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卒業後
400 星暦554年 藤の月 20日 旅立ち?(41)
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「ナヴァール。
ちょっと聞きたいんだけど、バルダンの情報って役立っているか?」
夕食から帰って来たらナヴァールが副長と応接間で酒を飲んでいるのを見つけた。
丁度良い。
副長だってこの領事館を長期的に使うかも知れない利害関係者だ。ある意味役人で国に守られているナヴァールよりも現実的な視点を持っているだろう。
「バルダン?
あの少年か?
まあ、そうだな。何分この街のことは殆ど知らないからな。ちょっとした事を聞いたりするのには便利だね」
ナヴァールがワインを手に取りながら答えた。
「どうした?
長期契約料でも要求されたか?」
副長がニヤニヤ笑いながら聞いてくる。
なんかこう、あんた俺が苦労するのを喜んでない?
「いや、あいつも別にそこまで欲張っちゃあいないよ。
ただ、あいつの上役気取りの男が今朝姿を現したんだ。
あまり賢そうでない上に、ガキを食い物にするような奴だからな。このまま放っておいたらそいつが俺たちが払った金の大方をバルダンから奪い取り、そいつに金を払う奴に都合のいい情報をこちらに流すようになるかも知れない。
バルダンが今のままで役に立っているというのなら、西区の顔役に話を通しておくのも一つの手かも知れないと思ってね」
さて。
ナヴァールがどの位裏社会のことを分かっているか不明だし、俺が知っているゼブの話もバルダンからの又聞きだからな。
どこまで信用して良いのかは不明だが、それでも少なくとも西区全部を牛耳るだけの知恵がある奴らしいから、今朝の当たり役よりはマシだろう。
「顔役に話を通す?
この街でそこまで大々的に物が売れるとも思わないが、必要か?」
ナヴァールが首をかしげた。
「利益に比例したみかじめ料で話を付ければ良いんじゃないか?
何かがっつり売れる物が見つかってから話をするよりは今の方が条件が良いだろうし、問題が起きた際に顔役に話が通っていると助けて貰えることもあるぞ?」
副長が口を挟む。
そうだよな。
船にとってはもしもの時の補給や人捜しなんかで助けて貰える顔役っていうのは、出来れば領事館につなぎを取っておいて貰いたい存在だろう。
何かがあってから慌てて顔役に話を通して助けを得ようとしても、問題が起きてからでは数日無駄になりかねないからな。
行政府の方が本来ならば頼りになれるはずだが、往々にして行政府は外部からの人間は『搾取する存在』として足元を見る。
かえって裏社会の人間の方が公平だったりするんだよねぇ。
「そうか?
まあ、大した金じゃないんだったら顔役に話を通しても良いが。
手配を頼んで良いか、ウィル?」
ナヴァールが肩を竦めた。
他人事だね~。
まあ、あんたはこの領事館に残る訳じゃあ無いんだろうけど。
「分かった。
明日にでもつなぎを取れるか、試してみるよ。
ちなみに、ハルツァ以外でこの領事館に残る人間はいるのか?
話が纏まったら、残る人間も誰か顔を合わせておく方が良いと思うが」
そこら辺の人事のことは全然俺は聞いていないんだよな。
船に乗っていた人間が残るのか、それともこの領事館の館を見つけておいた人間が詰めることになるのかも知らない。
「あ~。
ちょっと上司とも相談するから、そっちが纏まったら声を掛けてくれ」
ボリボリと顎を掻いてから、ちょっと投げやりな答えが来た。
おい。
疲れているのか?
出航までの日数は限られているんだから、深酒せずに明日はしっかりお前さんの上司と話し合ってくれよ?
俺たちは3階に狭いながら個室を与えられているので、そこに戻る際にアレクの部屋に首を突っ込んだらシャルロもそこに居た。
どうやら寝る前のお茶を一杯と言うところのようだ。
シャルロの前にはクッキーも置いてあったが。
これだけ甘い物を食っても太らないこいつの体は本当に不思議だ。
年を取ったら太ってくるのかね?
