403 / 1,077
卒業後
402 星暦554年 藤の月 21日 旅立ち?(43)
しおりを挟む
「で?」
俺たちがバーに入って扉を閉めたら、男が言葉短く聞いてきた。
「ウィル・ダントールだ。
アファル王国から新しい航路を探す船に乗船していた魔術師の一人だ。
既に聞いているかも知れないが、今回の航海は王家の命令で始めた航路探索だ。
上手くいったから商業省が領事館を開くことになった。
既に通信器が設置されているし、これからは新しい航路を使って今までよりも多く船が直接この街に来ることになるだろう。
何か問題が起こってから対応するよりも、今のうちに顔役と話を通しておく方が全員にとって平穏だろうと思ってゼブに会いに来た」
簡単に説明する。
さて。
アファル王国からの船の話はどの程度、街に広まっているのかね?
まだ着いてから数日とは言え、館を借りたりそれなりの量の香辛料を買ったりと、目を引くような行動を取っていると思うが。
「ほおう。
水の精霊の加護持ちってお前さんかい?」
男が興味深げに聞いてきた。
おやま。
想像以上に俺たちの話が広がっているようだ。
もしくはゼブの組織の情報収集力が優れているのか。
「俺は予備さ。
ある程度は水の精霊と仲が良いが、今回同行した仲間の精霊は凄いぜ」
・・・もしかして、この地域って水が足りなくて水精霊の加護持ちに対する需要が高いのか?
まあ、シャルロには蒼流がいるから大丈夫だが。
例え誘拐するために後ろから襲いかかられたり薬を盛られたりしてもシャルロに害が及ぶことはありえない。
「西の大陸から13日でこちらにたどり着いた上に、2つも新しい島を見つけたとの話だからな。
それだけの凄腕だったら、大金を払ってでも雇いたい相手はいくらでも居るぜ?」
男がにやりと笑いながら答えた。
おいおい。
誰だよ、情報漏らしているの。
まあ、領事館と港は両方西区にあるからなぁ。
船員やその他の人間が入る酒場もゼブの息が掛っているのだろう。
これじゃあ下手したら話を通す条件として空滑機《グライダー》が欲しいって言ってくるんじゃ無いか?
「ちなみに、仲間に加護を与えている精霊は本当に凄いから・・・手を出すなよ?
何かの間違いでもしもの事があったら、街が水没するぜ」
まず大丈夫だとは思うが、一応警告しておくことにした。
折角見つけた交易路だ。目的地の街が蒼流の報復で水没したら元も子もない。
男が肩を竦めた。
「ゼブは顔役だぜ?周辺一帯が干魃で壊滅的被害を受けているとでも言うんじゃ無い限り、水精霊に用はないさ。
ただ、用がある人間に頼まれたら話を繋ぐぐらいのことはしても良いと考えているだけだ」
「残念ながら俺たちはもうすぐこちらを発つから、精霊使いへの仕事の話は諦めてくれ。
だが、領事館は残るしアファル王国の船も来るようになる。
そのことについてゼブと話したい」
さっさと話を進めようぜ。
「待ってな」
短くそう言うと、男はカウンターの上を拭いていた布巾を降ろし、姿を消した。
心眼(しんがん)で追っていくと、裏の箱をどけて落とし戸から隠し部屋へ向かうのが視える。
ふむ。
下の隠し部屋で書類と格闘しているっぽい男が上司か。
ここで右腕とかが出てきてくれたら、話が進むんだが。
同じような腹の探り合いを何人もと繰り返すのは遠慮したいところだ。
何やら男が相手に説明しているのは視えるが、残念ながら心眼(しんがん)では声は聞こえない。
これが王都だったら盗み聞きの出来る場所まで忍び込むんだけどなぁ。
まあ、自分に直接影響がある話じゃあないから、そこまで頑張る必要も無いか。
「あんた達、もうすぐ居なくなるのか?」
バルダンが横から小さな声で聞いてきた。
「俺達はな。
領事館は残るから、そこに居る人間に求められた情報を提供したり、雑用を手伝えばあの当たり屋の下でスリをするよりはずっと安全に、確実に稼げるだろうよ」
少なくともガキが生きて行くには十分な金は手に入るだろう。
大人になったらどうするかはこれからバルダンが考えて工夫していくことだ。
残念ながらバルダンに魔術師の素質は無いからな。
連れて帰って魔術学院に放り込むことは出来ない。
才能があったらスポンサーになってやっても良かったんだけどね。
隠し部屋の男が出てきた。
「ダブだ。
顔役に話を通す前に、どういう話になるのか、詳しく説明して貰おうか」
あ~あ。
やっぱり説明って必要だよねぇ。
面倒くさい。
ナヴァールを連れてきてあいつに話をさせるべきだったな。
でも、あいつが裏社会の常識をちゃんと理解しているか微妙に不安だったからなぁ。
まあ、おれもこちらの街の裏の常識って知らないけどさ。
どの大陸でも裏の常識が大きく変わらないことを期待しておこう。
【後書き】
ウィル達が居なくなると聞いてちょっと不安になったバルダン君でした。
俺たちがバーに入って扉を閉めたら、男が言葉短く聞いてきた。
「ウィル・ダントールだ。
アファル王国から新しい航路を探す船に乗船していた魔術師の一人だ。
既に聞いているかも知れないが、今回の航海は王家の命令で始めた航路探索だ。
上手くいったから商業省が領事館を開くことになった。
既に通信器が設置されているし、これからは新しい航路を使って今までよりも多く船が直接この街に来ることになるだろう。
何か問題が起こってから対応するよりも、今のうちに顔役と話を通しておく方が全員にとって平穏だろうと思ってゼブに会いに来た」
簡単に説明する。
さて。
アファル王国からの船の話はどの程度、街に広まっているのかね?
