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卒業後
393 星暦554年 藤の月 19日 旅立ち?(35)
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「ここは魔道具を売ってるぜ。
だけど、俺の知り合いで魔道具を使うような連中はいないから売っている物が良い物かどうかは知らない」
バルダンが何やら地味な店を指さしながら解説した。
銀貨1枚でバルダンに1日街を案内させることになった俺たちは、喫茶店の後は市場の香辛料売り場のお買い得な商人のところを案内させ、更にその後は服やら生地やら木細工やらありとあらゆる思いつく店を案内させた。
『香辛料売り場のお買い得な商人』と言っても、香辛料の種類毎にお勧めな商人が変わるというのは盲点だった。
アレクとシャルロは満足そうだったが、俺は疲れたよ・・・。
最後が、この魔道具屋だ。
いや、最後は食事処か。
中途半端な時間に甘い物を食べてしまったせいで、昼は見かけた屋台で適当に串焼きを買ったんだよね。
なのでまだ食事処には案内して貰っていない。
まあ、今日1日の案内を見る限り、このスリ小僧はスリの腕よりも情報収集の腕の方が良いようなので、食事処も楽しみにして良いだろう。
偶然だが、良い情報源を捕まえられてラッキーだった。
それはさておき。
魔道具というのは単価が高い。
貴族や有力な商人だったら職人にどういった物が欲しいかを指定してオーダーする。
一般の庶民は・・・いくらオーダーメードではない『量産品』でも、そうそう魔道具なんぞ買えない。
結局『量産品』と言っても魔術師か魔道具職人が一つ一つ手作りしているからな。
なので魔道具屋というのは比較的限られた客層相手に単価の高い高級品を売ることになるため、大通りの目立つ場所に店舗を開くと言うよりは、適当な裏通りに店を開いて『知る人ぞ知る』状態で営業していることが多い。
だから街を知らないと探すこと自体が大変なんだよね。
流石に下町のスリであるバルダンが魔道具屋の品揃えがどうかなんぞ分かるとは思っていないが、店を教えて貰えただけでも助かる。
と言うことで俺たちは入っていった。
店員はバルダンを見て微妙な表情をしたが、俺たちが客になると思ったのか、何も言わなかった。
さて。
やはり大陸が違うと需要も違うのか、店に置いてある物が大分とアファル王国で見かける物とは違う。
ランプの形にしても何やら異国風だ。
・・・つうか、ここは異国だしな。
考えてみたら、東の大陸で作られた魔道具の魔術回路って魔術院に登録されているのかね?
されてなかったら買って帰った俺たちが勝手に登録しても良いのだろうか。
登録されてなくって使い勝手のいい魔道具があったら俺たちウハウハかも?
なんて考えながら店の魔道具を見て回る。
小さな物だと流石に安いから画期的な魔道具は遠方へも届きやすいのか、視たことがあるような魔術回路が多かった。
外側のデザインは中々面白い物があったが。
大きいのは・・・よく分からないのが多い。
「これって何をする魔道具なんです?」
大きめな箱形の魔道具を眺めていたら、側に寄ってきたシャルロが店員に話しかけた。
「ああ、それは部屋の気温を下げる魔道具です。
こちらは湿度も下げられますよ」
店員が説明し、更に奥にあるもう一つの魔道具も示した。
どうもこの温度や湿度を下げる魔道具が人気なのか、それなりに大きいのに店の中に幾つか置いてある。
ふむ?
部屋の気温を下げるのは、確かにこの国だったら必要だろう。
アファル王国では・・・どうかな?
魔道具を使って気温を下げるなんて考えたことが無かったからなぁ。
ちょっとした風を作る魔道具はあると気持ちが良いのは認めるが。
温度を上げる防寒用の魔道具があるのだ。
暑さを凌ぐ、防暑用の魔道具があっても不思議はない。魔術回路だってそれ程違いは無いかも?
