426 / 1,077
卒業後
424 星暦554年 紫の月 26日 慶事の前だからって張り切るな(2)
しおりを挟む
学院長の視点です。
-------------------------------------------------------------
>>>サイド アイシャルヌ・ハートネット
「王太子の結婚式でガルカ王国が何か企んでいないか探るために、軍部があちらの本国まで人を出そうとしているらしいですね」
ふらりと姿を現したウィルが、お茶を受け取りながら呟いた。
ほぉう?
何か面倒なことに巻き込まれたか。
まあ、何かに巻き込まれたか、遊びに行く際のお土産を伺い以外にこいつが態々会いに来ることはあまりないからな。
これだけの頻度で会っていると言うことは、考えてみたらこいつもそこそこ波瀾万丈な毎日を送っているんだなぁ・・・。
「王太子の結婚式の警備は万全にせねば!という話は当然あり、私も警備にそれなりに手を貸すことになっているが・・・態々隣国まで人を出すという話は聞いていないな。
それにお前さんがどう関係するんだ?」
どちらかというと、婚約が発表された祝いの際にファルータの領都での働きを期待するというのは分かるが。
だが、まだ流石にその準備を始めるには早い。
「盗賊《シーフ》ギルド経由で、軍部からガルカ王国への探りに行くのに手伝えと話が来たようで。
勿論断りましたけどね。
イマイチ盗賊《シーフ》として声が掛ったのか、裏に関わりのある魔術師として声が掛ったのか微妙に不明ですが・・・これってごり押しされた場合に、魔術院か学院長に泣き付いたら何とかなりますかね?」
お茶を一口飲み、小さく息をついたウィルが尋ねた。
下町で、権力を持つ人間の理不尽を散々見てきただけあって、権力を持つ組織の恐ろしさというのは必要以上に感じているのだろう。
だが、魔術師であるということは・・・魔術院という王国の一端を担う組織の一員でありその保護下にあるということだ。
お前だってそれなりに権力を持つ存在の一部なんだぞ、ウィル。
「王都での警備の手伝いというのならまだしも、どれだけ特殊技能があろうと魔術師がガルカ王国へ諜報員の様な役割で行かねばんらないいわれは無い。
私も協力するし、魔術院だってそんな軍部のごり押しを許さないさ」
もっとも、盗賊《シーフ》ギルド経由で来たと言うことは、軍部がウィルのことを魔術師として認識していない可能性の方が高いだろうが。
もしくは、魔術師だとしたら違法のモグリ魔術師だと思っているか。
「ガルカ王国と何か起きる可能性が高いとしたら、東の大陸との新規航路だって重要ですよね?
あるかどうか分からない陰謀を探し回るよりも、新規航路の補給島開拓ってもう少し早く動きませんかね?
アレグ島の方が重要なのは分かりますたが、パストン島だって実際に交易する際には補給に寄港する必要はあると思うんですが。
折角真水を抽出する魔道具もそれなりに良いのが出来上がったんだし、アスカにも協力して貰えると言って貰えたんで、いい加減あっちに行って開拓作業を始めたいところですが」
カップを降ろしながら、ウィルが愚痴をこぼした。
真水を抽出する魔道具?
今までにも貴族や商会、軍部が支援して色々と開発してきたが、お世辞にも長期的に実用的と言えるような物は無かった。
それが何とかなったのか??
こちらの方が、よっぽど軍部に喜ばれそうだが。
とは言っても、盗賊《シーフ》ギルドの一員で軍部から依頼が来るほどの凄腕の幽霊《ゴースト》と、魔道具を開発してシェフィート商会から売り出している魔術師3人組が同じ人間だとは軍部でも思っていないだろうし、ウィルもそれを明らかにしたくないようだから、『無理に仕事を押しつけようとするならこの魔道具を売らないぞ』という脅しはしにくいだろうが。
まあ、そんなことをするよりも、私が口を挟む方が話は簡単だろうな。
「実用に耐えられる真水を抽出出来る魔道具が出来たのか?
船の航海でも使えるぐらいのサイズと魔力消費に抑えられたのだとしたら、凄いぞ」
ウィルが肩を竦めた。
「船での使用がメインだと思って作っていますからね。
開拓するためにはやはり船の移動がもっと便利な方が良いだろうと思って。
第一、補給島はどちらも真水が出ますから。
それに俺達が手伝いに行っている間だったら魔道具なんぞ使わなくてもいくらでも水なんて出せるし」
「さっさと開拓に取りかかりたいのだったら、海軍の方にもその魔道具を見せて、大量生産にはまだまだ時間が掛るが、お前達がパストン島の開拓に早く取りかかれるように話を付けてくれるなら優先的に品を回すとシェフィート商会の方から言わせたらどうだ?」
シェフィート商会だってアレクの権利があるのだから、少しぐらい割り引くことになるとしてもさっさと開拓に取りかかれるよう話を持って行くメリットはあるだろう。
ウィルにしたって、王都にいない方が軍部から変な依頼が来にくいし。
取り敢えず。
軍部のどの阿呆が、既に崩壊しつつある国にあるかどうかも分からない陰謀の証拠を探しに人を送り込もうとしているか、確認しておくか。
【後書き】
ウィルはまだ泣き付くつもりはありませんが、一応状況だけ教えておこうとシャルロの婚約式の様子を報告するついでに来ました。
-------------------------------------------------------------
>>>サイド アイシャルヌ・ハートネット
「王太子の結婚式でガルカ王国が何か企んでいないか探るために、軍部があちらの本国まで人を出そうとしているらしいですね」
ふらりと姿を現したウィルが、お茶を受け取りながら呟いた。
ほぉう?
