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第16章 つぼみになりたい
戦闘3-1 ~銃技vs超能力
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転移の魔道具『プリドゥエンの守護珠』で一行を分断したヴィランたち。
だがクラフターは紅葉たち4人とシャドウ・ザ・シャークに退けられた。
クイーン・ネメシスはミスター・イアソンを討つが、舞奈と明日香に倒された。
そして再び廃墟の街の一角の、廃ビルを無理やり組み合わされた歪なコンクリートのオブジェの前で、
「やれやれ、奴らのアジトが近くて良かったぜ」
舞奈は少し疲れた表情で側の明日香に愚痴る。
転移させられた廃墟の別の一角から、2人は再びヴィランの拠点に戻ってきた。
幸いにも明日香の魔法感知が、異常に魔力が高い区画を捉えたからだ。
なので、その方向に歩いてみたら、かすかな硝煙と戦闘の残り香とともに見覚えのあるビルがあらわれた。
「別に遠くに跳ばされたなら、それはそれでやりようがあったわよ」
「半装軌装甲車《デマーグ》を召喚するのはいいとして、場所はわかるのか? 魔法感知じゃあそんなに遠くはわからんだろうに」
「それはもう、占術で」
「……アジトが近くて良かったぜ」
「なによ失礼ね」
軽口を叩き合いつつ、2人は油断なく得物を構えて拠点へと近づく。
そして歪なオブジェの正面、ヴィランたちが出入り口に使っていると思しきドアのない通用口をくぐろうとした途端、
「野郎!? またか!」
目の前が光に包まれた――
――そして数秒後。
舞奈は朽ちたコンクリートの廊下にいた。
何処から電源が供給されているやら天井の蛍光灯が薄暗い明かりを投げかける。
コンクリートの色や状態から、どうやら拠点の中のようだ。
油断なく拳銃を構えながら周囲を見回す。
明日香がいない。
気配もない。
「……今しがた入ろうとしたところなんだがな」
やれやれとひとりごちる。
だが口元には笑み。
今しがたの転移の目的は舞奈と明日香の分断だろう。
クイーン・ネメシスは転移の魔道具があと1回しか使えないだろうと言った。
リンカー姉弟に、自分たちが帰ってこなければ、そいつを使って誘拐したプリンセスを連れて本土に帰還するよう命じておいたとも。
舞奈としては、実のところ無人の施設の奥で機能を完全に停止したプリドゥエンの守護珠を発見した場合にどうするかは考えてあった。
米国にはミスター・イアソンの仲間であるディフェンダーズの他の面子がいる。
舞奈たちがしくじった仕事を彼らに引き継いでもらうのだ。
まあ麗華……の代わりに誘拐されたらしい誰かには面白くない海外旅行になるが。
だが、そのアイデアは無駄になった。
姉弟はプリドゥエンの守護珠の最後の1回を舞奈たちの分断に使った。
つまり、まだ諦めていないのだ。
攻撃部隊を殲滅し、仲間と皆で目的を果たすという結末を。
そのために自分たちの手で舞奈と明日香を倒そうと決意した。
2人でそういう選択をしたのは彼女らが子供だからだろうか?
そうであっても、そうでなくても悪い気分じゃない。
何故なら、それは3年前に2人の仲間を失った幼い舞奈がしたかったことだから。
当時、美佳と一樹を取り戻す手段があったなら、迷わず舞奈は実行しただろう。
だから舞奈は片手で拳銃を構え、周囲の様子を窺いつつ廊下を進む。
口元に飄々とした笑みを浮かべ、だが油断なく。
読心と瞬間移動を得手とするサイキック暗殺者は、侮って良い相手じゃない。
それに彼女らには覚悟がある。
この場所に舞奈たちが辿り着いたということは、クラフターないしクイーン・ネメシスと戦って倒したのだと気づかない訳がない。
そんな相手に、2人は退路を断って立ち向かおうとしている。
そういう覚悟を持った相手を、軽んずるのは失礼だ。
そんなことを考えつつ、開きかけのドアに行き当たった。
観音開きの鉄製ドアを蹴り開ける。
中に小柄な人の気配。
油断なく拳銃を構えながら踏みこむと、広い部屋に出た。
どうやら元は倉庫を兼ねた作業場らしい。
見たところ、けっこうな広さのある大広間だ。
舞奈が入ってきたドアは部屋の一角の中央ほどに位置している。
対して部屋の反対側は高台のロフトになっている。
ロフトに続く階段は、舞奈のいる場所から見て部屋の左右の2ヵ所のみ。
なるほど拳銃と銃身を切り詰めた改造ライフルしか持たない舞奈を高台から狙い撃つにはもってこいの舞台だ。
だからロフトの奥にある、もうひとつのドアを見やる舞奈の前に……
「……動かないで。志門舞奈」
「こっちに来たのはお姉ちゃんのほうか。こりゃラッキーだ」
ひとりの少女があらわれた。
ワンピースが風もないのにひるがえる。
身体から放出される超能力が周囲の空間を歪めているのだ。
彼女の華奢な四肢を際立たせるように、ウェーブのかかった長い金髪がゆれる。
白魚のような手には小型拳銃。
クラリス・リンカー。
サイキック暗殺者、リンカー姉弟の片割れだ。
舞奈は彼女を見上げ、満面の笑みを浮かべてみせる。
近くに弟の気配はない。
彼女らはクイーン・ネメシスやクラフターがしようとしたのと同様、舞奈たちを分断して各個撃破を試みたらしい。
「大人しく帰って。これが見えるでしょ?」
「……ああ。グロック17か。使いやすくて良い銃だ」
自身に向けられた銃口を見据えながら、それでも笑う。
「構え方も堂に入ってる。銃の撃ち方はクイーン・ネメシスに教わったのか?」
「……貴女には関係ないわ」
「そりゃそうだ」
相手をリラックスさせようと軽口を叩いて、失敗して。それでも、
「けどスマン、帰りの道がわからないんだ」
冗談めかして答える。
まあ転移されたのだから話の筋は通っていると思う。
だが帰るつもりなんて無いことはわかるはずだ。彼女を止め、彼女らが連れ去った誰かを救い出すまでは。
なぜなら彼女はクラリス・リンカー。
強力な【精神読解】で舞奈の思考を読むことは容易い。
だから何か問いたげな彼女を真正面から見やり、
「クイーン・ネメシスは無事だ。……いやまあピンピンしてる訳じゃあないが、じきに自力で回復して逃げるなり何なりするはずだ」
舞奈も拳銃を構えたまま語る。
途端にクラリスの表情が少し和らぐ。
言葉を聞いて、表層意識に浮かべた状況を見やり、あの母親代わりの彼女がまあ酷い怪我はしていないことがわかったからだ。
やはり彼女もまた、クイーン・ネメシスを慕っている。
母親のように。
……そう舞奈が思った途端、彼女の口元は引き締められる。
思考が読まれていることを再確認。
別に恥ずかしがるような考え方ではないと思うのだが。
「これ以上、近づいたら撃つわよ!」
安堵を覆い隠そうとするようにクラリスは叫ぶ。
彼女にとっても、ネメシスの無事を確認するだけでは何も終わらない。
その先にある理想の未来に辿り着くために、彼女は今、屈強で無敗だった母代わりの女性をも倒した【機関】最強のSランクの前にいる。
「ああ、知ってるさ」
だから舞奈も何食わぬ表情のままロフトに向かって歩く。
銃声。
小口径弾の軽い発射音とともに、舞奈の後ろの壁に穴が開く。
硝煙の匂い。
それでも舞奈は動じない。
口元には微かな笑みを浮かべたまま。
暗殺者だから正面から撃つのは苦手なのか?
