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6話 わからんボルギーニ

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「おー和馬!おはよう!」

相変わらずコイツのフレンドリーさには感心するな。

「おーおはよう。」

俺は教室に入るとき、相田の席の周りに数人の女子が群がっているのが見えた。

「相田さん!昨日は本当にテニス部に来てくれてありがとう!」

「ほんとほんと!相田さんみたいな実力者が来てくれたら次の公式戦、絶対1回戦突破できるよ!」

相田は少し戸惑っている様子だった。

「いやー、でもまだ入るかどうか迷ってて・・・」

「そんなぁ!せっかくあんなにテニス上手なんだからもったいないよぉ!」

「それにウチら次の公式戦勝たないと廃部になっちゃうの・・・」

俺は驚いた。そんな厳しい世界だったのか。
まるでスポーツ漫画の始まりのテンプレみたいだな笑

廃部寸前の弱小テニス部に突然現れた全国2位の実力者。
そしてライバルとなる高校を倒し、弱小校が全国制覇。
お決まりのパターンだ。

「おい上野。テニス部次勝たなきゃ廃部ってほんとなのか?」

「どうやらそうらしいな。色々と調べたんだが、ここのテニスは10年連続一回戦負けらしい。」

「だからって廃部はやり過ぎじゃないのか?」

「確かにな。ただうちはサッカー部が強豪らしくてな、そのサッカー部のためにグラウンドのスペースを空けるんだと。」

「なるほど。弱い部活よりも強い部活に練習場所を使わせるって訳か。」

「まあそうみたいだな。」

「てかお前詳しいな。」

「当然だろ!一流の写真家は被写体のことについて最も詳しくなければならないんだ!
被写体のことを一番理解している者が一番いい写真が撮れるんだ!」

コイツ写真のことになるも熱くなるな。

「なるほど。で、一流の写真家さんはこの件どう見る?」

「そうだな。ウチのテニス部は弱小だが、
なかなか素材は揃ってるな。特に相田さんのあの華奢だがよく見ると引き締まった足の筋肉がたまらん!健康的に日焼けしていてラインも美しい!正に国宝級の足だ!」

コイツ足フェチだったのか。
まあ、そのことは置いといて。
女子達と話しているときの相田は一応笑顔だったが、女子達が去った後は暗い顔になったように見えた。


ー昼休み

突然ポケットの中が振動した。

なんだ?電話か?
そう思いポケットの中からセブンを取り出した。
すると、

「やあ!φ( ̄ー ̄ )」

セブンが出てきた。

「家にいるときはいつでも君と話せるが、ここだとずっとポケットの中で退屈だ。」

俺は慌てて誰もいないトイレに駆け込んだ。

「おまっ!さすがに学校はまずいだろ!
スマホと喋ってたら目立つだろうが!」

「何か言われたら電話してたと言えばいいだろう。」

「そうゆう問題じゃあないんだよなぁ。
俺はとにかく目立ちたくないんだ。
友達も一人いればもう十分なんだよ。」

「なるほど。そんな和馬に朗報があるぞ。」

「なんだよ朗報って?」

「私はスマホに魂が宿っている状態だということは理解しているな?」

「あぁ、そりゃもちろん。」

「我々魂物に鼓膜はない。声というのはいわば空気の振動を鼓膜でキャッチし声として認識している。」

「だからなんだよ。」

「つまりだ、君がいちいち声を出さなくても私に言いたいことが伝わるということだ。」

「なんだそりゃ!以心伝心できるのか?!」

「そういうことだ。d( ̄  ̄)」

「それを早く言えよ!てかどうゆう仕組みだ?」

「まあ落ち着け。君も所詮は肉体という器に魂が入ったに過ぎない存在だ。私との違いは生物かそうでないかというだけの話。生物同士で会話をするなら鼓膜は必要だが、あいにく私は魂だ。君の魂としか会話ができんのだよ。」

