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第18章 黄金色の聖槍
ヴィラン強襲3-1 ~ケルト魔術vs超能力
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「マーサさんの居場所はわかるのか?」
「何かあったのがわかっただけ! マーサの使い魔がいきなり消えたの!」
舞奈とレナは、讃原町の大通りを走る。
「……やっぱりさっきのか。マーサさん携帯とか持ってるか?」
「持ってるわよ! でも繋がらないの!」
「じゃあほら……斥候とか出せないのか? こっちから」
「使い魔を使えるのはマーサだけ!」
「頼りにならねぇな」
「うるさいわね!」
詳細を問いただそうとしてキレられる。
だがレナの言い分ももっともだ。
ルーン魔術に使い魔や式神を常用する手札はないと聞いている。
例外は【勇者召喚】。
つまり【武具と戦士の召喚】技術の集大成である大魔法だけだ。
だからケルト魔術師のマーサは使い魔で王女を護衛できるが、逆は無理だ。
「じゃあ何処に向かってるんだよ?」
「大使館よ! マーサも騎士たちも普段はそこにいるわ!」
「そんなもんあったのか。何処だ?」
「確か……統零町」
「走るのか……」
走って走れない距離じゃないが、時間がかかる。
舞奈はちらりとレナを見やる。
おそらく彼女は【移動】を使えない。
本来、長距離転移の大魔法は高度な技術だ。
少しばかり腕が立つだけの術者には手の届かない領域だ。
巣黒の面子の――非常に癪だがニュットの力量が異常なのだ。
このまま向かいながら、途中でタクシーが見つかる可能性に賭けるか?
あるいは【機関】支部なり明日香に連絡するか?
支部になら転移ができる術者が何人かいる。
何なら近所にいる小夜子も【供物の門】を使って転移が可能だ。
それより、むしろ明日香の家は統零《とうれ》だ。
考えながら、携帯を取り出そうとした途端――
「――うわっ!?」
目前に何かが躍り出た。
虫だ。
舞奈は虫を手で払う。
だが虫は舞奈の手をかわし、ミーンミーンと鳴き声をあげつつ飛び回る。
(こんな時期にセミだと?)
舞奈は訝しみ、
「何してるのよ!?」
「こいつは普通の虫なのか?」
「使い魔!? ……でもマーサのじゃない。マーサが召喚する使い魔は猫よ」
「やっぱりか」
レナの返事を聞くが早いか、飛び去るセミを追って駆け出す。
否、セミは周囲を飛び回りながら舞奈が追いつくのを待っていた。
おそらく……否、十中八九、舞奈たちを何処かに案内する算段だろう。
そこにマーサがいるとしたら、時間をかけて大使館に向かっても無駄足だ。だから、
「だから違うって!」
「あたしたちを何処かに呼ぶ気だ!」
「でも、ぜんぜん別の方向よ!?」
「大使館には明日香に連絡して向かわせくれ!」
「あっちょっと!」
慌てるレナを尻目に、舞奈はセミを追って走りだした。
その一方で……
「……くっ」
丈の長いメイドの衣装を着こんだ女性が後ずさる。
2人の王女の世話役でもあるメイドのマーサは、栗色の髪をした妙齢の美女だ。
そんな彼女を追い詰めているのは、
「迂闊だなァ! 所詮プリンセスのお付きの自分は狙われないと油断したかァ!?」
甲冑を着こんだひとりの騎士。
スピナーヘッド。
不吉なデザインをした青い甲冑を着こんだ男だ。
構えているのは同じ意匠の剣と盾。
首の上では円盤型をした頭部がレドームのようにゆっくりと回転している。
「だがなァ俺様は気が立ってるんだァ!」
スピナーヘッドは顔のない頭で叫ぶ。
「誰かを痛ぇ目に遭わせなきゃ気が済まねェ! 『ボス』の手前、一般市民に手出しはできねぇが魔道士のテメェなら別だァ!」
激情を表現するようにレドーム状の円盤が高速で回る。
あわせて頭部の各所のランプが神経質に点滅する。
「2人がかりでプリンセスを襲い損ねたのが、そんなに気にいらないですか?」
マーサはプリンセスのメイドに相応しい凛とした声色で語りかける。
先日、ファイヤーボールが舞奈を、デスリーパーがレナとルーシアを襲ったのと同じタイミングでスピナーヘッドは仲間であるイエティと共に麗華の襲撃を試みた。
だがディフェンダーズのタイタニアとスマッシュポーキーに阻まれた。
いっそ挑発するような口調と言葉に、
「何だとォ!? 貴様ァ!」
青い騎士は思わず激昂する。
その隙に――
「――Dear,Dana.Ice shield!」
マーサは短杖を構えて短い呪句を唱える。
途端、目前に氷の盾が出現する。