何か面倒なことに巻き込まれたか。
まあ、何かに巻き込まれたか、遊びに行く際のお土産を伺い以外にこいつが態々会いに来ることはあまりないからな。
これだけの頻度で会っていると言うことは、考えてみたらこいつもそこそこ波瀾万丈な毎日を送っているんだなぁ・・・。
「王太子の結婚式の警備は万全にせねば!という話は当然あり、私も警備にそれなりに手を貸すことになっているが・・・態々隣国まで人を出すという話は聞いていないな。
それにお前さんがどう関係するんだ?」
どちらかというと、婚約が発表された祝いの際にファルータの領都での働きを期待するというのは分かるが。
だが、まだ流石にその準備を始めるには早い。
「盗賊《シーフ》ギルド経由で、軍部からガルカ王国への探りに行くのに手伝えと話が来たようで。
勿論断りましたけどね。
イマイチ盗賊《シーフ》として声が掛ったのか、裏に関わりのある魔術師として声が掛ったのか微妙に不明ですが・・・これってごり押しされた場合に、魔術院か学院長に泣き付いたら何とかなりますかね?」
お茶を一口飲み、小さく息をついたウィルが尋ねた。
下町で、権力を持つ人間の理不尽を散々見てきただけあって、権力を持つ組織の恐ろしさというのは必要以上に感じているのだろう。
だが、魔術師であるということは・・・魔術院という王国の一端を担う組織の一員でありその保護下にあるということだ。
お前だってそれなりに権力を持つ存在の一部なんだぞ、ウィル。
「王都での警備の手伝いというのならまだしも、どれだけ特殊技能があろうと魔術師がガルカ王国へ諜報員の様な役割で行かねばんらないいわれは無い。
私も協力するし、魔術院だってそんな軍部のごり押しを許さないさ」
もっとも、盗賊《シーフ》ギルド経由で来たと言うことは、軍部がウィルのことを魔術師として認識していない可能性の方が高いだろうが。
もしくは、魔術師だとしたら違法のモグリ魔術師だと思っているか。
「ガルカ王国と何か起きる可能性が高いとしたら、東の大陸との新規航路だって重要ですよね?
あるかどうか分からない陰謀を探し回るよりも、新規航路の補給島開拓ってもう少し早く動きませんかね?
アレグ島の方が重要なのは分かりますたが、パストン島だって実際に交易する際には補給に寄港する必要はあると思うんですが。
折角真水を抽出する魔道具もそれなりに良いのが出来上がったんだし、アスカにも協力して貰えると言って貰えたんで、いい加減あっちに行って開拓作業を始めたいところですが」
カップを降ろしながら、ウィルが愚痴をこぼした。
真水を抽出する魔道具?
今までにも貴族や商会、軍部が支援して色々と開発してきたが、お世辞にも長期的に実用的と言えるような物は無かった。
それが何とかなったのか??
こちらの方が、よっぽど軍部に喜ばれそうだが。
とは言っても、盗賊《シーフ》ギルドの一員で軍部から依頼が来るほどの凄腕の幽霊《ゴースト》と、魔道具を開発してシェフィート商会から売り出している魔術師3人組が同じ人間だとは軍部でも思っていないだろうし、ウィルもそれを明らかにしたくないようだから、『無理に仕事を押しつけようとするならこの魔道具を売らないぞ』という脅しはしにくいだろうが。
まあ、そんなことをするよりも、私が口を挟む方が話は簡単だろうな。
「実用に耐えられる真水を抽出出来る魔道具が出来たのか?
船の航海でも使えるぐらいのサイズと魔力消費に抑えられたのだとしたら、凄いぞ」
ウィルが肩を竦めた。
「船での使用がメインだと思って作っていますからね。
開拓するためにはやはり船の移動がもっと便利な方が良いだろうと思って。
第一、補給島はどちらも真水が出ますから。
それに俺達が手伝いに行っている間だったら魔道具なんぞ使わなくてもいくらでも水なんて出せるし」
「さっさと開拓に取りかかりたいのだったら、海軍の方にもその魔道具を見せて、大量生産にはまだまだ時間が掛るが、お前達がパストン島の開拓に早く取りかかれるように話を付けてくれるなら優先的に品を回すとシェフィート商会の方から言わせたらどうだ?」
シェフィート商会だってアレクの権利があるのだから、少しぐらい割り引くことになるとしてもさっさと開拓に取りかかれるよう話を持って行くメリットはあるだろう。
ウィルにしたって、王都にいない方が軍部から変な依頼が来にくいし。
取り敢えず。
軍部のどの阿呆が、既に崩壊しつつある国にあるかどうかも分からない陰謀の証拠を探しに人を送り込もうとしているか、確認しておくか。
【後書き】
ウィルはまだ泣き付くつもりはありませんが、一応状況だけ教えておこうとシャルロの婚約式の様子を報告するついでに来ました。
1
お気に入りに追加
501
あなたにおすすめの小説
ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後
オレンジ方解石
ファンタジー
異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。
ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。
婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話
Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」
「よっしゃー!! ありがとうございます!!」
婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。
果たして国王との賭けの内容とは――
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな
こうやさい
ファンタジー
わたくしは婚約者や義妹に断罪され、学園から追放を命じられました。
これが「ざまぁ」されるというものなんですのね。
義妹に冤罪着せられて殿下に皆の前で婚約破棄のうえ学園からの追放される令嬢とかいったら頑張ってる感じなんだけどなぁ。
とりあえずお兄さま頑張れ。
PCがエラーがどうこうほざいているので消えたら察してください、どのみち不定期だけど。
やっぱスマホでも更新できるようにしとかないとなぁ、と毎度の事を思うだけ思う。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
思わず呆れる婚約破棄
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。
だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。
余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。
……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。
よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる