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十五歳の夏の旅

実はヨーロッパは異世界だ

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『今日の豚は、明日のハムである』――ドイツのことわざ(マジで)。










 飛行機が揺れ、僕は目を覚ます。機内は薄暗い。
 プラスチックの臭いがする毛布を押しやって身体からだを起こす。腕を伸ばして欠伸をする。
 狭い座席に数時間押し込められていたので、僕の動作は人形のように離散的だ。
 筋肉も痛み初めている。

 ミュンヘンに到着するまで後どれくらいだろうか?

 隣を見ると父もすでに目覚めている。

越前えちぜん、楽しみか? ドイツに住むの」と金髪で青い目をしたドイツ人の父は日本語でく。

「――いいや、別に」僕は答える。「日本の友達と一緒にいたかった」

「おまえの教育のためだ」

 何度も何度も交わされた会話の繰り返し。
 僕がギムナジウムと呼ばれるドイツの学校で教育を受けることを父は昔から強く望んでいた。
 そして僕が中三に上がった年の夏、父は突然ドイツのミュンヘンという街に引っ越すと告げた。

 ポーンと音がして、ベルト着用のサインがつく。もうすぐ着陸するようだ。

「詩人と思想家の国――いいわね」と窓際に座った日本人の母も起き出してきて、小声で言う。

「ドイツでは十六になればビールを飲めるんだぞ。ソーセージも美味しいし、ケバブの本場だ」父は頬杖ほおづえをついた僕にドイツのいいところを宣伝しようとする。

「――僕肉食べないし、お酒も飲んだことないから、飲みたいと思わない」

「そうだったな」父は僕がヴィーガン完全菜食主義者であることを思い出し、額をたたく。

「サッカーが盛んな国よ」今度は反対側からの母の援護射撃。「あなたはサッカー好きでしょう?」

「サッカーは好きだけど……」僕は固いシートに身体を沈み込ませる。「チェスの方が好きだからどうせならモスクワの方がよかった」

 ふてくされる僕を見て、父は身を乗り出して人差し指を伸ばす。「ドイツには金髪女子がわんさかいるぞ」

 僕はちょっと赤くなってしまい、肩をすくめる。「――それがどうしたって?」

「つれない子ね」母は苦笑する。

「まったくだな」父はお手上げと言わんばかりに両手を肩の高さで広げる。こういう仕草しぐさが日本語は上手くても外国人に見える。「しかしな、ヨーロッパには一つおまえがまだ知らないことがあるとパパは思う」

 僕は吐息を吐き出す。「で、それってなに?」

「実はヨーロッパは魔法やモンスターが存在する異世界だ」
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