即ち【結氷の盾】。
冷たい大地を象徴する冬の女神ダーナを奉じ、強固な氷の盾を創造する魔術。
マーサはセオリー通りに氷盾を創造して攻撃に備えたのだ。
こちらもプリンセスに仕えるに相応しく極限まで簡略化された優雅な施術。
クラフターらケルト呪術師は冷気や雷等の元素そのものに呼びかけて術と成す。
だがケルト魔術師は他の魔術師と同じように、ウェールズやアイルランドに伝わる魔術の神や魔術師を幻視することで奇跡を成す。
ケルト呪術師の在り方が呪術それ自体と近しいのと同じ。
マーサたちケルト魔術師の心の形は魔術そのものに近い。
それでも宙に浮かぶ氷盾は2枚。
彼女はレナや明日香ほど魔術の才に恵まれている訳じゃない。
力押しで奴を倒すには無理がある。
だからこそ氷盾の魔術を維持しながら優雅に言葉を続ける。
「ですが狙う相手を変えたところで同じですよ。ディフェンダーズも、この国の魔術結社も、貴方たちヴィランの悪行を逃すことはありません。それに――」
「――それはどうかなァ!?」
対してスピナーヘッドは嘲笑うように剣を構える。
青い騎士の激情を、レドームの狂ったような回転速度と点滅が表現する。
「奴らがあらわれる前に貴様を殺しちまえば良いのさァ! プリンセスほど警護は厳しくないと思っていたが、まさかひとりでのこのこ出てきてくるとはなァ!」
騎士の嘲笑に、流石のマーサも歯噛みする。
マーサは【生物召喚】で生み出した猫の使い魔を使い、護衛のいない間のレナ王女を守護し、危険を察知し他の騎士に伝える役割を担っていた。
だが方々でヴィランの強襲を退けた今、少しばかり油断していたのは事実だ。
レナが別格の扱いをしているという異国の街に興味が沸いた。
そして、そこに住む人々に。
なので近場からの護衛という名目で大使館を抜け出し、街を散策していた。
その結果が、このザマだ。
使い魔は、主の危機に反応して護衛対象であるレナに救援を求めた直後に消えた。
メイドにあるまじき失態だ。
だがマーサは表情だけは落ち着き払ってスピナーヘッドに向き直る。
「志が低いですね。それすら貴方にできるのか疑問に思いますが」
「できるともさァ! 貴様程度ならなァ!」
スピナーヘッドは叫びながら周囲に目をやる。
マーサも釣られて目を配らせる。
先ほどまでは山の手ながらもこの国の様式の家々が並んでいた通り。
だが今ではレンガ造りの洋風の街並みへと変貌している。
そう。戦術結界だ。
特定範囲の空間を周囲から隔離する大魔法。
隔離された空間に出入りする手段は限定される。
ひとつは強い魔力で結界を破壊する。
あるいは高度な魔法で結界に穴を開けるか、術者を倒して結界を解除する。
簡単に対象を孤立させ、あるいは周囲に自身の存在を隠したまま魔法戦闘が可能という利便性故に、多くの術者によって用いられる。
マーサもその存在は熟知している。
もちろんマーサが施術したものではない。
そもそもマーサは大魔法なんて使えない。
戦闘しながら結界に穴を開けるほどの技術もない。
つまり逃げ場はない。だからこそ――
「――Fire ball!」
先手必勝。
敵に短杖を突きつけ、マーサは火の玉を放つ。
即ち【召喚火球】。
炎と鍛冶を司る春の女神ブリギットを幻視し、爆発する火球と化して放つ魔術。
「何をォ!?」
スピナーヘッドは鎧と同じデザインの大きな盾を構える。
火球は不吉な盾に激突する。
王女の攻撃魔法には及ばないまでも、攻撃型手榴弾に匹敵する爆発。
轟音。
紅蓮の爆炎。だが……
「……危なかったぜェ!」
魔術の炎は青い盾を焦がすのみ。
青い騎士のレドームが安堵するように回る。
奴の盾も甲冑も、普通の鉄の板ではない。
身に着けた武具を強化する超能力【要塞化】で強化されているのだ。
だが、そんなことはマーサも承知済み。
「Dear,Merlin.Mirror Image!」
敵が爆発を凌ぐ隙に、マーサは短い呪句を唱える。
才には劣るマーサが習練の末に会得した、ルーン魔術に匹敵する施術の速さ。
それは優雅なだけでなく。魔法戦闘でのアドバンテージにもなる。
だから次の瞬間、その姿が歪んでマーサは4人になる。
即ち【鏡像分身】。
ルーン魔術【鏡像】と同等の術だ。
被弾を肩代わりする分身を生み出すことで身を守る。
しかも【鏡像】が重力場で空間を歪めて同位体を出現させるのに対し、当術は【時空の制御】により根源的に術者の身代わりを創る。
「だが無駄だぜェ! そんなものはなァ!」
スピナーヘッドは剣を構えて走り寄る。
不吉なデザインの刃が、氷の盾を叩き割る。
