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第21章 狂える土
再戦に備えて3
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そのように舞奈が昼休憩を根回しに費やした日の放課後。
雲ひとつない青空の下。
県の支部のエントランスで――
「――ちーっす」
「こんばんは。今日もよろしくお願いします」
「あっ舞奈さん、明日香さん、今日もいらっしゃい」
舞奈と明日香は普段通りに挨拶する。
受付のレインが金髪をゆらせ、ほがらかな笑みを返す。
レインのお胸に普段通りに舞奈が相好を崩し、普段通りに明日香が呆れる。
ただし今日は……
「……よろしくね」
「うちの技術担当官経由で転送装置の使用許可がとってあるはずだけど」
「はい! お話はうかがってますよ」
サチと小夜子も一緒だ。
昼間の内に2人の現地入りが許可されたので、高等部の授業が終わるのを待って一緒に来たのだ。
「デスメーカー先輩!」
普段通りにレインとだべって油を売っていた梢が歓声をあげる。
県の支部の諜報部所属の梢は、噂に名高き小夜子のファンだ。
「我が支部の転送装置を利用して頂けるなんて光栄の至りですよ!」
「……ど、どうも」
微妙に引き気味な小夜子に構わず梢は黄色い声ではしゃぎ、
「今日は先輩のために、安全確実で快適な転移をお約束しますよ!」
「……普段の転移も安全確実なんだよな?」
「あはは……」
雑なトークに舞奈はやれやれと肩をすくめ、レインは苦笑する。
そして皆で転送室に移動して……
「……それじゃあ転移、はっじめるよー!」
「安全確実にお願いね」
梢の詠唱と共に舞奈たち4人の視界が白く染まり、次の瞬間――
「――いらっしゃい舞奈ちゃん、明日香ちゃん」
「ちっす」
「こんばんは」
「あっはじめまして。【デスメーカー】さんと【思兼】さんですね」
「どうも」
「はじめまして」
埼玉支部の術者のおっちゃんがそつなく出迎えた。
流石は組織人だ。
サチのコードネームなんて久々に聞いた気がする。
だが別におっちゃんと話すのが今日の目的じゃないので挨拶はそこそこに転移室を出て受付へ向かい……
「……どうも」
「はじめまして」
「そなたらが巣黒の主力メンバーでゴザルか! 噂通りの面構えでゴザル」
待っていた他の協力者メンバーと挨拶する。
小夜子たちの事は既に地元支部で聞いていたらしい。
「でも思ったより小さくないか? なあ舞奈さん。ホントにこの人たちが脂虫をバリバリ頭からかじるんすか?」
「かじりません」
「んな事を誰が言ったよ……」
「……ちょっと舞奈ちゃん、どういう話をしたのよ?」
「いや、先方に話を通したのニュットだから……」
曇りのない目で語られたザンの妄言に、明日香と2人してツッコむ。
よりによって一番デマを信じやすい奴に余計な事を吹きこみやがって。
睨んでくる小夜子の視線を避けつつ糸目の余計な悪戯に苦笑して、
「でも巣黒の子は若いのに本当に凄いわね」
「いえ、そんな」
「ありがとうございます」
冴子のフォローに事無きを得て、
「何はともあれ、よろしくでやんす。皆で禍我愚痴支部へ行くでやんすよ」
「はーい」
和気あいあいと皆で支部を出て先方に向かう。
大人の気遣いが本当にありがたい。
そして禍我愚痴支部ビルへ続く埼玉の一角を8人で歩きつつ……
「……昔の巣黒みたいね」
「いや、ここまで荒れてなかっただろ」
小夜子が不機嫌そうに顔をしかめる。
大通りでは普段通りに煙草をくわえた狂える土の集団もが奇声をあげながら跳ね回り、大騒ぎして暴れまくっている。
まるで動物園のチンパンジー……否。可愛げがあるだけ猿の方がマシだ。
元からの住人なのだろう、普通の人間の住民たちがトラブルを避けるように縮こまりながら街の隅をそそくさと行き交う。
そんな様子を見るともなしに見やりながら……
「……そういう意味じゃないわよ」
小夜子は渋面のままぶっきらぼうに答える。
許可が得られれば、くわえ煙草を何匹か射殺したそうな目つきをしている。
隣のサチが少し心配そうに友人を見やる。
誰にも気づかれぬよう、そっと小夜子の手を握る。
「……そうかもしれないわね」
冴子も遠い目をして答える。
小夜子は脂虫と呼ばれる人型の喫煙者に幼馴染を奪われた。
冴子の知人も脂虫を巡る大規模作戦で帰らぬ人となった。
同じ作戦でザンもドルチェも、舞奈と明日香も仲間を失った。
だから今、こうして皆でこの場所を歩いているのかもしれないと舞奈は思う。
そんな感傷とはお構いなしに……
「ちーっす」
「こんばんは」
「あっ舞奈さん、皆さんもいらっしゃい」
一行は特に何事もなく禍我愚痴支部に到着した。
「どうも」
「はじめまして」
「デスメーカーさんと思兼さんですね。お話は巣黒の方からうかがってます」
「いらん事を吹きこまれなかったか?」
「いえまあ……面白い肩ですね。ニュットさん」
「余計な世話かけてすまん。たく、あいつは……」
出迎えに出てきたフランが一礼。
褐色肌の少女のにこやかな笑顔を前に舞奈は苦笑し、
「はじめまして。今日の教導、よろしく頼むよ」
トーマス氏も爽やかに挨拶し、
「ところで道中にくわえ煙草を何匹も見かけたのだけど?」
「処理が徹底していなくてすまない。ゆくゆくは巣黒みたいにクリーンにしたいのだけど、現状では流石にね」
「そう願いたいわね」
剣呑な問いかけを笑って誤魔化すトーマス氏を小夜子が軽く睨みつける。
サチに色目でも使うと思ったのだろうか?
