私をおいていかないで

るい

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不安なバディ

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 人の良さそうな表情で手を差し出し握手を求める目の前の青年に私は精一杯の笑みで応え、握り返す。

「こちらこそ、よろしく」
「ああ、仲良くもしよう、レド」
「そうだね、ディア」

 目の前の青年、ディアは嬉しそうに友情の成立を感じている様子だが私は周りでも似たようなことが起こっているのを背景にこれからの未来に不安を感じた。

 現在ここでは新たに王国の騎士として加わった新人達が上の者から決められたバディと顔合わせをしている。ちらほらと私の知る顔があるこの団は貴族の出が多く所属している第一騎士団だが嫡男ではない者が大半で戦闘力重視で組まれていた。理由は平等に皆があるわけではない魔力を貴族は大抵もっているからである。
 私もそれなりの地位がある貴族の子供で魔力もある方だったのでこの団だと理解出来るが予想外だったのは、この目の前の彼、ディアだ。彼は私よりも地位が高い貴族でそれは優秀だと聞いていたので後を継ぐと思っていたがどうしてか騎士となり、そのうえ私のバディになっている。話したことは今までないも性格に難があるとは噂になく、こうして話せば出来た人なのだと分かるがなにせ彼は人目を引く存在。慎ましく騎士団ではいるつもりだった私には不安を感じる要素だ。

 しかしこのバディが変更されることはないと分かっている私はその後も話しかけてくるディアに相槌を打ち、この顔合わせは終わり解散となった。

 他人と話すのも疲れたが相手が相手で余計に疲れてしまった私は部屋に戻ろうと歩みを進める。バディであるディアの方は解散後、他の者達から話しかけられていたのでやはり人気者なようだ。
 さっさと部屋に戻った私は肩のこる礼服を脱ぎ、ベッドへ腰掛けるとここを出る前に読んでいた本を手に取り開ける。趣味という趣味がなく、友達もいなかった私は酷く時間を潰すのが下手で暗記してしまうほど昔からずっと読み続けているこの本を読み夕食まで待つことにした。まだ昼前だが……。


 時計の針が進み、昼過ぎな頃に本から顔をあげた。まだまだ先な夕食にふたたび本へ視線を戻してもいいものだが顔を上げた理由は扉のノック音だ。私は「なんでしょうか?」とノックした相手に問うと「私だよ、ディアだ」と返ってくる。
 想定していなかった相手に思わず「えっ」と声が出てしまうも急いで私は扉を開け、来訪者であるディアを迎え入れた。

「それで、どうしたんだい?」

 何か用事か緊急の連絡でも入ったかなどと考える私にディアは手に持っていた紙袋を渡してくる。意味が分からず、紙袋を見つめて止まってしまう私へディアは「昼食の時、レドの姿が見当たらなくて、もしかして食べていないんじゃないかと思って。いらなかったら無理しなくてもいいよ」と言って紙袋を持たせてきた。
 
「おや、固まってる?」

 昼食の時にいないからといって食事を持ってきてもらったことなど一度もなかった私は戸惑っていたし、目の前の彼はさきほどバディになった相手に良くしすぎではないかと思った。かなり出来た人だと新たに実感した私は静止をやめ、「ありがとう」とお礼を言い、狭い部屋の中で唯一座れるベッドをディアに譲る。育ちのいい彼は少し戸惑うもあきらかにここしか座る場所がないと同じ間取りで住む者同士、理解したのか大人しく座った。

「ずっと部屋にいたのかい?」
「ああ。ディアは外に?」

 当たり障りない会話の問いに頷くディアを見て「お疲れさま」と労う。絶対に話しかけてくる者達への対応に追われているとみた私の心からの労いに彼は控えめだが笑った。

「そんなに疲れて見えた? まあ、レドに昼食渡す理由がありがたく感じたよ」

 予想は当たったようで疲れを滲ませ言う彼へ同情する。この昼食は疲れた彼が食べた方がいいのではと思い始めた時、彼が隣に座りなよというようにベッドをトントンと叩く。ぎこちなく従った私は隣に座り、膝の上に昼食が入る紙袋を置く。

「私のことは気にせず食べるといいよ、それとも空いてないかい?」
「いや、頂くよ」

 もともと昼食は摂らないことが多い私だがせっかく持ってきてくれたのだからと紙袋を開け、中にあったサンドイッチを手に取る。結構なボリュームがあり、まだ一個紙袋に残るのを見て隣のディアを見た。彼は目が合い不思議そうな顔をする。

「疲れたディアもひとつどう? 実のところあまり食べられないんだ、私」

 持ってきてもらった相手に申し訳ないが残すのも躊躇われるし、出来たら一緒に食べてくれる方が私が嬉しい。友と食べる食事は少し憧れがあったのだ。
 憧れのためだ頼むよという視線も加えて彼を見ると「だから……のか……」と聞き取れない声量でつぶやいた後、微笑み頷く。

「それなら頂こうかな」

 紙袋を受け取り、同じようにサンドイッチを手に取るディアへ私はもう一度昼食を持ってきてくれたことにお礼を言ってからサンドイッチを口に入れた。

 普通のサンドイッチだと思うが私の中で初めて友と食べるこれはとても美味しく、少しだけ彼とのバディが不安ではなく楽しみになった。
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