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第21章 狂える土
殺意はない。ただ街を綺麗にしたかっただけだ
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斥候の式神を倒し、子供を殺した狂える土。
奴らは狙撃手を含むグループだ。
舞奈は奴らを打尽にするべく事件現場に赴き、襲ってきた狂える土どもを圧倒。
だが協力者として潜伏していた鷹乃の式神が狙撃された。
魔術で身を隠していたはずの式神が、舞奈より早く。
「オマエノ仲間ハ死ンダゾ!」
「そうかい」
先ほど舞奈が距離をとった【装甲硬化】が鉄パイプを振り上げて襲いかかる。
仲間が倒された舞奈が怯んだとふんで、攻勢に出る気になったらしい。
「ガキモ殺セ!」
「生カシテ帰スナ!」
舞奈を囲むくわえ煙草の集団からも、何匹かが飛び出て殴りかかってくる。
狂える土どもの中でも屈強な体躯は【虎爪気功】か。
だが、それより――
「――おおっと!」
跳んだ舞奈の残像を射抜いた何かが路地を穿つ。
狙撃だ。
式神を撃墜してフリーになった狙撃手が舞奈を狙い始めたのだ。
アスファルトに開いた恐ろしい大きさの弾痕は予想通りの超大口径ライフル弾。
しかも術による創造物や式神に対して高い効果を持つ破魔弾らしい。
「死ネ! ガキ!」
「トドメダ!」
避けた直後の舞奈に襲いかかる、くわえ煙草どもの鉄パイプ。
いずれの打撃も力まかせに振り下ろされただけ。
だが回避できる体勢じゃない。
「野郎!」
舞奈は自身の鉄パイプで受け止める。
だがタイミング悪く力負けし、得物は手から離れて宙を舞う。
幾多の打撃を防いでぐにゃぐにゃに曲がった鉄パイプが、乾いた音をたてて路地を転がる。
間近から漂うヤニの悪臭に顔をしかめる。
そんな舞奈の様子を見やって、
「殺セ!」
「ガキヲ殺セ!」
周りを囲む狂える土どもが興奮する。
早くも勝利を確信したか。
罵倒の他にも獣のような自分たちの言語で叫びながら浮かれ踊る。
だが次の瞬間――
『――成ル程。カツテ不覚ヲトッタノハ此デアッタカ』
上空から声。
同時に二発の超大口径ライフル弾を喰らった航空機型の式神が――
『――ダガ同ジ轍ハ踏マヌ!』
人型へと変ずる。
いつもの式神より寸胴な胴体下部が剥がれて下半身と脚になる。
合わせて機首が畳まれ胸になる。
左右にのびる直線翼が、重厚な盾を携えた腕になる。
胸と盾に刻まれた弾痕はそのまま。
だが致命打にはなっていない。
「何ダト!?」
「アリエナイ!」
舞奈の目前の、あるいは周囲を囲む狂える土どもが動揺する。
鷹乃の式神は超大口径の破魔弾による狙撃を防ぎきったのだ。
通常なら有り得ない現象。
だが舞奈は敵のように浮かれる事なく頭上を見やって笑う。
何故なら舞奈は知っていた。
今回の式神のモチーフは普通の戦闘機や早期警戒機ではない。
超重装甲の攻撃機だ。
即ち、A-10 サンダーボルト2。
対空砲火を真正面から防ぎながら地上の敵を殲滅するための機体。
故に航空機にあるまじき、装脚艇にすら匹敵する防御性能を誇る。
分厚い装甲は砲撃すら防ぐほど。
ダメージコントロールの能力は翼をもがれても飛べるほど。
設計思想から従来の航空機とは異なる、いわば小さな空中要塞だ。
その圧倒的な堅牢さは、呪式として構成された式神においても健在。
陰陽術による召喚魔法【式打ち】は物理法則を最大限に利用する事で召喚者の負担を軽減させ、より高度な運用を可能にしている。
故に被召喚物の形状により性能はがらりと変わる。
防御性能に優れた構造体を再現すれば、それは現機と同じ堅牢さとなる。
もちろん米軍機であるA-10は、普通なら【式打ち】による召喚に適さない。
地域に深く根差した流派が最も得意とするのは地元の文化の再現だからだ。
鷹乃が修めた陰陽術も例外じゃない。
だが当機は一部の自衛隊基地に、半ば秘密裏に配備されていた。
尖閣、竹島、それらへの中継地点である饗庭野基地だ。
大陸の大型怪異への備えとして米国から賞与されたのだ。
人間の世界を脅かす怪異への対策は、国家の枠組みすら越えて行われる。
それが人間が人間であるため、人類全体の敵に抗うために必要な事だからだ。
もちろん現地での使用に適応するためマイナーチェンジも行われている。
それを元に空自の陰陽師が召喚用の呪式として組み立てた。
故に陰陽師の手札として問題なく使える。
要は以前に陰陽師たちが使った戦闘機や輸送機と同じだ。
