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第21章 狂える土

再戦に備えて2

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 首狩り殺人鬼こと狂える土の3匹の回術士スーフィー
 奴らと再び戦って倒すには今の禍我愚痴支部協力者チームは力不足。
 特に問題なのは【狼牙気功ビーストブレード】のザンだ。
 なので何とか奴の実力を底上げしたいと思う舞奈。

 そのように朝から珍しく舞奈が葛藤していた日の昼休憩。
 給食を手早く平らげた舞奈と明日香は……

「……いったい何をするつもりなのよ?」
「いいから着いて来いって。あたしに考えがあるんだ」
 高等部校舎の廊下を歩いていた。
 明日香は校舎の窓から差しこむ真昼の日差しに目を細める。
 隣で舞奈は不敵に笑う。

 初等部の校舎から少し離れたこの場所に、普通なら小学生が訪れる用事はない。
 人がいない時分に視聴覚室を借りに来ることは度々あるが、それだけだ。
 それ以外の用事で来たのは……校長の依頼で招かれざる客に対処した時か。
 武装して教師を拉致した保護者グループを、2人がかりでテロリストの仮装をし追い払ったのだったか。本当にロクでもない事件だった。
 当時の徒労感を思い出して舞奈は思わずげんなりする。

 そんな舞奈に、明日香は当時と同じ温度の低い視線を向けてくる。
 今回の言い出しっぺは舞奈だからだ。
 だが別に今回はトラブルとは関係ない。
 少なくとも舞奈はそのつもりだ。

 例の回術士スーフィーどもの件で、舞奈は小夜子とサチに応援を頼もうと思っていた。
 もちろん戦闘要員としてではない。
 うだつの上がらないザンを鍛えるために、小夜子の術を借りる算段だ。
 小夜子はナワリ呪術師――呪術師ウォーロックだ。
 火水風土の元素を操り、身体能力を強化して圧倒的な打撃力で敵を屠る。
 そんな彼女のちょっとした手品を交えながら、舞奈流の戦闘のコツをザンに伝授するつもりなのだ。

 どう考えても高校生よりは年上のザン。
 彼が自身の策で強くなることを、舞奈は本気で願っていた。
 彼が仲間だからだ。
 そして彼が、少なくとも最初の印象よりは素直で良い奴だからだ。
 だから強くなって生きのびてほしい。
 何故なら平和な世界の裏側で、舞奈と仲間たちは怪異と戦っている。
 そして舞奈は【機関】最強のSランクだから、自分ほど強くない周囲からの羨望も、自分ほど強くない仲間が隣で死ぬ修羅場も茶飯事だ。
 だから、そうじゃない意外性のある結末を目指して何かするのは単純に楽しい。

 そんな思惑を秘めた舞奈たちを、学ランやセーラー服を着こんだ高等部の生徒たちが物珍しそうに見てくる。
 彼ら、彼女らの平和な世界の大半を占めるのは同年代の級友との関係性だ。
 だから自分たちのテリトリーを小学生がうろつくのは珍しいのだろう。
 以前に陽子やニュットが初等部に来た時と逆パターンで、2人の子供が何処に向かっているのか、何をしようとしているのかを小声で詮索している。
 それらが耳の良い舞奈にはわかる。

 だが舞奈も明日香も特に気にする事なく歩く。
 自分たちとは違う制服を着こんだ年上たちの注目を一身に浴びながら、臆する様子は微塵もない。

 何故なら【機関】という大組織を統括している人員のほとんどが大人だ。
 異能力が必要な実行部隊は未成年が多いとはいえ大半は高校生以上。
 小学生の仕事人トラブルシューター自体がそもそも珍しい。
 必然的に、自分たち以外が年上という状況は舞奈や明日香にとっての日常だ。
 他所からまぎれこんだ異物みたいな扱いには慣れている。

 その上で舞奈は【機関】最強のSランクだ。
 先日の追悼パーティーみたいに社会人を含む年上から注目を浴びる事もある。
 まあ、あれは少しばかり舞奈もハッスルしすぎたが。
 あるいは実際の仕事では、年上どころか人間ですらない敵意や殺意を持ったバケモノどもの群に単身で挑む事もよくある。
 なので――

「――さっすが高等部。見渡す限り大人っぽいべっぴんさんばっかりだ」
「まさか長くもない昼休憩に、女子高生をウォッチしに来た訳じゃないわよね?」
「いや流石にそれはない。人を何だと思ってやがる」
「何も聞いてないんだから仕方ないでしょ。普段の自分の言動を考えてみたら?」
「んだとこの野郎」
「だいたい、さっきの台詞を真神さんの前で言えるの?」
「いつも言ってるさ。おまえは世界で一番のカワイ子ちゃんだってな」
「はいはい」
 普段と同じ調子で軽口を叩き合い、明日香が肩をすくめた途端――

「――あっ! 舞奈さん!」
 声をかけられた。

 奈良坂だ。
 廊下で友人と話していた最中に舞奈たちの来訪に気づいたらしい。
 野暮ったいセミロングの髪をゆらせながら小走りに駆けてくる。

「おっ奈良坂さん。今日も楽しそうだな」
「えへへー」
 フレームレスの眼鏡の奥の瞳がにへらと笑い、

「舞奈さんこそ、こんな所でどうしたんですか?」
 首をかしげ、

「初等部あっちですよ?」
「いや、迷ったんじゃなくてだな」
「あははそうですよねー。明日香さんいますし」
「……」
 何の悪気もなく笑顔で言われて口をへの字に曲げつつ、

「小夜子さんって今は暇かな?」
「暇かどうかは知りませんけど、今日は弁当だからいますよ。呼んできますね」
「すまん、恩に着るよ」
 伝えた途端、奈良坂は再び小走りに教室に駆けこんでいく。

 明日香が一瞬だけ舞奈を睨む。
 中等部以上の生徒は昼食に弁当と学食の選択肢があるらしい。
 小夜子の今日のランチが学食だったら、教室に来ても無駄足駄った。

 だが明日香はすぐに、こっちを見ていた奈良坂の友人に会釈する。
 舞奈も続く。
 彼女はクラスメートの桜の姉でもある。
 その隙に奈良坂が軽くこけそうになって、3人して思わずあわてる。

 そうこうするうちに――

「――舞奈ちゃん、明日香ちゃん、おまたせー。どうしたの?」
「……また厄介事?」
 小夜子とサチがやってきた。

 サチはいつもと同じ朗らかな笑顔。
 だが小夜子は何時にも増して不機嫌そうに舞奈を見てくる。
 どうやらサチとの楽しいランチの時間を邪魔してしまったようだ。

「いや、ちょっと手伝ってもらいたい事があって」
「何よ?」
 言った途端に今度は睨んでくる。

 余計なトラブルを持ちこむつもりだと思われたのだ。
 だが舞奈は最強Sである故に、そうやって自分のせいじゃない厄介事の原因を押しつけられてこすられる事にも慣れてるので……

「……小夜子さん、呪術で風を操って相手の動きを遅くできるって言ってたろ?」
「それ、紅葉ちゃんもできるわよ」
「いや場所が場所だけに、楓さんより小夜子さんのがちょっと安全かなって」
 気にせず話を続ける。
 昼休憩の時間は有限だからだ。
 その間に舞奈たちは用事を済ませて自分たちの教室に戻る必要がある。

