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第20章 恐怖する騎士団

日常2

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 小中高一貫校を襲った物騒な不審者の集団が、それ以上に物騒な警備員らにぶちのめされた上に半分以上が最初からいなかった事にされた日の翌日。
 うららかな朝の登校時間の校門前で、

「ねえ君、この学校の生徒かな?」
 化粧の濃い中年女が、登校中の生徒に絡んでいた。
 少し離れた場所には小太りなカメラマン。
 テレビ局の取材だ。

「君は昨日の事件の被害者なのかな?」
「いえ違いますけど……?」
 詰め寄る中年女に、つかまった中等部の生徒は引き気味に答える。
 女の無遠慮な態度もさることながら、口臭に混じるヤニの臭いが凄まじいからだ。
 脂虫が放つ悪臭に、まっとうな人間は嫌悪を示す。
 そんな中学生の挙動に女は構わず……むしろ嫌がらせを楽しむように、

「じゃあ君が武装した一般の大人に襲われたらどうする?」
 おもちゃのナイフを突きつける。

 武装した不審者を一般人と呼ぶ不自然さ。
 他者に躊躇なく刃を向ける無神経さ。
 それらに気づくより先に、単に臭い人に迫られて生徒は顔を歪める。
 子供の苦痛を見やって化粧の濃い醜い女は嗤う。

 自分より弱い他者をいたぶり苦しめようとする脂虫の性向は、まやかしの人間の顔と身分が男であろうが女であろうが同じだ。
 そして普通の人間なら慈しみ守ろうと思える子供の容姿を、怪異は忌み嫌う。
 そんな邪悪な喫煙者の女が、逃げ場のない子供をなぶって楽しむ。
 登校中の他の子供たちは成すすべもなく遠巻きに見守る。
 そんな最中――

「どうする? ねえ、どうする?」
「――わたしならこうやって後ろに回りこんで、両手で頭を持って少し傾けますね」
 不意に声。

 同時に女の周囲が暗くなった。
 何故なら姿も心も醜い中年女の背後に、何時の間にか壁が建っていた。

 否。縦にも横にも壁のように巨大で逞しい巨女がいた。

 着こんだネイビーブルーの制服で、かろうじて学校の警備員だとわかる。
 だが2メートルを越える長駆と、それがもっさりして見えるほどの横幅。
 顔を覆面で覆っているのは世界三大宗教のひとつ【三日月】の信徒である証だ。

 中年女は目を見開いて恐怖する。
 何故なら重機のような巨女に、気配もなく背後に回られた。
 しかも何の感慨もなさげな調子で首をへし折る体勢をとられている。
 自身が面白半分に弱者に突きつけていた殺意を、今は自分が向けられている。
 先ほどまでの軽薄な口調が嘘のように中年女は言葉もなく硬直する。
 その隙に生徒は警備員に一礼して走り去る。

「――そうすると動かなくなるんで次に取りかかるんです。わたしはつい横着して正面から折っちゃうんですがね」
 屈強な女警備員は素朴な口調で言葉を続ける。
 カメラを前に、照れたようにポリポリと頭をかく。
 だが中年女はそれどころじゃない。

「何でしたら実際に作業した者がおりますので代わりましょうか?」
「み、見てください! 威圧感のある恐ろしい警備員が子供たちに威圧感を――」
 脂虫は他者を当然のように貶めるが、他者が自身に向ける侮蔑を我慢できない。
 おまけに倫理観も節度もない。
 だから中年女が我に戻り、当てつけるように険のある表情をカメラに向けた途端、

「モールさーおはよー」
「おはよー」
 低学年のちっちゃな女の子たちがカメラの前に割りこんできた。

「皆さん、おはようございます」
 壁のような女はうずくまるように巨体をかがめ、穏やかな声で挨拶を返す。

 モールというのは彼女の名だ。
 この壁のような威圧感を持つ女警備員モールの巨駆も、相対的に大人なんか全員が巨人に見える幼女からすれば皆と同じ普通の大人だ。
 むしろ言動がゆっくりしていて話しやすいまである。
 なので幼女はキイキイ叫ぶ臭い中年女を警戒するように太い脚にしがみつく。
 モールは大きな手で手慣れた調子で子供たちを抱え上げ、

「それじゃあ仕事があるんで失礼します」
 肩の上に3人並べ、中年女に背を向けのしのし歩きだした。
 巨大な肩の上で歌なんか歌いだす子供たちを、太く逞しい腕でそっと支える。
 そんな様子は、文明崩壊後の世界でヒロインと出会った元戦闘機械のようだ。

 出鼻をくじかれ、目論見を潰され、化粧の濃い脂虫の中年女は悔しがる。

 だが、そんな彼女をカメラは見切って別の女児を撮っていた。
 頭上に双葉あずさの人形をくくりつけ、「あずさがいるー」「にゃんこもいるー」と振り返る低学年女子を撮るという、わりと捨て身な撮影だ。
 そんな中、

「わっテレビの撮影だ」
「昨日の事件を嗅ぎつけて来やがったな」
 長身ナイスバディなワンピースと、ピンク色のジャケットが通りかかる。
 園香と舞奈だ。

「朝から大変っすね。落とすなよー」
「お疲れさまです」
「あっどうもありがとう。いってらっしゃい」
 舞奈はカメラに雑な挨拶しながら、園香は会釈しながら通りすぎ、

「おっモールさんじゃないすか。ちーっす。朝の当番なんて珍しいな」
「おはようございます」
「舞奈様、園香さん、おはようございます」
 2人してモールの巨躯を見上げながら挨拶する。
 小5にしては早熟な園香の背丈も、流石にモールほどじゃない。

「まいなさーそのかさーおはよー」
「おう、チビどももおはようさん」
「おはよう、みんな」
「おはよーさー」
 肩の上のかしましい子供たちにも挨拶する。
 そんな様子に、小さなツインテールの彼女が昨日の襲撃への対処を手伝った猛者だなんて気づく者はいない。
 
「今日からしばらく日中の警備を3人に増やすことになりまして」
「そりゃまた急な話だな」
「そうなんですよ。昨晩の会議で決まったからって朝方に連絡がありまして」
「わっ大変だ。おつかれさまです」
「お気遣いありがとうございます」
 そんな風に雑談めかして事情を話しながら、3人並んで校門まで歩く。

 巨大なモールが登校時の校門前を歩くなんて、足元のアリを踏まないようにトラックを走らせるようなものだ。
 だが、それをモールはやってのける。
 巨体に似合わず繊細なのだ。
 そして一定以上の使い手の例に漏れず、舞奈の強さを見抜いて敬っている。

「ちなみに夜は一般の警備員がチームで警備することになりました」
「武装もか?」
「いえ、それは流石に。けど公的機関からのサポートも受けられるそうで、警備は万全ですよ」
「公的機関……警察かな?」
(【機関】かな)
 そんな会話をしながら校門でモールと別れ、初等部の校舎へ。
 ついでに折角だから子供たちを1階の教室まで送っていく。
 その後に3階の自分たちのクラスに入った途端――

「――という風にわたくしが6年生に崇め敬われていた、その時!」
「いやデニスやジャネットはともかく、西園寺は単に笑われてなかったか?」
「恐縮です」
「どうもなンす」
 麗香様が妄言……もとい会見を開いていた。
 中身はもちろん、先日の不審者の襲撃の件だ。
 例によって暇な男子がギャラリーrを務め、側のデニスとジャネットが苦笑い。
 一緒に襲われた6年生はショックのあまり今日になっても微妙に大人しいのに、精神的なタフさだけは人並外れた麗華様だ。

「……その時! わたくしの知性と美貌、王女の身分に目がくらんだヴィランが!」
「いや野球の格好したラリッたおっさんだっただろ」
「煙草吸ってたし」
「臭かったなーあれ」
「知性とか……どれも持ってないだろうおまえは」
 弁士の如くまくし立てる麗香様。
 冷ややかな男子たち。
 容赦ないツッコミを麗香様は涼しい顔で聞き流すガッツを見せつけ、

「そこに世界の宝たるわたくしを守るためにディフェンダーズのヒーローrが!」
「いや安倍と志門が凄い魔球でやっつけてたじゃねーか」
「っていうか、昨日オレたちもそこにいたんだが……」
「プリンセスたるわたくしと! イケメンのヒーローとのロマンスが!」
「だから! クラス全員その場にいたっつってんだろ!」
 普段通りに頭……面白おかしいトークを繰り広げる。
 そんな愉快な麗華様を尻目に、

「おはようチャビーちゃん、テックちゃん」
「ちーっす」
「あっゾマ! マイ! おはよう!」
「おはよう。明日香は一緒じゃないの?」
 舞奈と園香を、先に来ていたチャビーとテックが出迎えた。

「いないのか? この時間に来てないのも珍しいな」
 首をかしげるテックの言葉に舞奈も釣られて訝しむうちに、

「おまえら席につけー。ホームルームを始めるぞー」
 小太りなサングラスの担任がやってきた。
 皆はガヤガヤと席につく。
 さっきからずっと猫車のゼスチャーをしていたみゃー子も席につく。

「センセ、眠そうっすね」
「ああ。緊急会議が朝方まで紛糾しててな……」
「おつかれ様っす」
 軽口に、担任はサングラス越しにすらわかるくらい眠そうに答える。
 こちらもらしくないなと舞奈は苦笑する。

 緊急会議というのは昨日の襲撃の件だろう。
 先生方もどっちかといえば被害者側なのに御苦労な事だとは思う。

「先生ー。安倍さんがまだ来ていないのです」
「あー。安倍は今日は休みだ」
 生真面目に報告する委員長に、担任は何気に答える。
 だが家が近い委員長は違和感でも感じたのだろう。

「連絡があったのですか?」
「いや連絡というか、さっきまで……」
 再度の問いに、担任は言いづらそうに口ごもる。

 ようやく舞奈も気づいた。
 緊急会議とやらで、朝方まで今後の警備の方針を決めていたのだろう。
 そこに明日香も参加していたのだ。
 彼女は学園の警備を一任された民間警備会社PMSC【安倍総合警備保障】の社長令嬢だ。
 そして生真面目で責任感も強い彼女の事だ。
 学生の本分を脇においてでも意思決定に携わりたかったのだろう。

 ……会議を紛糾させせていたのが彼女じゃなきゃ良いんだが。

 舞奈がやれやれと苦笑した途端、

「おはようございます」
「安倍さんだ!」
 ドアをガラリと開けて明日香が来たので皆はビックリ。

「安倍!? 帰ったんじゃなかったのか?」
 担任も寝耳に水。

「遅れてすいません。保健室で仮眠をとってました」
「いや家で寝てくれ頼む」
「1時間半は休めたので大丈夫です。授業を休む訳にもいきませんし」
「いや、おまえが聞いて身になるような授業やらないぞ今日は」
 困ったような担任と明日香のトークに舞奈は「おいおい」と苦笑する。
 学力だけなら高等部レベルの明日香が楽しいレベルの授業なんかされたら他の普通の小5が置いてきぼりなのは事実だが、言い方というものがあるだろうに。

 だが、まあ担任も生徒を気遣ってくれているのだ。
 いくら狡猾だろうが強かろうが、明日香が小5女子なのは変わらない。
 人格はともかく身体には成長の余地がある。
 そこで意味もなく徹夜させるのは問題だと考えたのだ。

 よくよく考えれば、あの凄惨な四国での作戦ですら睡眠だけは十分にとっていた。
 夜間の見張りもトルソが気を遣ってくれて、まとめて眠れる朝晩の当番だった。
 まっとうな大人は否が応でも子供を気遣ってくれる。
 その恩に子供が報いるには、自分も将来まっとうな大人になるしかないのだろう。
 その前に大人たちが怪異に食べられないよう守るのは当然として。

 ……何より明日香は会社の将来を背負って立つ人間だ。
 子供の頃から会議で徹夜して学業とか余計な逸話を遺すと後に下々が迷惑する。

 だが、ここで帰る帰らないで言い合っていても埒が明かないのも事実だ。
 識者ぶった性格の悪い眼鏡は自分の意見を曲げたがらない。
 その事を担任も知っている。
 だから明日香は「無理そうなら休むこと」と条件つきで授業を受けることになった。

 だが一見、無難に思える担任の選択には、ひとつ問題があった。

 明日香は余裕がなくなると意図的に心をなくす。
 つまりコミュニケーション能力を切り捨てるのだ。
 極限環境下で仲間を次々に失った時もそうだった。
 信じられないくらい責任感のない大人を見てガチ切れした時もそうだ。

 そして眠い場合も同じらしい。

 なまじ授業で教わる内容を把握しているのがまた性質が悪い。
 教卓に立つ先生がちょっとでも間違ったことを言った途端にギロリと睨む。
 進行に難があると殺気立つ。

 もう眠いなら大人しく寝ててくれと皆が思った。

 舞奈も。
 担任も。
 他の生徒も。

 なので給食で皆の腹もくちくなった昼休憩に……

「……な、なあ安倍。眠そうだし、5時間目は仮眠を取ってもいいんじゃないか?」
「そ、そうだよ。長い人生、1時間くらい休んでもバチは当たらないよ」
 意を決した男子が言って来た。
 顔面が蒼白だ。
 よほど怯えているのだろう。
 何故なら昨日、明日香と舞奈とクレアさんとヤギが叩きのめした4人の不審者は、今朝のニュースでは2人だった事になっていた。

 だが5時間目は音楽だ。
 こんな状態の明日香に歌わせたりなんかしたら下手をすると死人が出る。
 魔法や怪異の事なんて何も知らない彼らでも、そのくらいは気づく。

 進んでも死。
 傍観しても死。
 その中で小5の彼らは最期まで前のめりに生きることを選んだ。
 その結果……

「……安倍さんは保健室で休んでいるのです」
「そう。昨日は遅くまで会議に出てたものね」
 痩身巨乳の音楽教師は、委員長の言葉にあっさり納得する。

 明日香に意見した男子たちは、生きる権利を勝ち取ったのだ。
 本当に良かった。

「じゃあ保健室の安倍さんまで聞こえるよう、元気に歌いましょう!」
(いや寝てる体裁なんだが……)
 生徒たちと音楽をこよなく愛する音楽教師の言葉に舞奈は苦笑する。

 だが今日の音楽室に、あの恐ろしい歌が響かないのは事実だ。

 だから生徒たちは心置きなく歌い、奏で、笑った。
 かけがえのない命を、歌を、そして『音』を『楽しんだ』。
 それが事実なんだから仕方がない。

 そして楽しい音楽の時間が終わったホームルーム前。
 舞奈と園香、チャビーで明日香を呼びに行く。

「ちーっす」
「失礼します」
「安倍さーん。5時間目おわったよー」
「あら志門さんに真神さん、日比野さんも」
「あっ! 黒崎先生こんにちは!」
 かしましくドアを開けた途端、ムクロザキが出迎えた。
 この女、事もあろうに初等部の保健室の養護教諭でもあったりする。
 まったく世も末だ。

「その妙な色のトカゲを、そこらに放たんでくれよ」
「わかってるわよ。あと、この子はイグアナ」
「へいへい」
「安倍さんならそっちよ」
「はーい!」
「あっちょっと待て」
 私事にかまけて面倒くさそうなムクロザキに言われるままベッドを覆うパーテーションに手をかけたチャビーを制止し、

「……何してやがる」
 舞奈は無造作に逆から開ける。
 パーテーションの端にワイヤーが結んであったのに気づいたからだ。
 トラップだ。

「あら、もう終わったのね」
 言いつつ明日香はカバー付きの文庫本から目を上げる。
 予想どおりにのびたワイヤーは明日香の手元に繋がっていた。
 手元にはマイクが置いてある。
 不埒物が不用意にパーテーションを開けたらマイクを取って歌うつもりだったか?
 たとえばイグアナとか、ムクロザキとか。

「やって良い事と悪い事の区別をつけろよ」
「うるさいわね」
「だいたい、寝てたんじゃなかったのか?」
「1時間で寝れる訳ないでしょ」
 そのように軽口を交わした後に、

