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第18章 黄金色の聖槍

ヴィラン強襲4 ~銃技vs魔力破壊

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 支部でもうひとりのSランク椰子実つばめやニュット、イリアらと話し、スカイフォールの預言に関する嬉しくもない新事実を知った帰り道。
 統零とうれ町の灰色の通りを歩きつつ、まるで白昼夢のように、ふと舞奈はレナを想う。
 正確には花屋でいつか見た彼女の夢を、再び脳裏に蘇らせる。

 文明が崩壊した20年後のの未来。
 レナもまた舞奈と同じように装脚艇ランドポッドを駆り、舞奈の敵としてあらわれた。
 特機を操る彼女は現実の彼女と同じルーン魔術師だった。
 対して舞奈には射撃の腕前、装脚艇操手ポッドテイマーとしての技量で少しばかり分があった。

 敵としてふるわれた彼女の魔術に、舞奈達の陣営は何度も苦しめられた。
 装脚艇ランドポッドの力をも借りて粒子ビームを、火球を放ち、姿を消し、分身して身を守ることのできる彼女に対抗できるのは舞奈ただひとりだった。

 そんな両者は園香への想いを軸に和解。
 舞奈とレナは無二のパートナーになった。

 そして2人は、廃墟の世界を支配する敵の首領を倒すべく本拠地に乗りこんだ。
 天高くそびえる塔へと向かい、舞奈は魔改造された装脚艇ランドポッドの出力で、レナは飛翔の魔術で空を駆けた。

 だが辿り着いた塔の上層階で、彼女もまた逝った。
 倒したはずのた幹部の不意打ちから舞奈をかばって被弾した。
 舞奈は彼女を守れなかった。

 ただひとり遺された舞奈は敵の首領を討ち、現実の世界に帰還した。

 そして夢から醒めた後、園香の側に彼女がいた。
 園香と並んで笑う彼女を見やりながら、もう二度と彼女を失わないと決意した。
 そのはずだった――

「――よっレナちゃんじゃないか」
「あら、志門舞奈じゃないの」
 物思いから醒め、ふと気づくとレナがいた。
 舞奈は何食わぬ調子で笑いかける。

 旧市街地と新開発区の境目には検問があって、2人の守衛が守っている。
 その側で手持無沙汰にだべりながら、誰かを――舞奈を待っていたらしい。
 そんな彼女に付き従っているのは太っちょイワンと上半身マッチョのジェイク。
 今日の護衛は彼ららしい。

 スカイフォールの預言について、その続きについて、問おうかどうか躊躇する。
 だが結局、舞奈はそれをレナに話せなかった。
 不幸中の幸いか【精神読解マインド・リード】ゴードン氏はいない。
 今日は直接戦闘力を重視した人選らしい。
 だから普段通りの表情を取り繕いつつ、

「……入りたいのか?」
 新開発区を指差す。

「まあ、お付きの方が異能力者なんで、通ることに問題はないんですがね」
 迷彩服に身を包んだスキンヘッドの守衛が苦笑する。
 隣の女の守衛も無言のままアハハと笑う。

「だが待っていればサィモン・マイナーが来るんだから、同行したほうが安全だろう」
「あんたは護衛の矜持ってものをだな……」
 上半身マッチョのジェイクの言葉に舞奈も苦笑する。

 だがまあ主の安全を最優先に考えてるのだから、これ以上なく忠実な護衛ではある。
 なにせ舞奈は自他とも認める最強Sランクだ。
 同じ方向に進む――というか帰るのがわかっているなら同行しない手はない。
 なので――

「――にしても、なんでまた急に新開発区なんかに」
「来たことがなかったからよ」
 護衛たちを従えて歩きながら、レナは側の舞奈に答える。

 数刻後、舞奈とレナ達は廃墟の街を歩いていた。
 レナの目的が新開発区への侵入そのものだからだ。

「何度か試してた占術の結果が出たのよ。それによると、わたしたちの最後の戦いの舞台はこの廃墟になるわ」
「だから下見しておきたかったって訳か」
「ええ」
 毅然と語る。
 彼女はヴィランとWウィルスを巡る一連の事件を調査すべく、この国にやってきた。
 今も敵の尻尾をつかめぬまま、それでも彼女は自分のできることをしている。

 時空の彼方から情報を召喚する【天啓オッフェンバールング】を儀式に使えば占術になる。
 その儀式で、彼女は自身の運命を垣間見たのだろうか?
 Wウィルスから皆を守るために自身が、姉であるルーシアが、あるいはその両方が贄になる未来に彼女は抗うつもりなのだろうか?
 あるいは受け入れたうえで、遺される者の為に何かを成そうとしているのだろうか?

 それとも彼女は占術で別の未来を見たのだろうか?
 実は預言なんてデタラメで、彼女らは彼女らのまま大いなる敵との決戦に臨むと。

 まさかとは思うが、単に儀式が失敗して無関係な未来を見たか?

 舞奈はちらりとレナを見やる。
 彼女の様子は普段と変わらないように見える。
 舞奈の視線に気づいたか、彼女は不審げに舞奈を見やる。
 くりくりとした大きなつり目も、目じりが垂れているので威圧感はない。
 舞奈は誤魔化すように視線を前へと戻す。

 再び彼女に占術のことを、スカイフォールの預言のことを尋ねるべきか迷った。
 けれど、その結果によっては彼女と舞奈の、あるいはルーシアとの確執の原因となって状況が悪化するのではないかと柄にもなく躊躇して――

「――その前に、お客さんみたいだ」
 言いつつ立ち止まる。
 レナや騎士たちも倣う。

 舞奈が見やった先、廃ビルの陰から何か……否、誰かがあらわれた。
 泥人間や泥犬ではない。

「ほう。気づいたでゴワスか」
「……そりゃまあ、そんだけでかいとなあ」
 相手の言葉に苦笑を返す。
 気配を察するとか、空気の流れを読むとかする必要すらない。
 現にレナや護衛たちも、薄々感づいてはいたようだ。
 油断なく身構える。
 イワンは得物であるハンドミキサーを取り出す。

 相手はひとり。
 信じられないくらい肥え太った男だ。
 縦にも横にもイワンよりひと回り大きい。
 常識を超えた肉塊の如く肥満体が身に着けているのはTバックに似たまわし一丁。
 手には日本刀。
 顔には歌舞伎のような奇怪なペイントをしている。
 そんな奇天烈な男を見やり、

「奴は……!」
 ジェイクは、側のイワンは気づいたようだ。
 そんな様子を見やって肉塊は嗤う。

「その通り! オデ様は魔法殺しのファット・ザ・ブシドー!」
「謝れ! いろんな所に!」
 相手の名乗りに、舞奈も思わず吠え返す。

 そういえば以前に流し見たディフェンダーズの映画にそんな奴がいた。
 映画の中でもふざけた奴だと思っていたが、実物はなお酷い。
 そんなふざけた肉塊は、

「スカイフォールの王女! 覚悟するでゴワス!」
 いきなり叫びながら日本刀を振りかざして走り来る。

「話が早くて結構」
 舞奈はジャケットをひるがえして拳銃ジェリコ941を抜きつつ身構える。

 奴の目的は王女の暗殺か?
 人気のない新開発区にレナが訪れるのを敵も占術で知ったのだろうか?
 正直、レナが狙いなら舞奈と合流する前に検問で襲ったほうが成功率は高いと思うのだが、今そこにツッコんでやる必要もない。

「レナ様! 見ていてください!」
 叫びつつ、舞奈の側を縫ってジェイクが奔る。
 右手の指輪から【放電剣エレクトロ・ソード】による稲妻の剣がのびる。

 反対側にイワンが続く。
 見た目には変化がないが、【不屈の鎧コージャ・プローチヌィ】で衣服が強化されているはずだ。
 右手でうなりをあげるハンドミキサーも同様だろう。
 回転する薄い刃は普通なら戦闘には不向きだが、【装甲硬化ナイトガード】の異名を持つ武具強化の異能をもってすれば、敵の肉を斬り裂き骨を削る騎士のための武器になる。
 相手が非装甲であるなら効果は絶大。だが、

「魔法殺しっつったろ! 相手は【能力消去アンチ・サイ】だ!」
 舞奈は叫ぶ。

 これと同じ状況を前に見た。
 以前に【グングニル】と共闘した時だ。
 奴らは敵を侮り【断罪発破ボンバーマン】で、【魔力破壊マナイーター】で壊滅した。

 異能力【魔力破壊マナイーター】は魔法や異能を消し去る効果を持つ。
 超能力サイオンとしての呼び名は【能力消去アンチ・サイ】。
 奴の前では超能力サイオンに頼ったジェイクやイワンは無力。

 逝った昔の仲間の二の舞を踏ませまいと動く舞奈の側で――

「――宿命ウィアド!」
 レナの鋭い施術。同時に、

「オデ様に超能力サイオンは効かないでゴワスよ!」
 ファット・ザ・ブシドーが嗤う。
 歌舞伎のようなペイントを施された奇抜な顔の、両目が光る。

 途端、先行したジェイクの手からのびていた稲妻の剣がゆらぐ。
 イワンも思わず立ち止まる。
 異能力者が異能力を使用する際にはアドレナリンが過剰に分泌され、身体能力を高めると同時に恐怖心を拭い去る。超能力サイオンも同じだ。
 そんな副次効果による昂揚を超能力サイオンそのものと同時に失い、ショックを受けたか。
 あの時の【グングニル】と同じだ。
 それでも思うほど怯んでいないのは、彼らが大人の超能力者サイキックだからだろうか?

 超能力サイオンを消された2人めがけ、肉塊は日本刀を振り上げながら駆け寄る。
 見た目と裏腹に速い。
 ファット・ザ・ブシドーは鋭い狂刃をイワンめがけて振り下ろし――

「――おおっと!」
 左手に幅広のナイフを手にした舞奈が受け止める。
 ファット・ザ・ブシドーは怯む。
 肥満体の全体重と勢いを乗せた斬撃を片手で止められたからだ。
 舞奈は笑う。
 その左右にジェイクとイワンが並ぶ。

「おおい! 無茶せんでくれ」
 あんたたちの超能力サイオンは消えてるんだろ?
 苦笑した途端、

「ナ!?」
 無防備なイワンの脇腹に日本刀が突き刺さる。だが――

「――ゴワス!?」
「――おっ?」
 イワンは少しつんのめるのみ。
 逆にファット・ザ・ブシドーの刀が砕けた。
 そこで舞奈は気づいた。
 イワンの【不屈の鎧コージャ・プローチヌィ】は消えてはいない。むしろ――

「――なるほど」
 舞奈は笑う。

 先ほどレナが使ったのは【魔術増強フェアシュテルケン・マギー】。
 魔法や異能力を強化する魔術だ。
 彼女は先ほど、その魔術により騎士たちの超能力サイオンを強化したのだろう。
 見やるとジェイクの雷剣も普段より長く激しくまたたいている。

 つまり彼らの超能力サイオンはレナの魔法の影響下にある。
 故に消去に対する抵抗もレナが肩代わりできる。
 そして魔術師ウィザードの魔術は超能力者サイキックには破れない。

 よくよく考えればジェイクたちも映画で奴のことは知っているはずだ。
 大人なんだし、策もなしにつっこんだりはしないだろう。
 彼もイワンも主であるレナを信頼していて、レナは信頼に足る魔術師ウィザードだ。

「……おのれプリヤやシャドウ・ザ・シャークと同じレベルの術者でゴワスか!」
 ファット・ザ・ブシドーは跳び退きつつ、歌舞伎のペイントを歪めて激昂する。
 次の瞬間――

「――これならどうでゴワスか!」
「飛んだんだナ!」
 前触れもなく宙に浮かび上がった。
 施術も集中も予備動作もない。

 イワンや舞奈たちが唖然と見上げる前で、肉塊は中空まで上昇する。
 そこで風船のようにたゆたいながら、

「喰らうでゴワス!」
 何処からともなく取り出した巨大な何かをばらまく。
 人の大きさほどもある、歪な十字の形をした金属片だ。

 舞奈は拳銃ジェリコ941で金属片を撃ち落とす。
 金属の質が悪いのか大口径弾45ACPで木端微塵になるくらい脆いのが幸いだ。
 だが、あの硬度から落とされた物品が、直撃すればひとたまりもないのも事実。

「信じられんことしやがる!」
「イワン! 頭をかばいなさい! 魔弾ウルズ!」
 レナも【雷弾ブリッツ・シュラーク】で粒子ビームを放って金属片を撃ち落とす。

「ええい! ちょこざいでゴワスな!」
「それはこっちの台詞よ! 魔弾ウルズ! 魔弾ウルズ!」
 さらにレナは続けざまに粒子ビームを放つ。
 金属片を迎撃するついでにデブそのものを撃ち落とそうと思ったらしい。
 だがファット・ザ・ブシドーは器用に飛び回って避ける。
 下から上を狙い撃ちするのが難しいのは攻撃魔法エヴォケーションも同じだ。
 加えて不利を覆すような飽和攻撃を、たぶんレナは使えない。
 だが、それ以上に――

「――【鷲翼気功ビーストウィング】の動きじゃないな」
 的確に金属片を撃ち落としつつ、舞奈はひとりごちて口元を歪める。

 重力も慣性も無視した不自然な機動には見覚えがある。
 おそらくケルト魔術の【飛翔フライト】だろう。
 因果律を操作し、現実に対して『飛んでいる』という結果を強制する魔術だ。

 ファット・ザ・ブシドーは次々に巨大な鉄片を落とす。
 舞奈は拳銃ジェリコ941で、レナは【雷弾ブリッツ・シュラーク】で迎撃する。

「糞ったれ!」
 思わず悪態をつく。
 見やると奴は虚空から金属片を取り出している。
 こちらは時空の狭間に所有物を忍ばせるケルト魔術【空間の小倉庫ディメンジョナル・ホルダー】か。

 つまり奴もケルト魔術を行使できる魔道具アーティファクトを、何者かから与えられている。
 そいつが奴らのボスなのかはわからないが。
 奴らのボスとやらが、消息不明のバッハ王子なのかも不明だが。
 舞奈は無意識に紋章を目で追おうとして……

「……指輪がない?」
 口元を歪める。
 舞奈の優れた視力なら、この距離で飛び回る肉塊の指輪の有無くらいはわかる。
 だが、でっぷり太った力士の指に指輪はない。

 舞奈が訝しむ間、イワンとジェイクは成す術もなく頭を抱えている。
 それは仕方がない。

 一方、レナは続けざまに【雷弾ブリッツ・シュラーク】を放つ。
 ルーン魔術の施術は他の流派と比べてかなり早い。
 飽和攻撃とまではいかなくとも、矢継ぎ早に仕掛ければ撃墜のチャンスはある。
 舞奈がほくそ笑んだ矢先にビームがファット・ザ・ブシドーの土手っ腹を捉え――

「――何っ!?」
 消えた。

「魔法が消された!?」
「【魔法消散ディスペル・マジック】だ! 糞ったれ! 指輪かなんかで使ってるらしい!」
 驚くレナに、口元を歪めながら答える。
 要は以前に戦った青騎士スピナーヘッドと同じだ。
 奴のレドームみたいに、複数の魔術がこめられた魔道具アーティファクトを持っているのだろう。
 そのひとつが魔法や異能を強固に消し去る【魔法消散ディスペル・マジック】。
 奴に超能力者サイキックとしてのプライドはないらしい。

 レナの魔術で奴を撃ち落とすのは難しい。
 舞奈は一瞬だけ思考を巡らせ、

「【浮遊レヴィタツィオン】で、あたしをあそこまで飛ばせるか?」
「できるけど、あんまり長くは無理よ? それに……」
「……消去されないように踏ん張っててくれ」
「わかったわ! 騎馬ライゾー!」
 素早く弾倉マガジンを交換する舞奈の要請に応じ、レナも最速で施術する。
 レナは勝気で自信家だが、その自負に納得できる程度に有能で判断力もある。

 ……いつか見た夢の中と同じように。

 一瞬の違和感の直後、舞奈の身体が浮かびあがる。
 幸いにも魔法で空を飛ぶのは初めてじゃない。
 3年前にピクシオンのドレスの力で空中戦をしたことがある。
 しばらく以前のマンティコア戦でも飛んだ。
 だから術のコントロールを預けられた自身の意思で斥力場を操り、高度を上げる。

 眼下でレナが短剣を抜くのが見える。
 敵の消去に対して消去で抵抗するつもりだろう。

「またせたな!」
 舞奈はジャケットをはためかせて上昇しながら拳銃ジェリコ941を構える。
 気づいた肉塊が刀を構える。

「おいどんの刀で切り払ってやるでゴワス!」
「やってみろよ!」
 発砲。
 ファット・ザ・ブシドーが構えた日本刀が根元からへし折れる。

「ゴワス!?」
「いや何で驚くんだよ? 弾丸たまを刀に当てたかったんだろう?」
 口元に笑みを浮かべながら撃つ。撃つ。撃つ。
 でっぷりと肥え太った力士の腹に孔が開く。だが、

「効いてない?」
 大口径弾45ACPは肉塊に阻まれて埋まるのみ。

「Wウィルスで強化されてやがるな」
 舞奈は口元を歪め、

「レナ! 銃弾に攻撃魔法エヴォケーションをかけてくれ!」
「わかったわ!」
 レナの施術と同時に銃の内側から熱。
 ルーン魔術【火球フォイヤー・クーゲル】。
 本来はルーンを刻んだ石を投げて爆発させる術らしい。
 同じ術を銃弾にかけるのも容易だ。

 ファット・ザ・ブシドーは【空間の小倉庫ディメンジョナル・ホルダー】から新たな日本刀を取り出し――

「――予備があるなら、もうちょっと手際よく抜けよ!」
「ゴワス!?」
 舞奈が背後に回りこんでいた。

「あんたがボスから借りた魔法で、この魔法は殺せるか?」
 無防備な背後めがけて撃つ。

「グフッ!」
 力士の尻が爆発する。
 銃弾にこめられた攻撃魔法エヴォケーションを、尻穴めがけてぶちこんでやったのだ。
 さしもののWウィルスで強化された肉の鎧も体内からの爆発は防げないはずだ。
 眼下でレナが凄い嫌な顔をするが気にしない。

 だがケツから火を噴きながらもファット・ザ・ブシドーは空中で舞奈に向き直る。
 対する舞奈は舌打ちしつつ、さらなる攻撃を加えようと身構え――

「――グフウッ!?」
 何かが飛んできて巨大な肉塊に激突した。
 続けざまにもうひとつ。
 どちらも正確には人だ。
 最初のは両手に円形盾を構えた小太りな全身タイツの少女。
 2つ目はビキニの衣装から浅黒い鍛え抜かれた四肢をのばした長身の女性。
 スマッシュポーキーとタイタニアだ。

 2つの肉の砲弾が直撃したファット・ザ・ブシドーはたまらず地面に激突する。
 その側に着地した2人のヒーローが、そのまま肉塊を殴る蹴る。

「あんたたちも手伝ってくれ!」
「おっ? おう、わかった!」
「了解なんだナ!」
 上半身マッチョと太っちょもヒーローたちに倣う。
 男女4人でボコボコだ。
 でっぷり太ったファット・ザ・ブシドーは仰向けに倒れた状態でも高さがあるので小柄なポーキーは円形盾で連続スマッシュ。
 長身で屈強なタイタニアの重機のような蹴りが顔面を容赦なく打ち据える。
 割と酷い絵面だ。

「無茶苦茶するなあ」
「魔法消去が得意な敵への対処としては的確だと思うわ」
「まあ、そりゃそうなんだがなあ……」
 ヤンキーの喧嘩みたいな様相に、舞奈はやれやれと肩をすくめる。
 まあファット・ザ・ブシドーの口元からは煙草の悪臭がしたし、どんな目に遭わせようが構わないと言えば構わないのだが……

「……指輪を隠し持ってるとしたら、まわしの中か」
「剥ぐ気!?」
「生かしたまま捕まえたいんだよ。ヴィランどもの情報を持ってるはずだ」
 そいつを上手く使えば、誰も犠牲にせずにWウィルスの被害を防げるかもしれない。
 そんな舞奈の思惑を知ってか知らずか……

「……パンツ剥いでやろうよ!」
「品がないぞ。ポーキー」
「どうせ今でも裸みたいなもんだろ? それにカメラも回ってない」
「ええ……」
 レナがうわあ……みたいに見やる中、円形盾で殴りまくってたスマッシュポーキーが肉塊の焼け焦げたまわしの尻めがけて手をのばし――

「――ひいっ!? 退散でゴワス! Please,Merlin!」
 ファット・ザ・ブシドーの姿が消えた。
 一瞬のことだった。
 指輪を取り出すどころか予備動作すらなかった。

「自由に使いやがって! どうなってやがるんだ?」
「わかったんだナ! 奴の指輪は体の内にあったんだナ!」
 吐き捨てた舞奈に答えたイワンに、

「野郎! いやしいデブかよ!」
 思わずツッコむ。

「食べたんじゃなくて、外科手術か何かで埋めこんだんだと思うけど」
 側でレナが肩をすくめる。
 だが今さら気づいてもどうしようもない。
 だから舞奈はヒーローたちに向き直り、

「やけに狙いが正確だったが、【獣撃ブルート】か?」
 高等魔術師が用いる、巨大な生物の砲弾を放つ疑似呪術の名を出して問う。

「よくわかったな」
「あの野郎の手口は何となくわかるからな……」
 長身なタイタニアがうむとうなずく。
 彼女らを飛ばしたのはKAGEだろうと当たりをつけたら、その通りだった。

「……あんたも苦労させられたらしいな」
「まあな……」
 タイタニアの言葉に苦笑し、

「奴は今、何処にいるんだ?」
「さあ……」
「おい……」
 続く答えに肩をすくめる。

 スカイフォールの預言のことを、言動はともかく知識と人脈は豊富な彼女に尋ねてみようと思ったのだが、そう簡単にはいかなそうだ。
 そもそもレナと一緒に聞いていい話かどうかもわからないが。

 そんなことを考えて、舞奈はやれやれと肩をすくめた。
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