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卒業後
426 星暦554年 紫の月 29日 慶事の前だからって張り切るな(4)
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またもや学院長の視点です。
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>>>サイド アイシャルヌ・ハートネット
「まさか、軍部のガルカ王国への情報探索にウィルを雇おうとしている動きの裏にガズラート殿がいるとは思いませんでしたな。
もうあの国は終わりだと思っていましたが・・・そんなに危険なのですか?」
先日のウィルの『愚痴』の後に探った結果、驚いたことにウィル(というか幽霊《ゴースト》)を軍が雇おうとした動きの裏には元第3騎士団副団長のウォレン・ガズラートが関わっていた。
ウォレン・ガズラートと言えば、引退後も各国を回って情報を軍部に提供し続け、未だに相談役としてかなりの影響力を持った人間だ。
現役の頃のその手段を問わない冷徹な有能さは、今でもある程度以上の人間には語り草になっている程だ。
もしもウォレン・ガズラートがガルカ王国との紛争が近いうちに起きると見ているのだったら、ガルカ王国がこのまま自滅するだろうという考えを改める必要があるかも知れない。
「さあな」
そんな深刻な思いを裏に、向いに座った老人はあっさりと肩を竦めただけだった。
「さあなって・・・」
ウォレン・ガズラートの関与を知ってから高まっていた緊張感ががっくりと緩んだ。
「まあ、高くても五分五分か、もしかしたら3分7分といったところか?
可能性は無きにしもあらず、要観察というところだな」
ワインを注ぎながら老人が答える。
魔術学院に呼びつける訳にもいかなかったので、昼食でも一緒にしましょうと誘って食事処の個室で会っているのだが、既に食事は食べ終わった。
給仕には声を掛けるまで来るなと言ってあるので邪魔は入らない。
そこまで用心しておいたのに、『さあな?』
「では何故ウィルを雇おうとしたのです?
折角魔術師にまで下町から這い上がってきた人間を軍の諜報に引き込もうとするなんて。
下手をしたら若者の明るい未来を潰すことになりかねないのに」
「そんな依頼、請けるわけは無いと思っておったからな。
だが、これで尻に火が付いて王都から出ていこうとするだろう?
案の定、シェフィート商会を通して軍に圧力を掛けてきた」
にやりと笑いながら老人が答えた。
「・・・ウィルではなく、シャルロを王都から出すことが目的ですか」
ウィルが、自分は王都から出た方が良いと判断した場合・・・今の状況だったら新規航路の補給島の開発にかこつけて出て行くのが一番だろう。
その場合、共同発見者であるシャルロとアレクも一緒に移動する可能性は高い。
上流貴族であり、ノンビリとしたシャルロよりも、ウィルの危機感を煽る方が3人を動かしやすいと考えたのか。
「婚約式で、本人だけでなくキリガン坊やにも話したのだがな。
親子揃ってあの家族は暢気すぎる。
あの調子では、もしもの事があった場合はシャルロが王都で魔術師として徴収を受けて大量殺戮する羽目になりかねん。
その点、新規航路の補給島で働いていればもしもの時にはあの島の防衛に回される。
あの精霊がいれば海に囲まれた島だったら誰も殺すこと無くどんな敵でも無力化出来るじゃろう?」
肩を竦めながらガズラートが答えた。
なんとまあ。
王都では軍部に関係がある人間には『長老』とか『妖怪』と呼ばれて畏怖と敬意を払われている人間が、実はジジ馬鹿(正確には大叔父であって祖父では無いが)だったとは。
「何とも回りくどい手を取ったものですね。
しかも『もしかしたら3分7分』程度の危険度だと見なしているのに」
口に運びかけていたワイングラスをテーブルに置き、ガズラートがこちらを正面から見つめてきた。
その視線の強さに、思わずこちらの背筋も伸びる。
「一人で戦況を変えかねない程の力は、それを振るうだけの冷徹さが無ければ持ち主を滅ぼしかねん。