そんな式神を召喚する呪式を、鷹乃は今回の作戦に備えて譲り受けていた。
そして驚くべき集中力と鍛錬によって僅かな期間で会得した。
最初から狙撃されるつもりで耐える算段をたてていたのだ。
故に、その超重装甲をもって対物ライフルによる狙撃を防ぎきる事ができた。
舞奈の視界のはるか上空で、形状はそのままバックパックとなった大型の双発エンジンから紅蓮の炎を噴きながら人型の式神が飛ぶ。
目指すは舞奈が目星をつけていた高いビル。
やはり狙撃手はそこにいた。
鷹乃も射角から狙撃手の位置を割り出したのだろう。
そんな式神の挙動に、地上の狂える土どもも気づいたか――
「――!?」
「おいおい! 小学生のドッジボールじゃないんだ!」
耳の良い舞奈にしか聞こえない銃声。
直後、避けた舞奈の背後にいた【装甲硬化】が地を転がる。
狙撃に気を取られた舞奈を背後から襲う算段だったらしい。
だが不意をつかれたはずの舞奈が急に避けたので対応できなかった。
加えて狙撃手も狙撃の瞬間に式神の生存に気づいたせいで手元が狂ったのだ。
ひとりの達人を大勢で囲んでやろうとする事は、小学6年生たちも大人の怪異どもも同じだ。ミスの仕方も。
舞奈は勢いのまま背のポウチから改造拳銃を抜く。
流れるような動作で撃つ。
狙いは足元。
地面に崩れ落ちた【装甲硬化】の覆面の破損部。
ストッキングの破れた部分から覗く、ヤニの摂取で醜く歪んだ口元。
先ほどの誤射で破損したのだ。
さしものの【装甲硬化】も超大口径ライフル弾による誤射を完全に防ぐ事はできなかったらしい。
それは奴自身が理解もしていなかった異能力の限界でもある。
だから舞奈は――
「タスケテクレ! 人殺シ!」
「――人の言葉でそいつを言ったら、他の奴は手を緩めてくれたのか?」
覆面の破損部分を正確無比に撃ち抜く。
手が届くような距離から放たれた大口径強化弾が、奴自身の異能力で無敵の装甲と化した覆面の内側を縦横無尽に反射する。
頭蓋骨を、人間で言えば脳に相当する怪異の器官をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。
結果、無敵の装甲に守られていたはずの身体が一瞬だけ痙攣する。
そして動かなくなる。
「ガキガ……」
「オノレ……」
残る狂える土どもが怯む。
今ので舞奈に勝てる算段をすべて失ったといったところか。
人間とは相容れない存在のくせに、何ともわかりやすい挙動である。
無論その好機を逃すつもりはない。
舞奈は素早く改造拳銃を仕舞い、ジャケットの下の拳銃に持ち替え、
「さっきまでの威勢はどうしたよ!?」
狂える土どもの脳天を次々に撃ち抜く。
勢いをなくした怪異どもはバラバラに逃げようとする。
あるいは何匹かが破れかぶれに殴りかかってくる。
だが1匹たりとも逃さない。
ヤニ臭い怪異どもに、自身らが子供を追いこんだのと同じ運命をあたえる。
背後からでも容赦はない。
ポウチには予備の弾倉も用意してきた。
銃口からの硝煙が風に流れて消えるより早く、鉄パイプを手にした狂える土どもは大口径弾のストッピングパワーのまま壁に叩きつけられて崩れ落ちる。
鉄パイプの炎が、紫電が、路地を転がりながらかき消える。
別の狙撃を警戒して撃ちながら跳ぶが、そちらは杞憂だった。
一方、上空では人型の攻撃機が全速力で飛んでいた。
狙撃手が潜むビルめがけ、一直線に突き進む。
敵は式神を迎撃しようと超大口径ライフル弾を撃ちこんでくる。
だが無意味。
A-10の主翼は盾になる。
それを人型に変じて腕と化し、前面でクロスさせて突撃しているのだ。
その鉄壁の防護を貫ける手札は敵にはない。
防御魔法を使うまでもない。
そんな式神が、ビルの窓越しにスナイパーライフルを構えた狙撃手に迫る。
驚愕に顔を歪めるこちらの敵も、大柄で中東風の顔立ちをした喫煙者。
典型的な狂える土だ。
式神は虚空から符を取り出し、機銃代わりに【白虎・征矢雨法】を放つ。
重機関銃の掃射に等しい無数の金属の針がビル壁を削る。
だが窓の奥で身をかがめた狙撃手には当たらなかった。
正確には【光の盾】――回術による不可視のバリアに防がれたのだ。
『オノレ回術士カ!』
式神の向こうで鷹乃が歯噛みする。
敵の狙撃を防いだものの、詰めの甘さは一朝一夕でどうこうなるものではない。
だから半壊した窓の奥で、
『待タヌカ痴レ者!』
狙撃手は銃を捨てて逃げる。
奥のドアをくぐって部屋を駆け出る。
獣の言葉で喚き散らしながら階段を駆け下りる。
だが男が逃げた先にも1機のドローンが浮かんでいた。