ぶくぶくに太ったシャルロなんぞ見たくないから、そうなりそうな予兆が出てきたら甘い物を取り上げないとな。
『太りすぎると健康に悪い』と蒼流に説明しないと後で怖いことになりそうだが。
「明日はちょっとここら辺の顔役を探しに行くから、バルダンも連れて行っても大丈夫か?」
俺を見て、お茶をもう一杯注ぐためにシャルロが立ち上がる。
「大丈夫だよ~。
今日の喫茶店で、甘い物作るのにお勧めな香辛料を扱っている店を何軒か教えて貰ったから、そっちに行ってるよ」
「ちなみにこちらの顔役っていうのは事業をするのには繋ぎを取っておいた方が良いのか?」
アレクが少し心配そうに聞いてきた。
「西区に店を構えるんだったら前もって話を通しておく方が安上がりかもという感じみたいだな。
船で来てちゃちゃっと交易する程度だったら何かが起きない限り大丈夫じゃないか?
ちょっとした事だったら領事館経由で助けを得られそうだし」
ダルム商会なりシェフィート商会なりがこちらで支店を開く程、大々的にやるんだったら繋ぎを取っておく方が良いだろうが。
「ふうん。
一応、どうやって顔役と連絡を取るのかだけ後で教えてくれ」
シャルロが注いだお茶を俺に渡しながらアレクが言う。
「おう。
まあ、話がうまくいけばだけどね」
実際に会ってみたら、相手のことがもっと分かるだろう。
出来れば話をつけた後にこっそり戻って相手の様子を3日ぐらい観察したいところだが・・・流石にそんな暇は無いな。
なんと言ってもまだ初日に入手した安物スカーフ以外、シェイラへお土産を買っていないのだ。
そろそろ本腰を据えて探さないと。
【後書き】
ウィルは一応学院長用のお茶は色々とゲットしてある(除湿機使う実験ついでに)のですが、シェイラへのお土産は拘りすぎてて買えていないんですね~。
買い物嫌いなんぞ言っていられなくなりそうw
ちょっと聞きたいんだけど、バルダンの情報って役立っているか?」
夕食から帰って来たらナヴァールが副長と応接間で酒を飲んでいるのを見つけた。
丁度良い。
副長だってこの領事館を長期的に使うかも知れない利害関係者だ。ある意味役人で国に守られているナヴァールよりも現実的な視点を持っているだろう。
「バルダン?
あの少年か?
まあ、そうだな。何分この街のことは殆ど知らないからな。ちょっとした事を聞いたりするのには便利だね」
ナヴァールがワインを手に取りながら答えた。
「どうした?
長期契約料でも要求されたか?」
副長がニヤニヤ笑いながら聞いてくる。
なんかこう、あんた俺が苦労するのを喜んでない?
「いや、あいつも別にそこまで欲張っちゃあいないよ。
ただ、あいつの上役気取りの男が今朝姿を現したんだ。
あまり賢そうでない上に、ガキを食い物にするような奴だからな。このまま放っておいたらそいつが俺たちが払った金の大方をバルダンから奪い取り、そいつに金を払う奴に都合のいい情報をこちらに流すようになるかも知れない。
バルダンが今のままで役に立っているというのなら、西区の顔役に話を通しておくのも一つの手かも知れないと思ってね」
さて。
ナヴァールがどの位裏社会のことを分かっているか不明だし、俺が知っているゼブの話もバルダンからの又聞きだからな。
どこまで信用して良いのかは不明だが、それでも少なくとも西区全部を牛耳るだけの知恵がある奴らしいから、今朝の当たり役よりはマシだろう。
「顔役に話を通す?
この街でそこまで大々的に物が売れるとも思わないが、必要か?」
ナヴァールが首をかしげた。
「利益に比例したみかじめ料で話を付ければ良いんじゃないか?
