上 下
11 / 17

久しぶりの三人

しおりを挟む
 あれからエインは持ち場に戻り俺は新米騎士から騎士団長の補佐となった為、シアの仕事をそばで手伝った。この仕事変更は朝にシアから言われたがその時はそんな勝手が許されるのかと俺は思った。だがシアについてこの執務室に着いた時、彼は俺の処遇を決めれる立場だったと思い出し、その瞬間をシアにも見られ笑われた。
 そんな朝からもう今は夕方で、仕事は終わり俺とシアは食堂にいた。この食堂は上位の騎士が使う事が多く、新米騎士の使う食堂と変わってとても静かだった。俺も前世はここの食堂でシアとエインの三人で食事をとっていたので懐かしいといえる。

「やっときたか、本当にお前ら二人は遅いな」
「時間通りだよ」

 エインに声をかけられ、俺はそう言いながら彼がとっていた席に座った。シアは俺の隣に座り、四人席は一席残し埋まる。

「ところでさ、視線が集まるのは分かってたけどなんでここまですごいの?」

 静かだが周りの視線は俺達に集中しているのが気になり俺はエインに訊くも彼はシアを見た。

「それはこいつが滅多に食堂に来ないのに加えてお前もいるからだよ」
「来てるだろう」
「月一に来るか来ないかの奴が何言ってるんだ」

 理由は分かったがここを利用しなければシアは外食なのかと思うも彼が高頻度に行く程、外食好きだった記憶が俺にはない。

「シア、きちんと食べてる?」
「食べてるよ」
「食べてねーよ。フィーロ、こいつ本当にたまにしか食べないから」

 やはり食べていない様だったが体つきを見るに痩せ細ってはいないので何か理由があるのだろう。それにこの世界では魔力の多い者は食事をそれほどとらなくても魔力で補える事が多く、シアもその類とみる。

「そうなんだ、まあ難しいお年頃なんだよ。気長にいこう」
「確かに病んでたしな。そうかスタシア、お前難しいお年頃だったのか」

 結局のところ人の体について触れるのは時に爆弾に当たるので俺があまり触れずに流そうと思ったがエインはシアを煽った。

「フィーは許すがエイン、お前は後で裏に来るといい」
「シア、お母さんいじめたら駄目だろう。エインママ、俺、早くご飯食べたいな」

 するとシアを見ていたエインがいい笑顔で俺の方を向き、恐ろしく低い声で言った。

「フィーロ、お前も後で裏に来い」
「なんでさ、俺、エイン助けただけじゃない?」

 本当になんで巻き込まれたのか納得のいかない俺だったがそんな時、頭上から声がかけられる。

「フィーロじゃん、なんで生きてんの?」

 誰かと見れば金髪をオールバックにした前世の同期だった。

「久しぶりだね、ウェンリー」
「ああ、久しぶり。で、これ本物? 魔力もないけど」

 ウェンリーは俺ではなくエインを見て問うと俺の隣に空く椅子に座った。

「本物だ、俺が魂も見たから確かだと言っていい」
「じじいの力使ったって、痛っ、痛いんですけど」

 ウェンリーの話している途中に机の間から見えた凄まじいエインの蹴りが彼の脛に入っていた。

「てめえも後で裏に来い」
「分かるよ、言っちゃうよね。じじいって、俺も朝言った」

 怒るエインをよそに俺はウェンリーの言葉に同意した。すると本当に食らったら痛いはずだが魔法で対処したのか軽く脛をさするだけで元気なウェンリーの表情と声が返ってくる。

「だよな。それにしてもよかったな、スタシア。戻ってきて」
「ああ」
「これはエインのあだ名が一つ消えるぞ、スタシアの母さんがな」

 ウェンリーの言葉に周りの者が数名吹き出していたが俺も笑った。

「はは、やっぱり言われてるんだ。知らない俺が見ても思ったよ」
「こんな母親は嫌なんだが?」

 シアが不満そうに言うもエインも不機嫌に返す。

「俺もお前みたいな息子、嫌に決まってるだろ」
「親子喧嘩も程々にな。で、戻ったなら飲みにでも行こ、フィーロ」
「俺がめちゃくちゃ弱いの忘れた?」

 前世の俺はすぐ酔うのだが、今世も同じで飲めないに等しい。

「だから、隣の旦那連れてこればいいんじゃない? フィーロの旦那ざるじゃん」
「俺が飲みつぶれてシアに運ばれる恒例の流れじゃないか、それ」

 毎回、俺がお酒で潰れると帰る部屋が同じで酔う様子がない元気なシアが俺を連れて帰っていた。着替えなどの面倒もしてくれ、次の朝は彼に感謝して何かお礼をするのがセットだった。

「それがいいんだよ、よし! 今度の飲み会行く人、この紙に名前書いといて! スタシアの奢りだから!」

 俺が少し昔を思い出している間にウェンリーはどこからか紙を出し、そう言いながら紙を食堂の扉横に貼りに行ってしまった。ついでにエインも一緒に行っていたので飲み会へ行く気があるのだろう。