こちらは鷹乃のそれより、ひと回り小さな一般的なサイズのドローンだ。
ミスター・イアソンを思わせる赤と青を基調とした派手なカラーリング。
4基のローターを保護するように囲む格子状の装甲。
それでいて威圧感を可能な限り抑えたシンプルかつヒロイックなデザイン。
ディフェンダーズの近距離支援用ドローンだ。
つまり逃げ隠れする悪を望み通り秘せられたまま闇に帰す、小さな正義の使者。
そんな新手に気づいた男は驚愕する。
二重の隠形術で身を隠した鷹乃の式神を発見した特別な狂える土が。
何故なら、こちらのドローンは術を使わず製造された100%工業製品。
しかも魔力の痕跡を気取られぬよう自力で転移もせず、舞奈が持ってきた。
舞奈が背負っている空になった大きなリュックの中身はこれだった。
こちらが舞奈にとっての本当の奥の手だ。
敵に回術士がいた場合でも確実に排除するための。
故に、その接近に魔法感知で気づけるはずもない。
おそらく索敵を感知に頼り切っていたはずの敵にとっては完全な不意打ちだ。
しかも駆動に術が使われていないという事実は、ディフェンダーズ謹製の戦闘用ドローンが魔法戦闘に対応できない事を意味しない。故に――
「――!」
銃を捨てた狙撃手にして回術士でもある狂える土の男は雄叫びをあげながらドローンに掌底を突きつける。
土色の掌から光が放たれる。
レーザー光線を放つ回術【熱の拳】。
だが悪の回術士が放った光を、ドローンの前に展開された放電する盾が防ぐ。
即ち【稲妻の防殻】。
ドローンのカメラ越しに超遠距離から発動されたケルト魔術だ。
妖術すら防がれた狂える土の表情が驚愕に歪む。
魔術とは、ひとつの奇跡を成す度に魔力を生み出す技術でもある。
故に術が形を成すまで魔法感知による警戒は無意味。
これも用心深い狂える土の術者を確実に排除するためのサポートだ。
そんな魔術が再び行使される。
次なるは大魔法がひとつ【智慧の門】。
ドローンの下側に、魔術によって転送された重機関銃がマウントされる。
本来はA-10に搭載されている30ミリ対戦車ガトリング砲だ。
巨大な束ねられた砲身を目前に向けられ、狂える土男は尻餅をついて怯える。
拙い人間の言葉で命乞いをする。
そんな男の様子を、もちろんドローンのカメラは捉えている。
それを操縦士はモニターの前で見ている。
埼玉の一角からはるか離れた巣黒の某所で、モニターの前にいるのはテックだ。
その手はドローンを操作するキーボードとマウスにかけられている。
もちろんテックは知っている。
彼はピアースの仇じゃない。
四国の一角でテックの友人を撃ったという泥人間は舞奈と明日香が倒した。
奴は無関係の人型怪異だ。
だが目の前の男は、テックの友人を同じように撃とうとした。
だからテックは何かを決意したように、口元に少し力を入れる。
マウスを操作し目標を照準の中心に収める。
クリックして攻撃を指示。
ボタンを押した指先の他に物理的な手ごたえはない。
代わりにヘッドホンから漏れる連なる砲声。
モニターを覆う発射炎。
悲鳴をかき消す、振動すら感じるほどの轟音。
次の瞬間、狙撃手は奥のコンクリート壁ごと粉々になっていた。
跡形も残らなかったので、モニターが映しているのは壁の残骸だけ。
匂いもない。
だが、すべてが終わった事をテックは理解していた。
だからテックはしばらく動きのないモニターを見つめ……
「……大丈夫。わたしはやるべき事をやっただけだから」
手を握ろうとした黄緑色のローブの女性――メンター・オメガを制止する。
オメガは察し、テックの手をとろうとした手を引っこめる。
彼女が自分を気遣っている事は理解している。
初めて人型怪異を手にかけた子供を。
何故ならディフェンダーズの影の首領は心優しい善良な女性だ。
良心と知恵と知識、善なる魔法に必要なすべてを高いレベルで持っている。
それでもテックの言葉だって本物だ。
要は舞奈と同じなのだ。
今の自分は、大事なものを奪った、奪おうとした敵を討つ事で何かを得た。
何かに踏ん切りをつけた。
その行為に対して慰めを得てしまったら、それは多分、冒涜になる。
失われたものに対しての。
それに人型の怪異は人の皮をかぶっただけの人ならざるバケモノだ。
何処か絵空事だったその事実を、友を失い、自身も一度は襲われて気づいた。
いつまでも他人まかせにはできない。
それを成せる力を手にできるチャンスがあるのに、それを拒んで誰かに仕事を押しつけ続けたら、次に失うものは、きっとそれより大事なものだと。
だから――
「――力を貸してくれてありがとう。……おかげで今度こそ、守れた」