何かがっつり売れる物が見つかってから話をするよりは今の方が条件が良いだろうし、問題が起きた際に顔役に話が通っていると助けて貰えることもあるぞ?」
副長が口を挟む。
そうだよな。
船にとってはもしもの時の補給や人捜しなんかで助けて貰える顔役っていうのは、出来れば領事館につなぎを取っておいて貰いたい存在だろう。
何かがあってから慌てて顔役に話を通して助けを得ようとしても、問題が起きてからでは数日無駄になりかねないからな。
行政府の方が本来ならば頼りになれるはずだが、往々にして行政府は外部からの人間は『搾取する存在』として足元を見る。
かえって裏社会の人間の方が公平だったりするんだよねぇ。
「そうか?
まあ、大した金じゃないんだったら顔役に話を通しても良いが。
手配を頼んで良いか、ウィル?」
ナヴァールが肩を竦めた。
他人事だね~。
まあ、あんたはこの領事館に残る訳じゃあ無いんだろうけど。
「分かった。
明日にでもつなぎを取れるか、試してみるよ。
ちなみに、ハルツァ以外でこの領事館に残る人間はいるのか?
話が纏まったら、残る人間も誰か顔を合わせておく方が良いと思うが」
そこら辺の人事のことは全然俺は聞いていないんだよな。
船に乗っていた人間が残るのか、それともこの領事館の館を見つけておいた人間が詰めることになるのかも知らない。
「あ~。
ちょっと上司とも相談するから、そっちが纏まったら声を掛けてくれ」
ボリボリと顎を掻いてから、ちょっと投げやりな答えが来た。
おい。
疲れているのか?
出航までの日数は限られているんだから、深酒せずに明日はしっかりお前さんの上司と話し合ってくれよ?
俺たちは3階に狭いながら個室を与えられているので、そこに戻る際にアレクの部屋に首を突っ込んだらシャルロもそこに居た。
どうやら寝る前のお茶を一杯と言うところのようだ。
シャルロの前にはクッキーも置いてあったが。
これだけ甘い物を食っても太らないこいつの体は本当に不思議だ。
年を取ったら太ってくるのかね?
ぶくぶくに太ったシャルロなんぞ見たくないから、そうなりそうな予兆が出てきたら甘い物を取り上げないとな。
『太りすぎると健康に悪い』と蒼流に説明しないと後で怖いことになりそうだが。
「明日はちょっとここら辺の顔役を探しに行くから、バルダンも連れて行っても大丈夫か?」
俺を見て、お茶をもう一杯注ぐためにシャルロが立ち上がる。
「大丈夫だよ~。
今日の喫茶店で、甘い物作るのにお勧めな香辛料を扱っている店を何軒か教えて貰ったから、そっちに行ってるよ」
「ちなみにこちらの顔役っていうのは事業をするのには繋ぎを取っておいた方が良いのか?」
アレクが少し心配そうに聞いてきた。
「西区に店を構えるんだったら前もって話を通しておく方が安上がりかもという感じみたいだな。
船で来てちゃちゃっと交易する程度だったら何かが起きない限り大丈夫じゃないか?
ちょっとした事だったら領事館経由で助けを得られそうだし」
ダルム商会なりシェフィート商会なりがこちらで支店を開く程、大々的にやるんだったら繋ぎを取っておく方が良いだろうが。
「ふうん。
一応、どうやって顔役と連絡を取るのかだけ後で教えてくれ」
シャルロが注いだお茶を俺に渡しながらアレクが言う。
「おう。
まあ、話がうまくいけばだけどね」
実際に会ってみたら、相手のことがもっと分かるだろう。
出来れば話をつけた後にこっそり戻って相手の様子を3日ぐらい観察したいところだが・・・流石にそんな暇は無いな。
なんと言ってもまだ初日に入手した安物スカーフ以外、シェイラへお土産を買っていないのだ。
そろそろ本腰を据えて探さないと。
【後書き】
ウィルは一応学院長用のお茶は色々とゲットしてある(除湿機使う実験ついでに)のですが、シェイラへのお土産は拘りすぎてて買えていないんですね~。
買い物嫌いなんぞ言っていられなくなりそうw
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