お主だって分かっておろう。お前さんは冷徹さも、お前を利用しようとする者達を排除するだけの悪辣さもあったからこそ、特級魔術師として国の上層部からも敬意を払われる存在になった。
だが、お前と同等に近い力を持っていた人間が全てそうなった訳ではあるまい?」
確かに。
シャルロと蒼流の事を知った時、かつての知人の事を考えて今度こそは守ろうと思ったものだ。
だが、自分の火精霊と違って、シャルロは水精霊の加護だ。
直接的には戦いに向いているとは思われにくい精霊の加護だから、そこまで心配する必要は無いと思っていたのだが・・・ガズラートは自分ほど楽観できなかったようだ。
もしも戦争になったら、いくらガズラートとは言ってもシャルロほどの能力がある魔術師を戦場から遠ざけることは難しい。
王都の守備に・・・と主張しても、却って水精霊の加護を持つシャルロでは難しいだろう。首都の周りに来た敵軍を全て水で押し流そうとしたら、周囲への被害が大きくなりすぎる。
そう考えると、戦争が起きたらシャルロを前線へ送り込んで国境近辺で力を振るえば良いという話になりかねない。
まあ、上流貴族であるシャルロを前線へ送り込むほど戦況が逼迫する可能性は低い気もするが。
だが、戦争では何が起きるか分からない。
そんな選択肢を選ぶ羽目になる前に、全く違う選択肢が選ばれるように補給島への移動を推し進めたのだろう。
シャルロが侯爵家の権力をごり押しに使うような人間だったらガズラートの介入は不要だっただろうが、そこら辺はおっとりのんびりなオレファーニ侯爵家だ。
さぞかしヤキモキしたのだろう。
「交渉に使えそうな魔道具を3人組が開発していて良かったですね」
「な~に、魔道具が無かったら盗賊君への圧力を強めて、シャルロかお主に泣き付かせたさ」
グラスを空けながら老人が悪辣に笑った。
・・・オレファーニ家とこの老人が親族であると言うこと自体がある意味一番信じがたいことかもしれない・・・。
【後書き】
戦争の可能性は極端には高くなかったんですね~。
でもまあ、戦争になった時にシャルロが大量殺戮をする羽目にならないように、親戚のおじさん(というかおじいさん)が頑張りましたw
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>>>サイド アイシャルヌ・ハートネット
「まさか、軍部のガルカ王国への情報探索にウィルを雇おうとしている動きの裏にガズラート殿がいるとは思いませんでしたな。
もうあの国は終わりだと思っていましたが・・・そんなに危険なのですか?」
先日のウィルの『愚痴』の後に探った結果、驚いたことにウィル(というか幽霊《ゴースト》)を軍が雇おうとした動きの裏には元第3騎士団副団長のウォレン・ガズラートが関わっていた。
ウォレン・ガズラートと言えば、引退後も各国を回って情報を軍部に提供し続け、未だに相談役としてかなりの影響力を持った人間だ。
現役の頃のその手段を問わない冷徹な有能さは、今でもある程度以上の人間には語り草になっている程だ。
もしもウォレン・ガズラートがガルカ王国との紛争が近いうちに起きると見ているのだったら、ガルカ王国がこのまま自滅するだろうという考えを改める必要があるかも知れない。
「さあな」
そんな深刻な思いを裏に、向いに座った老人はあっさりと肩を竦めただけだった。
「さあなって・・・」
ウォレン・ガズラートの関与を知ってから高まっていた緊張感ががっくりと緩んだ。
「まあ、高くても五分五分か、もしかしたら3分7分といったところか?
可能性は無きにしもあらず、要観察というところだな」
ワインを注ぎながら老人が答える。
魔術学院に呼びつける訳にもいかなかったので、昼食でも一緒にしましょうと誘って食事処の個室で会っているのだが、既に食事は食べ終わった。
給仕には声を掛けるまで来るなと言ってあるので邪魔は入らない。
そこまで用心しておいたのに、『さあな?』
「では何故ウィルを雇おうとしたのです?
折角魔術師にまで下町から這い上がってきた人間を軍の諜報に引き込もうとするなんて。
下手をしたら若者の明るい未来を潰すことになりかねないのに」
「そんな依頼、請けるわけは無いと思っておったからな。
だが、これで尻に火が付いて王都から出ていこうとするだろう?
