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第12章 GOOD BY FRIENDS
戦闘3 ~銃技&戦闘魔術vs暴走悪魔
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「糞ったれ」
「何てこと……!?」
舞奈は舌打ちし、明日香も驚きに目を見張る。
目前にあらわれたそれは、小山のように巨大な毛玉だった。
その上に、ひょろりとした萩山の上半身が生えている。
その様を、舞奈は魔法を暴走させた悟に似てると思った。
美佳を復活させようとした悟は、美佳の身体を寄り集めたような塊になった。
そして毛髪を欲した彼は、七色の毛が生えた塊になった。
「俺は……!? 俺は……そうか……」
萩山は変わり果てた自身の姿を見やり、
「はは……こんな風になるんだなあ……もっとちゃんと調べておけばよかったよ……」
力なく笑った。
調査不足と自嘲しつつも、ようやく理解したらしい。
自身の行為が、取り返しのつかない事態を招いてしまったことを。
彼はその身に取りこんだ魔力を制御しきれなかった。
だから強大な魔力は暴発した。
しかもそれは異変の始まりに過ぎない。
「でももういいんだ……あんたたちは逃げてくれ……俺はもう……だめだ……力が抑えきれないんだ」
囁くように萩山は語る。
毛山の上の本体は離れているのに【風歌】によって声は聞こえる。
彼の言葉は真実だ。
じきに暴走した魔力は術者本体を飲みこみ、魔法の一部へと変える。
彼の知らない三剣悟のように。
あるいは魔獣になったネコポチのように。だが、
「それにこんなに……毛が生えたんだ。ずっとこの日を……待ってたんだ……」
「いや、下に生える毛は髪じゃないだろ」
舞奈は彼に軽口を返す。
普段の会話と同じように。
その口元には不敵な笑みが浮かぶ。
「逃げる理由なんかないさ。最初に言ったろ? 歌を聞きに来たってな」
言って「だから」と笑みを浮かべる。そして、
「聞かせてくれよロッカー! あんたの……あんた自身の歌を!」
叫びながら走り出した。
魔力の暴走により結界の構造が変化したのだろう。
先ほどまで目前にいた、萩山だった毛山と舞奈の距離は、今やかなり離れている。
それでも構うものかと笑う。
距離を引き離されたのなら追いつけばいい。
過ちを犯したのなら正せばいい。
何かを失ったのなら……それ以上の何かをその手につかめばいい!
「……!!」
毛山の上で萩山は驚く。
舞奈の言葉の意味に気づいたからだ。
魔力の暴走は、かき集めた魔力が自身のそれを上回ることにより引き起こされる。
だから暴走を抑えるには、自分自身の魔力を高めればいい。
萩山にとって、それはロックだ。
そして、かき集められ暴走した魔力を弱めるのは舞奈と、明日香の役目だ。
その役目を完遂してやると、舞奈は宣言したのだ。だから、
――ここはコンクリートの壁に囲まれた……
――冷たい鉄の檻の中……
――ボクらは堕とされ翼を無くしたANGEL……
萩山は、かすれた声で歌い始める。
曲目はファイブカードの『堕天使のINNOCENT∵WISH』。
――だからボクらは古びた鎖、引き千切って……
――何処へ続くか知れない彼方を目指して、走り出す……
上半身は元の萩山のままだから、そのまま手にしたギターを奏でる。
舞奈も口元に笑みを浮かべて走り出す。
「どこかに魔力の焦点があるはずよ!」
背後から明日香の声。
「それを見つけて破壊して! そうすれば暴走している魔力が霧散するわ」
「オーケー!」
答えつつ、舞奈は拳銃を握りしめて走る。
目指すは彼方にゆらめく巨大な毛玉。
その頂上に、生えるような状態で囚われた萩山。
――ボクは走る走る走る息が切れるまで、走る!
――羽は無くても2本の足があるから!
巨体を覆う長い毛が風もないのにゆらめき、数体のデーモンが飛び出す。
霜をまとわせた氷のルキフグスだ。
デーモンたちは濃密な霜に覆われる。
それが凝固し氷の塊となり、舞奈めがけて一斉に飛来する。
即ち【堕天の落氷】。
その質量とスピードは、氷でできた砲弾。
まともに当たれば人の身体などひとたまりもない。
だが舞奈は素早く横に跳び、身をかがめて幾つもの氷塊を避ける。
余裕の笑みを浮かべたまま。
その残像を、冷気を振りまきながら巨大な氷の塊が貫く。
萩山は驚愕に目を見開く。
先ほどまでの萩山は、それでも生身の舞奈を相手に手加減をしていた。
小さなデーモンたちが放った無数の魔弾は、当たっても死ぬことはなかった。
例えば【閃雷】は脂虫に数発撃ってようやく気絶させられる程度の威力だ。
だが今や彼は魔力に取りこまれ、暴走している。
暴走した魔力は手加減などしない。
術者から供給され続ける魔力を、全力で周囲に叩きつける。
――ボクは歌う歌う歌う声がかれるまで、歌う!