至近距離から撃つ専門なのか?
実は言うほど人を撃つのは好きじゃないのか?
あるいは舞奈を撃てない理由があるのか?
何にせよ、銃口の微妙な向きで彼女の射撃が当たらないとわかる。
そんな態度と、表層に浮かんだ思考をブラフと判断したか、
「わたしたち……わたしにだって人を撃ったことはあるわ! それも沢山!」
「奇遇だな。あたしもだ」
「ふざけないで!」
クラリスは再び叫ぶ。
だが再度、撃っても無駄だと気づく程度には冷静だ。だから、
「……志門舞奈。わたしは、貴女を倒す」
小型拳銃を構えたまま、静かに宣言する。
叫ぶよりずっと彼女の決意が伝わる気がした。だから、
「ああ、知ってるさ」
舞奈も静かに答える。
「貴女を倒して、Mumを取り戻す!」
決意を固めるように叫びながら再度、撃つ。
今度は舞奈は横に跳ぶ。
その残像を小口径弾が貫き、コンクリートの床を穿つ。
普通の弾ではない。
銃に【精神剣】をこめているのだろう。
なるほど、かすりでもしたら目標は精神にダメージを食らって昏倒する。
おまけに炎や氷と違って傷口は普通の銃弾と変わらない。
サイキック暗殺者にはうってつけの付与魔法の使い方だ。
その弾丸は魔法的な防護のない舞奈を撃つには有用だ。それでも、
「あいつのこと、マムって呼んでるんだ。ミリアムさんだからか?」
「貴女には関係ない!」
かすっただけで勝負が決する必殺の弾丸を、舞奈は笑みすら浮かべながら避ける。
まあ確かに撃つ気になれば狙いは正確だ。
撃ち方も手馴れている。
少なくとも奈良坂あたりとは比べ物にならないくらいには彼女は射撃の名手だ。
戦闘訓練を真面目にしているのだろう。
だが彼女は言うほど人を撃ち慣れていないように思える。
躊躇いがある。
……まあ比較対象が必要とあらば親でも撃てそうな冷徹な明日香、殺しが趣味の小夜子や楓じゃあ荷が重かろうが。
「ハハッ! 気を悪くしたならすまん! だが可愛い呼び名で良いと思うよ」
「うるさい!」
続けざまに放たれる2発目、3発目。
舞奈は遮蔽もない倉庫の広間で床を転がり、フェイントを駆使して避ける。
小口径弾は空しく床を、壁を穿つ。
怒り顔も、感情の揺れ幅が狙いのブレに直結する様も素人じみていて可愛らしい。
そんな彼女が立つロフトまでの距離を舞奈は一目で目算する。
その程度は異能力など使えなくても容易い。
ロフトの高さは数メートル。跳びついてよじ登るには無理のある高さだ。
即ち重力に味方され敵の小型拳銃は届くが、舞奈の拳銃では無理な距離。
ワイヤーショットのワイヤーと弾丸は再装填済みだが、それを使えば銃を手にした彼女の前でよじ登れると考えるのは逆に彼女に失礼だ。
かといって、左右の階段まで移動しようにも相応の距離がある。
遮蔽ひとつない開けた倉庫を、銃撃にさらされながら走りたいとは思わない距離。
なるほど相手も考えてはいるようだ。
だが舞奈にとって不利なだけの状況だとも思えない。
実のところ舞奈にも、言うほど彼女を撃てる自信がある訳じゃない。
スミスに『魔女撃ち弾』を用意してもらえばよかったと思うが、時すでに遅し。
だから露骨に狙いがそれてバツの悪い思いをしなくて済むのはメリットではある。
まあ、こうして考えている時点で筒抜けなのだが。
そんな舞奈の視界に、ふと手近な場所に積まれた木製のコンテナの山が映る。
「あっ……!」
舞奈の思考に気づいたクラリスは焦って撃つ。
小口径弾は避けるまでもなく舞奈の頭上を通り過ぎて壁を穿つ。
「ああ、なるほどな!」
舞奈は笑う。
遮蔽になりそうな障害物の存在を見落としていたのと、彼女の超能力に木箱を貫通したり吹き飛ばしたりするような手札がないのが丸わかりだ。
以前に『太賢飯店』でも思ったのだが、彼女はポーカーフェイスが下手だ。
ここまで動揺が表情に出ると、心を読まれてるのと変わらない気がするのだが。
まあ自分がコントロールしていない状況に慣れていないのだろう。
年若い少年少女にはよくある傾向だ。
「――貴女だって子供じゃない!」
「そりゃそうだ! なら子供らしく無邪気に仲良しになれるかな?」
舞奈は軽口を叩きつつ、身をかがめて射線から逃れながら走る。
背後をかすめた小口径弾に首をすくめながら木箱の陰に転がりこむ。
「しま……っ!」
「ハハッ! 残念」
端から顔を出して様子を窺う。
華奢で色白なクラリス嬢の、少し悔しそうな表情もまた可愛らしい。
だが木箱の想像以上の朽ち具合が不安を誘う。
新開発区の廃ビルの中のものに過度な期待はすべきじゃない。
流石にこの距離から小口径弾が貫通したりはしないと信じたいが……
……思った瞬間、首を引っこめた舞奈の耳の横で木箱に銃弾が埋まる音。
頭じゃなくて最初からコンテナを狙ったようだ。
舞奈があまりに不安がるから貫通すると思ったのだろう。
だが腐ってもコンテナ。小口径弾で容易く貫けるものではない。
(心を読むのは構わんが! 相手に釣られて凡ミスしたら本末転倒じゃあないか?)
(!? ちょっと! 何をいきなり!)
(ハハッ! すまんすまん!)
心の中で『叫んで』みたら、思わぬ反応。
だが、今ので確信が持てた。
「あんた! 言うほど酷い場数は踏んでないだろう?」
「自分の方が場慣れてるって言いたいの!?」
「いや、そうじゃなくてだな……」
朽ちたコンテナに背を預けながら視界の端で様子を窺いつつ、無意識に拳銃の残弾を確認しようとして、そもそも1発も撃っていないことに気づく。
たぶん彼女は『守られて』いた。
おそらくはクイーン・ネメシスに。
何故ならクイーン・ネメシス――ミリアム氏は子供たちの身を案じていた。
だから彼女らも、自分たちのMumを取り戻そうとしている。
ミリアム氏は彼女らの母親代わりだった。
3年前の美佳や一樹と、幼い舞奈の関係と同じように。
口元に笑みを浮かべた次の瞬間、舞奈は木箱の陰から転がり出る。
同時に木箱の山全体が、半透明な黒い何かに包まれた。
避けられたのは、視界の端に映った銃口が露骨に舞奈を逸れていたからだ。
当てようとして逸れたのではない。
最初から直撃させなくていいつもりで狙っていた。
だからグレネードに似た広範囲に範囲を及ぼす何かを警戒したら、このザマだ。
木箱が壊れたり吹き飛ぶ様子はない。【精神剣】同様の精神攻撃の一種か。
まあ彼女の躊躇ない発砲からも予測可能だ。
「避けられた!?」
「……なるほど、そいつが【精神波】って奴か」
「知識はあるのね」
「ああ。少しは勉強したからな」
驚く彼女に笑って答える。
先ほど彼女は銃弾に広範囲へ効果のある精神攻撃をこめて撃ったのだ。
つまり物理的な防護を無視して対象の精神を攻撃するチート範囲攻撃だ。
木箱の陰に隠れていたら、問答無用で昏睡していた。
そう言う手段を思いつくのに少し間があったのも、彼女が本当に命のやり取りをする戦場には慣れていなかったからだろう。
舞奈もそこまで魔法に詳しくなく、下手に思いついて敵に塩を送ることもなかった。
だが一度、気づいてしまえば遮蔽は無意味。
だから舞奈も腹を決めて階段まで走る。
舞奈の足元を何発かの小口径弾が穿つ。
だが先ほどのように黒い爆発を引き起こす様子はない。
おそらく【精神波】の再行使には集中が必要なのだろう。
走っている相手に撃ちまくることはできない。
……にしても、不自然に射線が舞奈を逸れているのは気のせいか?
彼女の視線は割と本気で舞奈の脚を狙っているのに。
殺し慣れているという言葉はブラフとしても、少し不自然ではないだろうか?
まあ暗殺者なのだから、本気で逃げたり抵抗したりする相手を撃つのは苦手なのかもしれないと考えることはできる。だが、それより――
(――おまえら! 殺しの相手はミリアムさんから指示されてただろう?)
(!? どうしてそれを?)
再び心の中で『叫ぶ』。
Mum曰くコミュ障だという彼女への言葉は、そちらのほうが伝わる気がした。
対する彼女の驚きは予想した以上。
図星だったらしい。
(ビンゴだ! あいつ、殺させる相手を選んでたんだ。思い出してみろ、あんたたち姉弟が殺した相手は全員が煙草を吸ってたはずだ)
(当たり前でしょ? だって、わたしたちの標的は敵対組織の重役なんだもの)
(そいつが当たり前の組織ってのが、そもそも異常なんだよ)
全力で走りながら舞奈は笑う。
釣られるように彼女も……笑う。
もうひとつビンゴ。
やはり彼女は気に病んでいたのだ。人を撃つ、ということに対して。
何故なら言動の端々に覗く彼女の可憐な仕草は、表情は普通の少女のそれだ。
数多の少女と愛を交わした舞奈にはわかる。
彼女は楓や小夜子、あるいは一樹のような生粋の殺戮者とは違う。
むしろ奈良坂や園香のような普通のメンタリティを持った少女に似ていると思う。
そんな彼女は、それでも今までは相手が脂虫だったから撃てた。
あの邪悪で横柄で悪臭をまき散らす害畜は、殺されるための存在だから。
臭いで、容姿で、仕草で、喫煙者どもは自分は死ぬべき存在だと主張する。
ヤニで劣化し委縮した脳が、そういう態度をとらせるのだ。
だが同じ調子で人を撃とうとしても、そう簡単に撃てるものじゃない。
いくら両者の違いを説明されていなくても、見た目も中身も殺されて当然な喫煙者どもと、そうでない普通の人間を同じに扱える訳がない。
だから舞奈を撃とうとする狙いは無意識に逸れる。
自分たちが殺していたのが生きる価値のない脂虫――人に似て人と異なる邪悪な喫煙者だったと知って安堵する。
けれど、そんな彼女の普通の感覚も可愛らしいと舞奈は思う。
だから舞奈は不意に立ち止まり、
「あんたたちは人なんか撃っちゃいないよ。あんたち姉弟が殺してたのは脂虫……キャリアァッていう人間そっくりのバケモノなんだ」
「Carrierのこと?」
「……ああ、そのことだ! そいつは人間じゃない。死んで当然のクズどもだ」
言いつつ口元を歪める。
口調こそ平静を装ってはいる。
だが脳裏を奴らに奪われたもの、害されたたくさんのものがよぎる。
日比野陽介、桂木姉妹の弟だった桂木水葉、それに……
「……どうして、あなたはわたしにいろいろなことを教えてくれるの? わたしのことを考えてくれるの? あなたはわたしの……敵なのに」
不意にクラリスは問いかける。
そうする間、射撃の手が止まるのはクイーン・ネメシスとの違いだ。
彼女は迷っている。
舞奈を撃つことが正しいのか、そうじゃないのか。
まあ、そうだろう。
彼女たちにとって、今まで正義はひとつだった。
母親代わりだったクイーン・ネメシスに従っていればよかった。
だが今、この場所にネメシスはいない。
唐突にいなくなった。
自分の生き方を、彼女は自分で決めなくてはいけなくなった。
……3年前、不意に2人の仲間を失った舞奈自身のように。だから、
「何でだろうな」
何食わぬ表情で舞奈はうそぶく。
答える必要はない。
クラリス・リンカーは、自分自身で答えを見つけられるから。
何故なら彼女はサイキック暗殺者。【精神読解】で心を読める。
彼女の問いは答えを求めるものではなく、思考を誘導するためのものだ。
それはそれで楽でいいと少し思った。
舞奈も言うほど本心を誰かに語るのが得意な訳じゃない。
苦笑しつつ、風を感じて跳び退る。
次の瞬間、目前にクラリスが出現した。
即ち【転移能力】。
彼女らをサイキック暗殺者たらしめている、もうひとつの超能力だ。
銃撃は諦めたらしい。
弾切れだろうか?
