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卒業後
388 星暦554年 藤の月 19日 旅立ち?(30)
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「街を見に行ってきます。
何か気をつけなければいけないことはありますか?」
アレクが宿の一階に居た副長に声を掛けた。
俺たちは昨日の夕方に東大陸へ到着した。
もう殆ど日が暮れていて、入港出来るがかギリギリのところだったのだが、何とか入港出来た。
副長が港の政府事務所へ駆け込み、何やら色々と交渉していたようだが既に遅かったので昨晩は結局俺たちは船で眠ることになった。
哀れ、ハルツァも上陸は出来ず。
でも、波にも大分慣れてきたと言っていたし、ここは良い感じに地形が波を遮ってくれる港で船が殆ど揺れなかったから、彼もそれ程苦しまなかっただろう。
・・・多分。
結局夕食にも出てこなかったんだよね~、彼。
大分やつれていたが、ちゃんと転移門を設置できるだけの体力が残っているんかね?
それはともかく。
今朝、ナヴァール、ハルツァ及び俺たちは宿に泊まりたいならどうぞ、と言われたので士官達の半分と一緒に朝から宿に移動したわけだ。
いくら宿泊費がタダとは言え、船の客室は狭いし、食事もいい加減飽きたからね。
船員達は交代制で半分ずつ船に寝泊まりし、残りの半分は休みを貰って羽を伸ばすらしい。
船に泊まっている奴らを見張っておくために士官の半分は船に留まるのだが、残りは宿に泊まる訳だ。
「おお、楽しんでくるんだな。
ちなみに、近いうちにアファル王国の領事館用の建物を入手する事になっているから、そうなったらここを引き払うぞ。
もしも場所が決まってから移動までの間に顔を合わせなかった場合は、受付に言いつけておくから確認してくれ」
何やら書類を読んでいた副長が目を上げて答えた。
そっか。
領事館を作るのか。
まあ、当然だよな。
転移門を勝手に宿に作るわけには行かないだろう。
今まで領事館が無かったことの方がちょっと意外だが、考えてみたら今までは南周りの航路で来ていたからこの国との取引をするにしてもこの街までは来なかったんだろうな。
数日中に入手するということは、既にそれなりに調査はしてあって最終的な確認と契約とかをナヴァールがするという事か?
一体いつからアファル王国はこの新規航路開拓について計画していたのだろうか?
学院長が嵌められかけた時期からだと考えるとちょっと準備が整いすぎている気がするが。
まあ、ガルカ王国がヤバいという話はかなり前からあったからな。
学院長やファルータ公爵のことは特に直接的には関係ないのかもしれない。
何はともあれ。
俺たちは帰路の出航までは自由行動の契約なので(その分給料が無いが)、好きにほっつき歩いて良いことになっている。
下手に領事館への引越しの時とかに傍に居たら手伝いに駆り出されそうだから、日中は姿を消しておくのが正解だな。
◆◆◆◆
「まず市場に行ってみない?この街の名産物は香辛料とからしいから色々一気に集まっている場所で見る方が楽しそうだよね」
シャルロが提案した。
東大陸のどこに着くかは特に指定されていなかったので、蒼流が『中継地があって来やすい』と言った方向に進んで適当に大型の港を目指しただけなのだが、実はこのジルダスという街は、東大陸の名産物の一つである香辛料が各地から集まる場所らしかった。
各香辛料の産地からの交通手段が偶々偶然この街に集まる形になっているので(まあ、遙か彼方の昔にこの街の有力者が頑張って交通手段を整備したのかも知れないが)、ここに収穫した香辛料が集められて他の地へ売られていくのだ。
殆ど直接取引をしていないアファル王国ですら、ジルダスという都市の名前はありとあらゆる香辛料が手に入る地として知られていた。
この街にたどり着く可能性が高いと言われた際に、ナヴァールが喜びに踊りまくっていたのもある意味当然だ。
まあ、折角東大陸に直接来たのだ。
香辛料以外にも交易する物はあるだろうが。
どちらにせよ、市場を見て回ればどんなものが売っているか見られて良いだろう。
「賛成!