 そして埼玉の一角は、くわえ煙草の狂える土どもが跋扈する危険な街だ。
 そんな場所に紅葉を連れて行かないほうがいいだろう。
 何故なら……

「場所?」
「いやほら、埼玉の……」
「ああ」
 ファーストインプレッションのせいか乗り気でない小夜子をなだめすかすように事情を話そうとする。

 何故なら紅葉をヘルプに呼ぼうとすると十中八九、姉の楓も着いて来る。
 あの姉妹はブルジョワだからトラブルを愉しむ余裕がある。
 というか楓は自らトラブルを追いかけている。
 具体的には喫煙者。
 界隈では脂虫と呼ばれる人型の怪異を殺したくて殺したくて仕方がないのだ。
 何故なら姉妹の弟は、あの邪悪な人型怪異に殺された。
 だから楓は喫煙者に襲われて自衛を装って殺せる可能性が少しあるからという理由で無償で下級生を護衛したりもする。
 そのせいで人格者の扱いをされるのだから始末に負えない。

 そして、あの界隈はくわえ煙草の狂える土どもが跋扈している。
 そんな様子を楓が見たら何が起こるか?
 火を見るよりも明らかだ。
 たちまちヴィランもビックリな大虐殺が始まるだろう。
 まあ確かに彼女が修めたウアブ魔術は治療と回復に長けた流派だ。
 魔術師ウィザードの流派の中では大規模攻撃は不得手。
 だが楓は先日のKoboldビル攻略戦でとんでもない手札を披露したらしい。

 舞奈たちが禍我愚痴支部に派遣された理由のひとつは治安維持だ。
 テロの片棒は担がない方がいいだろう。

 もちろん喫煙者を殺したい意志では小夜子だって負けてない。
 彼女もまた幼馴染を怪異に奪われた。
 さらに手札も気化爆発や大規模災害等のダイレクトに危険でヤバイものばかり。
 連れて行った先で対応を間違えれば先方は比喩でなしに火の海だ。
 だが、何と言うか……小夜子は正規の執行人エージェントなだけ楓より多少はマシに思える。
 サチの存在も、まあ無理筋な大虐殺を強行しない理由にはなっている。
 楓を100ヤバイ(※単位のつもり)としたら、小夜子は95ヤバイくらいか。

 そもそも舞奈の素敵な作戦には大気を操る呪術師ウォーロックが必要だ。
 サチも古神術の使い手ではある。だが怪異のるつぼに小夜子抜きでサチを連れて行く話を、小夜子の前でする勇気は舞奈にはない。
 いくら【機関】最強のSランクといっても対処できる事とできない事がある。

 それはともかく埼玉の一角の状況について、小夜子も知ってはいるようだ。
 流石は我らが巣黒支部の諜報部。
 埼玉の一角が中東からの不正移民を装った人型怪異に実効支配されている事。
 最近の奴らに不穏な動きがあるらしい事。
 舞奈たちが、その真相を明らかにし対処すべく先方の調査に協力している事。
 それらを説明する手間がはぶけるなら話は早い。

「いや実はな……」
 舞奈は仲間の技量を底上げすべく考えた計画を話し、

「……そんな事? まあ構わないけど」
「さんきゅ。恩に着るよ」
 協力を得る事に成功した。
 横で聞いてた明日香も特に文句とかは言ってこなかった。
 案ずるより産むが易し……というか、そもそも舞奈も無茶な要求をしたつもりはないし、道中にデートにうってつけなケバブの店がいくつかあるとも言った。
 ただ……

「で、わたしたちの分の転送装置の使用許可はとってあるの?」
「なんだそりゃ?」
「県の支部の転送装置を使うには許可がいるの。わたしもサチも今回の件は部外者なんだから、舞奈ちゃんから申請してくれないと」
 ジト目のまま、そんな追加の条件をつけられた。

 これにはビックリ。
 舞奈も明日香も今回の仕事で毎日のように使ってる。
 なので、ついででいいと思っていた。

「そんなんいるのか……。ちょっと遠出するだけなのに」
「当然でしょ。支部秘蔵の設置型魔道具アーティファクトを何だと思ってるのよ」
「わたしたちは今回の仕事のために特別に許可を貰ってるの」
「へいへい」
「ほら、転移って表向きには存在しないの特別な移動手段だから……」
 小夜子と明日香、サチにまでステレオでツッコまれ、

技術担当官マイスターが2年生の教室にいるはずだから、話を通せばいいように許可をとっておいてくれると思うわ」
「さんきゅ! サチさん」
 サチの助け舟に乗りながら教室を出て……

「……そういう所だけは頼りになるな、あいつ」
「まあ、その意見には同意するけど」
 再び明日香と軽口を交わしながら廊下を歩く。
 向かう先は2階の教室。
 技術担当官マイスターニュットは高等部の2年生だから、教室も2階にある。

 だが舞奈は少しだけ顔をしかめる。
 教室を出る間際に時計を見たら、昼休憩の残り時間が差し迫っていた。
 ちょっと小夜子と話をするだけのつもりで来たのに話しこんでしまったからだ。

 その事実に気づいたらしい明日香も横から睨んでくる。
 舞奈のせいで午後の授業に遅刻するのが癪だと思っているのだ。
 授業なんて聞かなくても問題ないレベルで予習してるのに。
 なので2人して少し速足で階段を登った途端――

「――おっつばめちゃんじゃないか。お久しぶり」
「あっ舞奈さん」
 こちらも見知った人影に出くわし、今度は舞奈から声をかける。

 自分たちと変わらぬ背丈の、黒ぶち眼鏡におさげのセーラー服。
 これでも舞奈と同じSランクの椰子実つばめちゃんだ。

 下のフロアの皆と同じように私服の小学生を訝しむ高2の男女、いきなり知人に出くわしてビックリして固まるつばめを気にせず、

「ど、どうしたんですか……?」
技術担当官マイスターに用があるんだが、居場所を知らないかい?」
「えっニュット?」
 何食わぬ表情で手短に問いかける。

 彼女はケルト魔術と呪術を同時に極めた大魔道士アークメイジ
 個人で戦略級の火力を有する超人だ。
 なのに臆病な子ウサギみたいに繊細なので、本来はもっと丁重に接するべきだ。
 いろいろな意味で。

 だが今からニュットを探して事情を説明すると仮定すると時間的にギリギリだ。
 食堂にいるとか言われたら別の策を講じる必要もある。
 対して我に返ったつばめは首をかしげ……

「……呼んだかね?」
 声は後ろからした。
 つまり舞奈たちが来た階段の方から。

「あ、どうも」
 振り返った明日香が会釈する。
 そこに探していた糸目の女子高生が都合よくいたからだ。
 急いでいる矢先の渡りに船だ。
 だが――

「――待て」
 舞奈は明日香を制止する。

「あんた、本当にニュットか?」
「何をおっしゃる。あちしはニュットなのだよ?」
 糸目の女子高生は何食わぬ表情で笑う。
 隣の明日香は「余計な事して遊んでる暇ないでしょ?」と睨んでくる。
 だが舞奈は口をへの字に曲げたまま、

「そうかも知れんが、あたしが探してる奴とは違うんじゃないのか?」
「いいから話を進めなさいよ。時間がないのよ」
「何故そう思うんだかね?」
「歩いてきた音が違った。あと、背もちょっと低くないか? 少なくともあたしの知ってる『ニュット』とは少し違ってる気がするんだが」
「ちょっと、いい加減に――」
 言った途端、そして明日香の堪忍袋の緒が切れかけた途端――

「――ふむ、流石は舞奈ちんなのだな」
 声はさらに背後から聞こえた。
 つまり教室の方からだ。

 再び舞奈は振り返る。
 そこにも……というか、つばめの隣にも糸目の女子高生がいた。
 間違いない。
 こちらが舞奈が知っている技術担当官マイスターニュットだ。
 ニュットが2人いて流石に驚く明日香を他所に……

「……あんた、妹いたのか」
「実はいたのだよ」
 睨む舞奈に、ニュットは変わらぬ糸目のまま得意げに笑う。
 そんな様子に、疑う余地もなく本物のニュットだと改めて確信する。
 もちろん悪い意味で。