熱を加えるところを抜き取る形にすれば良いのだ。
・・・そう考えると、防暑用の魔道具を研究したら防寒用の魔道具の効率化が可能かも知れないな。
「湿度を下げるって?」
店員の言い方だと湿度を下げることはもの凄い機能の様な印象を受けるが、微妙にその使い道が分からない。
カビが生えにくくなるのか?
そんな物に魔道具を使うぐらいだったら、カビ防止の術を掛けるなり、石灰の粉でも入れた箱を置いておく方が安上がりだと思うが。
「おや、ご存じない?
湿度が下がると暑さがマシになるんですよ。
だから部屋の温度を極端に下げなくても気持ちよく眠れますし、日中も過ごしやすくなります」
店員が少し大げさな身振りで驚いて見せた。
ちょっと魔道具屋の店員にしては大げさな奴だな。
異国人だと思って大げさに言わないと内容が伝わらないとでも思っているのだろうか?
・・・まあ、確かに湿度を下げる重要性は伝わっていないけどさ。
「へぇ~そうなんだ。
面白いね」
シャルロが横で頷いた。
「船での寝苦しさは、湿度が高かったせいもあるのか。
だが、流石に海に出ている船の中で船室の湿度を下げようとしたら魔石の消費がとんでもなく激しくなりそうだな」
アレクも頷きながらコメントした。
おっと。
二人には、湿度の重要性が分かっているみたいだ。
「・・・湿度ってそんなに重要か?」
「雨が降った後に風がない日って汗がダラダラ流れて暑苦しいでしょ?
反対に、気持ちの良い風が吹いている日は過ごしやすい。
この魔道具は、そういう汗がダラダラ流れちゃうような湿気た日でも、部屋の中は気持ちの良い風が吹いているようなカラッとした感じにしてくれるんだと思うよ?」
シャルロが説明した。
ふむ。
鍛冶場での暑さ以外は、それ程暑いのって苦にならないからなぁ。
寒いと体の動きが悪くなるんで場合によっては致命的だが、暑い分にはかえってカモが服を緩めてくれて、スリをしていた時分にはやりやすかったぐらいだ。
でも確かに、風があるのと無いのでは夏の暑い日の過ごしやすさが違う。
送風機を使っても暑くてやってられないと感じた日は、湿度が高かったのかもしれない。
「面白そうだが・・・王都だったら態々魔道具を使うほどは湿度は高くないか」
ちょっと残念そうにアレクが呟いた。
湿度ねぇ。
それこそ、魔術学院の温泉の着替え室にでも設置したらカビが生えにくいかも知れないが、湿度が問題なら使う生徒や教師に湿度除去の術を定期的に掛けさせる方が建設的だろうな。
「これ、良いかも!!
兄さんが、フェリスが夏に汗疹が出来て大変だったって言ってたんだよね。
またお義姉さんが妊娠しているらしいから、お土産に買っていく!!」
シャルロが興奮した様に声を上げた。
ほう。
姪っ子の為にお土産ですか。
いや、フェリスちゃんというよりも次の甥っ子か姪っ子の為だよな。
・・・今の時点で妊娠が分かっているのなら、生まれるのは夏ぐらいか?
だとしたら便利かも。
まあ、妊婦だって暑苦しいのは辛いだろうし。
・・・シェイラにもお土産にいるか?
でも、シェイラの場合は外かテントで作業していることが多いだろうからなぁ。
湿度よりも、日焼け止めの結界を組み込んだ魔道具でも作った方が喜ばれそうだ。
本人は日焼けを特に気にしていないと言っていたが、あまり日に焼けると農婦と間違えられて店での対応が悪くなるって言っていたし。
うん。
帰ったら、日焼け止め結界の魔道具づくりに励もう。
・・・こちらでそう言うのがないか、探してみるのも手だな。
----------------------------------------------------------------------
【後書き】
ショールは買ったものの他にもシェイラへのお土産のことを考えているウィル君でした。
・・・学院長のことを忘れてるかも?
だけど、俺の知り合いで魔道具を使うような連中はいないから売っている物が良い物かどうかは知らない」
バルダンが何やら地味な店を指さしながら解説した。
銀貨1枚でバルダンに1日街を案内させることになった俺たちは、喫茶店の後は市場の香辛料売り場のお買い得な商人のところを案内させ、更にその後は服やら生地やら木細工やらありとあらゆる思いつく店を案内させた。
『香辛料売り場のお買い得な商人』と言っても、香辛料の種類毎にお勧めな商人が変わるというのは盲点だった。
アレクとシャルロは満足そうだったが、俺は疲れたよ・・・。
最後が、この魔道具屋だ。
いや、最後は食事処か。
中途半端な時間に甘い物を食べてしまったせいで、昼は見かけた屋台で適当に串焼きを買ったんだよね。
なのでまだ食事処には案内して貰っていない。
まあ、今日1日の案内を見る限り、このスリ小僧はスリの腕よりも情報収集の腕の方が良いようなので、食事処も楽しみにして良いだろう。
偶然だが、良い情報源を捕まえられてラッキーだった。
それはさておき。
魔道具というのは単価が高い。
貴族や有力な商人だったら職人にどういった物が欲しいかを指定してオーダーする。
一般の庶民は・・・いくらオーダーメードではない『量産品』でも、そうそう魔道具なんぞ買えない。
結局『量産品』と言っても魔術師か魔道具職人が一つ一つ手作りしているからな。
なので魔道具屋というのは比較的限られた客層相手に単価の高い高級品を売ることになるため、大通りの目立つ場所に店舗を開くと言うよりは、適当な裏通りに店を開いて『知る人ぞ知る』状態で営業していることが多い。
だから街を知らないと探すこと自体が大変なんだよね。
流石に下町のスリであるバルダンが魔道具屋の品揃えがどうかなんぞ分かるとは思っていないが、店を教えて貰えただけでも助かる。
と言うことで俺たちは入っていった。
店員はバルダンを見て微妙な表情をしたが、俺たちが客になると思ったのか、何も言わなかった。
さて。
やはり大陸が違うと需要も違うのか、店に置いてある物が大分とアファル王国で見かける物とは違う。
ランプの形にしても何やら異国風だ。
・・・つうか、ここは異国だしな。
考えてみたら、東の大陸で作られた魔道具の魔術回路って魔術院に登録されているのかね?
されてなかったら買って帰った俺たちが勝手に登録しても良いのだろうか。
登録されてなくって使い勝手のいい魔道具があったら俺たちウハウハかも?
なんて考えながら店の魔道具を見て回る。
小さな物だと流石に安いから画期的な魔道具は遠方へも届きやすいのか、視たことがあるような魔術回路が多かった。
外側のデザインは中々面白い物があったが。
大きいのは・・・よく分からないのが多い。
「これって何をする魔道具なんです?」
大きめな箱形の魔道具を眺めていたら、側に寄ってきたシャルロが店員に話しかけた。
「ああ、それは部屋の気温を下げる魔道具です。
こちらは湿度も下げられますよ」
店員が説明し、更に奥にあるもう一つの魔道具も示した。
どうもこの温度や湿度を下げる魔道具が人気なのか、それなりに大きいのに店の中に幾つか置いてある。
ふむ?
部屋の気温を下げるのは、確かにこの国だったら必要だろう。
アファル王国では・・・どうかな?
魔道具を使って気温を下げるなんて考えたことが無かったからなぁ。
ちょっとした風を作る魔道具はあると気持ちが良いのは認めるが。
温度を上げる防寒用の魔道具があるのだ。
暑さを凌ぐ、防暑用の魔道具があっても不思議はない。魔術回路だってそれ程違いは無いかも?