目をそらした小夜子は今度はドルチェの太ましいシャツに描かれたニチアサの女の子と目が合って絶句する。
そちらには特に何も言わない。
というか反応していいかどうか迷っている。
そちらは、まあ……
「……という訳で」
という訳で訓練室。
今日は何人かの執行人が別の一角で訓練する中、舞奈と小夜子は相対する。
互いに訓練用の木刀を構える。
舞奈は先日と同じナイフに見立てた小ぶりな木刀。
小夜子は近接戦闘はクロー専門で刀剣はおろか棍棒すら使わないから、オーソドックスなサイズの木刀を片手で構えている。
得物のサイズすら子供と大人の、一見すると勝負にもならなさそうな構図。
だが舞奈は気にせず笑い、
「じゃ、始めてくれ」
「わかったわ ……我が名の元に大気を統べよ、羽毛ある蛇」
舞奈の合図に答えつつ、小夜子は神の名を呼ぶ。
途端、周囲の空気が変わった。
風もないのに空気が揺らぎ、肌や衣服にまとわりつく。
大気の枷に似ているが、動けないほどではない。
だが、ねばつく風は着実に動きを妨害する。
風を操る【蠢く風】の非常に高度な応用。
周囲の大気を掌握し壁よりやわらかいフィールドにする事で、範囲内の他者の動きを選択的に妨害する事ができる。
つまり自分と仲間以外のすべてが遅くなる。
厄介なのは、この効果を回避したり打ち破ったりできない事だ。
対処するには同等以上の呪術で大気の制御を奪うしかない。
あるいは効果範囲内に近づかないか。
「動き……にくくなってる?」
「周囲の大気に細工をしたでゴザルか!?」
観戦を決めこんでいたザンとドルチェが違和感に気づく。
どうやら効果は相応な範囲まで広げられるらしい。
だが、まあ今回ばかりは好都合。
条件を自分の身体でも知った方が後の演武も理解しやすい
「そういうこった。今の状態で普通に動けるのは術者である小夜子さんだけだ。他の奴は全員が遅くなってる。あたしもだ」
「ええ」
「で、その状態で……」
舞奈は不敵に笑う。
「……小夜子さん、本気でかかってきてくれ!」
「了解」
「えっそんな無茶だろう!?」
舞奈の言葉にザンが驚く。
高速化の異能力【狼牙気功】を持つ彼だからスピードの有効性を知っている。
舞奈がやろうとしているのは術で自分だけ遅くなってる不利な状態での格闘戦。
単純なスピード比べでは勝負にすらならないと流石のザンも気づいた。
ギャラリーを巻きこんだ小夜子の施術はそれほど圧倒的だ。
それでも、
「では遠慮なく」
「うわあっ!?」
小夜子は問答無用で殴りかかる。
あまりの遠慮のなさに、見ていたザンが驚くほどだ。
そういった思い切りの良さは、小夜子が場数を踏んでいるからだろう。
一瞬の躊躇が死に繋がる修羅場を、彼女も舞奈らと一緒に幾度かくぐっている。
あるいは、こうした状況でも無意識に舞奈を信頼しているのかもしれない。
この状況ですら切り抜ける自信があると。
あるいはボコしてしまっても恨まない覚悟があると。
そんな舞奈は、
「あたしの動きを見てろよ!」
言いつつ普段より遅い動きで小夜子の木刀をいなす。
「避けた!?」
ザンが驚く。
大気に阻まれふわりと動く舞奈のツインテールの髪の先を、鋭く振られた小夜子の木刀が通り過ぎる。
右に。
左に。
いっそ計算され尽くした殺陣にも見えるシュールな絵面。
「えっ?」
小夜子も驚く。
こうまで避けられるとは思っていなかったのだろう。
正直なところ、動きの速さという最大の長所を封じた舞奈相手に、一太刀くらいは入れれると思っていたらしい。
寸止めする前提の太刀筋でわかる。
それでも舞奈は遅い動きのまま、場慣れした小夜子の太刀を避け続ける。
偶然ではない。
「それなら……!」
小夜子は不意に跳び退る。
次の瞬間――
「――!?」
退いたより数倍速い踏みこみで突く。
ギャラリーが驚愕するレベルの突風のような突き。
フェイントだ。
あと突きである。
寸止めする気もあまり感じられない本気の最速の刺突。
だが結果は変わらない……否、舞奈は先ほどより大きく回避する。
「わざとやってる……訳ではなさそうでやんすね」
言ったやんすが小夜子に睨まれ「ひっ」と首をすくめる。
本気で苦戦しているところを笑われたと思ったらしい。
ネガティブな小夜子の面目躍如。