「いえいえ、大した事はしていないつもりですよ」
はにかむように背中に語る。
メンター・オメガもにこやかに答える。
普段通りの感情のない声色とは裏腹に、テックの表情は済々としていた。
双眸は画面から離さなかったが、口元には笑みが浮かんでいた。
そんな彼女の横顔を盗み見ながらメンター・オメガはやわらかく笑い、
「それは貴女に預けておきます。魔術の発動まではできませんが、固定武装はついてますよ。……なので、この国の官憲には秘密にしておいていただけると」
「わかってるわ」
いたずらっぽく言いつつ転移の準備にとりかかる。
彼女は呪文もなく【智慧の門】を行使できる達人だ。
「でも、わたしは……」
「構いませんよ。それは、いわば投資なのですから」
「投資?」
「ええ。その小さな力によって、貴女のような有能な若者が力の正しい使い方を見出してくれたなら、それは社会にとって替え難いメリットになります」
そう言い残して、かき消すように消えた。
正しい力の使い方。
社会にとってのメリット。
それは、たぶんピアースたちのような理不尽な犠牲を防ぐ事だと思った。
そう考えるのは悪い気分じゃない。
特に、自分がそのために重要な役割を果たし得ると断言された後では。
そういった部分ではテックも小5だ。自尊心が己を高める力になる。
だからマウスでメニューを操作してドローンの戦闘モードを解除する。
携帯を取り出してメッセージを送る。
相手は舞奈だ。
狙撃手の排除に成功した報告と、ドローンの回収を依頼するためだ。
そして、すべての仕事を終えたテックは部屋の片隅、先ほどまで本来なら有り得ない協力者がいた虚空を見やって――笑った。
同じ頃。
残る狂える土を蹴散らし、狙撃手の排除を確認した舞奈は――
「――ま、こんなもんだ」
路地を転がる幾つもの鉄パイプと、倒れ伏す狂える土どもを見下ろす。
動く者はいない。
すべて舞奈が片づけた。
その事実を確認してから、側の壁にこびりついた何かの痕に目をやる。
今しがたの戦闘でついたものではない。
この場所で、邪悪な人型の怪異どもは6歳の子供を殺した。
縁もゆかりもない男児をだ。
集団で襲いかかり、鉄パイプで滅多打ちにした。
そして今日、同じ場所で小学生の子供に皆殺しにされた。
同じように集団で襲いかかり、けれど思わぬ反撃で得物を奪われ喉を突かれ、頭をカチ割られ、撃ち殺された。
もちろん、だからといって死んだ彼が戻ってくる訳でもない。
遺族の溜飲が下がるかどうかもわからない。
今日だって別に5万匹あまりの狂える土のうちの数グループを排除しただけだ。
それで街の治安が飛躍的に良くなったりはしないだろう。
そもそも、この街に舞奈たちが派遣された理由でもある狂える土どもの不審な動きについては何もつかめていない。1匹くらい生け捕りにすべきだったか。
だが件の彼とは無関係な舞奈の気分がちょっと良くなった。
それに政治の不手際でヤニまみれになった街が、今ので少し綺麗になったのはまぎれもない事実だ。
そう思えるだけで今日の成果は上々だと思う事にした。
何故なら今はちょっと気分が良い。
大通りから吹いて来た涼しい風に吹かれながら、そんな事を考えていると……
「……あっ! いたでやんす!」
「よっみんな、どうしたんだ?」
「どうしたんだじゃないっすよー!」
「なかなか支部に来ないから心配して探しに来たでゴザル」
「いやスマンスマン。早く着いたから街をぶらぶらしてたら迷っちゃって」
「仕方ないでゴザルなあ」
仲間たちがやってきた。
やんす氏にザン、息を切らせた太っちょドルチェもいる。
後ろには事が終わって誤魔化す必要もなくなったからついてきたのだろう明日香に、冴子もいる。
皆で舞奈を探しに来てくれたらしい。
舞奈は明日香に笑みを向け、
「けど、よくトーマスさんが許可したなあ。ここら辺って、このまえ式神がやられた場所だろう?」
「先方の占術士から、狙撃手が排除されたって報告をうけたらしいわ」
「そりゃ結構」
冴子から理由を聞いて納得する。
そんな舞奈の周囲を見やり、皆は驚いた様子だ。
まあ、そりゃそうだろう。
先日に術を使う2体の式神を倒した狂える土ども全員+αが、今や土色のホトケになって転がっているのだ。
……警察関係への言い訳が大変だなって思われてるかもしれない。
ふと思う。それでも、
「これ、まさか舞奈ちゃんがひとりでやったの?」
「へへっ、まあな」
「狙撃手も舞奈さんがやったんすか!? 凄ぇ!」
「それはねーよ。どうやってここからあのビルの狙撃手を撃つ気だ?」
