シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
345 / 1,038
卒業後

344 星暦553年 橙の月 15日 これも後始末?(4)

しおりを挟む
「最近はファルータ領によく出現しているらしいな?」
長の第一声はこれだった。

おい。
そんなこと、何故知っているんだ。
しかも、そのニヤニヤ笑いからすると、シェイラとのことも聞いているな??

「俺がよく行っているのはヴァルージャなんですけどね」

長が笑った。
「ヴァルージャとファルータだったら近いから、お前さんの空滑機グライダーを使えば直ぐだろう。
王家と公爵家に恩を売りながら夜は恋人と一緒に過ごせるなんて、最高じゃないか」

おいおい。
恩を売るつもりは無いぞ。
少なくとも、現時点で俺の名前はどこにも出すつもりはない。
まあ、きっと学院長は俺の『貸し』として憶えておいてくれるだろうが。

「特に上昇志向が無い人間にとって、便利な人間だとお偉いさんに知られるのなんて害があるだけで利はありませんよ。
軍部が危険と考えている場所の情報をギルドに流すので、そちら経由で働くことになっています。
長も、俺の名前や正体がばれないようによろしくお願いしますよ」

ワインをグラスにつぎながら長が肩を竦めた。
「まあ、お前ならそう言う可能性が高いだろうとは思っていたが。
よくぞそれでお偉いさんが納得したな」

「変に名前を特定させて借りをはっきりとさせるよりも、『名無し』相手にしておく方が、相手も気が楽なんでしょうよ。
実際には魔術学院の記録を調べれば、裏社会との繋がりを考えれば俺の名前にたどり着くのにそう時間はかからないでしょうが。」

税務調査にかこつけた調査依頼はギルドの方からきた話だから、ある意味裏社会に脱落した魔術師モドキの候補者はそれなりの数がいる。

だが、前回の王太子がらみの学院長の問題は、『教え子』だから協力したというのが多分出てきただろうからなぁ。

というか、例え純粋に盗賊シーフギルドの人間だとしても、内乱を引き起こしかねないヤバい国家機密を知ってしまったのだ。
軍部としたらそのまま正体を曖昧にしておく訳にはいかなくて、何としてでも調べただろう。

「それはともかく。
調べる場所のリストアップと案内、それと俺が確認した後の見張りの手配が必要なんですが」
裏社会は国内(外もだが)でそれなりに繋がっているが、必ずしもファルータの裏ギルドが王都の盗賊シーフギルドの長の管轄下にある訳では無い。

勢力争いしたら、どうしたって資源の違いで負けるからそれなりにこちらへ協力的だという話は聞いたことがあるが。

今回は、どんな協力体制になっているんかな?

「元々、裏ギルド俺たちの方が先にガルカ王国の企みに気が付いたんだよ。
だから既にヤバそうな所はリストアップしてある。
まあ、新しい軍事技術や魔道具によって思いも寄らぬ場所が使われるかも知れないから、軍部の情報も活用させて貰う予定だが。
既にファルータの裏ギルドは人員を総動員して確認中だから、向こうに着いたら直ぐにお前も取りかかれるようになっている」

なんだよ。
俺の協力が既に予定に組み込まれてるんかい。

「どこで落ち合えば良いんですか?」
流石に、魔術ギルドの転移門の出口でという訳にはいかないだろう。
かといって、公爵家の玄関前というのも無いよな。
・・・考えてみたら、前回の騒動の時に領都にあった公爵家の屋敷を全て回ったから、そのうちのどれか小さいところでも構わないが。

公爵家が協力しているんだったら、どれか1つを裏ギルドの活動用に提供してもらってそこに宿泊しても良いし。

「人海作戦になるからな。王都からも人員を提供することになっている。
青が一緒について行くから、あいつに付いていけば大丈夫だ」

ほう。
一緒に行くと言うことは、青も転移門を使うんだろうな。青の転移門代はあっちが払うんだよね??
俺はばらした空滑機グライダーを持って行かなきゃいけないから、それなりに荷物が多くて青の分まで魔力を負担できんぞ。


-------------------------------------------------------------------------------------------------


何だかんだ言いつつも、グライダーを持って行って毎晩シェイラに会いに行く気なウィルでしたw

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...