殲滅戦がメインでポーカーフェイスが重要な修羅場をあまりくぐっていない小夜子は、いつもむすっとしているのに本気を出したところがわかりやすい。
「デスメーカー殿は本気で当てに行ってるでゴザルよ」
ドルチェは小夜子の動きを分析する。
珍しくキリッとした表情をした彼のシャツで、どういう腹の動き方をしたのかアニメキャラの女の子もキリッとする。
「スゲェ……」
ザンは馬鹿正直に感心する。
おそらく小夜子の動きと、それを避け続ける舞奈の動きの両方に。
手練れのドルチェはもとより、ザンも仮にも実戦部隊の斬りこみ役だ。
小夜子の斬撃が、過去に数多の怪異を屠ってきた死体作成人の二つ名に相応しい鬼気迫る太刀筋なのは理解できる。
銃撃の如く必殺の一撃を連続で繰り出していると。
そんな小夜子は舞奈が跳び退ったタイミングで太刀を止め、
「……術が効いてない?」
「いや動きにくくはなってる。正直、不意打ちでやられてたら危なかった」
訝しむ。
舞奈も素直に答える。
それが証拠に、正直なところ回避するので手いっぱいだった。
それ以外の動きをすると回避が間に合わないのが、頭ですら理解できた。
なまじ意識の速度だけは変わらないからだろう。
「舞奈さん、どうぞ」
「おっサンキュ」
ザンからタオルを受け取って汗を拭く。
意識していなかったが、気づくと玉の汗をかいていた。
側の小夜子もドルチェからタオルを受け取る。
腹のアニメキャラを一瞬だけ見やる。気になるらしい。
「けど舞奈さん、どうやって避けてたんすか?」
「相手の動きを先読みして、的確な動きで避けているでゴザルよ」
「的確な動き……」
「そういうこった。相手の動きを見切って避けるんだ。そうすれば当たらん」
ドルチェの解説に何かに気づきかけたザンに、笑みを向ける。
これが舞奈が小夜子を呼んで、やりたかった事だ。
自分自身が身体能力に頼らず近接打撃をいなす様子を見せる事で、ザンに舞奈流の戦闘のノウハウを伝えたかった。
相手の動きを確実に見切れば速くなくても避けられる。
敵を知り、戦闘の間じゅう常に把握し続けるのだ。
そうした技術を訓練する段階では、むしろ速さというアドバンテージは邪魔だ。
もちろん言うほど簡単じゃないのは流石の舞奈にもわかる。
だが、そうやって敵の刃が届かない場所とタイミングを見切り、その場所に向かって間に合うように一直線に動くのは堅実な戦い方だ。
目にも止まらぬ速さで動くよりは簡単で、同じくらい効果的だと舞奈は思う。
少なくとも少しばかり目端が利くだけの子供が、異能力や魔法を駆使するエンペラーの刺客と幾度も相対して生きのびられた程度には。
そして、その上で【装甲硬化】で高速化できるのなら無敵だ。
勝ち筋も、生きのびる手段も無限に広がる。
あるいは自分以外の誰かを救うこともできるかもしれない。
彼がしたがっているであろうヒーローみたいな戦い方が。
あるいは彼の友人だった切丸にはできなかった事が。
そんな事を考えて少し笑う舞奈の側で、
「なんか癪ね……」
舞奈から一本も取れなかった小夜子が面白くなさそうな様子なのを見やり、
「ザン、おまえもやってみるか?」
「いやでも相手は女の子だし……」
「おっ余裕じゃないか」
ザンをけしかけてみる。
彼は舞奈の動きを見て自分も同じようにできると思ったらしい。
能天気な彼らしい。
しかも逆に小夜子に当てるつもりでいる。
だが、そのやる気は好都合だ。
風を操る術で心が遅くされる事はない。
相手が速いのではなく自分の動きが遅くなるという状態なら、相手に追いつくためにどう動けば良いのかを考える時間ができると思った。
身体で考える訓練には丁度いい。
なので、しばし後……
「……イテッ! アイタッ!」
「相手の動きをよく見ろ! 自分が遅くなってるだけで相手の速さは変わらないんだ! 実戦より見切るの簡単だろ?」
「デスメーカーさんも十分に早いっすよ! 見てる間に殴られるっす!」
「目だけに頼り過ぎなんだ! 相手が次にどう動くのか予想もしろよ!」
「そんなこと言われても……! イテッ!」
「舞奈殿、それをいきなり言っても難しいのではゴザらんか……?」
ザンは舞奈のわかるようなわからないような声援を受けながら、
「続きいくわよ」
