そこで皆食べている。一々臨時の小屋に料理用の設備なんぞ設置している暇は無かったからね。
どちらにせよ料理が出来るような人間は少ない。
というか、ちゃんと料理人も来ていたこと自体が驚きだった。凄いね。
ジャレット曰く、食事というのはこういう開拓作業ではモラルの面でも体力の面でも非常に重要なのだそうだ。
ジャレットの奥さんも忙しい時間帯は手伝っているが・・・あれってちゃんと給金は貰っているんかね?
下手に責任者の奥さんなんて立場だと、給金を欲しいと要求する相手が夫になってしまうせいでうやむやになって何も貰えてないんじゃないか?
それはともかく。
まだ寝ぼけなまこで半分眠っているような感じのジャレットが、あまり何も考えていない様子でシャルロの言葉に頷こうとしたところ、丁度通りかかった奥さんに背中を小突かれていた。
おや?
喧嘩か?
いや、何か奥さんに怒られるようなことがあったのかな?
小突かれて少し目が覚めたらしいジャレットが、軽く頭を振ってシャルロの方に向き直った。
「シャルロ。
考えたのだが、君たちはこれから5日ほど、休暇を取ってくれないかね?
今までの開拓だと、我々の計画は常に実施作業を監督して待ちながら行ってきていたんだ。だから今回のように作業が異様に早く進む案件でもつい作業を滞らせないようにと必死になって計画作業をしてきたのだが・・・これでは我々の方が倒れてしまいそうなんだ。
それに、見直して軌道修正が必要かの確認をする暇も無いし。
だからここで一旦休みを入れて、ちゃんと見直しておきたい。
作業そのものももう少しペースを落としても良いだろうし。
だからちょっと我々が追いつくのを待つ間、休暇でも取っていてくれないか?」
ジャレットの言葉に満足したように頷きながら、奥さんが調理場へ戻っていった。
ふむ。
確かに国土省の人間達の目の下に隈が出来てきたなぁとは思って居たが、どうやら奥さんが『何とかしなさい!』とジャレットに言い聞かせたようだ。
別に休暇にしなくても、用水路を造っていたって良いとは思うけどね。
流石にシャルロだってあれを1日で終わる訳では無いと思うし、後で何か変更することがあったら比較的簡単にできる。
ただまあ、俺達が働いていたらジャレット達は追い立てられるような気分になって休めないのかな?
「了解で~す。
じゃあ、空滑機《グライダー》で東の大陸まで行けるか、試してみる?」
シャルロが俺達の方に振り返って声を掛けてきた。
「良いね。
シェイラを招く前に、船を使わずに空滑機《グライダー》で済ませられるか確認したいし」
領事館までの往復に船を使わないで済めば大分時間の節約になる。
「私はちょっと島の他の部分をラフェーンと見て回ってくる。
薬草や珍しい植物があるらしくて、ラフェーンもじっくり見て回りたいと言っているのでね」
アレクは首を横に振りながら答えた。
「空滑機《グライダー》に2人で乗っていけば丁度良いんじゃないか?
そうしたら飛ばしていない方は休憩が取れるし、2人乗りだとどんな行程になるかも確認出来るし」
シェイラとパストン島まで空滑機《グライダー》で来るとなったら2人乗りなのだ。
2人乗りでどうなるかを確認しておきたい。
「そうだね~。
僕もケレナと来るのに2人乗りになる可能性が高そうだし。
じゃあ、お茶を飲み終わったら行こ~」
シャルロが頷きながら手元のクッキーをつまんだ。
開拓地に来ても朝・昼・晩の食事毎に食後にお茶とクッキーをしっかり取るシャルロは流石だ。
・・・考えみたら、ついでに東の大陸に行って焼き菓子の補給をしたいんじゃ無いか?
焼き菓子の缶の中身が減ってきていたのを今朝確認していたよな、お前?
◆◆◆◆
「ウィル~。
ちょっと下に降りて良い?」
パストン島を発って、半日ぐらいしたところでシャルロが声を掛けてきた。
交代で飛ばし、先程シャルロが昼食用のバスケットの中身を食べていたのだが・・・トイレに行きたくなったかな?
俺も出発して暫くしてから気が付いて、少し水分補給量を控えめにしていたのだが、シャルロはあまりそんなことを考えずに昼でもいつも通りにクッキーを食べながらお茶を飲んでいたのでもうそろそろなのだろう。
トイレという問題を考えると、シェイラと空滑機《グライダー》でパストン島に東の大陸から来るのは難しいかもなぁ。
「おう、良いぜ」
下を見たら、何やら氷の浮島の様な物が海面に浮かんでいたので、そこに向けて空滑機《グライダー》を降ろした。
蒼流に頼んだんだな。
しかもちゃんとトイレ用に白い氷の壁で遮られた小屋モドキなスペースまで出来ている。
流石だ。
浮島だけだったら俺も清早に頼めば作れると思うが、トイレ小屋まで作るというのは思いつかないしちょっと俺には無駄な魔力の使い方になる。
浮島に降り立ったら、シャルロは身軽に飛び降りて、小屋へ走って行った。
「2部屋創って貰ったから、ウィルもどう~?」
「おう、ありがとよ~」
小屋の中に消えていった背中に声を掛け、俺もノンビリ後を追った。
寒い夜中に何時間も屋敷の中が寝静まるのを待っていたり、日中から忍び込んで夜中まで馬小屋の天井裏で時間を潰したりといった事をやってきていた俺はそれなりに自然の欲求に耐えるこつを知っているが、考えてみたらシャルロがそんな訓練をしているわけが無い。
・・・態々トイレの我慢を考えて水分の摂取を抑制する必要は無かったな。
だが、この小屋をシェイラとの移動のために創るのはちょっと厳しいし、シェイラも嫌がりそうかも?
【後書き】
どうやらシェイラさんはパストン島に来るのに船を使うことになりそうですw
ウィルが迎えに行くときはグライダーでも良いかもだけど。
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