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第18章 黄金色の聖槍
戦闘1-1 ~銃技&超能力vsファイヤーボール
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各勢力の総がかりでの温泉パーティーの翌日。
ヘルバッハ討伐部隊は早朝から新開発区への侵攻を開始した。
ヒーローチームに【機関】【組合】【協会】の術者まで参加する攻撃部隊は複数のチームに別れて新開発区の中心部に向かって移動している。
地の利も数も有利な攻撃側に対し、ヘルバッハ率いるヴィランは少数。
なので個々のチームを少数ないし単体で迎撃せざるを得ないヴィランたちを、十分な戦力で各個撃破する算段だ。
舞奈たちのチームメンバーは【掃除屋】と【ディフェンダーズ】の面々。
「この面子でこうやって歩くのも、大概に慣れたな」
「まだ3回目よ」
改造ライフルを肩紐で背負った舞奈が言いつつ笑う。
側には三角帽子をかぶり、戦闘クロークを羽織った明日香。
「hahaha。我々も君たちのような力ある若者と共に戦えて頼もしい限りだ」
「そりゃこっちの台詞だ。頼むぜヒーローさんたち」
「無論だとも」
軽口を叩く舞奈に、マッチョで派手な色のタイツ姿のミスター・イアソンが答え、
「今回はあたしたちだっているんだ! ヴィランなんか屁でもないね!」
小太りなスマッシュポーキーが得意げに両手の円形盾を構えてみせる。
「調子に乗るんじゃないチビ。今回の敵は今までとは勝手が違う」
「そんなことわかってらい! なんだい! デカブツ!」
浅黒い長躯をビキニアーマー姿のタイタニアが足元を見ながらツッコみ、スマッシュポーキーは見上げて怒る。
「ポーキーさんとタイタニアさんは何時も仲が良いですねえ」
ナイスバディをピッチリした白黒のタイツに包んだシャドウ・ザ・シャークが笑う。
その側で、エグイ角度のレオタード姿のドクター・プリヤが周囲を見やり、
「もうちょっと進むと、ヴァーチャルギアの結界の保護範囲を抜けるデス」
「じゃあ、そろそろってことか」
警告する。
ギターを構えた彼女の言葉に舞奈は、一同は表情を引き締めてうなずく。
敵はプリンセスの対抗ウイルスを持っていない(通販でパンツを買ってなければ)。
そしてWウィルスは脂虫を強化し人を害する。
少なくともファイヤーボールにとっては、おそらく外見に反してまともな術者であるデスリーパーにとってもWウィルスは毒になる。
ここより中央では活動できないはずだ。
「どうする? ここらで少し奴らを探すか?」
「いや、このまま進もうと思う。我々を待ち受けているのがスピナーヘッドやファット・ザ・ブシドーなら、もう少し先にいる可能性もある」
「それもそうか」
問いかけた舞奈にミスター・イアソンは即答。
流石はディフェンダーズのリーダーといったところか。
なので皆が再び歩きだした途端――
「――いいや、止まるんだ」
舞奈が制止する。
「「!?」」
同時に目前に何かがあらわれた。
ヒーローたちは驚く。
なにせ直前まで気配もなかったのだ。
近づいて来るのでなく、何の前触れもなく不意に『出現』した。
あまりに通常の物理法則とかけ離れた現象。
だが舞奈にとっては御馴染みの【智慧の大門】だ。
長距離転移の大魔法によって、あらわれたヴィランは2人。
……少なくとも人数は。
「また会えて嬉しいぜ、カワイ子ちゃん」
「この状況でそれ言う度胸は認めるよ」
軽口にやれやれと肩をすくめるティーンエイジャーの少女。
見事な身体のラインを覆うのは、深紅と黒のエグイ角度のレオタード。
同じ色のブーツと手袋。
エッジなデザインのマスクで隠された目元。
ファイヤーボールだ。
「そっちのあんたも、いちおう2度目か」
「マトモニ戦ウノハ初メテダガナ」
もうひとりは氷の巨人……というか人の形をした巨大な氷塊。
出現と同時に地面に霜が張っていた。
こちらはイエティ。
奴とはスピナーヘッドとの戦闘の際に少しだけ会ったことがある。
だが問題なのは、そのサイズ。
「……っていうか、この前よりデカくないか?」
「成長期ダカラナ!」
「そうかい」
ひとりごちた途端に軽口を返されて口元を歪める。
氷の岩のような大口から聞こえる硬い声が、重低音と化して臓腑をえぐる。
見上げると首が痛い。
以前にスピナーヘッドの加勢に来た時よりはるかに大きい。
言うなれば巨大イエティだ。
もっと以前に戦った魔獣ミノタウロスほどもある。
しかも大男なのに、耳も頭も悪くないらしい。
そんなヴィランのコンビに対し、
「わたしとシモン君でファイヤーボールを引き受ける! 皆はイエティを頼む」
ミスター・イアソンの判断は一瞬。
「「「「了解!」」」」
リーダーの指示に従いディフェンダーズは素早く動く。
明日香も続く。
本来ならスマッシュポーキーはファイヤーボールと戦いたかったはずだ。
だが巨大なイエティを相手取るには人手が必要だ。
セオリー通りなら魔術師による強力な打撃を確実なものとするべく、敵に食らいついて動きを止められる人間は多ければ多いほどいい。
ファイヤーボールに必要以上に人員を割く余裕はない。
そして、ひとりで他役をこなせるオールラウンダーはポーキーではなくイアソンだ。
そういった判断が瞬時にできるミスター・イアソン。
その判断を信頼しているメンバーたち。
ディフェンダーズが米国の平和を守る平和維持組織たる所以だ。
「望ムトコロダ!」
「抜かるんじゃないよイエティ!」
ヴィランたちも応じるように二手に別れる。
多勢に無勢のはずだが勝算はあるようだ。
敵も容易く各個撃破はさせてくれないらしい。
「ワカッテルサ! ファイヤーボール! コレヲ使エ!」
「サンキュ!」
落雷のような叫びと共に、イエティの口から何かが吐き出される。
ロケットに似たそれは空中で変形し、巨大なカギ爪を備えた小手と化す。
迎撃の狙いを定める間もなく小手はファイヤーボールの左手に収まる。
ファイヤーボールの専用武器、スラッシュクロー。
映画と寸分違わず同じ獲物だ。
彼女は映画の中で、左手に装備した巨大なクローでヒーローたちを苦戦させた。
高速化の超能力【加速能力】による火球の如く猛突撃に、クローの重さと鋭さを加えた必殺の突撃だ。
映画ではミスター・イアソンの【念力盾】、魔術師の魔術の壁すら破るほど。
「いくよ! ミスター・イアソン!」
「望むところだ! ファイヤーボール!」
身構えるマッチョの全身タイツめがけ、深紅の火球が襲いかかる。
以前に舞奈を襲った際と同じ、攻撃魔法の如く猛スピードの突撃。
超強力な【加速能力】によって空気摩擦で身体が燃えるほど超高速で地を駆ける。
しかも今回のファイヤーボールは重く鋭いスラッシュクローを構えている。
「くっ!?」
イアソンが避ける間もない超高速の火の玉が、展開した【念力盾】に激突。
クローの重量による慣性すら勢いに変えたクリーンヒット。
燃え上がる交通事故のような衝撃が不可視の障壁を激しく揺らす。
一方、障壁に弾かれた火の玉は、
「まだまだ! あたしのターンはこれからだよ!」
ヒーローが態勢を立て直す暇も与えず再突撃。
それも何度も。
重いクローに振り回される様子など微塵もない。
むしろ、こちらが彼女の本領だ。
「今回は手を引いてくれファイヤーボール! ヘルバッハはこの国に不可逆な恐ろしい災厄をもたらそうとしている! そこまでは君の本望じゃないはずだ!」
ミスター・イアソンは防御を固めながら必死で叫ぶ。
「坊ちゃん育ちの正義の味方に! こっちの都合をとやかく言われたくないね!」
ファイヤーボールはにべもなく突っぱねる。
マッチョなヒーローが素早い火球を捉えられないのをいいことに、周囲を飛び回りながら火砲の雨の如くラッシュを仕掛ける。
その一方で……
(……因縁があるのか?)
舞奈は拳銃を抜いたまま動かない。
横から仕掛けるタイミングがつかめない訳じゃない。
何やら訳ありらしい2人の間に、割って入っていいものなのか躊躇したのだ。
舞奈はファイヤーボールが根っからの悪人ではないと知っている。
同じ理解と感情を万人に向ける我らがヒーローの説得に応じて彼女が矛を収めてくれるなら、それに越したことはない。
だがファイヤーボールは容赦ないラッシュを続け……
「……うおぉっ!」
ついにはカギ爪のついた猛スピードの火の玉が【念力盾】を破壊する。
舞奈の思惑より、ヒーローの信念より、敵は容赦がなかったようだ。
防御魔法を無理やり破られたイアソンは、それでも気合で持ちこたえる。
そこに無慈悲な追い打ちをかけようとするファイヤーボールを――
「――せっかく勇気を出して告白したんだ! 可哀想な振り方してやるなよ!」
舞奈が撃つ。
足元を穿った大口径弾から逃れるようにファイヤーボールは跳び退る。
猫のようにしなやかな身のこなしに舞奈が見惚れる間に、
「すまない! シモン君!」
「いいってことよ」
体勢を立て直したミスター・イアソンは再び【念力盾】を展開する。
「デートの誘いはお釈迦になっても! パーティーは始まったばかりだよ!」
不敵な笑みと共に、再びファイヤーボールの猛ラッシュ。
火球の嵐が襲う先は、またしてもミスター・イアソン。
相手からしてもミスター・イアソンと舞奈のタッグは強敵だという自負はある。
調子に乗っているように見えても余裕はないはずだ。
だから各個撃破しようという思惑だろう。
その際に素早く避けるが銃弾以上の火力を持たない舞奈より、攻防共に強力なヒーローたちのリーダーを先に落とそうと考えるのも妥当な判断だ。
「私とてやられっぱなしではないぞ!」
対するイアソンも流石に今度は仕掛ける気になったようだ。だが、
「ハハッ! そいつはどうかな!?」
「おのれ……っ!」
反撃の糸口すらつかめない。
鋭くのばした不可視の刃【念力剣】は容易く避けられる。
ファイヤーボールのスピードに追いつけないのだ。
広く超能力を会得したイアソンと【加速能力】を極めたファイヤーボールの差。
あるいは親子ほど歳の差のある彼と彼女の柔軟性の差。
ミスター・イアソンにもその自覚はあるのだろう、
「ならば! これなら!」
「無駄だね!」
不意打ちのように放たれた【念動弾】。
だが、それすら超スピードで弾幕の外側へと逃げられる。
散弾の如く無数の瓦礫が、火球の残像すら捉えられずに虚空へ消える。
近づかれぬよう牽制程度にはなったようだが、それだけだ。
ミスター・イアソンは歯噛みする。
勝敗以前に、そもそも彼には相手に当てられる手札がない。
おそらく【転移能力】を使わないのも、敵のスピードの前に効果がない上に転移直後の隙を狙われる危険の方が大きいと理解しているからだろう。
一撃必殺の【念力撃】など問題外。対して、
「シモン君! 注意したまえ!」
「わかってるって……おおっと!」
「ちっ! こっちは相変わらず、のらりくらりと避けてくれるね!」
散発的な舞奈への打撃はすべて回避。
そもそも肉体を用いた接近戦は舞奈には効かない。
どんなに素早くても同じだ。
舞奈は周囲の空気の動きを通じて相手の筋肉の動きすら読める。
加えて今の彼女が相手なら、炎が放つ熱気を感じて避けることもできる。だから、
「なんで奴に味方するよ!?」
「あんたにゃあ関係ないっしょ!?」
火球を余裕で回避しながら、それでも耐えかねたように叫ぶ。
ファイヤーボールも叫ぶ。
先ほどのイアソンとの問答で説得が無駄なのは理解した。
だが彼女がヘルバッハに与する理由が知りたいのは本当だ。
素早いラッシュを繰り出すファイヤーボール。
機敏に確実に避ける舞奈。
常識外のスピード勝負に今度はミスター・イアソンが手を出せずに見守る。
急激に消費した超能力を回復する狙いもあるのだろう。
「大ありだ! あのロリコンの黒チン野郎が何しようとしてるか、あんただって知らない訳じゃないだろ!?」
「言ってくれるじゃないのさ!」
火球の如き突撃を跳んで避けつつ叫ぶ舞奈に、振り向きざまに彼女は笑う。
彼女はメインの目標を舞奈に変えたようだ。
だが挑発に気分を害した様子ではない。
ずっと以前に三剣悟に与していた祓魔師のような、痴情のもつれとかではなさそうだと雑な予想をたてる舞奈に、
「仕事なんだよ! あたしたちだって! 食っていくには金がいるんだ!」
先ほど以上の苛烈なラッシュを仕掛けながらファイヤーボールも叫ぶ。
「金も寝床も食い物も! トレーニングも教育も! 湯水みたいに当たり前に使えるそこの坊ちゃんやネメシスたちとは違うんだよ!」
「だから元王族の坊っちゃんに付き合ってるって訳か。糞ったれ!」
「あんただって同じじゃないのか!?」
「……ああそうだな!」
ヤケクソに言い返す勢いで撃つ。
慌てて避けたファイヤーボールの残像を大口径弾が穿つ。
ミスター・イアソンとクイーン・ネメシスが姉弟だったこと。
恵まれた環境で超能力と、少なくとも弟のほうは正義を愛する心を会得したこと。
舞奈が薄々に感づいていたことが真実だと証明された。
対してファイヤーボールが恵まれない環境から這い上がって今の場所にいることも。
あたし『ら』ということは、姉妹か仲間でもいるのだろうか?
そんな彼女の言葉を舞奈は否定できない。
舞奈だって仕事人などという仕事を続けているのは報奨金のためだ。
今回の作戦にしても【機関】から相応額の報酬を約束されている。
小5の舞奈でも、彼女が金のために戦うことを責める筋合いはないことはわかる。
自身の手の届かなかったスタートラインに生まれながら立っていたヒーローを、ファイヤーボールは面白く思っていなかったのだろう。
娘とパパほど年の差のある富裕層に、事あるごとに説教されるなら尚更だ。
それが彼女をヴィランたらしめている理由だというなら納得はできる。
「けどな! 言いたいことがあるのはそっちだけじゃねぇんだよ!」
それでも舞奈は叫ぶ。
「人様の国に土足で入りこんで好き放題にやらかして! 泣き言ひとつで事が済むってなら警察も【機関】もヒーローもいらないだろ!」
叫びながら撃つ。
勝気で陽気なファイヤーボールを、舞奈は決して嫌いじゃない。
何故なら舞奈はカワイ子ちゃんが大好きだ。
過去に大事な女性を、守れなかったから。
だが……だから彼女がヘルバッハの側についているのが気に入らなかった。
ヘルバッハは舞奈の、皆の大事なものを踏みにじった。
奴の行為に如何な理由があろうとも、同情する筋合いなどない。
奴の野望を阻止すべく立ち向かおうとする舞奈たちの前に立ちふさがる敵も。
矛盾する感情を振り切るように、拳銃の銃口が定める先は彼女の締まった腹。
付与魔法を破壊して無力化する算段だ。
身にまとった魔法は消える間際に術者を守るから、本人の負傷は最小限で済む。
致命傷を与える危険を冒してまで背の改造ライフルを使うまでもない。
そして空気の流れで相手の筋肉を読む舞奈は、クロスレンジで仕損じることもない。
避けようもない角度とタイミングの銃撃。だが――
「――何!?」
「そんな事は知ってるよ!」
至近距離から放たれた大口径弾は、深紅のレオタードに達する直前に弾かれる。
「【念力盾】だと?」
ショックを受けるより先に舞奈は跳び退りつつ訝しむ。
前回の戦いで、奴は銃弾を跳ね返せるほどの【念力盾】は使っていなかった。
温存していたのだろうか?
様子見とはいえ防御魔法を出し惜しんで仕掛けてきたとも思えないが。
そう考えると突撃の際に彼女の身体を覆う熱も、空気摩擦のせいだけにしては激しすぎる。まるでCGで加工されているという映画の中の炎のようだ。
「だからあたしとあんたは戦ってるんだろ!?」
「ああそうだな!!」
両者ともさらに睨み合いつつ距離を取る。
視界の端で、もうひとつの戦場を確認する。
少し離れた場所では明日香たちが巨大イエティ相手に苦戦している。
口から吹雪を吐く氷の巨人は想像以上に強敵らしい。
ファイヤーボールのパワーアップの秘密を明日香に相談するのは無理そうだ。
「……イエティの【冷却能力】との相乗効果によるものかもしれない」
舞奈をかばうように前に出ながらミスター・イアソンが語る。
戦えるくらいには回復したらしい。
再会された敵のラッシュを【念力盾】で防ぐ。
加えて彼も見ていただけじゃなく、戦況を有利にすべく考えていたのだろう。
「相乗効果だと?」
舞奈は首をかしげる。
そうしながら思い出したように繰り出される奇襲を回避。
以前に戦った時よりスタミナも明確に増えている。
こちらも初戦からの短期間のトレーニングでどうこうなるレベルではない。
何らかのからくりがあるのは瞭然だ。
「熟練した【冷却能力】は周囲へ熱を放出し、【加熱能力】は周囲から熱を奪う」
「そりゃまあ、わからん話じゃないが」
イアソンの説明に、油断なく身構えながら舞奈は答える。
そうする間にも、イアソンは火球のようなラッシュを防ぐ。
今度は【念動盾】でファイヤーボールを抑えこんで突撃の威力を減じ、シールドの損耗を防ごうとしているようだが……長くもたないのは同じだろう。
そして魔法は魔力で現実を改変する行為だ。
改変の度合いが低い……物理法則に近い現象ほど少ない魔力で実現できる。
つまり、ただ温度を下げるより、熱を周囲に追い出す方が効率的に冷却できる。
温度を上げるより、周囲から熱を集める方が楽に加熱できる。
単に高い魔力を持つのでなく『熟練した』術者は、そうした小狡いテクニックを使って魔法の威力と利便性を押し上げる。
熱や冷気を『操る』ことに特化した呪術師の呪術と似た少しお得な魔法の使い方。
舞奈が所詮は極限まで鍛えただけの小5女子の力で、物理法則を利用して魔法を越える結果を出すのと同じか。さらに、
「冷えた空間で【冷却能力】はより少ない魔力で威力が増し、【加熱能力】は熱い空間で容易に強化できる。姉上……クイーン・ネメシスもそうした効果を利用していた」
「イーヴル・ブラストって奴が」
「気づいていたか」
「まあな」
続くマッチョな極彩色のマントの背中の言葉に笑う。
クイーン・ネメシスが灼熱の拳【炎熱撃】から繰り出す必殺技。
以前にミスター・イアソンを一撃で吹っ飛ばしたところを見た。
だが実際は【炎熱撃】の直後に神速で行使した【氷結撃】を放っていた。
同じことが、炎の突撃ファイヤーボールと氷の巨人イエティの間で行われていると彼は考えているのだろう。
そう言う話ならイエティが今まで以上に大きく手強い理由もわかる。
実は映画であまり組んだところを見たことがないファイヤーボールとイエティ。
だが、それは両者の間にチームワークがないと断ずる理由にはならない。
現実のヴィランは映画で見せない手札を持っていると、今の舞奈は知っている。
……だが、そういうことなら舞奈にもひとつ思い浮かぶことがある。
「あたしはゲシュタルトってのが怪しいと思う」
「リンカー姉弟が使っていた?」
「ああ」
ラッシュを回避しながらの舞奈の言葉に、防御しながらイアソンが答える。
ゲシュタルトとは【能力増幅】を複数人で用いた活用法のひとつだ。
超能力を高める超能力を互いにを行使し合って効果を何倍にも増幅させる。
行使者同士の波長が合わないと使えない繊細な技術だが、その効果は絶大。
映画ではリンカー姉弟の十八番だった。
だが目前の炎と氷のヴィランが使えないと決めつける理由もない。
「ファイヤーボールの超能力の腕前では【能力増幅】の応用は荷が重いだろう」
言いつつイアソンは熟考し、
「だが対となる超能力者が超能力をこめた媒体があれば不可能では……くっ!」
答えた途端、【念力盾】が再び砕ける。
今度は突撃の余波を防げ切れずに吹き飛ばされたイアソン。
彼をかばうように割って入りながら舞奈は拳銃を両手で構える。
「内緒話は終わったかい!?」
「ああ! ちょうど今、話がまとまったところだ!」
笑いながらラッシュを繰り出すファイヤーボール。
同じ表情を浮かべて突撃をすべて避けながら舞奈も答える。
奴とイエティが互いの超能力を高め合っているなら、媒体はスラッシュクローだ。
ファイヤーボールの必殺の武器は、普段はイエティの氷の中にあるらしい。
だから――
「――苦戦してるようだな」
『そっちこそ』
舞奈は胸元の通信機に叫ぶ。
気がそれたと思ったか真正面から跳びこんでくる火の玉を跳んで避けつつ、
「考えがある。そっちとこっちで同時に打撃を叩きこめるか?」
『……オーケー。30秒後に仕掛けるわ』
「そうこなくっちゃ!」
提案に対する明日香の返事は……判断は一瞬だった。
「話は通した。行くぜ!」
「心得た!」
舞奈の言葉に、【転移能力】で体勢を立て直したイアソンは笑う。
そして2人は同時に動く。
「今度は全力で行くぞ!」
ミスター・イアソンが猛スピードで食らいつく。
「何度やっても……ちょっ!?」
ファイヤーボールの口元が驚愕に歪む。
全力の【加速能力】による瞬間的な超高速によってなら、ミスター・イアソンは僅かな間だけファイヤーボールの速度に対抗することも可能。
彼の多彩な超能力は紛うことない本物だ。
しかも何処からともなくギターの音色。
向こうにいるプリヤだろう。
おそらく使っているのは【魔力倍増】。
あちらはあちらでイエティに総攻撃を加える仲間をサポートしているのだ。
ロックンロールを力とする悪魔術は補助魔法を容易に広範囲に行使できる。
それによりイアソンの【加速能力】も強化されている。
ファイヤーボールの軌道が少しばかり弱気にずれる。
屈強な極彩色のマッチョに十八番を奪われて焦っているのだ。
だが、それだけじゃない。
「シモン君!」
「わかってる!」
ヒーローの叫びと同時に、拳銃の内側から風。
銃弾にイアソンの【念力撃】がこめられたのだ。
「あんたたち何を……ってまさか!」
「たぶん、あんたが思った通りだ」
口元に笑みを浮かべつつ、舞奈はファイヤーボールを狙い撃つ。
もちろん銃口が定める先はスラッシュクロー。
迫るイアソンに対処するのに必死な彼女の左腕に当てる程度は造作ない。
だから次の瞬間――
「――しまった!?」
ファイヤーボールの左腕が爆発。
ミスター・イアソンはパワフルだが速度は人並。
対して舞奈は確実に避けて当てるが、所詮、得物は拳銃だ。
だが、それは舞奈が超能力によるサポートを受けなければの話だ。
大口径弾の弾頭にこめられ圧縮された強大な超能力。
斥力場ともエネルギーとも異なる、だが急速に破裂し空気を押しのける何か。
爆発そのものが微かな意思と感情を放つ、なりかけの魔法のような現象。
いわば物理現象と霊障の中間点。
超能力で生み出した【念動力】のパワーを収束させ叩きつける必殺の攻撃手段。
ファイヤーボールとイエティの間に余人の知らない絆があるのと同じ。
舞奈とミスター・イアソンも、組むのはこれが初めてじゃない。
彼の最大の攻撃魔法を銃弾に込めるやり方だって、使うのは2度目だ。
だからファイヤーボールの左腕から、ひしゃげた小手がはじけ飛ぶ。
スラッシュクローを失ったヴィランは左手を押さえながらよろよろと立ち止まる。
ずいぶん痛かったようだが、手そのものは無事な様子にほっとする。
だが戦う力は残されていない。
衝撃に耐えた反動で【加速能力】が消え、身体に宿る魔力も枯渇したのだろう。
そして、それは彼女と共に自身を高め合っていたパートナーも同じだったらしい。
少し離れた場所で、氷の巨人が崩れ落ちた。
「負けたよ。煮るなり焼くなり好きにしな」
諦めた口調で両手を掲げるファイヤーボールに、
「君の降伏を認めよう。変身を解除したまえ。超能力も残り少ないはずだ」
少し息を切らせながらも、いい年をした気高い坊ちゃんヒーローは紳士的に答えた。
ヘルバッハ討伐部隊は早朝から新開発区への侵攻を開始した。
ヒーローチームに【機関】【組合】【協会】の術者まで参加する攻撃部隊は複数のチームに別れて新開発区の中心部に向かって移動している。
地の利も数も有利な攻撃側に対し、ヘルバッハ率いるヴィランは少数。
なので個々のチームを少数ないし単体で迎撃せざるを得ないヴィランたちを、十分な戦力で各個撃破する算段だ。
舞奈たちのチームメンバーは【掃除屋】と【ディフェンダーズ】の面々。
「この面子でこうやって歩くのも、大概に慣れたな」
「まだ3回目よ」
改造ライフルを肩紐で背負った舞奈が言いつつ笑う。
側には三角帽子をかぶり、戦闘クロークを羽織った明日香。
「hahaha。我々も君たちのような力ある若者と共に戦えて頼もしい限りだ」
「そりゃこっちの台詞だ。頼むぜヒーローさんたち」
「無論だとも」
軽口を叩く舞奈に、マッチョで派手な色のタイツ姿のミスター・イアソンが答え、
「今回はあたしたちだっているんだ! ヴィランなんか屁でもないね!」
小太りなスマッシュポーキーが得意げに両手の円形盾を構えてみせる。
「調子に乗るんじゃないチビ。今回の敵は今までとは勝手が違う」
「そんなことわかってらい! なんだい! デカブツ!」
浅黒い長躯をビキニアーマー姿のタイタニアが足元を見ながらツッコみ、スマッシュポーキーは見上げて怒る。
「ポーキーさんとタイタニアさんは何時も仲が良いですねえ」
ナイスバディをピッチリした白黒のタイツに包んだシャドウ・ザ・シャークが笑う。
その側で、エグイ角度のレオタード姿のドクター・プリヤが周囲を見やり、
「もうちょっと進むと、ヴァーチャルギアの結界の保護範囲を抜けるデス」
「じゃあ、そろそろってことか」
警告する。
ギターを構えた彼女の言葉に舞奈は、一同は表情を引き締めてうなずく。
敵はプリンセスの対抗ウイルスを持っていない(通販でパンツを買ってなければ)。
そしてWウィルスは脂虫を強化し人を害する。
少なくともファイヤーボールにとっては、おそらく外見に反してまともな術者であるデスリーパーにとってもWウィルスは毒になる。
ここより中央では活動できないはずだ。
「どうする? ここらで少し奴らを探すか?」
「いや、このまま進もうと思う。我々を待ち受けているのがスピナーヘッドやファット・ザ・ブシドーなら、もう少し先にいる可能性もある」
「それもそうか」
問いかけた舞奈にミスター・イアソンは即答。
流石はディフェンダーズのリーダーといったところか。
なので皆が再び歩きだした途端――
「――いいや、止まるんだ」
舞奈が制止する。
「「!?」」
同時に目前に何かがあらわれた。
ヒーローたちは驚く。
なにせ直前まで気配もなかったのだ。
近づいて来るのでなく、何の前触れもなく不意に『出現』した。
あまりに通常の物理法則とかけ離れた現象。
だが舞奈にとっては御馴染みの【智慧の大門】だ。
長距離転移の大魔法によって、あらわれたヴィランは2人。
……少なくとも人数は。
「また会えて嬉しいぜ、カワイ子ちゃん」
「この状況でそれ言う度胸は認めるよ」
軽口にやれやれと肩をすくめるティーンエイジャーの少女。
見事な身体のラインを覆うのは、深紅と黒のエグイ角度のレオタード。
同じ色のブーツと手袋。
エッジなデザインのマスクで隠された目元。
ファイヤーボールだ。
「そっちのあんたも、いちおう2度目か」
「マトモニ戦ウノハ初メテダガナ」
もうひとりは氷の巨人……というか人の形をした巨大な氷塊。
出現と同時に地面に霜が張っていた。
こちらはイエティ。
奴とはスピナーヘッドとの戦闘の際に少しだけ会ったことがある。
だが問題なのは、そのサイズ。
「……っていうか、この前よりデカくないか?」
「成長期ダカラナ!」
「そうかい」
ひとりごちた途端に軽口を返されて口元を歪める。
氷の岩のような大口から聞こえる硬い声が、重低音と化して臓腑をえぐる。
見上げると首が痛い。
以前にスピナーヘッドの加勢に来た時よりはるかに大きい。
言うなれば巨大イエティだ。
もっと以前に戦った魔獣ミノタウロスほどもある。
しかも大男なのに、耳も頭も悪くないらしい。
そんなヴィランのコンビに対し、
「わたしとシモン君でファイヤーボールを引き受ける! 皆はイエティを頼む」
ミスター・イアソンの判断は一瞬。
「「「「了解!」」」」
リーダーの指示に従いディフェンダーズは素早く動く。
明日香も続く。
本来ならスマッシュポーキーはファイヤーボールと戦いたかったはずだ。
だが巨大なイエティを相手取るには人手が必要だ。
セオリー通りなら魔術師による強力な打撃を確実なものとするべく、敵に食らいついて動きを止められる人間は多ければ多いほどいい。
ファイヤーボールに必要以上に人員を割く余裕はない。
そして、ひとりで他役をこなせるオールラウンダーはポーキーではなくイアソンだ。
そういった判断が瞬時にできるミスター・イアソン。
その判断を信頼しているメンバーたち。
ディフェンダーズが米国の平和を守る平和維持組織たる所以だ。
「望ムトコロダ!」
「抜かるんじゃないよイエティ!」
ヴィランたちも応じるように二手に別れる。
多勢に無勢のはずだが勝算はあるようだ。
敵も容易く各個撃破はさせてくれないらしい。
「ワカッテルサ! ファイヤーボール! コレヲ使エ!」
「サンキュ!」
落雷のような叫びと共に、イエティの口から何かが吐き出される。
ロケットに似たそれは空中で変形し、巨大なカギ爪を備えた小手と化す。
迎撃の狙いを定める間もなく小手はファイヤーボールの左手に収まる。
ファイヤーボールの専用武器、スラッシュクロー。
映画と寸分違わず同じ獲物だ。
彼女は映画の中で、左手に装備した巨大なクローでヒーローたちを苦戦させた。
高速化の超能力【加速能力】による火球の如く猛突撃に、クローの重さと鋭さを加えた必殺の突撃だ。
映画ではミスター・イアソンの【念力盾】、魔術師の魔術の壁すら破るほど。
「いくよ! ミスター・イアソン!」
「望むところだ! ファイヤーボール!」
身構えるマッチョの全身タイツめがけ、深紅の火球が襲いかかる。
以前に舞奈を襲った際と同じ、攻撃魔法の如く猛スピードの突撃。
超強力な【加速能力】によって空気摩擦で身体が燃えるほど超高速で地を駆ける。
しかも今回のファイヤーボールは重く鋭いスラッシュクローを構えている。
「くっ!?」
イアソンが避ける間もない超高速の火の玉が、展開した【念力盾】に激突。
クローの重量による慣性すら勢いに変えたクリーンヒット。
燃え上がる交通事故のような衝撃が不可視の障壁を激しく揺らす。
一方、障壁に弾かれた火の玉は、
「まだまだ! あたしのターンはこれからだよ!」
ヒーローが態勢を立て直す暇も与えず再突撃。
それも何度も。
重いクローに振り回される様子など微塵もない。
むしろ、こちらが彼女の本領だ。