案の定、シェフィート商会を通して軍に圧力を掛けてきた」
にやりと笑いながら老人が答えた。
「・・・ウィルではなく、シャルロを王都から出すことが目的ですか」
ウィルが、自分は王都から出た方が良いと判断した場合・・・今の状況だったら新規航路の補給島の開発にかこつけて出て行くのが一番だろう。
その場合、共同発見者であるシャルロとアレクも一緒に移動する可能性は高い。
上流貴族であり、ノンビリとしたシャルロよりも、ウィルの危機感を煽る方が3人を動かしやすいと考えたのか。
「婚約式で、本人だけでなくキリガン坊やにも話したのだがな。
親子揃ってあの家族は暢気すぎる。
あの調子では、もしもの事があった場合はシャルロが王都で魔術師として徴収を受けて大量殺戮する羽目になりかねん。
その点、新規航路の補給島で働いていればもしもの時にはあの島の防衛に回される。
あの精霊がいれば海に囲まれた島だったら誰も殺すこと無くどんな敵でも無力化出来るじゃろう?」
肩を竦めながらガズラートが答えた。
なんとまあ。
王都では軍部に関係がある人間には『長老』とか『妖怪』と呼ばれて畏怖と敬意を払われている人間が、実はジジ馬鹿(正確には大叔父であって祖父では無いが)だったとは。
「何とも回りくどい手を取ったものですね。
しかも『もしかしたら3分7分』程度の危険度だと見なしているのに」
口に運びかけていたワイングラスをテーブルに置き、ガズラートがこちらを正面から見つめてきた。
その視線の強さに、思わずこちらの背筋も伸びる。
「一人で戦況を変えかねない程の力は、それを振るうだけの冷徹さが無ければ持ち主を滅ぼしかねん。
お主だって分かっておろう。お前さんは冷徹さも、お前を利用しようとする者達を排除するだけの悪辣さもあったからこそ、特級魔術師として国の上層部からも敬意を払われる存在になった。
だが、お前と同等に近い力を持っていた人間が全てそうなった訳ではあるまい?」
確かに。
シャルロと蒼流の事を知った時、かつての知人の事を考えて今度こそは守ろうと思ったものだ。
だが、自分の火精霊と違って、シャルロは水精霊の加護だ。
直接的には戦いに向いているとは思われにくい精霊の加護だから、そこまで心配する必要は無いと思っていたのだが・・・ガズラートは自分ほど楽観できなかったようだ。
もしも戦争になったら、いくらガズラートとは言ってもシャルロほどの能力がある魔術師を戦場から遠ざけることは難しい。
王都の守備に・・・と主張しても、却って水精霊の加護を持つシャルロでは難しいだろう。首都の周りに来た敵軍を全て水で押し流そうとしたら、周囲への被害が大きくなりすぎる。
そう考えると、戦争が起きたらシャルロを前線へ送り込んで国境近辺で力を振るえば良いという話になりかねない。
まあ、上流貴族であるシャルロを前線へ送り込むほど戦況が逼迫する可能性は低い気もするが。
だが、戦争では何が起きるか分からない。
そんな選択肢を選ぶ羽目になる前に、全く違う選択肢が選ばれるように補給島への移動を推し進めたのだろう。
シャルロが侯爵家の権力をごり押しに使うような人間だったらガズラートの介入は不要だっただろうが、そこら辺はおっとりのんびりなオレファーニ侯爵家だ。
さぞかしヤキモキしたのだろう。
「交渉に使えそうな魔道具を3人組が開発していて良かったですね」
「な~に、魔道具が無かったら盗賊君への圧力を強めて、シャルロかお主に泣き付かせたさ」
グラスを空けながら老人が悪辣に笑った。
・・・オレファーニ家とこの老人が親族であると言うこと自体がある意味一番信じがたいことかもしれない・・・。
【後書き】
戦争の可能性は極端には高くなかったんですね~。
でもまあ、戦争になった時にシャルロが大量殺戮をする羽目にならないように、親戚のおじさん(というかおじいさん)が頑張りましたw
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