「うわっちょっと待った! ……イタッ!」
小夜子に無茶苦茶に殴られる事になった。
その一方で……
「思兼さんは『九杖』の古神術を扱うのよね?」
「サチでいいわ」
「ありがとう。サチさん。過去の戦闘で暴徒による銃の掃射や魔獣の打撃を防いだとデータにあるけど、その……コツのようなものはあるのかしら?」
冴子はサチと話していた。
横ではフランも真剣に話を聞いている。
サチも実戦経験豊富な巣黒勢として、術者にレクチャーする事にしたらしい。
そんなサチは古神術の名家の生まれでもある。
対して冴子は巣黒のメンバーが教導に訪れると聞いて、メンバーの戦歴や経歴を調べて聞きたい事をまとめておいたようだ。
流石は大人だ。
防御魔法に限らず術の強度には個人差がある。
そして冴子は以前に【身固・改】を敵の狙撃手に破られ、式神を撃破された。
ザンにかけた術も敵回術士の光の刃【熱の刃】で破られた。
式神越しに、あるいは遠距離からの万全の状態の施術じゃないとはいえ、実力不足を感じていたのは事実だろう。
だから舞奈とザンの差のようなそれを、どうにかして埋めたいと思っている。
だから、自分より年下のサチに素直に意見を求めている。
彼女が修めた国家神術は神道であり、魔術でもある。
故に彼女は神道家の清廉さと魔術師の向学心を併せ持つ。
でなければ、この道を志す事すらできなかった。
そんな冴子を見やってサチは……
「……どうしても守りたいものがあるから……だと思います」
自省するように少し考えながら、答える。
それはサチの防御魔法が鉄壁の堅牢さを誇る理由ではあるのだろう。
穏やかで善良なサチは周囲の人々の安全と健康を心の底から願う事ができる。
友人である小夜子の無事を祈ることができる。
だからこそ彼女の【護身神法】は味方への無敵の守護たりえる。
あるいは『九杖』という古神術の名家の本当の強みは何かの術ではなく、サチのような理想的な人格者を育てる事のできる環境かもしれない。だから、
「守りたいもの……」
冴子は遠い目をしながらひとりごちる。
彼女にも守りたいものはあった。
だが、今はないのだろう。
何故なら、たぶん、それは舞奈の一時の仲間でもあったスプラだったからだ。
彼は舞奈や明日香と、ザンの友人だった切丸と共に参加した悲惨な大規模作戦の最中に帰らぬ人となった。
思いつめた様子の冴子を、側のフランが案ずるように見やる。
そんな3人から少し離れた場所で……
「……あっしも心の強さを鍛えないといけないでやんすね」
「そういえばハカセさんの異能力を伺っていなかったのですが」
「よくぞ聞いてくれたでやんす! あっしは身を隠すのが得意でやんす!」
「【偏光隠蔽】ですか……」
やんすと明日香がどうでもいい話をしていた。
手持無沙汰にも程があるだろう。
(強力な【偏光隠蔽】ってどんなのだよ?)
透明になるだけの異能力なのに。
舞奈は苦笑しながら、
「そういやあ明日香、聞きたい事がある」
「おつかれさま。それは今じゃないと駄目な事?」
「凄い強力な【偏光隠蔽】の話よりはな。今しがた思い出したんだ」
「何をよ?」
タオルで汗を拭きつつ明日香に話しかける。
やんすが「?」みたいな表情をするが、彼には関係ない話だ。
少し離れた場所でドルチェとザンが、小夜子といい勝負になっている様子を横目で見やりながら――
「――この前の戦闘で、あたしの銃に付与魔法かけたろ?」
尋ねてみる。
狂える土の狂った女と戦っている最中にかかったレーザー掃射の付与魔法。
そいつを再戦の際にも使えれば、少なくとも舞奈は奴を屠ることができる。
だから次回も頼もうと思ったのだが……
「……えっ? グレイシャルさんがじゃなくて?」
「冴子さんって、結界を準備しながら遠距離に付与魔法できるのか?」
「――待って。流石にそれは無理よ」
返ってきたのは予想外の答えだ。
聞こえていたのか冴子からもツッコまれる。
「いや、ちょっと待て」
舞奈は困惑する。
確かに、あの時、舞奈の拳銃は付与魔法されていた。
放たれたレーザーは狂った女の【光の盾】を撃ち抜いた。
奴の髪をかすめて焦がした。
その立役者が明日香でも冴子でもないとすれば、誰の仕業なのか?
というか、次回の戦闘では期待できないという事だろうか?
舞奈は訝しむ。
だが答えは出ない。
明日香が怪訝そうに、やんすが「?」な表情で見やってくる。
サチと冴子とフランは話題を変えて、今はスイーツの話で盛り上がっている。
舞奈がなんとなく見やった先で、ザンとドルチェがまとめて吹き飛ばされた。
雲ひとつない青空の下。
県の支部のエントランスで――
「――ちーっす」
「こんばんは。今日もよろしくお願いします」
「あっ舞奈さん、明日香さん、今日もいらっしゃい」
舞奈と明日香は普段通りに挨拶する。
受付のレインが金髪をゆらせ、ほがらかな笑みを返す。
レインのお胸に普段通りに舞奈が相好を崩し、普段通りに明日香が呆れる。
ただし今日は……
「……よろしくね」
「うちの技術担当官経由で転送装置の使用許可がとってあるはずだけど」
「はい! お話はうかがってますよ」
サチと小夜子も一緒だ。
昼間の内に2人の現地入りが許可されたので、高等部の授業が終わるのを待って一緒に来たのだ。
「デスメーカー先輩!」
普段通りにレインとだべって油を売っていた梢が歓声をあげる。
県の支部の諜報部所属の梢は、噂に名高き小夜子のファンだ。
「我が支部の転送装置を利用して頂けるなんて光栄の至りですよ!」
「……ど、どうも」
微妙に引き気味な小夜子に構わず梢は黄色い声ではしゃぎ、
「今日は先輩のために、安全確実で快適な転移をお約束しますよ!」
「……普段の転移も安全確実なんだよな?」
「あはは……」
雑なトークに舞奈はやれやれと肩をすくめ、レインは苦笑する。
そして皆で転送室に移動して……
「……それじゃあ転移、はっじめるよー!」
「安全確実にお願いね」
梢の詠唱と共に舞奈たち4人の視界が白く染まり、次の瞬間――
「――いらっしゃい舞奈ちゃん、明日香ちゃん」
「ちっす」
「こんばんは」
「あっはじめまして。【デスメーカー】さんと【思兼】さんですね」
「どうも」
「はじめまして」
埼玉支部の術者のおっちゃんがそつなく出迎えた。
流石は組織人だ。
サチのコードネームなんて久々に聞いた気がする。
だが別におっちゃんと話すのが今日の目的じゃないので挨拶はそこそこに転移室を出て受付へ向かい……
「……どうも」
「はじめまして」
「そなたらが巣黒の主力メンバーでゴザルか! 噂通りの面構えでゴザル」
待っていた他の協力者メンバーと挨拶する。
小夜子たちの事は既に地元支部で聞いていたらしい。
「でも思ったより小さくないか? なあ舞奈さん。ホントにこの人たちが脂虫をバリバリ頭からかじるんすか?」
「かじりません」
「んな事を誰が言ったよ……」
「……ちょっと舞奈ちゃん、どういう話をしたのよ?」
「いや、先方に話を通したのニュットだから……」
曇りのない目で語られたザンの妄言に、明日香と2人してツッコむ。
よりによって一番デマを信じやすい奴に余計な事を吹きこみやがって。
睨んでくる小夜子の視線を避けつつ糸目の余計な悪戯に苦笑して、
「でも巣黒の子は若いのに本当に凄いわね」
「いえ、そんな」
「ありがとうございます」
冴子のフォローに事無きを得て、
「何はともあれ、よろしくでやんす。皆で禍我愚痴支部へ行くでやんすよ」
「はーい」
和気あいあいと皆で支部を出て先方に向かう。
大人の気遣いが本当にありがたい。
そして禍我愚痴支部ビルへ続く埼玉の一角を8人で歩きつつ……
「……昔の巣黒みたいね」
「いや、ここまで荒れてなかっただろ」
小夜子が不機嫌そうに顔をしかめる。
大通りでは普段通りに煙草をくわえた狂える土の集団もが奇声をあげながら跳ね回り、大騒ぎして暴れまくっている。
まるで動物園のチンパンジー……否。可愛げがあるだけ猿の方がマシだ。
元からの住人なのだろう、普通の人間の住民たちがトラブルを避けるように縮こまりながら街の隅をそそくさと行き交う。
そんな様子を見るともなしに見やりながら……
「……そういう意味じゃないわよ」
小夜子は渋面のままぶっきらぼうに答える。
許可が得られれば、くわえ煙草を何匹か射殺したそうな目つきをしている。
隣のサチが少し心配そうに友人を見やる。
誰にも気づかれぬよう、そっと小夜子の手を握る。
「……そうかもしれないわね」
冴子も遠い目をして答える。
小夜子は脂虫と呼ばれる人型の喫煙者に幼馴染を奪われた。
冴子の知人も脂虫を巡る大規模作戦で帰らぬ人となった。
同じ作戦でザンもドルチェも、舞奈と明日香も仲間を失った。
だから今、こうして皆でこの場所を歩いているのかもしれないと舞奈は思う。
そんな感傷とはお構いなしに……
「ちーっす」
「こんばんは」
「あっ舞奈さん、皆さんもいらっしゃい」
一行は特に何事もなく禍我愚痴支部に到着した。
「どうも」
「はじめまして」
「デスメーカーさんと思兼さんですね。お話は巣黒の方からうかがってます」
「いらん事を吹きこまれなかったか?」
「いえまあ……面白い肩ですね。ニュットさん」
「余計な世話かけてすまん。たく、あいつは……」
出迎えに出てきたフランが一礼。
褐色肌の少女のにこやかな笑顔を前に舞奈は苦笑し、
「はじめまして。今日の教導、よろしく頼むよ」
トーマス氏も爽やかに挨拶し、
「ところで道中にくわえ煙草を何匹も見かけたのだけど?」
「処理が徹底していなくてすまない。ゆくゆくは巣黒みたいにクリーンにしたいのだけど、現状では流石にね」
「そう願いたいわね」
剣呑な問いかけを笑って誤魔化すトーマス氏を小夜子が軽く睨みつける。
サチに色目でも使うと思ったのだろうか?