熱を加えるところを抜き取る形にすれば良いのだ。
・・・そう考えると、防暑用の魔道具を研究したら防寒用の魔道具の効率化が可能かも知れないな。
「湿度を下げるって?」
店員の言い方だと湿度を下げることはもの凄い機能の様な印象を受けるが、微妙にその使い道が分からない。
カビが生えにくくなるのか?
そんな物に魔道具を使うぐらいだったら、カビ防止の術を掛けるなり、石灰の粉でも入れた箱を置いておく方が安上がりだと思うが。
「おや、ご存じない?
湿度が下がると暑さがマシになるんですよ。
だから部屋の温度を極端に下げなくても気持ちよく眠れますし、日中も過ごしやすくなります」
店員が少し大げさな身振りで驚いて見せた。
ちょっと魔道具屋の店員にしては大げさな奴だな。
異国人だと思って大げさに言わないと内容が伝わらないとでも思っているのだろうか?
・・・まあ、確かに湿度を下げる重要性は伝わっていないけどさ。
「へぇ~そうなんだ。
面白いね」
シャルロが横で頷いた。
「船での寝苦しさは、湿度が高かったせいもあるのか。
だが、流石に海に出ている船の中で船室の湿度を下げようとしたら魔石の消費がとんでもなく激しくなりそうだな」
アレクも頷きながらコメントした。
おっと。
二人には、湿度の重要性が分かっているみたいだ。
「・・・湿度ってそんなに重要か?」
「雨が降った後に風がない日って汗がダラダラ流れて暑苦しいでしょ?
反対に、気持ちの良い風が吹いている日は過ごしやすい。
この魔道具は、そういう汗がダラダラ流れちゃうような湿気た日でも、部屋の中は気持ちの良い風が吹いているようなカラッとした感じにしてくれるんだと思うよ?」
シャルロが説明した。
ふむ。
鍛冶場での暑さ以外は、それ程暑いのって苦にならないからなぁ。
寒いと体の動きが悪くなるんで場合によっては致命的だが、暑い分にはかえってカモが服を緩めてくれて、スリをしていた時分にはやりやすかったぐらいだ。
でも確かに、風があるのと無いのでは夏の暑い日の過ごしやすさが違う。
送風機を使っても暑くてやってられないと感じた日は、湿度が高かったのかもしれない。
「面白そうだが・・・王都だったら態々魔道具を使うほどは湿度は高くないか」
ちょっと残念そうにアレクが呟いた。
湿度ねぇ。
それこそ、魔術学院の温泉の着替え室にでも設置したらカビが生えにくいかも知れないが、湿度が問題なら使う生徒や教師に湿度除去の術を定期的に掛けさせる方が建設的だろうな。
「これ、良いかも!!
兄さんが、フェリスが夏に汗疹が出来て大変だったって言ってたんだよね。
またお義姉さんが妊娠しているらしいから、お土産に買っていく!!」
シャルロが興奮した様に声を上げた。
ほう。
姪っ子の為にお土産ですか。
いや、フェリスちゃんというよりも次の甥っ子か姪っ子の為だよな。
・・・今の時点で妊娠が分かっているのなら、生まれるのは夏ぐらいか?
だとしたら便利かも。
まあ、妊婦だって暑苦しいのは辛いだろうし。
・・・シェイラにもお土産にいるか?
でも、シェイラの場合は外かテントで作業していることが多いだろうからなぁ。
湿度よりも、日焼け止めの結界を組み込んだ魔道具でも作った方が喜ばれそうだ。
本人は日焼けを特に気にしていないと言っていたが、あまり日に焼けると農婦と間違えられて店での対応が悪くなるって言っていたし。
うん。
帰ったら、日焼け止め結界の魔道具づくりに励もう。
・・・こちらでそう言うのがないか、探してみるのも手だな。
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ショールは買ったものの他にもシェイラへのお土産のことを考えているウィル君でした。
・・・学院長のことを忘れてるかも?
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