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十五歳の夏の旅

クラウス②

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 まさか――という疑念が僕の脳裏を駆け巡る。

 サンドイッチを受け取ろうとした手が凍りついている。

(サラダについている、こ、この白い液体はまさか――)

「でもね」クラウスは満足そうに鼻を上げる。「野菜だけじゃ味がしないから、はつけてもらったんだ。いいでしょう?」

 サンドイッチから手を引っ込め、僕はクラウスを見上げる。
 殺気が全身からほとばしる。

(絶対この食いしん坊をいつかぶっ殺してやる)と心の中で誓う。

 しかしクラウスは自慢げに目を閉じているから僕の頭の中で進められる殺人計画のことは気づかない。

「ありがとう、でもママにせっかく作ってもらったサンドイッチでしょう? 僕はいいです」

 また目を開いたクラウスに好感的な微笑みを向けて言う。
 マヨネーズには卵が入っているから、ヴィーガンである僕は食べられないと説明してもこのデブには通じないだろうし。

「えっ、本当にいらないの?」クラウスは戸惑う。「じゃ、じゃあ、俺が今食べ――」

 突然馬車が止まる。

「あれ、もうニュルンベルクについたんですか?」

 クラウスも驚いて窓から外を見ている。「そんなはずはないんだけどな。それに、馬車のおじさんは今夜は満月だから徹夜で走るって言ってたし」

 馬車のドアが開き、御者が車内に頭を入れる。

「終点だ。降りろ」低い命令口調で御者は僕たちに言う。

 なにがなんだかわからないまま、僕たちは馬車から降りる。

 石の塀に囲まれた城の前で馬車は止まっていた。
 満月の光に照らし出される漆黒の外壁に囲まれた石造りの城。
 その無数に高くそびえる塔は途中で折り曲がり、葉をなくした木の枝のような長い影を作っている。
 
 禍々しい。

 僕たちはここにいるべきではない――ここは人が絶対にいてはいけない場所。
 本能的に僕の身体は震え始めた。

「――こ、ここは?」クラウスは怯えているような声音で御者に訊く。

「終点だ」御者は繰り返し、クラウスを殴り倒す。

 僕はあっと叫び声を上げる。
 逃げ出したいのに足がすくんで身体が言うことを聞かない。
 犬歯を見せて薄気味悪い笑みを浮かべた御者が僕の前に立ちはだかる。
 そして頭部に凄まじい痛みを感じて、僕も倒れた。

 だが僕は地面の味を感じて気を失う前に見たのだ。
 城の前に槍のような武器に胸を串刺しにされ、提示されている人間の屍を。
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