さしものの分身も斬られれば消える。
3回斬れば、この術で4回目を防げないことをスピナーヘッドも知っている。
だが次の瞬間、マーサの姿が4人まとめてかき消える。
続けざまに振るわれたスピナーヘッドの剣が宙を切る、
こちらは【空間跳躍】。
「糞ッ!?」
怒声と共に、スピナーヘッドのレドームが回る。
ケルト魔術は欧州で広く知られている魔術の流派だ。
アイルランドを発祥の地とする偉大なる魔術の流派は高等魔術に匹敵する習得難易度の高さを特徴とし、知名度に比べて会得できる者は少ない。
故にケルト魔術を修めた術者は、他流派の追従を許さぬ火力と応用力を誇る。
そんな強力な魔術もまた3種の技術を内包する。
作りだした魔力を炎や氷・稲妻に転化する【エレメントの創造と召喚】。
魔力を強化し、魔力と源を同じくする精神を操る【魔力と精神の支配】。
そして空間と因果律を歪めることによる【時空の制御】。
先ほどの【鏡像分身】は【時空の制御】の応用で術者の生存性を高める魔術だ。
時間と空間を制するために奉ずるは、偉大なる伝説の魔術師マーリン。
そして【空間跳躍】も同様。
因果律操作による短距離転移であり、【智慧の門】の基礎技術でもある。
空間の抜け道を作る一般的な転移と異なり『転移した』という結果を世界に強制させる技術であるため安全性が高く、妨害が困難であることも特徴だ。
そんな魔術で消えたマーサは、次の瞬間、数メートル後方に出現する。
「女ァ! 時間稼ぎのつもりかァ!?」
「まあ、そんなところですよ」
怒り猛る甲冑。
対するマーサの口元には笑み。
未熟とはいえマーサは多彩な魔術を操る魔術師。
所詮は妖術師の一派である超能力者が相手であれば、逃げ続けるだけなら可能。
その間にディフェンダーズなり、この国の魔術結社が騒ぎを察知するはずだ。
この巣黒市には大使館のみならず、【組合】の中央ロッジが存在する。
如何に結界を張ったところで彼らに対して完全な隠匿は不可能。
そして大使館はスカイフォールの関係者を、【組合】は術者を守護する。
本来ならば術者を相手の無茶は『ボス』とやらの意向とは関係なく自殺行為だ。
マーサは術者としては未熟ながら、組織を利用して小狡く立ち回ることができる。
なればこそ魔法の国で、プリンセスのメイドなどやっていられる。
しかも幸いなことに敵の得物は剣ひとつ。
機動力も【空間跳躍】による転移には及ばない。
つまり短距離転移を繰り返して逃げ回る相手に手出しはできない。
高度な魔術を連発することで疲れ果てる前に救援が訪れればこちらの勝ち。
それがマーサの算段だ。
スピナーヘッドは剣を構えて走り来る。
敵が剣の間合いに入るタイミングを見計らって、再度【空間跳躍】を行使する。
今度はスピナーヘッドの真後ろ。
容易な術ではないが、ギリギリまで引き付けて使うのなら複数回の行使も可能だ。
青い甲冑は見失ったマーサを探してレドームを回し――
「――!?」
真後ろを向いて斬りかかる。
マーサは慌てて転移。場所はほとんどランダム。
だが次の瞬間、騎士は目前まで迫っていた。
短距離転移の先を見透かしていたような隙のない移動。
再度の転移が間に合わない。
不吉なデザインの剣が一閃。
4人のマーサのうちひとりが光の粉になって消える。
「ハハッ! 油断したなァ! 女ァ!!」
スピナーヘッドのレドームが、歓喜するように激しく回る。
「まさか【戦闘予知】!?」
マーサは驚く。
口にしたのは戦闘中に刹那の未来を術者に見せる超能力の名。
それにより着地点を読まれたのだととっさに判断する。
だがマーサは諦めない。
タネを見抜けば対策できない異能ではない。
「Dear,Brigit.Flame shield!」
得意の素早い施術で目前に火球を生み出す。
スピナーヘッドの剣が火球を斬り裂く。
「何ッ!?」
火球は爆発して騎士を怯ませる。
即ち【火炎の盾】。
爆炎で騎士の目がくらんだ隙にマーサは【空間跳躍】を行使して後ずさる。
「馬鹿のひとつ覚えで逃げ回るかァ!? 女!」
「有効な手段には違いないでしょう?」
猛る騎士を弄ぶように、マーサは口元に笑みを浮かべてみせる。
敵の冷静さを少しでも削ぐべく意識して浮かべた笑み。
マーサは仕草で敵の冷静さを削ぐことができるが、自身は挑発に乗せられない。
それもマーサの処世術だ。
それに、まんざらハッタリという訳でもない。
幸いにして結界の中は相応に広い。
常に相手から遠ざかるように後退を続ける余地は多分にある。
何なら家の周囲を逃げ回っても良い。
そう思った次の瞬間――
「――ハハッ! 遅いなァ!」
「【加速能力】まで!?」
甲冑は信じられないようなスピードで駆け寄る。
マーサは驚愕する。
若い男が複数の異能力や超能力を操るのに不向きなのは国内外を問わない。
目前の男は、その理を覆すほど努力家にも天才にも見えない。
なので【要塞化】以外にまともな超能力は使えないと思っていた。
だが――
「――チッ! 面倒な手品だなァ!」
スピナーヘッドの剣が2人目のマーサを斬り裂く。
分身は光と化して消える。
ケルト魔術【鏡像分身】で生み出された術者と寸分違わぬ分身は、術者が被るはずの被弾や打撃を引き受ける。
この効果は因果律の操作によるものなので、流れ弾が術者本体に当たることはない。
だが分身の数には限りがある。
2つを破壊されたマーサの分身はあとひとつ。
それでもマーナはスピナーヘッドに短杖を突きつける。
今度は呪句すらなく施術。
次の瞬間、杖の先に光と共に、2つの何かがあらわれる。
猫だ。
即ち【生物召喚】。
因果律を操作し、そこに術者の望む生物が『存在した』ことにする魔術。
マーサが最も手慣れた召喚魔法だ。
そんな魔術で創られた2匹の猫が騎士めがけて跳びかかる。
「何だとッ!?」
虚を突かれて驚いた騎士は剣を振る。
刃は1匹の猫を斬り裂き、猫は光になって消える。
だが、もう1匹は騎士の頭に命中。
そのままレドームに貼りついて爪を立てる。
魔術師が火球や稲妻を放てば、騎士は盾で防御する。
武具強化の超能力【要塞化】の影響下にある盾は攻撃魔法を防ぎきる。
だが召喚魔法で創造した生物をけしかければ、騎士は剣で斬ろうとする。
隙ができる。
刀剣で戦う相手の思考を逆手に取った小技だ。
「おのれッ!? この畜生がァ!」
視界を塞がれた(?)騎士がでたらめに剣を振り回して慌てる隙に、
「Ice coffin!」
マーサは次なる呪句を紡ぐ。
途端、突きつけた短杖の先から光線がほとばしる。
即ち【凍氷の棺牢】。
霜と氷塊を創造して対象を縛める魔術だ。
熟達すれば、その名通り敵を氷の棺に閉じこめることができる。
だがマーサの技術ではそこまでの効果はない。それでも、
「何だとォ!?」
氷の茨が青い甲冑を這い回って凍らせる。
鎧が【要塞化】で強化されていようが関係ない。
しかも魔術で生み出された氷の茨を人間の筋力で砕くことはできない。
万が一にも敵が【強化能力】を使ったら、上から連続で施術して氷の茨で氷漬けにすることも不可ではない。
そう考えて安堵の笑みを浮かべるマーサ。
「だがなァ!!」
スピナーヘッドのレドームが回る。
途端、魔法が押し返される反応と同時に氷の茨が溶け落ちた。
一瞬だった。
「【能力消去】!?」
マーサは驚愕する。
魔法消去は魔力と魔力、技術と技術のぶつかり合いだ。
消去を試みる側の魔力と技術が、魔法を消されそうになって抵抗する側より劣っていれば、術具や術者その者の身体が消去されて破壊される。
そして魔術師の施術は、妖術師のそれより強度も技術も上のはず。
マーサがケルト魔術師としては未熟とはいえ、超能力者に抵抗する間もなく魔法を消されるなど!
驚くマーサが避ける間もなく剣が一閃。
2人のマーサがひとりになる。
もはや彼女の身代わりとなる分身はいない。
新たな防御魔法を行使する余裕もない。
何故なら魔術師にとって、施術の源となるのは意思の力だ。
周囲の環境や身体に宿る魔力を利用できない魔術師にとって意思だけが力の源だ。
現実を上書きする魔力の礎に成り得るほど強固なイメージを幻視し続ける術者の負担は計り知れない。
なのでマーサのように才に劣る術者が術を連発すると脳が急激に疲労する。
後ずさろうとしたマーサは丈の長いスカートの裾に足を取られて尻餅をつく。
プリンセスのメイドにあるまじき失態。
疲労が限界に達しているのだ。
そんなマーサを見下ろし。
「散々手こずらせてくれたがなァ! 女ァ!」
スピナーヘッドはレードームを回転させる。
あわせて頭の各部が歓喜を表現するように点灯する。
「これで仕舞いだァ!」
青い騎士は勝ち誇った叫び声をあげつつ不吉なデザインの剣を振り上げ――
「――!?」
剣が砕けた。
「な……んだと!?」
根元からへし折られた剣を、騎士は驚愕の表情で見つめる。
対するマーサが見やる先、青い不吉な騎士の足元に、折れた刃が突き刺さる。
甲冑と同じデザインの鉄隗に、すっくと立つ2つの人影が映りこむ。
ひとりは、まばゆい金色をした長いツインテールをなびかせた少女。
もうひとりはピンク色のジャケットを着こみ、拳銃を構えた少女。
「ほら見ろ、ビンゴじゃねぇか!」
片手で構えた拳銃の銃口から硝煙を立ち昇らせながら、少女は不敵に笑った。
「何かあったのがわかっただけ! マーサの使い魔がいきなり消えたの!」
舞奈とレナは、讃原町の大通りを走る。
「……やっぱりさっきのか。マーサさん携帯とか持ってるか?」
「持ってるわよ! でも繋がらないの!」
「じゃあほら……斥候とか出せないのか? こっちから」
「使い魔を使えるのはマーサだけ!」
「頼りにならねぇな」
「うるさいわね!」
詳細を問いただそうとしてキレられる。
だがレナの言い分ももっともだ。
ルーン魔術に使い魔や式神を常用する手札はないと聞いている。
例外は【勇者召喚】。
つまり【武具と戦士の召喚】技術の集大成である大魔法だけだ。
だからケルト魔術師のマーサは使い魔で王女を護衛できるが、逆は無理だ。
「じゃあ何処に向かってるんだよ?」
「大使館よ! マーサも騎士たちも普段はそこにいるわ!」
「そんなもんあったのか。何処だ?」
「確か……統零町」
「走るのか……」
走って走れない距離じゃないが、時間がかかる。
舞奈はちらりとレナを見やる。
おそらく彼女は【移動】を使えない。
本来、長距離転移の大魔法は高度な技術だ。
少しばかり腕が立つだけの術者には手の届かない領域だ。
巣黒の面子の――非常に癪だがニュットの力量が異常なのだ。
このまま向かいながら、途中でタクシーが見つかる可能性に賭けるか?
あるいは【機関】支部なり明日香に連絡するか?
支部になら転移ができる術者が何人かいる。
何なら近所にいる小夜子も【供物の門】を使って転移が可能だ。
それより、むしろ明日香の家は統零《とうれ》だ。
考えながら、携帯を取り出そうとした途端――
「――うわっ!?」
目前に何かが躍り出た。
虫だ。
舞奈は虫を手で払う。
だが虫は舞奈の手をかわし、ミーンミーンと鳴き声をあげつつ飛び回る。
(こんな時期にセミだと?)
舞奈は訝しみ、
「何してるのよ!?」
「こいつは普通の虫なのか?」
「使い魔!? ……でもマーサのじゃない。マーサが召喚する使い魔は猫よ」
「やっぱりか」
レナの返事を聞くが早いか、飛び去るセミを追って駆け出す。
否、セミは周囲を飛び回りながら舞奈が追いつくのを待っていた。
おそらく……否、十中八九、舞奈たちを何処かに案内する算段だろう。
そこにマーサがいるとしたら、時間をかけて大使館に向かっても無駄足だ。だから、
「だから違うって!」
「あたしたちを何処かに呼ぶ気だ!」
「でも、ぜんぜん別の方向よ!?」
「大使館には明日香に連絡して向かわせくれ!」
「あっちょっと!」
慌てるレナを尻目に、舞奈はセミを追って走りだした。
その一方で……
「……くっ」
丈の長いメイドの衣装を着こんだ女性が後ずさる。
2人の王女の世話役でもあるメイドのマーサは、栗色の髪をした妙齢の美女だ。
そんな彼女を追い詰めているのは、
「迂闊だなァ! 所詮プリンセスのお付きの自分は狙われないと油断したかァ!?」
甲冑を着こんだひとりの騎士。
スピナーヘッド。
不吉なデザインをした青い甲冑を着こんだ男だ。
構えているのは同じ意匠の剣と盾。
首の上では円盤型をした頭部がレドームのようにゆっくりと回転している。
「だがなァ俺様は気が立ってるんだァ!」
スピナーヘッドは顔のない頭で叫ぶ。
「誰かを痛ぇ目に遭わせなきゃ気が済まねェ! 『ボス』の手前、一般市民に手出しはできねぇが魔道士のテメェなら別だァ!」
激情を表現するようにレドーム状の円盤が高速で回る。
あわせて頭部の各所のランプが神経質に点滅する。
「2人がかりでプリンセスを襲い損ねたのが、そんなに気にいらないですか?」
マーサはプリンセスのメイドに相応しい凛とした声色で語りかける。
先日、ファイヤーボールが舞奈を、デスリーパーがレナとルーシアを襲ったのと同じタイミングでスピナーヘッドは仲間であるイエティと共に麗華の襲撃を試みた。
だがディフェンダーズのタイタニアとスマッシュポーキーに阻まれた。
いっそ挑発するような口調と言葉に、
「何だとォ!? 貴様ァ!」
青い騎士は思わず激昂する。
その隙に――
「――Dear,Dana.Ice shield!」
マーサは短杖を構えて短い呪句を唱える。
途端、目前に氷の盾が出現する。
即ち【結氷の盾】。
冷たい大地を象徴する冬の女神ダーナを奉じ、強固な氷の盾を創造する魔術。
マーサはセオリー通りに氷盾を創造して攻撃に備えたのだ。
こちらもプリンセスに仕えるに相応しく極限まで簡略化された優雅な施術。