ちなみに、市場はどこにあるんだ?」
良い家の坊ちゃんな割に社交的で誰とでも話し込めるシャルロは朝食時に宿の若いのと色々話していたから、市場の場所とかも既に入手済だろう。
「ここ出て左に真っ直ぐ行ってから、港の手前を右の方らしいよ~。
あと、美味しい食事処とか喫茶店の場所も聞いておいたから全部行ってみよう!」
何やらメモを見ながらにこやかにシャルロが答える。
「喫茶店?」
アレクが尋ねた。
「お茶と甘い物が出る店なんだって。
一応甘いのが苦手な人用に軽食も出るみたいだけど」
へぇぇ。
酒がメインな居酒屋というのはよく見かけるが、お上品にお茶だけ飲む店があるなんて初めて知った。
茶って言うのは奥様方がお茶会をして飲むか、家や職場で自分で淹れて飲む物だと思っていたが、そういうのを金を取って出す店もあるとはね。
まあ、食事処だって家で料理できるのに金を取って出しているんだから、大して違いは無いか。
それだけ住民がお茶に拘りがあると言うのなら、学院長へのお土産にも色々選べそうだな。
「面白いね。
昼は軽い目にして、是非その喫茶店も行ってみよう。
どうせ、シャルロは甘い物を食べたいんだろ?」
アレクが笑いながら提案した。
「勿論!!!
この街って香辛料が集まるだけあって美味しい店が沢山あるみたいだから、朝はまだしも昼と晩はフルに外で食事して途中で休みのお茶も色んな店に行くようにしないと、出航までに全部カバー出来ないから頑張ろうね!」
シャルロが力強く頷いた。
昼と晩とプラスお茶休みも全部外でか?!
・・・ちょっと胃が疲れそうな気がするなぁ。
何か気をつけなければいけないことはありますか?」
アレクが宿の一階に居た副長に声を掛けた。
俺たちは昨日の夕方に東大陸へ到着した。
もう殆ど日が暮れていて、入港出来るがかギリギリのところだったのだが、何とか入港出来た。
副長が港の政府事務所へ駆け込み、何やら色々と交渉していたようだが既に遅かったので昨晩は結局俺たちは船で眠ることになった。
哀れ、ハルツァも上陸は出来ず。
でも、波にも大分慣れてきたと言っていたし、ここは良い感じに地形が波を遮ってくれる港で船が殆ど揺れなかったから、彼もそれ程苦しまなかっただろう。
・・・多分。
結局夕食にも出てこなかったんだよね~、彼。
大分やつれていたが、ちゃんと転移門を設置できるだけの体力が残っているんかね?
それはともかく。
今朝、ナヴァール、ハルツァ及び俺たちは宿に泊まりたいならどうぞ、と言われたので士官達の半分と一緒に朝から宿に移動したわけだ。
いくら宿泊費がタダとは言え、船の客室は狭いし、食事もいい加減飽きたからね。
船員達は交代制で半分ずつ船に寝泊まりし、残りの半分は休みを貰って羽を伸ばすらしい。
船に泊まっている奴らを見張っておくために士官の半分は船に留まるのだが、残りは宿に泊まる訳だ。
「おお、楽しんでくるんだな。
ちなみに、近いうちにアファル王国の領事館用の建物を入手する事になっているから、そうなったらここを引き払うぞ。
もしも場所が決まってから移動までの間に顔を合わせなかった場合は、受付に言いつけておくから確認してくれ」
何やら書類を読んでいた副長が目を上げて答えた。
そっか。
領事館を作るのか。
まあ、当然だよな。
転移門を勝手に宿に作るわけには行かないだろう。
今まで領事館が無かったことの方がちょっと意外だが、考えてみたら今までは南周りの航路で来ていたからこの国との取引をするにしてもこの街までは来なかったんだろうな。
数日中に入手するということは、既にそれなりに調査はしてあって最終的な確認と契約とかをナヴァールがするという事か?