「今回は手を引いてくれファイヤーボール! ヘルバッハはこの国に不可逆な恐ろしい災厄をもたらそうとしている! そこまでは君の本望じゃないはずだ!」
ミスター・イアソンは防御を固めながら必死で叫ぶ。
「坊ちゃん育ちの正義の味方に! こっちの都合をとやかく言われたくないね!」
ファイヤーボールはにべもなく突っぱねる。
マッチョなヒーローが素早い火球を捉えられないのをいいことに、周囲を飛び回りながら火砲の雨の如くラッシュを仕掛ける。
その一方で……
(……因縁があるのか?)
舞奈は拳銃を抜いたまま動かない。
横から仕掛けるタイミングがつかめない訳じゃない。
何やら訳ありらしい2人の間に、割って入っていいものなのか躊躇したのだ。
舞奈はファイヤーボールが根っからの悪人ではないと知っている。
同じ理解と感情を万人に向ける我らがヒーローの説得に応じて彼女が矛を収めてくれるなら、それに越したことはない。
だがファイヤーボールは容赦ないラッシュを続け……
「……うおぉっ!」
ついにはカギ爪のついた猛スピードの火の玉が【念力盾】を破壊する。
舞奈の思惑より、ヒーローの信念より、敵は容赦がなかったようだ。
防御魔法を無理やり破られたイアソンは、それでも気合で持ちこたえる。
そこに無慈悲な追い打ちをかけようとするファイヤーボールを――
「――せっかく勇気を出して告白したんだ! 可哀想な振り方してやるなよ!」
舞奈が撃つ。
足元を穿った大口径弾から逃れるようにファイヤーボールは跳び退る。
猫のようにしなやかな身のこなしに舞奈が見惚れる間に、
「すまない! シモン君!」
「いいってことよ」
体勢を立て直したミスター・イアソンは再び【念力盾】を展開する。
「デートの誘いはお釈迦になっても! パーティーは始まったばかりだよ!」
不敵な笑みと共に、再びファイヤーボールの猛ラッシュ。
火球の嵐が襲う先は、またしてもミスター・イアソン。
相手からしてもミスター・イアソンと舞奈のタッグは強敵だという自負はある。
調子に乗っているように見えても余裕はないはずだ。
だから各個撃破しようという思惑だろう。
その際に素早く避けるが銃弾以上の火力を持たない舞奈より、攻防共に強力なヒーローたちのリーダーを先に落とそうと考えるのも妥当な判断だ。
「私とてやられっぱなしではないぞ!」
対するイアソンも流石に今度は仕掛ける気になったようだ。だが、
「ハハッ! そいつはどうかな!?」
「おのれ……っ!」
反撃の糸口すらつかめない。
鋭くのばした不可視の刃【念力剣】は容易く避けられる。
ファイヤーボールのスピードに追いつけないのだ。
広く超能力を会得したイアソンと【加速能力】を極めたファイヤーボールの差。
あるいは親子ほど歳の差のある彼と彼女の柔軟性の差。
ミスター・イアソンにもその自覚はあるのだろう、
「ならば! これなら!」
「無駄だね!」
不意打ちのように放たれた【念動弾】。
だが、それすら超スピードで弾幕の外側へと逃げられる。
散弾の如く無数の瓦礫が、火球の残像すら捉えられずに虚空へ消える。
近づかれぬよう牽制程度にはなったようだが、それだけだ。
ミスター・イアソンは歯噛みする。
勝敗以前に、そもそも彼には相手に当てられる手札がない。
おそらく【転移能力】を使わないのも、敵のスピードの前に効果がない上に転移直後の隙を狙われる危険の方が大きいと理解しているからだろう。
一撃必殺の【念力撃】など問題外。対して、
「シモン君! 注意したまえ!」
「わかってるって……おおっと!」
「ちっ! こっちは相変わらず、のらりくらりと避けてくれるね!」
散発的な舞奈への打撃はすべて回避。
そもそも肉体を用いた接近戦は舞奈には効かない。
どんなに素早くても同じだ。
舞奈は周囲の空気の動きを通じて相手の筋肉の動きすら読める。
加えて今の彼女が相手なら、炎が放つ熱気を感じて避けることもできる。だから、
「なんで奴に味方するよ!?」
「あんたにゃあ関係ないっしょ!?」
火球を余裕で回避しながら、それでも耐えかねたように叫ぶ。
ファイヤーボールも叫ぶ。
先ほどのイアソンとの問答で説得が無駄なのは理解した。
だが彼女がヘルバッハに与する理由が知りたいのは本当だ。
素早いラッシュを繰り出すファイヤーボール。
機敏に確実に避ける舞奈。
常識外のスピード勝負に今度はミスター・イアソンが手を出せずに見守る。
急激に消費した超能力を回復する狙いもあるのだろう。
「大ありだ! あのロリコンの黒チン野郎が何しようとしてるか、あんただって知らない訳じゃないだろ!?」
「言ってくれるじゃないのさ!」
火球の如き突撃を跳んで避けつつ叫ぶ舞奈に、振り向きざまに彼女は笑う。
彼女はメインの目標を舞奈に変えたようだ。
だが挑発に気分を害した様子ではない。
ずっと以前に三剣悟に与していた祓魔師のような、痴情のもつれとかではなさそうだと雑な予想をたてる舞奈に、
「仕事なんだよ! あたしたちだって! 食っていくには金がいるんだ!」
先ほど以上の苛烈なラッシュを仕掛けながらファイヤーボールも叫ぶ。
「金も寝床も食い物も! トレーニングも教育も! 湯水みたいに当たり前に使えるそこの坊ちゃんやネメシスたちとは違うんだよ!」
「だから元王族の坊っちゃんに付き合ってるって訳か。糞ったれ!」
「あんただって同じじゃないのか!?」
「……ああそうだな!」
ヤケクソに言い返す勢いで撃つ。
慌てて避けたファイヤーボールの残像を大口径弾が穿つ。
ミスター・イアソンとクイーン・ネメシスが姉弟だったこと。
恵まれた環境で超能力と、少なくとも弟のほうは正義を愛する心を会得したこと。
舞奈が薄々に感づいていたことが真実だと証明された。
対してファイヤーボールが恵まれない環境から這い上がって今の場所にいることも。
あたし『ら』ということは、姉妹か仲間でもいるのだろうか?
そんな彼女の言葉を舞奈は否定できない。
舞奈だって仕事人などという仕事を続けているのは報奨金のためだ。
今回の作戦にしても【機関】から相応額の報酬を約束されている。
小5の舞奈でも、彼女が金のために戦うことを責める筋合いはないことはわかる。
自身の手の届かなかったスタートラインに生まれながら立っていたヒーローを、ファイヤーボールは面白く思っていなかったのだろう。
娘とパパほど年の差のある富裕層に、事あるごとに説教されるなら尚更だ。
それが彼女をヴィランたらしめている理由だというなら納得はできる。
「けどな! 言いたいことがあるのはそっちだけじゃねぇんだよ!」
それでも舞奈は叫ぶ。
「人様の国に土足で入りこんで好き放題にやらかして! 泣き言ひとつで事が済むってなら警察も【機関】もヒーローもいらないだろ!」
叫びながら撃つ。
勝気で陽気なファイヤーボールを、舞奈は決して嫌いじゃない。
何故なら舞奈はカワイ子ちゃんが大好きだ。
過去に大事な女性を、守れなかったから。
だが……だから彼女がヘルバッハの側についているのが気に入らなかった。
ヘルバッハは舞奈の、皆の大事なものを踏みにじった。
奴の行為に如何な理由があろうとも、同情する筋合いなどない。
奴の野望を阻止すべく立ち向かおうとする舞奈たちの前に立ちふさがる敵も。
矛盾する感情を振り切るように、拳銃の銃口が定める先は彼女の締まった腹。
付与魔法を破壊して無力化する算段だ。
身にまとった魔法は消える間際に術者を守るから、本人の負傷は最小限で済む。
致命傷を与える危険を冒してまで背の改造ライフルを使うまでもない。
そして空気の流れで相手の筋肉を読む舞奈は、クロスレンジで仕損じることもない。
避けようもない角度とタイミングの銃撃。だが――
「――何!?」
「そんな事は知ってるよ!」
至近距離から放たれた大口径弾は、深紅のレオタードに達する直前に弾かれる。
「【念力盾】だと?」
ショックを受けるより先に舞奈は跳び退りつつ訝しむ。
前回の戦いで、奴は銃弾を跳ね返せるほどの【念力盾】は使っていなかった。
温存していたのだろうか?
様子見とはいえ防御魔法を出し惜しんで仕掛けてきたとも思えないが。
そう考えると突撃の際に彼女の身体を覆う熱も、空気摩擦のせいだけにしては激しすぎる。まるでCGで加工されているという映画の中の炎のようだ。
「だからあたしとあんたは戦ってるんだろ!?」
「ああそうだな!!」
両者ともさらに睨み合いつつ距離を取る。
視界の端で、もうひとつの戦場を確認する。
少し離れた場所では明日香たちが巨大イエティ相手に苦戦している。
口から吹雪を吐く氷の巨人は想像以上に強敵らしい。
ファイヤーボールのパワーアップの秘密を明日香に相談するのは無理そうだ。
「……イエティの【冷却能力】との相乗効果によるものかもしれない」
舞奈をかばうように前に出ながらミスター・イアソンが語る。
戦えるくらいには回復したらしい。
再会された敵のラッシュを【念力盾】で防ぐ。
加えて彼も見ていただけじゃなく、戦況を有利にすべく考えていたのだろう。
「相乗効果だと?」
舞奈は首をかしげる。
そうしながら思い出したように繰り出される奇襲を回避。
以前に戦った時よりスタミナも明確に増えている。
こちらも初戦からの短期間のトレーニングでどうこうなるレベルではない。
何らかのからくりがあるのは瞭然だ。
「熟練した【冷却能力】は周囲へ熱を放出し、【加熱能力】は周囲から熱を奪う」
「そりゃまあ、わからん話じゃないが」
イアソンの説明に、油断なく身構えながら舞奈は答える。
そうする間にも、イアソンは火球のようなラッシュを防ぐ。
今度は【念動盾】でファイヤーボールを抑えこんで突撃の威力を減じ、シールドの損耗を防ごうとしているようだが……長くもたないのは同じだろう。
そして魔法は魔力で現実を改変する行為だ。
改変の度合いが低い……物理法則に近い現象ほど少ない魔力で実現できる。
つまり、ただ温度を下げるより、熱を周囲に追い出す方が効率的に冷却できる。
温度を上げるより、周囲から熱を集める方が楽に加熱できる。
単に高い魔力を持つのでなく『熟練した』術者は、そうした小狡いテクニックを使って魔法の威力と利便性を押し上げる。
熱や冷気を『操る』ことに特化した呪術師の呪術と似た少しお得な魔法の使い方。
舞奈が所詮は極限まで鍛えただけの小5女子の力で、物理法則を利用して魔法を越える結果を出すのと同じか。さらに、
「冷えた空間で【冷却能力】はより少ない魔力で威力が増し、【加熱能力】は熱い空間で容易に強化できる。姉上……クイーン・ネメシスもそうした効果を利用していた」
「イーヴル・ブラストって奴が」
「気づいていたか」
「まあな」
続くマッチョな極彩色のマントの背中の言葉に笑う。
クイーン・ネメシスが灼熱の拳【炎熱撃】から繰り出す必殺技。
以前にミスター・イアソンを一撃で吹っ飛ばしたところを見た。
だが実際は【炎熱撃】の直後に神速で行使した【氷結撃】を放っていた。
同じことが、炎の突撃ファイヤーボールと氷の巨人イエティの間で行われていると彼は考えているのだろう。
そう言う話ならイエティが今まで以上に大きく手強い理由もわかる。
実は映画であまり組んだところを見たことがないファイヤーボールとイエティ。