「なるほど、じゃあこれからは黙っててもお前に言いたいことが伝わるって訳だな。」

すごい便利な機能だな。
これで目立つことなくコイツとも学校でコミュニケーションがとれるな。

「ところで和馬、そろそろ昼休みが終わるぞ。」

「おぅ!もうこんな時間か。急いで戻らないとな。」




「よぉ和馬!遅かったな!トイレか?」

教室に戻ると上野が話しかけてきた。

「あートイレだ、俺ちょっと腹が弱くてな。」

「確かに腹弱そうな顔してるよお前笑」

「マジか笑」

コイツと話してるときはけっこう楽しいな。
なかなか気の合う友達と巡り合うのは難しいことだが、俺は今まで恵まれてなかったからここで運が回ってきてるのかもな。

「ところで和馬よ。」

「なんだよ?」

「昼休み俺ずっと相田さんのこと見てたんだけどよ」

コイツ暇人だな。

「またテニス部の女子に誘われて今日もテニス部に行くことになったらしいぞ。」

「へぇ、まあ俺にとってはどーでもいいことだわ。」

「それがな和馬。相田さんあんまり気乗りしてないみたいなんだ。あんなにテニス強かったのに。何かあったのかと思うと
俺心配でさー。」

コイツ相田の親にでもなったつもりか?

「まあお前が気にするようなことじゃないだろ。それにアイツにはあんまり関わんない方がお互いのためだよ。」

「そうなのかなー。でも被写体としてビンビンきた相田さんにはこれからもテニスを続けて欲しいなぁ。」

お前は足が見たいだけだろ。

「そんなに気にすんなって。それよりお前のコレクション見せてくれよ。」

「おぉ!いいぞ!じゃあまずは前菜からだな!そしてこれが・・・」



上野といると一日が早く過ぎていく気がする。引きこもっていた時とは明らかに時間の流れる速度が違うように感じた。


ー放課後

「すまん和馬!今日俺用事あるから先帰るわ!」

「あぁ、おっけわかった!じゃあな!」

「おぉ、また明日!」

上野は足早に帰っていった。

さて俺も帰るか。
昇降口を出て家に向かおうとした時だった。

相田だ。校舎裏の茂みに穴を掘っている。

さては死体遺棄でもしようとしてんのか?
もしかしてやべぇ現場目撃しちゃったか?

そんなことを考えていたら相田はおもむろにラケットを取り出した。

そして何かをラケットに向かって言って穴に入れた。

相田はラケットを完全に埋めどこかへ行ってしまった。

一体なんだったんだ?
するとまたポケットが振動した。

ブブブッ


「なんだよセブン。」

「和馬。あの穴から強い悲しみを感じるぞ。」

「悲しみってまさかあのラケットが?」

「とにかく掘り起こしてみてくれないか?」

「いやでも相田が埋めてたし、きっと見られたくないものなんだろう。」

「頼む和馬。あのラケットは今泣いている。同じ魂物として放ってはおけないんだ。」

「わかったよ。お前がそこまで言うなら。」

俺は穴を掘り起こした。
けっこう深くまで掘ってあって少し取り出すのが大変だった。

「ほれ、取り出したぞ。しかしまだ使えそうなのに相田もひどいことするな。」

そうぼそっと呟いたときだった。

「恵さんは悪くありません!」

セブンか?いやでも声が女の声だった。
まさかこのラケットか?

「恵さんは悪くないんです。悪いのは私なんです。」

戸惑う俺を尻目にセブンが話しかけた。

「君はテニスラケットのようだが、悪いのが君というのは一体どういうことだ?もしよかったら同じ魂物として話を聞くが?」

「ありがとうございます。先にお名前を伺ってもよろしいですか?」

「あぁ、私はセブンだ。そしてこっちは私の持ち主、和馬だ。」

「セブンさんに和馬さん、よろしくお願いします。」

ちょっと待て。魂物と会話するには向こうが心を開いてないといけないんじゃないのか?
こんなにすんなり会話できるものなのか?

「おいセブン。なんでこのラケットさんとはこんなにすんなり会話できるんだよ。」

「それは私からお答えします。
先程和馬さんは私の持ち主、いや、2番目の持ち主を悪く言われたので私は黙っていることができなかったのです。」

「和馬。まあ要するに心を開くということは自分の考えを受け入れてもらおうとすることだ。こういった形でも魂物との会話ができるようになることもある。」

そうか。そういうことか。
しかし、2番目の持ち主とはどういうことだ?

「ラケットさん。2番目の持ち主っていうのはどういうことですか?」

「それはですね・・・」

ラケットはおもむろに話し始めた。


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