あるいは苦も無く銃弾を避ける舞奈が、遠距離戦に特化して接近戦は不得手だと思ったのかもしれない。そう思いこもうとした敵は過去にも何人かいた。
そもそも舞奈は彼女から接近戦を仕掛けられる可能性を考えてすらいなかった。
体術で負ける要素がないからだ。
仕掛けられて少しビックリしたのも本当だ。
その精神的な無防備さを隙だと思ったのかもしれない。
敵の心が読めるのも善し悪しだ。
そんな彼女の掌からのびるのは実体のない黒い剣。
これもまた【精神剣】。
以前に誘拐犯のひとりが使っていたものよりはるかに長く大きい。
まるで術者が使う大杖だ。
そう。彼女は前へと進むやりかたを決めたのだ。
志門舞奈を倒す。そして自分たちのMumを取り戻す。
でも相手を傷つけたりはしない。
なぜなら舞奈は彼女の敵だ。
それでも彼女にとって、舞奈は討ち滅ぼすべき悪じゃない。
それは舞奈自身が無意識に選択していた身の振り方と同じだ。
彼女は意思でできた黒い大剣を、質量も慣性も感じさせない動きで振り回してくる。
いっぱしの訓練は受けている動き方だ。
加えて【加速能力】によって高速化している。
彼女は読心と転移だけの2発屋ではない。
素の身体能力はともかく付与魔法の腕前はちょっとしたもの。
並の相手であれば反応すら許さず、その精神を切り伏せてしまえただろう。
だが黒い剣先が舞奈を捉えることはない。
何故なら3年前、エンペラーの刺客に幾度となく殺されかけ、だが舞奈は当時は唯一の取り柄だった直感を頼りに生きのびた。
加えて今では空気の流れを読み取ることで、如何なる近接打撃をも察知できる。
超高速も、瞬間移動も舞奈に対して無意味だ。
「危ないなあ! 相手の間近に転移するなって、教わってないのか?」
「貴女に対処する手札はないわ!」
「いや、人に借りてたかもしれないだろ?」
軽口を叩く舞奈をクラリスは睨む。
襲いかかっている最中の敵に対する本気の心配を、侮られたと思ったようだ。
幸いにもポケットの中のドッグタグにこめられた【力盾】は消えている。
だから彼女を酷い目に会わせずに済んだ。
舞奈が無意識に彼女の身を案じる理由は他にもある。
3年前、転移によるヒットアンドアウェイや攪乱を試みた刺客も何人かいた。
まあ相手がピクシオンでなければ常勝の戦術であろう。
だが彼らの大半は、消えた次の瞬間に五体満足であらわれることはなかった。
ある者は得意満面な笑みを浮かべて消えた次の瞬間、細切れになって出現した。
転移の際に防御が手薄になるのは超能力に限らず他の流派も同じだ。
そこで転移先を見抜いた一樹に、ワープアウトと同時に斬り刻まれたのだ。
また、別のある者は美佳の魔術によって見るもおぞましい何かに変じてあらわれた。
単に消えたが最後、再出現しなかった敵も多々いた。
ロクなものじゃない。
そんなことを考えた舞奈の目前で、彼女の姿がかき消える。
次の瞬間、あらわれない。
だが油断なく身構える舞奈は――
「――【透明化能力】すら見抜くの!?」
「ああ、とびきりのカワイ子ちゃんってのは、匂いで居場所がわかるんだ」
不意に背後の虚空をパントマイムで抱き寄せる。
その手の中に、にじみ出るように、黒い剣を手にした金髪の少女があらわれる。
自身の周囲に光学迷彩のフィールドを創造する【透明化能力】。
彼女は少し離れた場所に転移し、透明化してこっそり斬りかかろうとしたのだ。
だが、それも今まで何人かの怪異や異能力者、術者が使ってきた戦術だ。
それらを舞奈は苦も無く撃退してきた。
空気の流れを読める舞奈にとって、敵が見えないとか後ろにいるとかは回避の妨げにはならない。
それにクラリスの身体からは、例えようもない良い匂いがするのは本当だ。
……一瞬、姿をあらわさない彼女が確かに居る証を求めて必死で風を嗅いで、全身で空気の動きを探って彼女を探したのも。
記憶の中の美佳や一樹に害されない彼女の温度を感じて安堵したのも。
だから抱きしめた彼女に爪先立ちしてキスしようとした舞奈に、
「……!?」
平手が迫る。
とっさに彼女を離して身をかがめた舞奈の頭上を黒い風が薙ぐ。
誰かを傷つけるのは嫌でも、唇を奪われそうになった場合はその限りではない。
ネメシスが彼女たち姉弟を可愛がる気持ちがわかる気がした。
舞奈も同じ気持ちだ。
彼女は誰かを傷つけるのに向いていない。
それがヴィランとして生き抜くために必要なことだとしても。
ネメシスが考える、彼女らの才能を最大限に活かす生き方だとしても。
彼女には暗殺より適した生き方があるように舞奈は思う。
闇に紛れて人に化けた悪党どもの顔や立場、命を奪うのではない。
美から生まれる様々なものを与える生き方。
容姿も仕草も可憐な彼女にならそれができると思う。
正直なところ、今でも諜報部の連中あたりの人気は高いはずだ。だから――
「――もうやめろよ、こんなこと」
黒い刃を避けながら舞奈は語りかける。
何食わぬ口調と表情のまま。
だが、それだけで十分だ。
言葉を引き金に脳裏をよぎる記憶、悔恨、友人たちへの想い。
彼女に伝えたい、彼女が選択できるはずの沢山の生き方。
美しい、優しい彼女には幸せに生きて欲しい。
その想いを言葉にする必要はない。
何故なら彼女は【精神読解】で舞奈の思考を読むことができる。
美女に対して饒舌なのに、本心を語るのが苦手な舞奈にはむしろ都合がいい。
そんな思考を受け取ったのだろう。だが、
「もし、あんたさえ良ければ、あたしたちと一緒に……」
「……ごめんなさい。わたしは貴女とは行けない」
クラリスは次の瞬間、降りてきた時と同じように【転移能力】で消える。
そしてロフトの上に出現する。
ワンピースのポケットから何かを取り出す。
何かの破片だ。
先の戦いの前にクイーン・ネメシスが持っているのを見た。
だが彼女が持っている石は記憶の中のそれより大ぶりで、虹色に輝いている。
プリドゥエンの守護珠の破片。
しかも魔力が残っている部分なのだろう。
「貴女を倒して、Mumを取り戻して、帰るの! 皆でいっしょに!」
激情のまま叫ぶ。
そうしながら守護珠の破片を掲げ、彼女は瞳を閉じて集中する。
おそらく魔道具の破片から、最後の魔力を引き出すために!