――天使のリングなくても願いがあるから!
萩山はギターをかき鳴らしながら舞奈を見やる。
その表情には迷いが浮かぶ。
気づいたのだ。
彼の歌は、暴走した魔力から彼自身を守る最後の砦だ。
だが同時に、暴走した魔力そのものも彼の歌で強化される。
それでも舞奈は萩山に顔を向け、鮫のような凄惨な笑みを返す。
気遣いなど無用だと。
何故なら舞奈は最強だから。
――走り続けるうちにキミと出会った
――キミはボクの隣で歌ってた
――何を願い走るのか忘れたまま
――気づくと皆で歌ってた
そんな舞奈の前に、何体ものデーモンが飛び出る。
暴走した魔力が生みだした悪魔の群。
次なるは金髪をなびかせた雷のベルフェゴールだ。
そのうち1体を、舞奈の背後からのびた一条の稲妻が飲みこむ。
稲妻の砲弾は次いでその横にいた1体を穿ち、次いで別の1体へと飛び火する。
即ち【鎖雷】の魔術。
――それが愚かだなんてボクだって思うさ
――皆はボクらを指さして笑うさ
――けれどそれこそが冷たい壁を打ち砕く、POWER!
残るベルフェゴールは先ほどの氷の一撃と同様に、一斉にプラズマの塊へと変じる。
先ほどの明日香の雷砲よりやや大きいそれは【堕天の落雷】。強力な落雷の呪術。
それらが一斉に、先ほどのの意匠返しのように舞奈めがけて飛来する。
さしずめ雷弾の弾幕だ。
だが舞奈は笑う。
先ほど明日香が屠った数匹分の隙間めがけて身を躍らせ、雷弾の雨をやり過ごす。
一瞬遅れて背後で幾つもの光が弾ける。
閃光。
爆音。
オゾンの匂い。
次いで舞奈は左手で短機関銃を抜く。
そして、またしても出現したベルフェゴールめがけて撃つ。
姿を変えようとしていた数体が爆発する。
今度は炎を媒体に大爆発を引き起こす【地獄の爆裂】だ。
悪魔術によるデーモンのイメージは、高等魔術による大天使のそれに対応する。
火雷を司るベルフェゴールは大天使ミカエルに。
大地と氷を司るルキフグスは大天使ウリエルに。
水と情報伝達を司るリリスは大天使ガブリエルに。
風と治療を司るアドラメレクは大天使ラファエルに。
生命と死を司るバールは大天使ザドギエルに。
魔力と感情を司るアスタロトは大天使ハニエルに。
だが悪魔は大天使の代わりにはならない。格が違うのだ。
それが魔術を研究し再構成した高等魔術と、呪術の源だけを代用した悪魔術の差だ。
それでも悪魔術師は歌う。
おそらく彼らが、彼ら自身であるために。
――だから走る走る走る走る倒れるまで、走る!
――そうさ立ちふさがるものすべてを蹴散らして、走る!
さらに舞奈の目前に、流水の髪をなびかせたリリスたちが出現する。
同時に舞奈の頭上を、背後から放たれた幾つもの雷弾が通り過ぎる。
明日香の【雷弾・弐式】。
プラズマの砲弾を投射する雷術だ。
それが砲撃支援のように、何発も放たれる。
本来は単発のその魔術を、明日香は手にした杖の先から連続発射しているのだ。
普段は火炎放射に使う双徳神杖を、雷弾への魔力の供給に使っているらしい。
そんな幾筋もの雷弾が流水のデーモンたちを撃ち抜く。
明日香はもちろん射撃の腕前も相当なものだ。
それが反動のない攻撃魔法ならなおさらだ。
数を減らしたリリスは別々の軌道をとって舞奈めがけて突撃する。
それらが水の塊になる前に舞奈は拳銃を構え、狙い違わず数体を撃ち抜く。
大口径弾に貫かれたリリスは飛沫になって飛び散る。
それでも残ったリリスたちは、水塊と化して舞奈に襲いかかる。
即ち【堕天の落水】。
だが、もちろん舞奈はすべて避ける。
石や氷のルキフグスを並走されて防護されなかったのは幸いだ。
銃弾はともかく、明日香の攻撃の前に防御は無意味と察したか?
否、敵の攻撃魔法を行使しているのは、魔力に宿った仮初の意思だ。
複数種のデーモンを使って戦術を組み立てるような知性はないのだろう。
暴走した魔力が術者を取りこむまで、手持ちの魔力をぶつける以外の手札はない。
――だから歌う歌う歌う歌う狂うまで、歌う!
――そうさ限界なんてさ無視して振り切って、歌う!
走る舞奈の目前で、あらわれかけたデーモンは毛玉の中に戻る。
舞奈は訝しみ、
「止まって!」
真後ろから明日香の叫び。
そのクロークの内側から焼け焦げた4枚のドッグタグがこぼれ落ちる。
瞬間移動の魔術【戦術的移動】で転移してきたのだ。
「大魔法を使うつもりよ」
「妨害できるか?」
背に問いつつ、舞奈は毛山の上の萩山を見やる。
「……無茶言わないで」
間髪いれぬ無情な答えに、だが納得するしかない。
明日香は魔法消去の魔術【対抗魔術・弐式】を使える。
だが大魔法を構成するほどの強大な魔力に対して小細工は無意味。
逆に消去を反転されて術具を失うのが関の山だ。
あるいは暴走によってコントロールを失っているとはいえ、術者は萩山だ。
狙撃なりで彼を無力化すれば術は霧散する。
最悪でも貯めこんだ魔力が非効率かつ低威力な攻撃として拡散するだけだ。
だが萩山は魔力の暴走に目を見開きながらも、舞奈を信じて歌っている。
自分の魔法を、自分の歌を取り戻すために。
失くしたもの代わりを見つけるために。
だから奴の本体に手出しはしない。
そう舞奈は思っていたが、明日香の考えも同じなのだろう。
だから2人の前に、澄んだ音色と白い冷気を引き連れて氷の壁が起立する。
分厚く冷たい氷の壁を形成する【氷壁・弐式】の魔術。
その目前、氷の壁の向こうで毛玉の中から無数の火球が放出され、周囲に浮かぶ。
暴走した萩山の魔力は、着実に大魔法を形作る。
「防げるのか?」
「大魔法を防いだことなら、以前にもあるわ」
今度は不敵な笑みを浮かべつつ、明日香は次なる真言を紡ぐ。
同時に敵の施術も完成する。
毛玉のあらゆる個所から大量のベルフェゴールが吐き出された。
そして一斉に火球となって掃射される。
その数は無数。
先ほどの氷塊や雷球など及びもつかない、さしずめ火球の嵐だ。
即ち【地獄の爆発】。
――その先にあるのが楽園だなんて
――そんな保障は何処にもないけど
――走り続けた者しか行けない
――すごい場所だとボクは信じるさ
無数の火球が黒煙と異音を引き連れながら氷壁に激突し、爆発する。
爆音と振動が分厚い壁を揺らす。
半透明の壁一面が炎の色に塗りつぶされる。
氷の冷気に混じる熱。
氷の壁は一時、炎の濁流を食い止める。
だが、その勢いに次第に砕かれ、溶かされ、遂には氷の欠片となって飛散した。
残る火球が2人めがけて殺到する。
その直前、完成した【雷壁】の魔術が2人の前に電磁バリアを形成した。
群れなす火球を、爆発を、放電するドーム状のバリアが阻む。
それでも明日香は真言を続ける。
バリアを突き破った1発とその爆発を、さらにその内側に形成した斥力場が弾く。
そして宣言通りに大魔法を防ぎ切り、残った力場を解除しながら笑う。
対する萩山はその凄まじい攻防に目を見開いていた。
その表情が、やがて安堵と興奮の笑みへと変わる。
決して戦闘慣れしていない彼のロックが芸術なのと同じだ。
明日香の魔術もまた、アートの域に達している。
……彼女の歌は惨事だが。
――だから走る走る走る走る振り向かずに、走る!
――それがボクの生き方さだから振り向かずに、走る!
氷壁の残骸を跳び越え、舞奈は走る。
暴走し、自動的に暴れる魔力にも隙はできる。
大技を防がれた後の、今がそうだ。
萩山のふもとにたどり着いた舞奈は、そのまま毛山を駆け上がる。
巨大な毛山の下側は、生物に似て異なる材質でできた土台になっているようだ。
まあ頂上に萩山が埋まっているのだから当然だ。
舞奈はそこを、七色の毛をかきわけながら走る。
かつて怪物と化し悟を相手にそうしたように。
だが今回はダミーのピクシオンをけしかけた隙に後ろから近づくのではない。
真正面から奴を目指して走る。
それでいい。
不意に風を感じ、拳銃を仕舞って改造拳銃を抜く。
銃弾に魔法がかけられたのだ。
得物を斥力場で強化する【力弾】。
この魔術は他の付与魔法や特殊炸裂弾に比べて指向性が強く、感覚的には拳銃からライフル弾が発射されるようなものだ。
そのチョイスは、魔力の焦点を狙い打てるようにとの配慮からだろう。
舞奈は背後を盗み見て笑う。
かつて舞奈は仲間を失った。
だが今は後ろに明日香がいる。
舞奈が失ったものを手放し、そして見つけたパートナーが。だから――
――だから歌う歌う歌う歌う何も考えずに、歌う!