ボケをかましたザンに軽口を返しながら、舞奈たちは普段より少し遅い時間に、普段通りにのんびりと禍我愚痴支部に向かって歩き始めた。
奴らは狙撃手を含むグループだ。
舞奈は奴らを打尽にするべく事件現場に赴き、襲ってきた狂える土どもを圧倒。
だが協力者として潜伏していた鷹乃の式神が狙撃された。
魔術で身を隠していたはずの式神が、舞奈より早く。
「オマエノ仲間ハ死ンダゾ!」
「そうかい」
先ほど舞奈が距離をとった【装甲硬化】が鉄パイプを振り上げて襲いかかる。
仲間が倒された舞奈が怯んだとふんで、攻勢に出る気になったらしい。
「ガキモ殺セ!」
「生カシテ帰スナ!」
舞奈を囲むくわえ煙草の集団からも、何匹かが飛び出て殴りかかってくる。
狂える土どもの中でも屈強な体躯は【虎爪気功】か。
だが、それより――
「――おおっと!」
跳んだ舞奈の残像を射抜いた何かが路地を穿つ。
狙撃だ。
式神を撃墜してフリーになった狙撃手が舞奈を狙い始めたのだ。
アスファルトに開いた恐ろしい大きさの弾痕は予想通りの超大口径ライフル弾。
しかも術による創造物や式神に対して高い効果を持つ破魔弾らしい。
「死ネ! ガキ!」
「トドメダ!」
避けた直後の舞奈に襲いかかる、くわえ煙草どもの鉄パイプ。
いずれの打撃も力まかせに振り下ろされただけ。
だが回避できる体勢じゃない。
「野郎!」
舞奈は自身の鉄パイプで受け止める。
だがタイミング悪く力負けし、得物は手から離れて宙を舞う。
幾多の打撃を防いでぐにゃぐにゃに曲がった鉄パイプが、乾いた音をたてて路地を転がる。
間近から漂うヤニの悪臭に顔をしかめる。
そんな舞奈の様子を見やって、
「殺セ!」
「ガキヲ殺セ!」
周りを囲む狂える土どもが興奮する。
早くも勝利を確信したか。
罵倒の他にも獣のような自分たちの言語で叫びながら浮かれ踊る。
だが次の瞬間――
『――成ル程。カツテ不覚ヲトッタノハ此デアッタカ』
上空から声。
同時に二発の超大口径ライフル弾を喰らった航空機型の式神が――
『――ダガ同ジ轍ハ踏マヌ!』
人型へと変ずる。
いつもの式神より寸胴な胴体下部が剥がれて下半身と脚になる。
合わせて機首が畳まれ胸になる。
左右にのびる直線翼が、重厚な盾を携えた腕になる。
胸と盾に刻まれた弾痕はそのまま。
だが致命打にはなっていない。
「何ダト!?」
「アリエナイ!」
舞奈の目前の、あるいは周囲を囲む狂える土どもが動揺する。
鷹乃の式神は超大口径の破魔弾による狙撃を防ぎきったのだ。
通常なら有り得ない現象。
だが舞奈は敵のように浮かれる事なく頭上を見やって笑う。
何故なら舞奈は知っていた。
今回の式神のモチーフは普通の戦闘機や早期警戒機ではない。
超重装甲の攻撃機だ。
即ち、A-10 サンダーボルト2。
対空砲火を真正面から防ぎながら地上の敵を殲滅するための機体。
故に航空機にあるまじき、装脚艇にすら匹敵する防御性能を誇る。
分厚い装甲は砲撃すら防ぐほど。
ダメージコントロールの能力は翼をもがれても飛べるほど。
設計思想から従来の航空機とは異なる、いわば小さな空中要塞だ。
その圧倒的な堅牢さは、呪式として構成された式神においても健在。
陰陽術による召喚魔法【式打ち】は物理法則を最大限に利用する事で召喚者の負担を軽減させ、より高度な運用を可能にしている。
故に被召喚物の形状により性能はがらりと変わる。
防御性能に優れた構造体を再現すれば、それは現機と同じ堅牢さとなる。
もちろん米軍機であるA-10は、普通なら【式打ち】による召喚に適さない。
地域に深く根差した流派が最も得意とするのは地元の文化の再現だからだ。
鷹乃が修めた陰陽術も例外じゃない。
だが当機は一部の自衛隊基地に、半ば秘密裏に配備されていた。
尖閣、竹島、それらへの中継地点である饗庭野基地だ。
大陸の大型怪異への備えとして米国から賞与されたのだ。
人間の世界を脅かす怪異への対策は、国家の枠組みすら越えて行われる。
それが人間が人間であるため、人類全体の敵に抗うために必要な事だからだ。
もちろん現地での使用に適応するためマイナーチェンジも行われている。
それを元に空自の陰陽師が召喚用の呪式として組み立てた。
故に陰陽師の手札として問題なく使える。
要は以前に陰陽師たちが使った戦闘機や輸送機と同じだ。
そんな式神を召喚する呪式を、鷹乃は今回の作戦に備えて譲り受けていた。
そして驚くべき集中力と鍛錬によって僅かな期間で会得した。
最初から狙撃されるつもりで耐える算段をたてていたのだ。
故に、その超重装甲をもって対物ライフルによる狙撃を防ぎきる事ができた。