まだ着いてから数日とは言え、館を借りたりそれなりの量の香辛料を買ったりと、目を引くような行動を取っていると思うが。
「ほおう。
水の精霊の加護持ちってお前さんかい?」
男が興味深げに聞いてきた。
おやま。
想像以上に俺たちの話が広がっているようだ。
もしくはゼブの組織の情報収集力が優れているのか。
「俺は予備さ。
ある程度は水の精霊と仲が良いが、今回同行した仲間の精霊は凄いぜ」
・・・もしかして、この地域って水が足りなくて水精霊の加護持ちに対する需要が高いのか?
まあ、シャルロには蒼流がいるから大丈夫だが。
例え誘拐するために後ろから襲いかかられたり薬を盛られたりしてもシャルロに害が及ぶことはありえない。
「西の大陸から13日でこちらにたどり着いた上に、2つも新しい島を見つけたとの話だからな。
それだけの凄腕だったら、大金を払ってでも雇いたい相手はいくらでも居るぜ?」
男がにやりと笑いながら答えた。
おいおい。
誰だよ、情報漏らしているの。
まあ、領事館と港は両方西区にあるからなぁ。
船員やその他の人間が入る酒場もゼブの息が掛っているのだろう。
これじゃあ下手したら話を通す条件として空滑機《グライダー》が欲しいって言ってくるんじゃ無いか?
「ちなみに、仲間に加護を与えている精霊は本当に凄いから・・・手を出すなよ?
何かの間違いでもしもの事があったら、街が水没するぜ」
まず大丈夫だとは思うが、一応警告しておくことにした。
折角見つけた交易路だ。目的地の街が蒼流の報復で水没したら元も子もない。
男が肩を竦めた。
「ゼブは顔役だぜ?周辺一帯が干魃で壊滅的被害を受けているとでも言うんじゃ無い限り、水精霊に用はないさ。
ただ、用がある人間に頼まれたら話を繋ぐぐらいのことはしても良いと考えているだけだ」
「残念ながら俺たちはもうすぐこちらを発つから、精霊使いへの仕事の話は諦めてくれ。
だが、領事館は残るしアファル王国の船も来るようになる。
そのことについてゼブと話したい」
さっさと話を進めようぜ。
「待ってな」
短くそう言うと、男はカウンターの上を拭いていた布巾を降ろし、姿を消した。
心眼(しんがん)で追っていくと、裏の箱をどけて落とし戸から隠し部屋へ向かうのが視える。
ふむ。
下の隠し部屋で書類と格闘しているっぽい男が上司か。
ここで右腕とかが出てきてくれたら、話が進むんだが。
同じような腹の探り合いを何人もと繰り返すのは遠慮したいところだ。
何やら男が相手に説明しているのは視えるが、残念ながら心眼(しんがん)では声は聞こえない。
これが王都だったら盗み聞きの出来る場所まで忍び込むんだけどなぁ。
まあ、自分に直接影響がある話じゃあないから、そこまで頑張る必要も無いか。
「あんた達、もうすぐ居なくなるのか?」
バルダンが横から小さな声で聞いてきた。
「俺達はな。
領事館は残るから、そこに居る人間に求められた情報を提供したり、雑用を手伝えばあの当たり屋の下でスリをするよりはずっと安全に、確実に稼げるだろうよ」
少なくともガキが生きて行くには十分な金は手に入るだろう。
大人になったらどうするかはこれからバルダンが考えて工夫していくことだ。
残念ながらバルダンに魔術師の素質は無いからな。
連れて帰って魔術学院に放り込むことは出来ない。
才能があったらスポンサーになってやっても良かったんだけどね。
隠し部屋の男が出てきた。
「ダブだ。
顔役に話を通す前に、どういう話になるのか、詳しく説明して貰おうか」
あ~あ。
やっぱり説明って必要だよねぇ。
面倒くさい。
ナヴァールを連れてきてあいつに話をさせるべきだったな。
でも、あいつが裏社会の常識をちゃんと理解しているか微妙に不安だったからなぁ。
まあ、おれもこちらの街の裏の常識って知らないけどさ。
どの大陸でも裏の常識が大きく変わらないことを期待しておこう。
【後書き】
ウィル達が居なくなると聞いてちょっと不安になったバルダン君でした。
1
お気に入りに追加
501
あなたにおすすめの小説
ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後
オレンジ方解石
ファンタジー
異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。
ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。
婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話
Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」
「よっしゃー!! ありがとうございます!!」
婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。
果たして国王との賭けの内容とは――
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな
こうやさい
ファンタジー
わたくしは婚約者や義妹に断罪され、学園から追放を命じられました。
これが「ざまぁ」されるというものなんですのね。
義妹に冤罪着せられて殿下に皆の前で婚約破棄のうえ学園からの追放される令嬢とかいったら頑張ってる感じなんだけどなぁ。
とりあえずお兄さま頑張れ。
PCがエラーがどうこうほざいているので消えたら察してください、どのみち不定期だけど。
やっぱスマホでも更新できるようにしとかないとなぁ、と毎度の事を思うだけ思う。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
思わず呆れる婚約破棄
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。
だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。
余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。
……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。
よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる