シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

407 星暦554年 藤の月 24日 旅立ち?(48)

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「買わないの?
王都じゃあ見かけない、変わったお土産になるかもよ?」
からかい半分にシャルロが聞いてくる。

「シェイラには別に面白くないだろうが。
学院長だったら面白がるかも知れないが・・・変な精神系の術が掛っている物を持っていることが発覚したら、困るかも知れないからな。
素知らぬふりをしておくのが一番じゃね?」
『一家の主への忠誠』なんて多分それ程の害は無いだろうが、もしも術を詳しく解明して『忠誠』を感じる相手を好きな風に設定できるとしたら不味い物が出来上がる可能性もある。

変に規制に引っかかりそうな物は触らないのが一番だ。
魔術院に提出して悪用されても困るし。

ため息をつきながら歩き始める。
もっと無難な土産になるような物が欲しい・・・切実に!
それも出来れば今すぐ。

買い物って本当に、気力と体力が吸い尽くされる気がするぜ。
俺よりも体力が無いはずのシャルロなんぞは元気いっぱいに周りを見ながら歩き回っているが。

あっちは反対に、色々な商品への興味で溢れんばかりの気力が湧いてきているようだ。

「あ、これなんかどう?」
いい加減疲れて頭がぼ~っとし始めた俺に、シャルロの声が掛った。

振り返ってみると、またもや何か箱を指している。
術は掛っていないが・・・凄くボロい箱だ。
だが、よく見るとなにやら表面に彫り物がされている?

途中で入手した端布を使って箱を持ち上げてみる。
泥や埃の汚れも発掘品の『本物らしさ』をアピールする点だと思われているのか、この蚤市に売り出されている物はとことん汚い物が多い。

なのでこの端布を入手したのだが・・・シャルロが指した箱も、例に漏れず汚い。
が、良く良く見てみると・・・悪くない彫刻細工かもしれない?
固定化の術も掛っていないし汚いので気にもしていなかったが、触って軽く叩いてみたところ何やらかなり固い素材で出来ているようだ。

思ったよりも、古いかも知れないな、これ。
遺跡から発掘されるレベルの古さでは無いが、骨董品と見なしても良いかもしれない。

箱の中は何も入っていなかったが、小さな引き出しや台がついているので女性用の装飾品入れかな?

角度を変えて何とか汚れの下の模様を見極めようと色々な角度から見てみると、それなりに繊細な彫刻が施されているように思える。

魔力は全く籠もっていないので心眼《サイト》で視ても模様は読み取れないが・・・これだったらボロ布と磨き油でも使って丹念に掃除すれば、悪くない物が下から出てくるかも知れない。

「随分と汚れているな・・・どう考えても遺跡からの発掘品ではないようだが、幾らだ?」
興味なさげにこちらを見ている男に、箱を返しながら聞く。

悪くない物かも知れないが、ぼったくられるつもりは無い。

「銀貨3枚だ」
シャルロの服を見て、男が指を3本上げて見せた。

ち。
さっきのぼったくり店ではシャルロのお陰で扱いがそこそこ良かったが、蚤市では足元を見られるだけだな。
だが、シャルロは安物の服を着せてもかえって『お忍びできている貴族のお坊ちゃま』感が強く出るんだよねぇ・・・。

「ふざけるな。
銀貨3枚だったら汚れてない、新品の箱が買えるだろうが。
大銅貨3枚だ」
大銅貨をポケットから出して見せる。

売り場の男が鼻で笑った。
「ここは発掘品の蚤市だぜ。
新しい物の方が安いんだよ。
銀貨2枚と大銅貨5枚」

「本物の発掘品ならまだしも、明らかにこれは違うだろうが。
話の種に面白そうな物を買って帰ってもいいかと思ったが、その値段じゃあ単にぼったくられたことを笑われるだけだ。
銀貨1枚」

なんだかんだとやり取りをして、結局銀貨1枚と大銅貨5枚に落ち着いた。
値段交渉にかける時間が勿体ない気もしたが、まあこれで一応土産になる物を入手できたからな。

他に何も見つからない可能性も考えて、真面目に値段交渉はしなければならない。
変に大金を払ったとシェイラに聞かれたら情け容赦なく笑われてしまう。

交易が盛んな街なせいか、なまじ西の大陸と殆ど同じレベルの物価なので、下手に大金を払うとシェイラに払いすぎていることがばれてしまう。

◆◆◆◆

「で?どうだった?」
領事館に帰った俺達に、アレクが聞いてきた。

「疲れた・・・。
この街って香辛料の売買で栄えた街だと思っていたが、発掘品の売買でも有名な場所らしいな。
発掘品の蚤市の大きさと言ったら・・・びっくりだぜ」
下の応接間のソファに身を投げ出しながら、答える。

それこそアレクが来たら楽しめたんじゃないかね?
ある意味、本物も偽物もアファル王国には無い物だ。
珍しいからあっちに持って行けば希少価値があるりそうだ。

「面白かったよ~!
港の半分ぐらいはすっぽり入りそうなほど大きな蚤市でね、全部は流石に見て回れなかったけど、南側はかなり見れたかな。
いつか、転移門を使ってケレナと遊びに来ても良いかも」
茶葉をポットに入れながら、ご機嫌なシャルロが付け加える。

こいつって本当に買い物が好きだよなぁ。
女は買い物好きな人間が多いらしいから、ケレナも喜ぶんじゃないか?

シャルロの魔力だったらケレナを転移門で通すのにもそれ程苦労しないだろうし。

まあ、俺だってちゃんと魔力を使わずに溜めておけばシェイラを連れて来れるかな?
シェイラに提案するのは、シャルロにケレナを連れてきた際にどの位魔力を使ったか確認してからだな。

「へぇ?
そうだったんだ。
商会の人間にも言っておこうかな?」
シャルロからお茶を受け取りながらアレクが呟く。

「ラフェーンに術を掛けて目立たないようにして連れてくるか、看破系の能力の高い使い魔のいる魔術師に付き添って貰う方が良いかもしれないぜ。
本国では見ないタイプの、精神系の術を掛けた物もあった」
最初に見かけた『忠誠』を感じるとやらの箱のことをアレクに説明しながら忠告する。

悪戯としては面白いかも知れないが、もっと悪質な物も混じっている可能性があるからな。
シェフィート商会が変なスキャンダルに巻き込まれても面倒だ。

「忠誠ねぇ・・・。確かに珍しいタイプの術だね。
どこら辺で売ってたんだ?」
何やらアレクが興味を持ってしまったようだ。

おいおい。
止めてくれよ~。
精神系なんて碌な術が無いと思うし、なんと言っても売れないぜ??



【後書き】
精神系の術は後ろ暗い所にだったら高く売れるでしょうけどねw
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