シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
343 / 1,038
卒業後

342 星暦553年 橙の月 15日 これも後始末?(2)

しおりを挟む
「実は、王太子の婚約が決まった」
俺を迎えた学院長が重々しく伝えた。

「ええ、シャルロから何かそんな話を聞きました。
良かったですね」

ため息をつきながら学院長がお茶を注いでくれた。
「まあ、そちらは良かったのだがな。
今日ウィルに来て貰ったのは、そちらだけではなく、前回助けて貰った件にも関係する」

学院長絡みの『前回』?
つまり、ファルータ公爵がとち狂ってガルカ王国と組んで学院長を陥れ、最終的には王族を片っ端から殺して王位を乗っ取ろうとした案件か。
学院長を追い落とした後に、ファルータ公爵が実際に王位を取りに行くところまでやるつもりがあったのかは知らんが。

「あの件が何か?
街中の噂では、新しいファルータ公爵は特に問題も無く後を継いで堅実に公爵領を納めているようですけど」

学院長が肩を竦めた。
「新しいファルータ公爵が問題なのでは無い。
亡くなったファルータ公爵は死ぬ前にガルカ王国の手の者の侵入経路や手段の情報を伝え、彼らの逮捕に色々と協力してくれたのだ。
お陰で、アファル王国内にあったガルカ王国の諜報員はほぼ壊滅したと言って良いだろう。
だが、流石に直接ガルカ王国に繋がっていると直接証明できないテリウス神殿の人間までも始末する訳にはいかないからな。
彼らにはそれなりに見張りを付けるなり、金で買えそうな者にはこちらに情報を流すよう持ちかけるなり、手を打ったのだが・・・」

そうか、ガルカ王国とテリウス教って俺的には一心同体だと思っていたが、名目上は違うんだよな。
しかも、宗教関係の人間には手を出すと色々と面倒なことが起きやすい。

「どうも、ガルカ王国は前ファルータ公爵の裏切りを深く恨んでいる様でな。
王太子の婚約を祝う祭りで領都で何やら企んでいるらしい」

うげぇ。
テリウス教の神殿の買収した人間から話が来たのか、それとも見張っていた奴が気が付いたのか。
どちらにせよ、面倒だな。

「公爵の暗殺という話だったらまだしも、もしかしたら不特定多数の市民を標的にした無差別な虐殺を行うことで新公爵に対する領民の信頼を失墜させることを狙っている可能性がある」

「公爵が暗殺されても良いんですか?」
まだ若いし子供なんぞ居なさそうだが。
というか、下手に幼い嫡男なんぞいたら、却って面倒な事態にならないか?
直系の跡継ぎがいなくて、前公爵の弟でまともに職務能力のある人間がいるとかならまだマシそうだが。

「明確な跡継ぎになる人間がいないので、公爵が死んだら死んだで色々と面倒だ。だが、一人の人間の暗殺だったらそれなりに保護の手を打てる。
前もって分かっているなら暗殺アサッシンギルドに頼めばプロの視点から護衛を手配できるからな。
だが、標的がはっきりしない、不特定多数の虐殺が目的となるとな・・・」
学院長が顔をしかめた。

確かに大変そうだ。
でも、なんで俺を呼び出すわけ??

明らかに、軍の情報部の仕事でしょう?
「俺って単なる普通の魔術師なんですが?」

学院長がお茶を俺に勧めながらニヤリと笑った。
「普通とは言わんと思うぞ?
まあ、それはともかく。
単に放火や爆破テロ、毒の混入などに関しては、当日に実行犯がいるだろうから軍や裏社会のギルドに協力を仰いで人海戦略で何とかする予定らしい。
だが、魔道具を設置しておいて遠隔操作や時間経過で起動させられた場合、彼らでは発見は難しいのでな。
手伝いを願いたいと軍部から非公式に声が掛ってきた」

また軍部かよ。
お得意様とは言え、軍部との協力って嫌なんだけど。

まだギルドの長と協力する方が気楽だ。
「あまり軍部に『便利な魔術師』として認識されたくないので・・・盗賊シーフギルドと組みます。
彼らも手伝うのですよね?
盗賊シーフギルドに軍部が危険だと考えている箇所の情報を流してくれれば、盗賊シーフギルド側が危険と見なしている場所と合わせて回ってみます」

なんと言っても、王太子の婚約祝いだ。
それなりに各地で派手な祭りになるだろうし、下手をしたらシェイラが遊びに行っている可能性もある。

しょうがないから、頑張ろう。
・・・祭りに参加できるのかな、俺?
仕事で忙しいって言ったらシェイラは怒るかなぁ・・・?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...