クラフターらケルト呪術師は冷気や雷等の元素そのものに呼びかけて術と成す。
だがケルト魔術師は他の魔術師と同じように、ウェールズやアイルランドに伝わる魔術の神や魔術師を幻視することで奇跡を成す。
ケルト呪術師の在り方が呪術それ自体と近しいのと同じ。
マーサたちケルト魔術師の心の形は魔術そのものに近い。
それでも宙に浮かぶ氷盾は2枚。
彼女はレナや明日香ほど魔術の才に恵まれている訳じゃない。
力押しで奴を倒すには無理がある。
だからこそ氷盾の魔術を維持しながら優雅に言葉を続ける。
「ですが狙う相手を変えたところで同じですよ。ディフェンダーズも、この国の魔術結社も、貴方たちヴィランの悪行を逃すことはありません。それに――」
「――それはどうかなァ!?」
対してスピナーヘッドは嘲笑うように剣を構える。
青い騎士の激情を、レドームの狂ったような回転速度と点滅が表現する。
「奴らがあらわれる前に貴様を殺しちまえば良いのさァ! プリンセスほど警護は厳しくないと思っていたが、まさかひとりでのこのこ出てきてくるとはなァ!」
騎士の嘲笑に、流石のマーサも歯噛みする。
マーサは【生物召喚】で生み出した猫の使い魔を使い、護衛のいない間のレナ王女を守護し、危険を察知し他の騎士に伝える役割を担っていた。
だが方々でヴィランの強襲を退けた今、少しばかり油断していたのは事実だ。
レナが別格の扱いをしているという異国の街に興味が沸いた。
そして、そこに住む人々に。
なので近場からの護衛という名目で大使館を抜け出し、街を散策していた。
その結果が、このザマだ。
使い魔は、主の危機に反応して護衛対象であるレナに救援を求めた直後に消えた。
メイドにあるまじき失態だ。
だがマーサは表情だけは落ち着き払ってスピナーヘッドに向き直る。
「志が低いですね。それすら貴方にできるのか疑問に思いますが」
「できるともさァ! 貴様程度ならなァ!」
スピナーヘッドは叫びながら周囲に目をやる。
マーサも釣られて目を配らせる。
先ほどまでは山の手ながらもこの国の様式の家々が並んでいた通り。
だが今ではレンガ造りの洋風の街並みへと変貌している。
そう。戦術結界だ。
特定範囲の空間を周囲から隔離する大魔法。
隔離された空間に出入りする手段は限定される。
ひとつは強い魔力で結界を破壊する。
あるいは高度な魔法で結界に穴を開けるか、術者を倒して結界を解除する。
簡単に対象を孤立させ、あるいは周囲に自身の存在を隠したまま魔法戦闘が可能という利便性故に、多くの術者によって用いられる。
マーサもその存在は熟知している。
もちろんマーサが施術したものではない。
そもそもマーサは大魔法なんて使えない。
戦闘しながら結界に穴を開けるほどの技術もない。
つまり逃げ場はない。だからこそ――
「――Fire ball!」
先手必勝。
敵に短杖を突きつけ、マーサは火の玉を放つ。
即ち【召喚火球】。
炎と鍛冶を司る春の女神ブリギットを幻視し、爆発する火球と化して放つ魔術。
「何をォ!?」
スピナーヘッドは鎧と同じデザインの大きな盾を構える。
火球は不吉な盾に激突する。
王女の攻撃魔法には及ばないまでも、攻撃型手榴弾に匹敵する爆発。
轟音。
紅蓮の爆炎。だが……
「……危なかったぜェ!」
魔術の炎は青い盾を焦がすのみ。
青い騎士のレドームが安堵するように回る。
奴の盾も甲冑も、普通の鉄の板ではない。
身に着けた武具を強化する超能力【要塞化】で強化されているのだ。
だが、そんなことはマーサも承知済み。
「Dear,Merlin.Mirror Image!」
敵が爆発を凌ぐ隙に、マーサは短い呪句を唱える。
才には劣るマーサが習練の末に会得した、ルーン魔術に匹敵する施術の速さ。
それは優雅なだけでなく。魔法戦闘でのアドバンテージにもなる。
だから次の瞬間、その姿が歪んでマーサは4人になる。
即ち【鏡像分身】。
ルーン魔術【鏡像】と同等の術だ。
被弾を肩代わりする分身を生み出すことで身を守る。
しかも【鏡像】が重力場で空間を歪めて同位体を出現させるのに対し、当術は【時空の制御】により根源的に術者の身代わりを創る。
「だが無駄だぜェ! そんなものはなァ!」
スピナーヘッドは剣を構えて走り寄る。
不吉なデザインの刃が、氷の盾を叩き割る。
さしものの分身も斬られれば消える。
3回斬れば、この術で4回目を防げないことをスピナーヘッドも知っている。
だが次の瞬間、マーサの姿が4人まとめてかき消える。
続けざまに振るわれたスピナーヘッドの剣が宙を切る、
こちらは【空間跳躍】。
「糞ッ!?」
怒声と共に、スピナーヘッドのレドームが回る。
ケルト魔術は欧州で広く知られている魔術の流派だ。
アイルランドを発祥の地とする偉大なる魔術の流派は高等魔術に匹敵する習得難易度の高さを特徴とし、知名度に比べて会得できる者は少ない。
故にケルト魔術を修めた術者は、他流派の追従を許さぬ火力と応用力を誇る。
そんな強力な魔術もまた3種の技術を内包する。
作りだした魔力を炎や氷・稲妻に転化する【エレメントの創造と召喚】。
魔力を強化し、魔力と源を同じくする精神を操る【魔力と精神の支配】。
そして空間と因果律を歪めることによる【時空の制御】。
先ほどの【鏡像分身】は【時空の制御】の応用で術者の生存性を高める魔術だ。
時間と空間を制するために奉ずるは、偉大なる伝説の魔術師マーリン。
そして【空間跳躍】も同様。
因果律操作による短距離転移であり、【智慧の門】の基礎技術でもある。
空間の抜け道を作る一般的な転移と異なり『転移した』という結果を世界に強制させる技術であるため安全性が高く、妨害が困難であることも特徴だ。
そんな魔術で消えたマーサは、次の瞬間、数メートル後方に出現する。
「女ァ! 時間稼ぎのつもりかァ!?」
「まあ、そんなところですよ」
怒り猛る甲冑。
対するマーサの口元には笑み。
未熟とはいえマーサは多彩な魔術を操る魔術師。
所詮は妖術師の一派である超能力者が相手であれば、逃げ続けるだけなら可能。
その間にディフェンダーズなり、この国の魔術結社が騒ぎを察知するはずだ。
この巣黒市には大使館のみならず、【組合】の中央ロッジが存在する。
如何に結界を張ったところで彼らに対して完全な隠匿は不可能。
そして大使館はスカイフォールの関係者を、【組合】は術者を守護する。
本来ならば術者を相手の無茶は『ボス』とやらの意向とは関係なく自殺行為だ。
マーサは術者としては未熟ながら、組織を利用して小狡く立ち回ることができる。
なればこそ魔法の国で、プリンセスのメイドなどやっていられる。
しかも幸いなことに敵の得物は剣ひとつ。
機動力も【空間跳躍】による転移には及ばない。
つまり短距離転移を繰り返して逃げ回る相手に手出しはできない。
高度な魔術を連発することで疲れ果てる前に救援が訪れればこちらの勝ち。
それがマーサの算段だ。
スピナーヘッドは剣を構えて走り来る。
敵が剣の間合いに入るタイミングを見計らって、再度【空間跳躍】を行使する。
今度はスピナーヘッドの真後ろ。
容易な術ではないが、ギリギリまで引き付けて使うのなら複数回の行使も可能だ。
青い甲冑は見失ったマーサを探してレドームを回し――
「――!?」
真後ろを向いて斬りかかる。
マーサは慌てて転移。場所はほとんどランダム。
だが次の瞬間、騎士は目前まで迫っていた。
短距離転移の先を見透かしていたような隙のない移動。
再度の転移が間に合わない。
不吉なデザインの剣が一閃。
4人のマーサのうちひとりが光の粉になって消える。
「ハハッ! 油断したなァ! 女ァ!!」
スピナーヘッドのレドームが、歓喜するように激しく回る。
「まさか【戦闘予知】!?」
マーサは驚く。
口にしたのは戦闘中に刹那の未来を術者に見せる超能力の名。
それにより着地点を読まれたのだととっさに判断する。
だがマーサは諦めない。
タネを見抜けば対策できない異能ではない。
「Dear,Brigit.Flame shield!」
得意の素早い施術で目前に火球を生み出す。
スピナーヘッドの剣が火球を斬り裂く。
「何ッ!?」
火球は爆発して騎士を怯ませる。
即ち【火炎の盾】。
爆炎で騎士の目がくらんだ隙にマーサは【空間跳躍】を行使して後ずさる。
「馬鹿のひとつ覚えで逃げ回るかァ!? 女!」
「有効な手段には違いないでしょう?」
猛る騎士を弄ぶように、マーサは口元に笑みを浮かべてみせる。
敵の冷静さを少しでも削ぐべく意識して浮かべた笑み。
マーサは仕草で敵の冷静さを削ぐことができるが、自身は挑発に乗せられない。
それもマーサの処世術だ。
それに、まんざらハッタリという訳でもない。
幸いにして結界の中は相応に広い。
常に相手から遠ざかるように後退を続ける余地は多分にある。
何なら家の周囲を逃げ回っても良い。
そう思った次の瞬間――
「――ハハッ! 遅いなァ!」
「【加速能力】まで!?」
甲冑は信じられないようなスピードで駆け寄る。
マーサは驚愕する。
若い男が複数の異能力や超能力を操るのに不向きなのは国内外を問わない。
目前の男は、その理を覆すほど努力家にも天才にも見えない。
なので【要塞化】以外にまともな超能力は使えないと思っていた。
だが――
「――チッ! 面倒な手品だなァ!」
スピナーヘッドの剣が2人目のマーサを斬り裂く。
分身は光と化して消える。
ケルト魔術【鏡像分身】で生み出された術者と寸分違わぬ分身は、術者が被るはずの被弾や打撃を引き受ける。
この効果は因果律の操作によるものなので、流れ弾が術者本体に当たることはない。
だが分身の数には限りがある。
2つを破壊されたマーサの分身はあとひとつ。
それでもマーナはスピナーヘッドに短杖を突きつける。
今度は呪句すらなく施術。
次の瞬間、杖の先に光と共に、2つの何かがあらわれる。
猫だ。
即ち【生物召喚】。
因果律を操作し、そこに術者の望む生物が『存在した』ことにする魔術。
マーサが最も手慣れた召喚魔法だ。
そんな魔術で創られた2匹の猫が騎士めがけて跳びかかる。
「何だとッ!?」
虚を突かれて驚いた騎士は剣を振る。
刃は1匹の猫を斬り裂き、猫は光になって消える。
だが、もう1匹は騎士の頭に命中。
そのままレドームに貼りついて爪を立てる。
魔術師が火球や稲妻を放てば、騎士は盾で防御する。
武具強化の超能力【要塞化】の影響下にある盾は攻撃魔法を防ぎきる。
だが召喚魔法で創造した生物をけしかければ、騎士は剣で斬ろうとする。
隙ができる。
刀剣で戦う相手の思考を逆手に取った小技だ。
「おのれッ!? この畜生がァ!」
視界を塞がれた(?)騎士がでたらめに剣を振り回して慌てる隙に、
「Ice coffin!」
マーサは次なる呪句を紡ぐ。
途端、突きつけた短杖の先から光線がほとばしる。
即ち【凍氷の棺牢】。
霜と氷塊を創造して対象を縛める魔術だ。
熟達すれば、その名通り敵を氷の棺に閉じこめることができる。
だがマーサの技術ではそこまでの効果はない。それでも、
「何だとォ!?」
氷の茨が青い甲冑を這い回って凍らせる。
鎧が【要塞化】で強化されていようが関係ない。
しかも魔術で生み出された氷の茨を人間の筋力で砕くことはできない。
万が一にも敵が【強化能力】を使ったら、上から連続で施術して氷の茨で氷漬けにすることも不可ではない。
そう考えて安堵の笑みを浮かべるマーサ。
「だがなァ!!」
スピナーヘッドのレドームが回る。
途端、魔法が押し返される反応と同時に氷の茨が溶け落ちた。
一瞬だった。
「【能力消去】!?」
マーサは驚愕する。
魔法消去は魔力と魔力、技術と技術のぶつかり合いだ。
消去を試みる側の魔力と技術が、魔法を消されそうになって抵抗する側より劣っていれば、術具や術者その者の身体が消去されて破壊される。
そして魔術師の施術は、妖術師のそれより強度も技術も上のはず。
マーサがケルト魔術師としては未熟とはいえ、超能力者に抵抗する間もなく魔法を消されるなど!
驚くマーサが避ける間もなく剣が一閃。
2人のマーサがひとりになる。
もはや彼女の身代わりとなる分身はいない。
新たな防御魔法を行使する余裕もない。
何故なら魔術師にとって、施術の源となるのは意思の力だ。
周囲の環境や身体に宿る魔力を利用できない魔術師にとって意思だけが力の源だ。
現実を上書きする魔力の礎に成り得るほど強固なイメージを幻視し続ける術者の負担は計り知れない。
なのでマーサのように才に劣る術者が術を連発すると脳が急激に疲労する。
後ずさろうとしたマーサは丈の長いスカートの裾に足を取られて尻餅をつく。
プリンセスのメイドにあるまじき失態。
疲労が限界に達しているのだ。
そんなマーサを見下ろし。
「散々手こずらせてくれたがなァ! 女ァ!」
スピナーヘッドはレードームを回転させる。
あわせて頭の各部が歓喜を表現するように点灯する。
「これで仕舞いだァ!」
青い騎士は勝ち誇った叫び声をあげつつ不吉なデザインの剣を振り上げ――
「――!?」
剣が砕けた。
「な……んだと!?」
根元からへし折られた剣を、騎士は驚愕の表情で見つめる。
対するマーサが見やる先、青い不吉な騎士の足元に、折れた刃が突き刺さる。
甲冑と同じデザインの鉄隗に、すっくと立つ2つの人影が映りこむ。
ひとりは、まばゆい金色をした長いツインテールをなびかせた少女。
もうひとりはピンク色のジャケットを着こみ、拳銃を構えた少女。
「ほら見ろ、ビンゴじゃねぇか!」
片手で構えた拳銃の銃口から硝煙を立ち昇らせながら、少女は不敵に笑った。
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