舞奈の視界のはるか上空で、形状はそのままバックパックとなった大型の双発エンジンから紅蓮の炎を噴きながら人型の式神が飛ぶ。
目指すは舞奈が目星をつけていた高いビル。
やはり狙撃手はそこにいた。
鷹乃も射角から狙撃手の位置を割り出したのだろう。
そんな式神の挙動に、地上の狂える土どもも気づいたか――
「――!?」
「おいおい! 小学生のドッジボールじゃないんだ!」
耳の良い舞奈にしか聞こえない銃声。
直後、避けた舞奈の背後にいた【装甲硬化】が地を転がる。
狙撃に気を取られた舞奈を背後から襲う算段だったらしい。
だが不意をつかれたはずの舞奈が急に避けたので対応できなかった。
加えて狙撃手も狙撃の瞬間に式神の生存に気づいたせいで手元が狂ったのだ。
ひとりの達人を大勢で囲んでやろうとする事は、小学6年生たちも大人の怪異どもも同じだ。ミスの仕方も。
舞奈は勢いのまま背のポウチから改造拳銃を抜く。
流れるような動作で撃つ。
狙いは足元。
地面に崩れ落ちた【装甲硬化】の覆面の破損部。
ストッキングの破れた部分から覗く、ヤニの摂取で醜く歪んだ口元。
先ほどの誤射で破損したのだ。
さしものの【装甲硬化】も超大口径ライフル弾による誤射を完全に防ぐ事はできなかったらしい。
それは奴自身が理解もしていなかった異能力の限界でもある。
だから舞奈は――
「タスケテクレ! 人殺シ!」
「――人の言葉でそいつを言ったら、他の奴は手を緩めてくれたのか?」
覆面の破損部分を正確無比に撃ち抜く。
手が届くような距離から放たれた大口径強化弾が、奴自身の異能力で無敵の装甲と化した覆面の内側を縦横無尽に反射する。
頭蓋骨を、人間で言えば脳に相当する怪異の器官をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。
結果、無敵の装甲に守られていたはずの身体が一瞬だけ痙攣する。
そして動かなくなる。
「ガキガ……」
「オノレ……」
残る狂える土どもが怯む。
今ので舞奈に勝てる算段をすべて失ったといったところか。
人間とは相容れない存在のくせに、何ともわかりやすい挙動である。
無論その好機を逃すつもりはない。
舞奈は素早く改造拳銃を仕舞い、ジャケットの下の拳銃に持ち替え、
「さっきまでの威勢はどうしたよ!?」
狂える土どもの脳天を次々に撃ち抜く。
勢いをなくした怪異どもはバラバラに逃げようとする。
あるいは何匹かが破れかぶれに殴りかかってくる。
だが1匹たりとも逃さない。
ヤニ臭い怪異どもに、自身らが子供を追いこんだのと同じ運命をあたえる。
背後からでも容赦はない。
ポウチには予備の弾倉も用意してきた。
銃口からの硝煙が風に流れて消えるより早く、鉄パイプを手にした狂える土どもは大口径弾のストッピングパワーのまま壁に叩きつけられて崩れ落ちる。
鉄パイプの炎が、紫電が、路地を転がりながらかき消える。
別の狙撃を警戒して撃ちながら跳ぶが、そちらは杞憂だった。
一方、上空では人型の攻撃機が全速力で飛んでいた。
狙撃手が潜むビルめがけ、一直線に突き進む。
敵は式神を迎撃しようと超大口径ライフル弾を撃ちこんでくる。
だが無意味。
A-10の主翼は盾になる。
それを人型に変じて腕と化し、前面でクロスさせて突撃しているのだ。
その鉄壁の防護を貫ける手札は敵にはない。
防御魔法を使うまでもない。
そんな式神が、ビルの窓越しにスナイパーライフルを構えた狙撃手に迫る。
驚愕に顔を歪めるこちらの敵も、大柄で中東風の顔立ちをした喫煙者。
典型的な狂える土だ。
式神は虚空から符を取り出し、機銃代わりに【白虎・征矢雨法】を放つ。
重機関銃の掃射に等しい無数の金属の針がビル壁を削る。
だが窓の奥で身をかがめた狙撃手には当たらなかった。
正確には【光の盾】――回術による不可視のバリアに防がれたのだ。
『オノレ回術士カ!』
式神の向こうで鷹乃が歯噛みする。
敵の狙撃を防いだものの、詰めの甘さは一朝一夕でどうこうなるものではない。
だから半壊した窓の奥で、
『待タヌカ痴レ者!』
狙撃手は銃を捨てて逃げる。
奥のドアをくぐって部屋を駆け出る。
獣の言葉で喚き散らしながら階段を駆け下りる。
だが男が逃げた先にも1機のドローンが浮かんでいた。
こちらは鷹乃のそれより、ひと回り小さな一般的なサイズのドローンだ。
ミスター・イアソンを思わせる赤と青を基調とした派手なカラーリング。
4基のローターを保護するように囲む格子状の装甲。
それでいて威圧感を可能な限り抑えたシンプルかつヒロイックなデザイン。