だがクラフターは紅葉たち4人とシャドウ・ザ・シャークに退けられた。
クイーン・ネメシスはミスター・イアソンを討つが、舞奈と明日香に倒された。
そして再び廃墟の街の一角の、廃ビルを無理やり組み合わされた歪なコンクリートのオブジェの前で、
「やれやれ、奴らのアジトが近くて良かったぜ」
舞奈は少し疲れた表情で側の明日香に愚痴る。
転移させられた廃墟の別の一角から、2人は再びヴィランの拠点に戻ってきた。
幸いにも明日香の魔法感知が、異常に魔力が高い区画を捉えたからだ。
なので、その方向に歩いてみたら、かすかな硝煙と戦闘の残り香とともに見覚えのあるビルがあらわれた。
「別に遠くに跳ばされたなら、それはそれでやりようがあったわよ」
「半装軌装甲車《デマーグ》を召喚するのはいいとして、場所はわかるのか? 魔法感知じゃあそんなに遠くはわからんだろうに」
「それはもう、占術で」
「……アジトが近くて良かったぜ」
「なによ失礼ね」
軽口を叩き合いつつ、2人は油断なく得物を構えて拠点へと近づく。
そして歪なオブジェの正面、ヴィランたちが出入り口に使っていると思しきドアのない通用口をくぐろうとした途端、
「野郎!? またか!」
目の前が光に包まれた――
――そして数秒後。
舞奈は朽ちたコンクリートの廊下にいた。
何処から電源が供給されているやら天井の蛍光灯が薄暗い明かりを投げかける。
コンクリートの色や状態から、どうやら拠点の中のようだ。
油断なく拳銃を構えながら周囲を見回す。
明日香がいない。
気配もない。
「……今しがた入ろうとしたところなんだがな」
やれやれとひとりごちる。
だが口元には笑み。
今しがたの転移の目的は舞奈と明日香の分断だろう。
クイーン・ネメシスは転移の魔道具があと1回しか使えないだろうと言った。
リンカー姉弟に、自分たちが帰ってこなければ、そいつを使って誘拐したプリンセスを連れて本土に帰還するよう命じておいたとも。
舞奈としては、実のところ無人の施設の奥で機能を完全に停止したプリドゥエンの守護珠を発見した場合にどうするかは考えてあった。
米国にはミスター・イアソンの仲間であるディフェンダーズの他の面子がいる。
舞奈たちがしくじった仕事を彼らに引き継いでもらうのだ。
まあ麗華……の代わりに誘拐されたらしい誰かには面白くない海外旅行になるが。
だが、そのアイデアは無駄になった。
姉弟はプリドゥエンの守護珠の最後の1回を舞奈たちの分断に使った。
つまり、まだ諦めていないのだ。
攻撃部隊を殲滅し、仲間と皆で目的を果たすという結末を。
そのために自分たちの手で舞奈と明日香を倒そうと決意した。
2人でそういう選択をしたのは彼女らが子供だからだろうか?
そうであっても、そうでなくても悪い気分じゃない。
何故なら、それは3年前に2人の仲間を失った幼い舞奈がしたかったことだから。
当時、美佳と一樹を取り戻す手段があったなら、迷わず舞奈は実行しただろう。
だから舞奈は片手で拳銃を構え、周囲の様子を窺いつつ廊下を進む。
口元に飄々とした笑みを浮かべ、だが油断なく。
読心と瞬間移動を得手とするサイキック暗殺者は、侮って良い相手じゃない。
それに彼女らには覚悟がある。
この場所に舞奈たちが辿り着いたということは、クラフターないしクイーン・ネメシスと戦って倒したのだと気づかない訳がない。
そんな相手に、2人は退路を断って立ち向かおうとしている。
そういう覚悟を持った相手を、軽んずるのは失礼だ。
そんなことを考えつつ、開きかけのドアに行き当たった。
観音開きの鉄製ドアを蹴り開ける。
中に小柄な人の気配。
油断なく拳銃を構えながら踏みこむと、広い部屋に出た。
どうやら元は倉庫を兼ねた作業場らしい。
見たところ、けっこうな広さのある大広間だ。
舞奈が入ってきたドアは部屋の一角の中央ほどに位置している。
対して部屋の反対側は高台のロフトになっている。
ロフトに続く階段は、舞奈のいる場所から見て部屋の左右の2ヵ所のみ。
なるほど拳銃と銃身を切り詰めた改造ライフルしか持たない舞奈を高台から狙い撃つにはもってこいの舞台だ。
だからロフトの奥にある、もうひとつのドアを見やる舞奈の前に……
「……動かないで。志門舞奈」
「こっちに来たのはお姉ちゃんのほうか。こりゃラッキーだ」
ひとりの少女があらわれた。
ワンピースが風もないのにひるがえる。
身体から放出される超能力が周囲の空間を歪めているのだ。
彼女の華奢な四肢を際立たせるように、ウェーブのかかった長い金髪がゆれる。
白魚のような手には小型拳銃。
クラリス・リンカー。
サイキック暗殺者、リンカー姉弟の片割れだ。
舞奈は彼女を見上げ、満面の笑みを浮かべてみせる。
近くに弟の気配はない。
彼女らはクイーン・ネメシスやクラフターがしようとしたのと同様、舞奈たちを分断して各個撃破を試みたらしい。
「大人しく帰って。これが見えるでしょ?」
「……ああ。グロック17か。使いやすくて良い銃だ」
自身に向けられた銃口を見据えながら、それでも笑う。
「構え方も堂に入ってる。銃の撃ち方はクイーン・ネメシスに教わったのか?」
「……貴女には関係ないわ」
「そりゃそうだ」
相手をリラックスさせようと軽口を叩いて、失敗して。それでも、
「けどスマン、帰りの道がわからないんだ」
冗談めかして答える。
まあ転移されたのだから話の筋は通っていると思う。
だが帰るつもりなんて無いことはわかるはずだ。彼女を止め、彼女らが連れ去った誰かを救い出すまでは。
なぜなら彼女はクラリス・リンカー。
強力な【精神読解】で舞奈の思考を読むことは容易い。
だから何か問いたげな彼女を真正面から見やり、
「クイーン・ネメシスは無事だ。……いやまあピンピンしてる訳じゃあないが、じきに自力で回復して逃げるなり何なりするはずだ」
舞奈も拳銃を構えたまま語る。
途端にクラリスの表情が少し和らぐ。
言葉を聞いて、表層意識に浮かべた状況を見やり、あの母親代わりの彼女がまあ酷い怪我はしていないことがわかったからだ。
やはり彼女もまた、クイーン・ネメシスを慕っている。
母親のように。
……そう舞奈が思った途端、彼女の口元は引き締められる。
思考が読まれていることを再確認。
別に恥ずかしがるような考え方ではないと思うのだが。
「これ以上、近づいたら撃つわよ!」
安堵を覆い隠そうとするようにクラリスは叫ぶ。
彼女にとっても、ネメシスの無事を確認するだけでは何も終わらない。
その先にある理想の未来に辿り着くために、彼女は今、屈強で無敗だった母代わりの女性をも倒した【機関】最強のSランクの前にいる。
「ああ、知ってるさ」
だから舞奈も何食わぬ表情のままロフトに向かって歩く。
銃声。
小口径弾の軽い発射音とともに、舞奈の後ろの壁に穴が開く。
硝煙の匂い。
それでも舞奈は動じない。
口元には微かな笑みを浮かべたまま。
暗殺者だから正面から撃つのは苦手なのか?
