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前世の職場

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 あれから色々とあり、話をまとめれば、元は彼女のみが異世界からこの国の危機を救う為に召喚されるはずがなぜか俺まで巻き込まれたようだった。彼女を守るために抱き寄せて近くにいたからなのかと考えもしたがどうにも俺が死んでから時があまり進んでいない。だから魔法の解明も進んでいないはずでおかしな事があっても不思議ではないと俺は思った。まあ、結局のところ、俺の存在は大変不都合で皆がどうするか面倒くさそうに相談していた。
 俺は長いこと放置されるがその間、前世の記憶を知る限りこの召喚は行きだけのものだと暇で予想していた。別に帰れなくても俺は独り身だったし、前世の母国なので不満はないがあの彼女はどうだろうなと思う。だが、俺も不満はないが不安がないわけではなく、能天気なはずの俺は珍しく色々と考えてしまう。特に前世の知り合いに会って気づかれたらどんな反応をしていいのか悩んだ。

「久しぶりとか?」

 馬鹿な答えに辿り着く自分に漸く、一人の男性から声がかかった。

「あなたは聖女に近しい何かがあるかもしれないという事で騎士団預かりになりました」
「運命の如く元職場じゃないか……」

 元この国の城で働く以上、どんな風に事が動くか予想でき、なんとなくそうなる気がしないでもあったがつい、そんな言葉が出てしまった。しかし、その様子に目の前の男性は怪しそうにしながら何か言ったかと訊いてきたので、すぐに俺は笑顔を作り了承を男性に伝え、話を流す。


 その後はその男性から違う者に代わり、もう知っている騎士団の宿舎を案内される。とは言っても、新米の騎士が過ごす方の棟で忘れている所もあるのでありがたかった。

「以上で、ここがあなたの部屋になります」
「はい、お忙しい中、ありがとうございました」

 案内してもらった先輩であろう騎士に礼をして部屋に俺は入ると思わず声が出てしまう。

「懐かしすぎる!!」

 そして俺はこの硬すぎて寝た気にならない備え付けのベッドに倒れ込む。

「うん、硬すぎて泣ける」

 俺はもぞもぞと絶対にない居心地のいい場所を探し動くがやはりなく、それよりもスマホをお尻で踏んでいる事に気づき、連鎖でピアスも上着に入れていた事を思い出す。
 俺はスマホとピアスを取り出すがスマホの方は反応がなく、使えなくなるのかと知る。しかし使えない物は仕方ないので諦め、ピアスの方を見た。ピアスは透明なケースに入れて貰ったのでケース越しに眺める。

「彼方の世界から来たという証拠品だよな、そして俺はこの国の人ではないと……」

 結局こちらに戻るのなら一度異世界を挟まなくてもよかったのではと俺は思った。

「はあ、絶対に異世界挟まなかったら魔力ありのままだったよ。復活しないかな」

 前世での昔に学んだことなので曖昧だが、基本的に異世界などから召喚された者に魔力はない。しかし先程の彼女のように特別な使命がある者には魔力とは違う力があるとされる為に俺だけが魔力なしの状態なのだ。不満で体に流れるはずの魔力を探るが応答はない。まあ、逆に考えればいっさい魔力がないのは珍しいというかこの世界にはいないので希少だ。

「あ、そういえばこの見た目言ってなかった」

 俺は痛む目にカラーコンタクトを外しながら起き上がる。本来の瞳は碧眼で髪も今は染めて黒いが金髪だ。俺はコンタクトを見ながらずっとは使用できないし、髪は魔法で手軽に変えるのが主流で染めるのは逆に高く、お金のない今は避けたいと考える。だが、このままでは前世の俺そのままだ。

「あり得ないからよく考えた事なかったけど、別に困る事なんてないのか……?」

 前世の俺だと知られても不都合なんてなさそうだと俺はそう答えを出し、カラーコンタクトを近くにあった棚の上に置き、快適になった目を閉じ再び横になった。

 どうせ明日は鬼のように扱かれるはずなので、俺はこのまま明日の朝まで寝た。
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