だが、それは両者の間にチームワークがないと断ずる理由にはならない。
現実のヴィランは映画で見せない手札を持っていると、今の舞奈は知っている。
……だが、そういうことなら舞奈にもひとつ思い浮かぶことがある。
「あたしはゲシュタルトってのが怪しいと思う」
「リンカー姉弟が使っていた?」
「ああ」
ラッシュを回避しながらの舞奈の言葉に、防御しながらイアソンが答える。
ゲシュタルトとは【能力増幅】を複数人で用いた活用法のひとつだ。
超能力を高める超能力を互いにを行使し合って効果を何倍にも増幅させる。
行使者同士の波長が合わないと使えない繊細な技術だが、その効果は絶大。
映画ではリンカー姉弟の十八番だった。
だが目前の炎と氷のヴィランが使えないと決めつける理由もない。
「ファイヤーボールの超能力の腕前では【能力増幅】の応用は荷が重いだろう」
言いつつイアソンは熟考し、
「だが対となる超能力者が超能力をこめた媒体があれば不可能では……くっ!」
答えた途端、【念力盾】が再び砕ける。
今度は突撃の余波を防げ切れずに吹き飛ばされたイアソン。
彼をかばうように割って入りながら舞奈は拳銃を両手で構える。
「内緒話は終わったかい!?」
「ああ! ちょうど今、話がまとまったところだ!」
笑いながらラッシュを繰り出すファイヤーボール。
同じ表情を浮かべて突撃をすべて避けながら舞奈も答える。
奴とイエティが互いの超能力を高め合っているなら、媒体はスラッシュクローだ。
ファイヤーボールの必殺の武器は、普段はイエティの氷の中にあるらしい。
だから――
「――苦戦してるようだな」
『そっちこそ』
舞奈は胸元の通信機に叫ぶ。
気がそれたと思ったか真正面から跳びこんでくる火の玉を跳んで避けつつ、
「考えがある。そっちとこっちで同時に打撃を叩きこめるか?」
『……オーケー。30秒後に仕掛けるわ』
「そうこなくっちゃ!」
提案に対する明日香の返事は……判断は一瞬だった。
「話は通した。行くぜ!」
「心得た!」
舞奈の言葉に、【転移能力】で体勢を立て直したイアソンは笑う。
そして2人は同時に動く。
「今度は全力で行くぞ!」
ミスター・イアソンが猛スピードで食らいつく。
「何度やっても……ちょっ!?」
ファイヤーボールの口元が驚愕に歪む。
全力の【加速能力】による瞬間的な超高速によってなら、ミスター・イアソンは僅かな間だけファイヤーボールの速度に対抗することも可能。
彼の多彩な超能力は紛うことない本物だ。
しかも何処からともなくギターの音色。
向こうにいるプリヤだろう。
おそらく使っているのは【魔力倍増】。
あちらはあちらでイエティに総攻撃を加える仲間をサポートしているのだ。
ロックンロールを力とする悪魔術は補助魔法を容易に広範囲に行使できる。
それによりイアソンの【加速能力】も強化されている。
ファイヤーボールの軌道が少しばかり弱気にずれる。
屈強な極彩色のマッチョに十八番を奪われて焦っているのだ。
だが、それだけじゃない。
「シモン君!」
「わかってる!」
ヒーローの叫びと同時に、拳銃の内側から風。
銃弾にイアソンの【念力撃】がこめられたのだ。
「あんたたち何を……ってまさか!」
「たぶん、あんたが思った通りだ」
口元に笑みを浮かべつつ、舞奈はファイヤーボールを狙い撃つ。
もちろん銃口が定める先はスラッシュクロー。
迫るイアソンに対処するのに必死な彼女の左腕に当てる程度は造作ない。
だから次の瞬間――
「――しまった!?」
ファイヤーボールの左腕が爆発。
ミスター・イアソンはパワフルだが速度は人並。
対して舞奈は確実に避けて当てるが、所詮、得物は拳銃だ。
だが、それは舞奈が超能力によるサポートを受けなければの話だ。
大口径弾の弾頭にこめられ圧縮された強大な超能力。
斥力場ともエネルギーとも異なる、だが急速に破裂し空気を押しのける何か。
爆発そのものが微かな意思と感情を放つ、なりかけの魔法のような現象。
いわば物理現象と霊障の中間点。
超能力で生み出した【念動力】のパワーを収束させ叩きつける必殺の攻撃手段。
ファイヤーボールとイエティの間に余人の知らない絆があるのと同じ。
舞奈とミスター・イアソンも、組むのはこれが初めてじゃない。
彼の最大の攻撃魔法を銃弾に込めるやり方だって、使うのは2度目だ。
だからファイヤーボールの左腕から、ひしゃげた小手がはじけ飛ぶ。
スラッシュクローを失ったヴィランは左手を押さえながらよろよろと立ち止まる。
ずいぶん痛かったようだが、手そのものは無事な様子にほっとする。
だが戦う力は残されていない。
衝撃に耐えた反動で【加速能力】が消え、身体に宿る魔力も枯渇したのだろう。
そして、それは彼女と共に自身を高め合っていたパートナーも同じだったらしい。
少し離れた場所で、氷の巨人が崩れ落ちた。
「負けたよ。煮るなり焼くなり好きにしな」
諦めた口調で両手を掲げるファイヤーボールに、
「君の降伏を認めよう。変身を解除したまえ。超能力も残り少ないはずだ」
少し息を切らせながらも、いい年をした気高い坊ちゃんヒーローは紳士的に答えた。
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