至近距離から撃つ専門なのか?
実は言うほど人を撃つのは好きじゃないのか?
あるいは舞奈を撃てない理由があるのか?
何にせよ、銃口の微妙な向きで彼女の射撃が当たらないとわかる。
そんな態度と、表層に浮かんだ思考をブラフと判断したか、
「わたしたち……わたしにだって人を撃ったことはあるわ! それも沢山!」
「奇遇だな。あたしもだ」
「ふざけないで!」
クラリスは再び叫ぶ。
だが再度、撃っても無駄だと気づく程度には冷静だ。だから、
「……志門舞奈。わたしは、貴女を倒す」
小型拳銃を構えたまま、静かに宣言する。
叫ぶよりずっと彼女の決意が伝わる気がした。だから、
「ああ、知ってるさ」
舞奈も静かに答える。
「貴女を倒して、Mumを取り戻す!」
決意を固めるように叫びながら再度、撃つ。
今度は舞奈は横に跳ぶ。
その残像を小口径弾が貫き、コンクリートの床を穿つ。
普通の弾ではない。
銃に【精神剣】をこめているのだろう。
なるほど、かすりでもしたら目標は精神にダメージを食らって昏倒する。
おまけに炎や氷と違って傷口は普通の銃弾と変わらない。
サイキック暗殺者にはうってつけの付与魔法の使い方だ。
その弾丸は魔法的な防護のない舞奈を撃つには有用だ。それでも、
「あいつのこと、マムって呼んでるんだ。ミリアムさんだからか?」
「貴女には関係ない!」
かすっただけで勝負が決する必殺の弾丸を、舞奈は笑みすら浮かべながら避ける。
まあ確かに撃つ気になれば狙いは正確だ。
撃ち方も手馴れている。
少なくとも奈良坂あたりとは比べ物にならないくらいには彼女は射撃の名手だ。
戦闘訓練を真面目にしているのだろう。
だが彼女は言うほど人を撃ち慣れていないように思える。
躊躇いがある。
……まあ比較対象が必要とあらば親でも撃てそうな冷徹な明日香、殺しが趣味の小夜子や楓じゃあ荷が重かろうが。
「ハハッ! 気を悪くしたならすまん! だが可愛い呼び名で良いと思うよ」
「うるさい!」
続けざまに放たれる2発目、3発目。
舞奈は遮蔽もない倉庫の広間で床を転がり、フェイントを駆使して避ける。
小口径弾は空しく床を、壁を穿つ。
怒り顔も、感情の揺れ幅が狙いのブレに直結する様も素人じみていて可愛らしい。
そんな彼女が立つロフトまでの距離を舞奈は一目で目算する。
その程度は異能力など使えなくても容易い。
ロフトの高さは数メートル。跳びついてよじ登るには無理のある高さだ。
即ち重力に味方され敵の小型拳銃は届くが、舞奈の拳銃では無理な距離。
ワイヤーショットのワイヤーと弾丸は再装填済みだが、それを使えば銃を手にした彼女の前でよじ登れると考えるのは逆に彼女に失礼だ。
かといって、左右の階段まで移動しようにも相応の距離がある。
遮蔽ひとつない開けた倉庫を、銃撃にさらされながら走りたいとは思わない距離。
なるほど相手も考えてはいるようだ。
だが舞奈にとって不利なだけの状況だとも思えない。
実のところ舞奈にも、言うほど彼女を撃てる自信がある訳じゃない。
スミスに『魔女撃ち弾』を用意してもらえばよかったと思うが、時すでに遅し。
だから露骨に狙いがそれてバツの悪い思いをしなくて済むのはメリットではある。
まあ、こうして考えている時点で筒抜けなのだが。
そんな舞奈の視界に、ふと手近な場所に積まれた木製のコンテナの山が映る。
「あっ……!」
舞奈の思考に気づいたクラリスは焦って撃つ。
小口径弾は避けるまでもなく舞奈の頭上を通り過ぎて壁を穿つ。
「ああ、なるほどな!」
舞奈は笑う。
遮蔽になりそうな障害物の存在を見落としていたのと、彼女の超能力に木箱を貫通したり吹き飛ばしたりするような手札がないのが丸わかりだ。
以前に『太賢飯店』でも思ったのだが、彼女はポーカーフェイスが下手だ。
ここまで動揺が表情に出ると、心を読まれてるのと変わらない気がするのだが。
まあ自分がコントロールしていない状況に慣れていないのだろう。
年若い少年少女にはよくある傾向だ。
「――貴女だって子供じゃない!」
「そりゃそうだ! なら子供らしく無邪気に仲良しになれるかな?」
舞奈は軽口を叩きつつ、身をかがめて射線から逃れながら走る。
背後をかすめた小口径弾に首をすくめながら木箱の陰に転がりこむ。
「しま……っ!」
「ハハッ! 残念」
端から顔を出して様子を窺う。
華奢で色白なクラリス嬢の、少し悔しそうな表情もまた可愛らしい。
だが木箱の想像以上の朽ち具合が不安を誘う。
新開発区の廃ビルの中のものに過度な期待はすべきじゃない。
流石にこの距離から小口径弾が貫通したりはしないと信じたいが……
……思った瞬間、首を引っこめた舞奈の耳の横で木箱に銃弾が埋まる音。
頭じゃなくて最初からコンテナを狙ったようだ。
舞奈があまりに不安がるから貫通すると思ったのだろう。
だが腐ってもコンテナ。小口径弾で容易く貫けるものではない。
(心を読むのは構わんが! 相手に釣られて凡ミスしたら本末転倒じゃあないか?)
(!? ちょっと! 何をいきなり!)
(ハハッ! すまんすまん!)