一体いつからアファル王国はこの新規航路開拓について計画していたのだろうか?
学院長が嵌められかけた時期からだと考えるとちょっと準備が整いすぎている気がするが。
まあ、ガルカ王国がヤバいという話はかなり前からあったからな。
学院長やファルータ公爵のことは特に直接的には関係ないのかもしれない。
何はともあれ。
俺たちは帰路の出航までは自由行動の契約なので(その分給料が無いが)、好きにほっつき歩いて良いことになっている。
下手に領事館への引越しの時とかに傍に居たら手伝いに駆り出されそうだから、日中は姿を消しておくのが正解だな。
◆◆◆◆
「まず市場に行ってみない?この街の名産物は香辛料とからしいから色々一気に集まっている場所で見る方が楽しそうだよね」
シャルロが提案した。
東大陸のどこに着くかは特に指定されていなかったので、蒼流が『中継地があって来やすい』と言った方向に進んで適当に大型の港を目指しただけなのだが、実はこのジルダスという街は、東大陸の名産物の一つである香辛料が各地から集まる場所らしかった。
各香辛料の産地からの交通手段が偶々偶然この街に集まる形になっているので(まあ、遙か彼方の昔にこの街の有力者が頑張って交通手段を整備したのかも知れないが)、ここに収穫した香辛料が集められて他の地へ売られていくのだ。
殆ど直接取引をしていないアファル王国ですら、ジルダスという都市の名前はありとあらゆる香辛料が手に入る地として知られていた。
この街にたどり着く可能性が高いと言われた際に、ナヴァールが喜びに踊りまくっていたのもある意味当然だ。
まあ、折角東大陸に直接来たのだ。
香辛料以外にも交易する物はあるだろうが。
どちらにせよ、市場を見て回ればどんなものが売っているか見られて良いだろう。
「賛成!
ちなみに、市場はどこにあるんだ?」
良い家の坊ちゃんな割に社交的で誰とでも話し込めるシャルロは朝食時に宿の若いのと色々話していたから、市場の場所とかも既に入手済だろう。
「ここ出て左に真っ直ぐ行ってから、港の手前を右の方らしいよ~。
あと、美味しい食事処とか喫茶店の場所も聞いておいたから全部行ってみよう!」
何やらメモを見ながらにこやかにシャルロが答える。
「喫茶店?」
アレクが尋ねた。
「お茶と甘い物が出る店なんだって。
一応甘いのが苦手な人用に軽食も出るみたいだけど」
へぇぇ。
酒がメインな居酒屋というのはよく見かけるが、お上品にお茶だけ飲む店があるなんて初めて知った。
茶って言うのは奥様方がお茶会をして飲むか、家や職場で自分で淹れて飲む物だと思っていたが、そういうのを金を取って出す店もあるとはね。
まあ、食事処だって家で料理できるのに金を取って出しているんだから、大して違いは無いか。
それだけ住民がお茶に拘りがあると言うのなら、学院長へのお土産にも色々選べそうだな。
「面白いね。
昼は軽い目にして、是非その喫茶店も行ってみよう。
どうせ、シャルロは甘い物を食べたいんだろ?」
アレクが笑いながら提案した。
「勿論!!!
この街って香辛料が集まるだけあって美味しい店が沢山あるみたいだから、朝はまだしも昼と晩はフルに外で食事して途中で休みのお茶も色んな店に行くようにしないと、出航までに全部カバー出来ないから頑張ろうね!」
シャルロが力強く頷いた。
昼と晩とプラスお茶休みも全部外でか?!
・・・ちょっと胃が疲れそうな気がするなぁ。
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