ディフェンダーズの近距離支援用ドローンだ。
つまり逃げ隠れする悪を望み通り秘せられたまま闇に帰す、小さな正義の使者。
そんな新手に気づいた男は驚愕する。
二重の隠形術で身を隠した鷹乃の式神を発見した特別な狂える土が。
何故なら、こちらのドローンは術を使わず製造された100%工業製品。
しかも魔力の痕跡を気取られぬよう自力で転移もせず、舞奈が持ってきた。
舞奈が背負っている空になった大きなリュックの中身はこれだった。
こちらが舞奈にとっての本当の奥の手だ。
敵に回術士がいた場合でも確実に排除するための。
故に、その接近に魔法感知で気づけるはずもない。
おそらく索敵を感知に頼り切っていたはずの敵にとっては完全な不意打ちだ。
しかも駆動に術が使われていないという事実は、ディフェンダーズ謹製の戦闘用ドローンが魔法戦闘に対応できない事を意味しない。故に――
「――!」
銃を捨てた狙撃手にして回術士でもある狂える土の男は雄叫びをあげながらドローンに掌底を突きつける。
土色の掌から光が放たれる。
レーザー光線を放つ回術【熱の拳】。
だが悪の回術士が放った光を、ドローンの前に展開された放電する盾が防ぐ。
即ち【稲妻の防殻】。
ドローンのカメラ越しに超遠距離から発動されたケルト魔術だ。
妖術すら防がれた狂える土の表情が驚愕に歪む。
魔術とは、ひとつの奇跡を成す度に魔力を生み出す技術でもある。
故に術が形を成すまで魔法感知による警戒は無意味。
これも用心深い狂える土の術者を確実に排除するためのサポートだ。
そんな魔術が再び行使される。
次なるは大魔法がひとつ【智慧の門】。
ドローンの下側に、魔術によって転送された重機関銃がマウントされる。
本来はA-10に搭載されている30ミリ対戦車ガトリング砲だ。
巨大な束ねられた砲身を目前に向けられ、狂える土男は尻餅をついて怯える。
拙い人間の言葉で命乞いをする。
そんな男の様子を、もちろんドローンのカメラは捉えている。
それを操縦士はモニターの前で見ている。
埼玉の一角からはるか離れた巣黒の某所で、モニターの前にいるのはテックだ。
その手はドローンを操作するキーボードとマウスにかけられている。
もちろんテックは知っている。
彼はピアースの仇じゃない。
四国の一角でテックの友人を撃ったという泥人間は舞奈と明日香が倒した。
奴は無関係の人型怪異だ。
だが目の前の男は、テックの友人を同じように撃とうとした。
だからテックは何かを決意したように、口元に少し力を入れる。
マウスを操作し目標を照準の中心に収める。
クリックして攻撃を指示。
ボタンを押した指先の他に物理的な手ごたえはない。
代わりにヘッドホンから漏れる連なる砲声。
モニターを覆う発射炎。
悲鳴をかき消す、振動すら感じるほどの轟音。
次の瞬間、狙撃手は奥のコンクリート壁ごと粉々になっていた。
跡形も残らなかったので、モニターが映しているのは壁の残骸だけ。
匂いもない。
だが、すべてが終わった事をテックは理解していた。
だからテックはしばらく動きのないモニターを見つめ……
「……大丈夫。わたしはやるべき事をやっただけだから」
手を握ろうとした黄緑色のローブの女性――メンター・オメガを制止する。
オメガは察し、テックの手をとろうとした手を引っこめる。
彼女が自分を気遣っている事は理解している。
初めて人型怪異を手にかけた子供を。
何故ならディフェンダーズの影の首領は心優しい善良な女性だ。
良心と知恵と知識、善なる魔法に必要なすべてを高いレベルで持っている。
それでもテックの言葉だって本物だ。
要は舞奈と同じなのだ。
今の自分は、大事なものを奪った、奪おうとした敵を討つ事で何かを得た。
何かに踏ん切りをつけた。
その行為に対して慰めを得てしまったら、それは多分、冒涜になる。
失われたものに対しての。
それに人型の怪異は人の皮をかぶっただけの人ならざるバケモノだ。
何処か絵空事だったその事実を、友を失い、自身も一度は襲われて気づいた。
いつまでも他人まかせにはできない。
それを成せる力を手にできるチャンスがあるのに、それを拒んで誰かに仕事を押しつけ続けたら、次に失うものは、きっとそれより大事なものだと。
だから――
「――力を貸してくれてありがとう。……おかげで今度こそ、守れた」
「いえいえ、大した事はしていないつもりですよ」
はにかむように背中に語る。
メンター・オメガもにこやかに答える。
普段通りの感情のない声色とは裏腹に、テックの表情は済々としていた。