心の中で『叫んで』みたら、思わぬ反応。
だが、今ので確信が持てた。
「あんた! 言うほど酷い場数は踏んでないだろう?」
「自分の方が場慣れてるって言いたいの!?」
「いや、そうじゃなくてだな……」
朽ちたコンテナに背を預けながら視界の端で様子を窺いつつ、無意識に拳銃の残弾を確認しようとして、そもそも1発も撃っていないことに気づく。
たぶん彼女は『守られて』いた。
おそらくはクイーン・ネメシスに。
何故ならクイーン・ネメシス――ミリアム氏は子供たちの身を案じていた。
だから彼女らも、自分たちのMumを取り戻そうとしている。
ミリアム氏は彼女らの母親代わりだった。
3年前の美佳や一樹と、幼い舞奈の関係と同じように。
口元に笑みを浮かべた次の瞬間、舞奈は木箱の陰から転がり出る。
同時に木箱の山全体が、半透明な黒い何かに包まれた。
避けられたのは、視界の端に映った銃口が露骨に舞奈を逸れていたからだ。
当てようとして逸れたのではない。
最初から直撃させなくていいつもりで狙っていた。
だからグレネードに似た広範囲に範囲を及ぼす何かを警戒したら、このザマだ。
木箱が壊れたり吹き飛ぶ様子はない。【精神剣】同様の精神攻撃の一種か。
まあ彼女の躊躇ない発砲からも予測可能だ。
「避けられた!?」
「……なるほど、そいつが【精神波】って奴か」
「知識はあるのね」
「ああ。少しは勉強したからな」
驚く彼女に笑って答える。
先ほど彼女は銃弾に広範囲へ効果のある精神攻撃をこめて撃ったのだ。
つまり物理的な防護を無視して対象の精神を攻撃するチート範囲攻撃だ。
木箱の陰に隠れていたら、問答無用で昏睡していた。
そう言う手段を思いつくのに少し間があったのも、彼女が本当に命のやり取りをする戦場には慣れていなかったからだろう。
舞奈もそこまで魔法に詳しくなく、下手に思いついて敵に塩を送ることもなかった。
だが一度、気づいてしまえば遮蔽は無意味。
だから舞奈も腹を決めて階段まで走る。
舞奈の足元を何発かの小口径弾が穿つ。
だが先ほどのように黒い爆発を引き起こす様子はない。
おそらく【精神波】の再行使には集中が必要なのだろう。
走っている相手に撃ちまくることはできない。
……にしても、不自然に射線が舞奈を逸れているのは気のせいか?
彼女の視線は割と本気で舞奈の脚を狙っているのに。
殺し慣れているという言葉はブラフとしても、少し不自然ではないだろうか?
まあ暗殺者なのだから、本気で逃げたり抵抗したりする相手を撃つのは苦手なのかもしれないと考えることはできる。だが、それより――
(――おまえら! 殺しの相手はミリアムさんから指示されてただろう?)
(!? どうしてそれを?)
再び心の中で『叫ぶ』。
Mum曰くコミュ障だという彼女への言葉は、そちらのほうが伝わる気がした。
対する彼女の驚きは予想した以上。
図星だったらしい。
(ビンゴだ! あいつ、殺させる相手を選んでたんだ。思い出してみろ、あんたたち姉弟が殺した相手は全員が煙草を吸ってたはずだ)
(当たり前でしょ? だって、わたしたちの標的は敵対組織の重役なんだもの)
(そいつが当たり前の組織ってのが、そもそも異常なんだよ)
全力で走りながら舞奈は笑う。
釣られるように彼女も……笑う。
もうひとつビンゴ。
やはり彼女は気に病んでいたのだ。人を撃つ、ということに対して。
何故なら言動の端々に覗く彼女の可憐な仕草は、表情は普通の少女のそれだ。
数多の少女と愛を交わした舞奈にはわかる。
彼女は楓や小夜子、あるいは一樹のような生粋の殺戮者とは違う。
むしろ奈良坂や園香のような普通のメンタリティを持った少女に似ていると思う。
そんな彼女は、それでも今までは相手が脂虫だったから撃てた。
あの邪悪で横柄で悪臭をまき散らす害畜は、殺されるための存在だから。
臭いで、容姿で、仕草で、喫煙者どもは自分は死ぬべき存在だと主張する。
ヤニで劣化し委縮した脳が、そういう態度をとらせるのだ。
だが同じ調子で人を撃とうとしても、そう簡単に撃てるものじゃない。
いくら両者の違いを説明されていなくても、見た目も中身も殺されて当然な喫煙者どもと、そうでない普通の人間を同じに扱える訳がない。
だから舞奈を撃とうとする狙いは無意識に逸れる。
自分たちが殺していたのが生きる価値のない脂虫――人に似て人と異なる邪悪な喫煙者だったと知って安堵する。
けれど、そんな彼女の普通の感覚も可愛らしいと舞奈は思う。
だから舞奈は不意に立ち止まり、
「あんたたちは人なんか撃っちゃいないよ。あんたち姉弟が殺してたのは脂虫……キャリアァッていう人間そっくりのバケモノなんだ」
「Carrierのこと?」
「……ああ、そのことだ! そいつは人間じゃない。死んで当然のクズどもだ」
言いつつ口元を歪める。
口調こそ平静を装ってはいる。
だが脳裏を奴らに奪われたもの、害されたたくさんのものがよぎる。
日比野陽介、桂木姉妹の弟だった桂木水葉、それに……
「……どうして、あなたはわたしにいろいろなことを教えてくれるの? わたしのことを考えてくれるの? あなたはわたしの……敵なのに」
不意にクラリスは問いかける。
そうする間、射撃の手が止まるのはクイーン・ネメシスとの違いだ。
彼女は迷っている。
舞奈を撃つことが正しいのか、そうじゃないのか。
まあ、そうだろう。
彼女たちにとって、今まで正義はひとつだった。
母親代わりだったクイーン・ネメシスに従っていればよかった。
だが今、この場所にネメシスはいない。
唐突にいなくなった。
自分の生き方を、彼女は自分で決めなくてはいけなくなった。
……3年前、不意に2人の仲間を失った舞奈自身のように。だから、
「何でだろうな」
何食わぬ表情で舞奈はうそぶく。
答える必要はない。
クラリス・リンカーは、自分自身で答えを見つけられるから。
何故なら彼女はサイキック暗殺者。【精神読解】で心を読める。
彼女の問いは答えを求めるものではなく、思考を誘導するためのものだ。
それはそれで楽でいいと少し思った。
舞奈も言うほど本心を誰かに語るのが得意な訳じゃない。
苦笑しつつ、風を感じて跳び退る。
次の瞬間、目前にクラリスが出現した。
即ち【転移能力】。
彼女らをサイキック暗殺者たらしめている、もうひとつの超能力だ。
銃撃は諦めたらしい。
弾切れだろうか?