「安倍さん、たくさん眠れた?」
「ええまあ十分に休めたわ」
「よかった! それじゃあホームルーム行こ!」
「ええ。それでは失礼します」
「はーい。お大事にー」
 女教師の背中とイグアナに雑に見送られ、4人は保健室を後にした。

 そして帰りのホームルームも無事に終わった放課後。
 舞奈は【機関】支部を訪れた。

 昨日に人数をちょろまかして持っていった不審者への尋問の結果が知るためだ。
 警備の体制が変わったということは、何か長期戦を見据えなきゃいけないような新事実が判明したのかも知れない。
 だが……

「……じゃあ今回の件、誰も預言できなかったってのか?」
 支部の食堂の一角で、舞奈は対面の高校生2人に確認する。
 続けてズズッと目前の味噌ラーメンをすする。
 今日は珍しくニュットのおごりだ。

 先日の2ダース近い不審者による襲撃。
 割りと規模の大きい事件を、預言できなかったというのも不自然な話だ。

「面目ありません。蜘蛛の魔獣の件に引きずられて見逃しておりました」
 ソォナムの言葉に舞奈は隣のニュットを見やり、

「ほら居たじゃねぇか。蜘蛛の魔獣」
「知ってたのだよ」
「んだと?」
「だが機密扱いだったのだ。魔獣の出現なんて大っぴらにはできないのだしな」
「てめぇ……!」
 平然と返ってきた戯言に思わず睨みつける。

 だが奢られた飯の前でそれ以上は道義的にできない。
 珍しくニュットが3人分の食券を払ったのは、このためだったと舞奈は気づいた。
 まったく露骨に売ってきた喧嘩を安く買い戻しやがって。
 舞奈は麺を勢いよくズズッとすする。
 悔しいが美味い。
 ほどよくやわらかいのにコシのある麺に、コクのある味噌味のスープが絡んで口の中であたたかな幸せのアンサンブルを奏でる。

「だが昨日の不審者については少しばかり調べがついたのだ」
「小夜子さんのおかげでな」
 続く糸目の答えに面白くもなさそうにツッコミながら、

「やはり彼らは【三尸支配サンシーズペイ】で操られていたようです」
「脂虫を操る術か」
「ええ」
 ソォナムの言葉にふむと頷く。
 続けてチベット人の占術士ディビナーは美味しそうにチャーシューを頬張る。

「術者は誰だ?」
「残念ながら不明なのだよ」
「それじゃ意味ないだろう」
 続く問いに答えたニュットを睨みつけ、

「面目ございません」
「いや、あんたのせいじゃないよ」
 申し訳なさそうなソォナムにあわてて答える。
 誤魔化すように麺とモヤシを一緒に口に放りこむ。
 美味い。
 真面目で善良なソォナムがニュットの隣にいるのも、糸目が一方的に文句を言われないためだろう。まったく。

「だが面白い事がわかったのだ」
「何だよ?」
「全員に共通点があったのだよ」
「脂虫って以外にか?」
「何だと思うだか?」
「いいから答えろよ」
「つれないのだな……」
 勿体つけるニュットに鋭い眼光で先をうながし、

「全員が喫煙のせいで就職できず高齢ニートをしていたのだよ」
「まあ、そりゃそうだろうな……」
 続いて語られた答えにまあ、納得する。

 臭くて邪悪な喫煙者は分不相応な人の身分と顔を持っている。
 だが、そんなものがあったとしても普通の会社じゃ雇いたくないだろう。
 だから人型の怪異どもが人間社会で職にあぶれるのは当然だ。
 だがまあ、それだけ判明しても納得できるだけで特に情報としての価値はない。

 喫煙者の話なんかしたせいで少し不味くなった口の中をスープで洗い流し、

「そんじゃあさ、ひとつ教えてくれよ?」
「何をだか?」
「そいつら全員の個人情報」
 ふと思いついて言ってみた。

 せっかくの情報だ。
 もうひとつの信頼できるコネを使って少し詳しく調べてみようと思ったのだ。
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