目をそらした小夜子は今度はドルチェの太ましいシャツに描かれたニチアサの女の子と目が合って絶句する。
そちらには特に何も言わない。
というか反応していいかどうか迷っている。
そちらは、まあ……
「……という訳で」
という訳で訓練室。
今日は何人かの執行人が別の一角で訓練する中、舞奈と小夜子は相対する。
互いに訓練用の木刀を構える。
舞奈は先日と同じナイフに見立てた小ぶりな木刀。
小夜子は近接戦闘はクロー専門で刀剣はおろか棍棒すら使わないから、オーソドックスなサイズの木刀を片手で構えている。
得物のサイズすら子供と大人の、一見すると勝負にもならなさそうな構図。
だが舞奈は気にせず笑い、
「じゃ、始めてくれ」
「わかったわ ……我が名の元に大気を統べよ、羽毛ある蛇」
舞奈の合図に答えつつ、小夜子は神の名を呼ぶ。
途端、周囲の空気が変わった。
風もないのに空気が揺らぎ、肌や衣服にまとわりつく。
大気の枷に似ているが、動けないほどではない。
だが、ねばつく風は着実に動きを妨害する。
風を操る【蠢く風】の非常に高度な応用。
周囲の大気を掌握し壁よりやわらかいフィールドにする事で、範囲内の他者の動きを選択的に妨害する事ができる。
つまり自分と仲間以外のすべてが遅くなる。
厄介なのは、この効果を回避したり打ち破ったりできない事だ。
対処するには同等以上の呪術で大気の制御を奪うしかない。
あるいは効果範囲内に近づかないか。
「動き……にくくなってる?」
「周囲の大気に細工をしたでゴザルか!?」
観戦を決めこんでいたザンとドルチェが違和感に気づく。
どうやら効果は相応な範囲まで広げられるらしい。
だが、まあ今回ばかりは好都合。
条件を自分の身体でも知った方が後の演武も理解しやすい
「そういうこった。今の状態で普通に動けるのは術者である小夜子さんだけだ。他の奴は全員が遅くなってる。あたしもだ」
「ええ」
「で、その状態で……」
舞奈は不敵に笑う。
「……小夜子さん、本気でかかってきてくれ!」
「了解」
「えっそんな無茶だろう!?」
舞奈の言葉にザンが驚く。
高速化の異能力【狼牙気功】を持つ彼だからスピードの有効性を知っている。
舞奈がやろうとしているのは術で自分だけ遅くなってる不利な状態での格闘戦。
単純なスピード比べでは勝負にすらならないと流石のザンも気づいた。
ギャラリーを巻きこんだ小夜子の施術はそれほど圧倒的だ。
それでも、
「では遠慮なく」
「うわあっ!?」
小夜子は問答無用で殴りかかる。
あまりの遠慮のなさに、見ていたザンが驚くほどだ。
そういった思い切りの良さは、小夜子が場数を踏んでいるからだろう。
一瞬の躊躇が死に繋がる修羅場を、彼女も舞奈らと一緒に幾度かくぐっている。
あるいは、こうした状況でも無意識に舞奈を信頼しているのかもしれない。
この状況ですら切り抜ける自信があると。
あるいはボコしてしまっても恨まない覚悟があると。
そんな舞奈は、
「あたしの動きを見てろよ!」
言いつつ普段より遅い動きで小夜子の木刀をいなす。
「避けた!?」
ザンが驚く。
大気に阻まれふわりと動く舞奈のツインテールの髪の先を、鋭く振られた小夜子の木刀が通り過ぎる。
右に。
左に。
いっそ計算され尽くした殺陣にも見えるシュールな絵面。
「えっ?」
小夜子も驚く。
こうまで避けられるとは思っていなかったのだろう。
正直なところ、動きの速さという最大の長所を封じた舞奈相手に、一太刀くらいは入れれると思っていたらしい。
寸止めする前提の太刀筋でわかる。
それでも舞奈は遅い動きのまま、場慣れした小夜子の太刀を避け続ける。
偶然ではない。
「それなら……!」
小夜子は不意に跳び退る。
次の瞬間――
「――!?」
退いたより数倍速い踏みこみで突く。
ギャラリーが驚愕するレベルの突風のような突き。
フェイントだ。
あと突きである。
寸止めする気もあまり感じられない本気の最速の刺突。
だが結果は変わらない……否、舞奈は先ほどより大きく回避する。
「わざとやってる……訳ではなさそうでやんすね」
言ったやんすが小夜子に睨まれ「ひっ」と首をすくめる。
本気で苦戦しているところを笑われたと思ったらしい。
ネガティブな小夜子の面目躍如。
殲滅戦がメインでポーカーフェイスが重要な修羅場をあまりくぐっていない小夜子は、いつもむすっとしているのに本気を出したところがわかりやすい。