「なんで私が払うんだ」

 完全に巻き込まれただけのシアが呆れたように言うのを聞き、俺は謝った。

「ごめん、シア、巻き込んで。こうなったら一緒に楽しもうね」

 本当にシアには悪いが実のところ俺は昔の仲間と飲めるのは嬉しくとても楽しみだった。今はどうか知らないが昔は、飲み会に俺もシアも進んで参加していたので彼もこういった行事は嫌いではないのではと俺は思っている。だから昔のように俺とシア、そして他の仲間と飲むこの機会はきっと楽しいはずだよというように隣の彼に微笑む。それにシアは気づくと呆れていた表情から控えめだが笑みに変わる。

「……そうだな、一緒に楽しもう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

賢者となって逆行したら「稀代のたらし」だと言われるようになりました。

かるぼん
BL
******************** ヴィンセント・ウィンバークの最悪の人生はやはり最悪の形で終わりを迎えた。 監禁され、牢獄の中で誰にも看取られず、ひとり悲しくこの生を終える。 もう一度、やり直せたなら… そう思いながら遠のく意識に身をゆだね…… 気が付くと「最悪」の始まりだった子ども時代に逆行していた。 逆行したヴィンセントは今回こそ、後悔のない人生を送ることを固く決意し二度目となる新たな人生を歩み始めた。 自分の最悪だった人生を回収していく過程で、逆行前には得られなかった多くの大事な人と出会う。 孤独だったヴィンセントにとって、とても貴重でありがたい存在。 しかし彼らは口をそろえてこう言うのだ 「君は稀代のたらしだね。」 ほのかにBLが漂う、逆行やり直し系ファンタジー! よろしくお願い致します!! ********************

嫌われ悪役令息に転生したけど手遅れでした。

ゆゆり
BL
俺、成海 流唯 (なるみ るい)は今流行りの異世界転生をするも転生先の悪役令息はもう断罪された後。せめて断罪中とかじゃない⁉︎  騎士団長×悪役令息 処女作で作者が学生なこともあり、投稿頻度が乏しいです。誤字脱字など等がたくさんあると思いますが、あたたかいめで見てくださればなと思います!物語はそんなに長くする予定ではないです。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

悪役王子の幼少期が天使なのですが

しらはね
BL
何日にも渡る高熱で苦しめられている間に前世を思い出した主人公。前世では男子高校生をしていて、いつもの学校の帰り道に自動車が正面から向かってきたところで記憶が途切れている。記憶が戻ってからは今いる世界が前世で妹としていた乙女ゲームの世界に類似していることに気づく。一つだけ違うのは自分の名前がゲーム内になかったことだ。名前のないモブかもしれないと思ったが、自分の家は王族に次ぎ身分のある公爵家で幼馴染は第一王子である。そんな人物が描かれないことがあるのかと不思議に思っていたが・・・

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~

沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。 巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。 予想だにしない事態が起きてしまう 巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。 ”召喚された美青年リーマン”  ”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”  じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”? 名前のない脇役にも居場所はあるのか。 捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。 「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」 ーーーーーー・ーーーーーー 小説家になろう!でも更新中! 早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!

乙女ゲーの隠しキャラに転生したからメインストーリーとは関係なく平和に過ごそうと思う

ゆん
BL
乙女ゲーム「あなただけの光になる」は剣と魔法のファンタジー世界で舞台は貴族たちが主に通う魔法学園 魔法で男でも妊娠できるようになるので同性婚も一般的 生まれ持った属性の魔法しか使えない その中でも光、闇属性は珍しい世界__ そんなところに車に轢かれて今流行りの異世界転生しちゃったごく普通の男子高校生、佐倉真央。 そしてその転生先はすべてのエンドを回収しないと出てこず、攻略も激ムズな隠しキャラ、サフィラス・ローウェルだった!! サフィラスは間違った攻略をしてしまうと死亡エンドや闇堕ちエンドなど最悪なシナリオも多いという情報があるがサフィラスが攻略対象だとわかるまではただのモブだからメインストーリーとは関係なく平和に生きていこうと思う。 __________________ 誰と結ばれるかはまだ未定ですが、主人公受けは固定です! 初投稿で拙い文章ですが読んでもらえると嬉しいです。 誤字脱字など多いと思いますがコメントで教えて下さると大変助かります…!

記憶の欠けたオメガがヤンデレ溺愛王子に堕ちるまで

橘 木葉
BL
ある日事故で一部記憶がかけてしまったミシェル。 婚約者はとても優しいのに体は怖がっているのは何故だろう、、 不思議に思いながらも婚約者の溺愛に溺れていく。 --- 記憶喪失を機に愛が重すぎて失敗した関係を作り直そうとする婚約者フェルナンドが奮闘! 次は行き過ぎないぞ!と意気込み、ヤンデレバレを対策。 --- 記憶は戻りますが、パッピーエンドです! ⚠︎固定カプです

処理中です...