あるいは苦も無く銃弾を避ける舞奈が、遠距離戦に特化して接近戦は不得手だと思ったのかもしれない。そう思いこもうとした敵は過去にも何人かいた。
そもそも舞奈は彼女から接近戦を仕掛けられる可能性を考えてすらいなかった。
体術で負ける要素がないからだ。
仕掛けられて少しビックリしたのも本当だ。
その精神的な無防備さを隙だと思ったのかもしれない。
敵の心が読めるのも善し悪しだ。
そんな彼女の掌からのびるのは実体のない黒い剣。
これもまた【精神剣】。
以前に誘拐犯のひとりが使っていたものよりはるかに長く大きい。
まるで術者が使う大杖だ。
そう。彼女は前へと進むやりかたを決めたのだ。
志門舞奈を倒す。そして自分たちのMumを取り戻す。
でも相手を傷つけたりはしない。
なぜなら舞奈は彼女の敵だ。
それでも彼女にとって、舞奈は討ち滅ぼすべき悪じゃない。
それは舞奈自身が無意識に選択していた身の振り方と同じだ。
彼女は意思でできた黒い大剣を、質量も慣性も感じさせない動きで振り回してくる。
いっぱしの訓練は受けている動き方だ。
加えて【加速能力】によって高速化している。
彼女は読心と転移だけの2発屋ではない。
素の身体能力はともかく付与魔法の腕前はちょっとしたもの。
並の相手であれば反応すら許さず、その精神を切り伏せてしまえただろう。
だが黒い剣先が舞奈を捉えることはない。
何故なら3年前、エンペラーの刺客に幾度となく殺されかけ、だが舞奈は当時は唯一の取り柄だった直感を頼りに生きのびた。
加えて今では空気の流れを読み取ることで、如何なる近接打撃をも察知できる。
超高速も、瞬間移動も舞奈に対して無意味だ。
「危ないなあ! 相手の間近に転移するなって、教わってないのか?」
「貴女に対処する手札はないわ!」
「いや、人に借りてたかもしれないだろ?」
軽口を叩く舞奈をクラリスは睨む。
襲いかかっている最中の敵に対する本気の心配を、侮られたと思ったようだ。
幸いにもポケットの中のドッグタグにこめられた【力盾】は消えている。
だから彼女を酷い目に会わせずに済んだ。
舞奈が無意識に彼女の身を案じる理由は他にもある。
3年前、転移によるヒットアンドアウェイや攪乱を試みた刺客も何人かいた。
まあ相手がピクシオンでなければ常勝の戦術であろう。
だが彼らの大半は、消えた次の瞬間に五体満足であらわれることはなかった。
ある者は得意満面な笑みを浮かべて消えた次の瞬間、細切れになって出現した。
転移の際に防御が手薄になるのは超能力に限らず他の流派も同じだ。
そこで転移先を見抜いた一樹に、ワープアウトと同時に斬り刻まれたのだ。
また、別のある者は美佳の魔術によって見るもおぞましい何かに変じてあらわれた。
単に消えたが最後、再出現しなかった敵も多々いた。
ロクなものじゃない。
そんなことを考えた舞奈の目前で、彼女の姿がかき消える。
次の瞬間、あらわれない。
だが油断なく身構える舞奈は――
「――【透明化能力】すら見抜くの!?」
「ああ、とびきりのカワイ子ちゃんってのは、匂いで居場所がわかるんだ」
不意に背後の虚空をパントマイムで抱き寄せる。
その手の中に、にじみ出るように、黒い剣を手にした金髪の少女があらわれる。
自身の周囲に光学迷彩のフィールドを創造する【透明化能力】。
彼女は少し離れた場所に転移し、透明化してこっそり斬りかかろうとしたのだ。
だが、それも今まで何人かの怪異や異能力者、術者が使ってきた戦術だ。
それらを舞奈は苦も無く撃退してきた。
空気の流れを読める舞奈にとって、敵が見えないとか後ろにいるとかは回避の妨げにはならない。
それにクラリスの身体からは、例えようもない良い匂いがするのは本当だ。
……一瞬、姿をあらわさない彼女が確かに居る証を求めて必死で風を嗅いで、全身で空気の動きを探って彼女を探したのも。
記憶の中の美佳や一樹に害されない彼女の温度を感じて安堵したのも。
だから抱きしめた彼女に爪先立ちしてキスしようとした舞奈に、
「……!?」
平手が迫る。
とっさに彼女を離して身をかがめた舞奈の頭上を黒い風が薙ぐ。
誰かを傷つけるのは嫌でも、唇を奪われそうになった場合はその限りではない。
ネメシスが彼女たち姉弟を可愛がる気持ちがわかる気がした。
舞奈も同じ気持ちだ。
彼女は誰かを傷つけるのに向いていない。
それがヴィランとして生き抜くために必要なことだとしても。
ネメシスが考える、彼女らの才能を最大限に活かす生き方だとしても。
彼女には暗殺より適した生き方があるように舞奈は思う。
闇に紛れて人に化けた悪党どもの顔や立場、命を奪うのではない。
美から生まれる様々なものを与える生き方。
容姿も仕草も可憐な彼女にならそれができると思う。
正直なところ、今でも諜報部の連中あたりの人気は高いはずだ。だから――
「――もうやめろよ、こんなこと」
黒い刃を避けながら舞奈は語りかける。
何食わぬ口調と表情のまま。
だが、それだけで十分だ。
言葉を引き金に脳裏をよぎる記憶、悔恨、友人たちへの想い。
彼女に伝えたい、彼女が選択できるはずの沢山の生き方。
美しい、優しい彼女には幸せに生きて欲しい。
その想いを言葉にする必要はない。
何故なら彼女は【精神読解】で舞奈の思考を読むことができる。
美女に対して饒舌なのに、本心を語るのが苦手な舞奈にはむしろ都合がいい。
そんな思考を受け取ったのだろう。だが、
「もし、あんたさえ良ければ、あたしたちと一緒に……」
「……ごめんなさい。わたしは貴女とは行けない」
クラリスは次の瞬間、降りてきた時と同じように【転移能力】で消える。
そしてロフトの上に出現する。
ワンピースのポケットから何かを取り出す。
何かの破片だ。
先の戦いの前にクイーン・ネメシスが持っているのを見た。
だが彼女が持っている石は記憶の中のそれより大ぶりで、虹色に輝いている。
プリドゥエンの守護珠の破片。
しかも魔力が残っている部分なのだろう。
「貴女を倒して、Mumを取り戻して、帰るの! 皆でいっしょに!」
激情のまま叫ぶ。
そうしながら守護珠の破片を掲げ、彼女は瞳を閉じて集中する。
おそらく魔道具の破片から、最後の魔力を引き出すために!
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