双眸は画面から離さなかったが、口元には笑みが浮かんでいた。
そんな彼女の横顔を盗み見ながらメンター・オメガはやわらかく笑い、
「それは貴女に預けておきます。魔術の発動まではできませんが、固定武装はついてますよ。……なので、この国の官憲には秘密にしておいていただけると」
「わかってるわ」
いたずらっぽく言いつつ転移の準備にとりかかる。
彼女は呪文もなく【智慧の門】を行使できる達人だ。
「でも、わたしは……」
「構いませんよ。それは、いわば投資なのですから」
「投資?」
「ええ。その小さな力によって、貴女のような有能な若者が力の正しい使い方を見出してくれたなら、それは社会にとって替え難いメリットになります」
そう言い残して、かき消すように消えた。
正しい力の使い方。
社会にとってのメリット。
それは、たぶんピアースたちのような理不尽な犠牲を防ぐ事だと思った。
そう考えるのは悪い気分じゃない。
特に、自分がそのために重要な役割を果たし得ると断言された後では。
そういった部分ではテックも小5だ。自尊心が己を高める力になる。
だからマウスでメニューを操作してドローンの戦闘モードを解除する。
携帯を取り出してメッセージを送る。
相手は舞奈だ。
狙撃手の排除に成功した報告と、ドローンの回収を依頼するためだ。
そして、すべての仕事を終えたテックは部屋の片隅、先ほどまで本来なら有り得ない協力者がいた虚空を見やって――笑った。
同じ頃。
残る狂える土を蹴散らし、狙撃手の排除を確認した舞奈は――
「――ま、こんなもんだ」
路地を転がる幾つもの鉄パイプと、倒れ伏す狂える土どもを見下ろす。
動く者はいない。
すべて舞奈が片づけた。
その事実を確認してから、側の壁にこびりついた何かの痕に目をやる。
今しがたの戦闘でついたものではない。
この場所で、邪悪な人型の怪異どもは6歳の子供を殺した。
縁もゆかりもない男児をだ。
集団で襲いかかり、鉄パイプで滅多打ちにした。
そして今日、同じ場所で小学生の子供に皆殺しにされた。
同じように集団で襲いかかり、けれど思わぬ反撃で得物を奪われ喉を突かれ、頭をカチ割られ、撃ち殺された。
もちろん、だからといって死んだ彼が戻ってくる訳でもない。
遺族の溜飲が下がるかどうかもわからない。
今日だって別に5万匹あまりの狂える土のうちの数グループを排除しただけだ。
それで街の治安が飛躍的に良くなったりはしないだろう。
そもそも、この街に舞奈たちが派遣された理由でもある狂える土どもの不審な動きについては何もつかめていない。1匹くらい生け捕りにすべきだったか。
だが件の彼とは無関係な舞奈の気分がちょっと良くなった。
それに政治の不手際でヤニまみれになった街が、今ので少し綺麗になったのはまぎれもない事実だ。
そう思えるだけで今日の成果は上々だと思う事にした。
何故なら今はちょっと気分が良い。
大通りから吹いて来た涼しい風に吹かれながら、そんな事を考えていると……
「……あっ! いたでやんす!」
「よっみんな、どうしたんだ?」
「どうしたんだじゃないっすよー!」
「なかなか支部に来ないから心配して探しに来たでゴザル」
「いやスマンスマン。早く着いたから街をぶらぶらしてたら迷っちゃって」
「仕方ないでゴザルなあ」
仲間たちがやってきた。
やんす氏にザン、息を切らせた太っちょドルチェもいる。
後ろには事が終わって誤魔化す必要もなくなったからついてきたのだろう明日香に、冴子もいる。
皆で舞奈を探しに来てくれたらしい。
舞奈は明日香に笑みを向け、
「けど、よくトーマスさんが許可したなあ。ここら辺って、このまえ式神がやられた場所だろう?」
「先方の占術士から、狙撃手が排除されたって報告をうけたらしいわ」
「そりゃ結構」
冴子から理由を聞いて納得する。
そんな舞奈の周囲を見やり、皆は驚いた様子だ。
まあ、そりゃそうだろう。
先日に術を使う2体の式神を倒した狂える土ども全員+αが、今や土色のホトケになって転がっているのだ。
……警察関係への言い訳が大変だなって思われてるかもしれない。
ふと思う。それでも、
「これ、まさか舞奈ちゃんがひとりでやったの?」
「へへっ、まあな」
「狙撃手も舞奈さんがやったんすか!? 凄ぇ!」
「それはねーよ。どうやってここからあのビルの狙撃手を撃つ気だ?」
ボケをかましたザンに軽口を返しながら、舞奈たちは普段より少し遅い時間に、普段通りにのんびりと禍我愚痴支部に向かって歩き始めた。
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