「デスメーカー殿は本気で当てに行ってるでゴザルよ」
ドルチェは小夜子の動きを分析する。
珍しくキリッとした表情をした彼のシャツで、どういう腹の動き方をしたのかアニメキャラの女の子もキリッとする。
「スゲェ……」
ザンは馬鹿正直に感心する。
おそらく小夜子の動きと、それを避け続ける舞奈の動きの両方に。
手練れのドルチェはもとより、ザンも仮にも実戦部隊の斬りこみ役だ。
小夜子の斬撃が、過去に数多の怪異を屠ってきた死体作成人の二つ名に相応しい鬼気迫る太刀筋なのは理解できる。
銃撃の如く必殺の一撃を連続で繰り出していると。
そんな小夜子は舞奈が跳び退ったタイミングで太刀を止め、
「……術が効いてない?」
「いや動きにくくはなってる。正直、不意打ちでやられてたら危なかった」
訝しむ。
舞奈も素直に答える。
それが証拠に、正直なところ回避するので手いっぱいだった。
それ以外の動きをすると回避が間に合わないのが、頭ですら理解できた。
なまじ意識の速度だけは変わらないからだろう。
「舞奈さん、どうぞ」
「おっサンキュ」
ザンからタオルを受け取って汗を拭く。
意識していなかったが、気づくと玉の汗をかいていた。
側の小夜子もドルチェからタオルを受け取る。
腹のアニメキャラを一瞬だけ見やる。気になるらしい。
「けど舞奈さん、どうやって避けてたんすか?」
「相手の動きを先読みして、的確な動きで避けているでゴザルよ」
「的確な動き……」
「そういうこった。相手の動きを見切って避けるんだ。そうすれば当たらん」
ドルチェの解説に何かに気づきかけたザンに、笑みを向ける。
これが舞奈が小夜子を呼んで、やりたかった事だ。
自分自身が身体能力に頼らず近接打撃をいなす様子を見せる事で、ザンに舞奈流の戦闘のノウハウを伝えたかった。
相手の動きを確実に見切れば速くなくても避けられる。
敵を知り、戦闘の間じゅう常に把握し続けるのだ。
そうした技術を訓練する段階では、むしろ速さというアドバンテージは邪魔だ。
もちろん言うほど簡単じゃないのは流石の舞奈にもわかる。
だが、そうやって敵の刃が届かない場所とタイミングを見切り、その場所に向かって間に合うように一直線に動くのは堅実な戦い方だ。
目にも止まらぬ速さで動くよりは簡単で、同じくらい効果的だと舞奈は思う。
少なくとも少しばかり目端が利くだけの子供が、異能力や魔法を駆使するエンペラーの刺客と幾度も相対して生きのびられた程度には。
そして、その上で【装甲硬化】で高速化できるのなら無敵だ。
勝ち筋も、生きのびる手段も無限に広がる。
あるいは自分以外の誰かを救うこともできるかもしれない。
彼がしたがっているであろうヒーローみたいな戦い方が。
あるいは彼の友人だった切丸にはできなかった事が。
そんな事を考えて少し笑う舞奈の側で、
「なんか癪ね……」
舞奈から一本も取れなかった小夜子が面白くなさそうな様子なのを見やり、
「ザン、おまえもやってみるか?」
「いやでも相手は女の子だし……」
「おっ余裕じゃないか」
ザンをけしかけてみる。
彼は舞奈の動きを見て自分も同じようにできると思ったらしい。
能天気な彼らしい。
しかも逆に小夜子に当てるつもりでいる。
だが、そのやる気は好都合だ。
風を操る術で心が遅くされる事はない。
相手が速いのではなく自分の動きが遅くなるという状態なら、相手に追いつくためにどう動けば良いのかを考える時間ができると思った。
身体で考える訓練には丁度いい。
なので、しばし後……
「……イテッ! アイタッ!」
「相手の動きをよく見ろ! 自分が遅くなってるだけで相手の速さは変わらないんだ! 実戦より見切るの簡単だろ?」
「デスメーカーさんも十分に早いっすよ! 見てる間に殴られるっす!」
「目だけに頼り過ぎなんだ! 相手が次にどう動くのか予想もしろよ!」
「そんなこと言われても……! イテッ!」
「舞奈殿、それをいきなり言っても難しいのではゴザらんか……?」
ザンは舞奈のわかるようなわからないような声援を受けながら、
「続きいくわよ」
「うわっちょっと待った! ……イタッ!」
小夜子に無茶苦茶に殴られる事になった。
その一方で……
「思兼さんは『九杖』の古神術を扱うのよね?」
「サチでいいわ」
「ありがとう。サチさん。過去の戦闘で暴徒による銃の掃射や魔獣の打撃を防いだとデータにあるけど、その……コツのようなものはあるのかしら?」