 そもそも舞奈は周囲の空気の流れを読めるほどの鋭敏な感覚を誇る。
 気配を通じて周囲の肉体の、筋肉の動きを先読みして的確に対処できる。
 だから舞奈は近接戦闘では実質的に無敵。
 肉体を用いた近接打撃は舞奈には絶対に当たらない。
 そのレベルの感覚をもってすれば、知人に酷似した妹を見破るのは造作もない。

 今回は妹だけあって微妙に本物より背が低かった。
 並べば一目瞭然な程度には違うだろう。
 だが見た目が同じでも、立ち振る舞いや筋肉の動きは完全に同一ではない。
 正直、それはピクシオンだった頃に仲間や知人に変身した式神や刺客に、魔法感知ができない舞奈が散々な目にあわされた末に身に着けた感覚でもある。

 そんな舞奈の力量を、小癪にもニュットは知っていた。
 だから容易く見破れるだろうとわかっていた。
 その上でドッキリを仕掛けたのだ。
 でなければ部外者に知らずに【機関】絡みの相談をして結構な問題になっていたかもしれない。
 怪異や異能と深く関わる【機関】の事情は世間からは伏せらなければならない。
 それに【機関】にニュットがもうひとりいたら舞奈も噂くらい聞くはずだ。

 そのように平気で他人に迷惑なジョークを仕掛けるニュット。
 だが実務関係の危機意識は高い。故に信用ならないが信頼はできる。
 だから舞奈は口をへの字に曲げたまま……

「高2のあちしを筆頭に、高1から小6まで各学年に在籍しているのだよ」
「……嫌な姉妹だな」
「皆あちしにそっくりの可愛い妹たちなのだよ」
「それが嫌だっつってんだがな! だいたい、似てる自覚があるなら素人目に区別できるようにしてやれよ。先生とか困ってたんじゃないか?」
 いけしゃあしゃあと戯言を口走るニュットに思わずツッコむ。
 だが、すぐに我に返る。
 今はそんな問答をしている場合じゃない。

「話がある。……あ、つばめちゃん。そっちのニュットを頼む」
「あ、はい……」
 背中で言いつつ、

「痛いのだよ」
「知らん」
 糸目がすり替わらないようガッチリと腕をつかんで廊下の隅に引っぱっていく。
 明日香も続く。

 鍛え抜かれた舞奈の握力は女子小学生どころか大人顔負けに強い。
 だが気を使ってる時間的な余裕がないのは、そもそもこいつ自身が原因だ。
 そんな糸目は……

「いいから話を進めさせろ。時間がないんだ」
「話はサッちんから聞いたのだよ」
「……聞いてたのか」
「うむ。だからわざわざ妹を呼んだのだよ」
「余計な事はせんでいい」
「大変な任務の最中、少しでもなごんでもらおうと思ってな」
「なごめねぇよ! 初等部の校舎から結構遠いんだぞここ……」
 涼しい顔で続くニュットの妄言に、思わず口をへの字に曲げる。

 親切なサチは、電話か何かでニュットに連絡してくれていたらしい。
 舞奈たちに時間がないのがわかったのだろう。
 だが、その報を受けてニュットは話を円滑に進める代わりに、事もあろうに余計なドッキリを仕掛けるつもりになったらしい。
 まったく。

 だが事情を聞いているなら話が早い。

「……手続きはこちらでしておくのだ。小夜子ちんにも連絡しておくのだよ」
「そりゃ話が早くて重畳だ」
 本題が数秒で完了し、舞奈は安堵しつつも少し拍子抜けして苦笑する。
 だが、その途端――

 キンコーン、カンコーン。

「――あ」
 チャイムが鳴った。

 目的を達成した瞬間にタイムリミット。
 だから舞奈と明日香は礼も挨拶もほどほどに……

「……ったく、余計な手間とらせやがって!」
「そもそも貴女が原因でしょ!」
 初等部の教室を目指して全速力でダッシュした。
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