冴子はサチと話していた。
横ではフランも真剣に話を聞いている。
サチも実戦経験豊富な巣黒勢として、術者にレクチャーする事にしたらしい。
そんなサチは古神術の名家の生まれでもある。
対して冴子は巣黒のメンバーが教導に訪れると聞いて、メンバーの戦歴や経歴を調べて聞きたい事をまとめておいたようだ。
流石は大人だ。
防御魔法に限らず術の強度には個人差がある。
そして冴子は以前に【身固・改】を敵の狙撃手に破られ、式神を撃破された。
ザンにかけた術も敵回術士の光の刃【熱の刃】で破られた。
式神越しに、あるいは遠距離からの万全の状態の施術じゃないとはいえ、実力不足を感じていたのは事実だろう。
だから舞奈とザンの差のようなそれを、どうにかして埋めたいと思っている。
だから、自分より年下のサチに素直に意見を求めている。
彼女が修めた国家神術は神道であり、魔術でもある。
故に彼女は神道家の清廉さと魔術師の向学心を併せ持つ。
でなければ、この道を志す事すらできなかった。
そんな冴子を見やってサチは……
「……どうしても守りたいものがあるから……だと思います」
自省するように少し考えながら、答える。
それはサチの防御魔法が鉄壁の堅牢さを誇る理由ではあるのだろう。
穏やかで善良なサチは周囲の人々の安全と健康を心の底から願う事ができる。
友人である小夜子の無事を祈ることができる。
だからこそ彼女の【護身神法】は味方への無敵の守護たりえる。
あるいは『九杖』という古神術の名家の本当の強みは何かの術ではなく、サチのような理想的な人格者を育てる事のできる環境かもしれない。だから、
「守りたいもの……」
冴子は遠い目をしながらひとりごちる。
彼女にも守りたいものはあった。
だが、今はないのだろう。
何故なら、たぶん、それは舞奈の一時の仲間でもあったスプラだったからだ。
彼は舞奈や明日香と、ザンの友人だった切丸と共に参加した悲惨な大規模作戦の最中に帰らぬ人となった。
思いつめた様子の冴子を、側のフランが案ずるように見やる。
そんな3人から少し離れた場所で……
「……あっしも心の強さを鍛えないといけないでやんすね」
「そういえばハカセさんの異能力を伺っていなかったのですが」
「よくぞ聞いてくれたでやんす! あっしは身を隠すのが得意でやんす!」
「【偏光隠蔽】ですか……」
やんすと明日香がどうでもいい話をしていた。
手持無沙汰にも程があるだろう。
(強力な【偏光隠蔽】ってどんなのだよ?)
透明になるだけの異能力なのに。
舞奈は苦笑しながら、
「そういやあ明日香、聞きたい事がある」
「おつかれさま。それは今じゃないと駄目な事?」
「凄い強力な【偏光隠蔽】の話よりはな。今しがた思い出したんだ」
「何をよ?」
タオルで汗を拭きつつ明日香に話しかける。
やんすが「?」みたいな表情をするが、彼には関係ない話だ。
少し離れた場所でドルチェとザンが、小夜子といい勝負になっている様子を横目で見やりながら――
「――この前の戦闘で、あたしの銃に付与魔法かけたろ?」
尋ねてみる。
狂える土の狂った女と戦っている最中にかかったレーザー掃射の付与魔法。
そいつを再戦の際にも使えれば、少なくとも舞奈は奴を屠ることができる。
だから次回も頼もうと思ったのだが……
「……えっ? グレイシャルさんがじゃなくて?」
「冴子さんって、結界を準備しながら遠距離に付与魔法できるのか?」
「――待って。流石にそれは無理よ」
返ってきたのは予想外の答えだ。
聞こえていたのか冴子からもツッコまれる。
「いや、ちょっと待て」
舞奈は困惑する。
確かに、あの時、舞奈の拳銃は付与魔法されていた。
放たれたレーザーは狂った女の【光の盾】を撃ち抜いた。
奴の髪をかすめて焦がした。
その立役者が明日香でも冴子でもないとすれば、誰の仕業なのか?
というか、次回の戦闘では期待できないという事だろうか?
舞奈は訝しむ。
だが答えは出ない。
明日香が怪訝そうに、やんすが「?」な表情で見やってくる。
サチと冴子とフランは話題を変えて、今はスイーツの話で盛り上がっている。
舞奈がなんとなく見やった先で、ザンとドルチェがまとめて吹き飛ばされた。
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