――それがボクのやりたいことだから躊躇わずに、歌う!
萩山の歌にこもった悪魔のイメージはアスモデウス。
高等魔術におけるカマエル――鉄の戦争、闘争心を司る大天使に対応する。
そのイメージを、金属を操る術をもたない悪魔術師は完全には使いこなせない。
だが萩山は、そのイメージを死に物狂いで喚起しようとしている。
即ち、勇気の魔法を。
だから舞奈も、彼の心意気に答えたい。
彼自身を救うことによって。
そう思った瞬間――
「――うわっ!?」
不意に舞奈の足元が崩れた。
毛玉の山は暴走した魔力で形成された、いわば巨大なかつらだ。
だから術者の――暴走した魔力自体の意思で解体して再構成することも可能だ。
「野郎! 小賢しいことしやがって!」
毛山を構成していた火の粉や岩石といっしょに、落下しながら舌打ちする。
形を変えただけで、周囲の魔力は減じていない。
萩山も実質的には解放されていない。
邪魔者を振り落とした後、魔力は再び毛山になって彼自身への侵食を再開する。
そしてかつての悟のように、彼は魔法そのものになって、魔法といっしょに消える。
「……させるかよ」
それでも舞奈の口元には笑みが浮かぶ。
鮫のように凄惨な笑みが。
落下しながら、銃口の先に萩山を捉える。
正確には彼が手にしたギター。
明日香の言葉を思い出す。
魔力の焦点が、暴走した魔力の礎となっている。
焦点を破壊すれば、暴走した魔力は再び形を成すことはない。
足場を崩された舞奈のように拠り所を失い、霧散する。
だから魔力が実質的な防御手段にならない今の状況はチャンスですらある。
ならば焦点は何処か?
かつて悟にとって、三種の神器が焦点だった。
ネコポチにとってはハーモニウム・シールドの欠片が焦点だった。
そのパターンからすると、十中八九、手にしたギターがそうだろう。
だがチャンスは1回。
これほど強力な魔力を一手に引き受ける焦点なのだ。
それを確実に破壊するには、改造拳銃の弾倉に残った斥力場の弾丸すべて命中させる必要がある。
そして舞奈に魔力を見ることはできない。
明日香にならわかるはずだ。
だが、この距離では萩山が所持した何かというくらいしか判別できないだろう。
そもそも意見を求める余裕はない。
さらに、脳裏をよぎる微かな違和感。
悟は三種の神器に美佳の復活への希望を託していた。
ネコポチにとって破片は母親と自身を繋ぐへその緒のようなものだった。
萩山にとってのギターは、それらと同じものだろうか?
彼の情動の受け皿になるほどのものだろうか?
もちろん彼はロッカーだ。
ギターを大事にしていないわけでもないだろう。
だが、それは舞奈にとっての拳銃と同じようなものに思える。
大切な何かを失くす前から、持っていたものだ。
ならば舞奈が失くしたものを取り戻せる力を得たとしたら、それを何処に隠す?
落下する風に吹かれて舞奈の可愛い赤いジャケットが揺れる。
小さなツインテールとリボンが揺れる。
それらは美佳が遺したものじゃなくて、女装マッチョの物まねだったけど――
――銃声、銃声、連なる銃声。
硝煙香る改造拳銃を片手で構えた舞奈の口元には笑み。
目前の萩山が浮かべた表情は、驚愕。
その上には弾痕ひとつ。
正確には額の上、頭皮をぎりぎりにかすめる軌道。
斥力場の弾丸は、そこにあった何かを正確に射抜いていた。
10発の弾丸を同じ場所に命中させる程度のことは、舞奈にとって造作もない。
それが、たとえ落下しながらであっても。
「――!?」
萩山は驚愕に目を見開く。
その頭上で、穴の開いた毛髪が輝く。
そして輝く長い金髪は光の粉になって、消えた。
まるで綺麗な悪夢から覚めるように。
――そこできっと空と大地は混ざり合う……
――ボクはボクだけの空を取り戻した、FALLEN ANGEL……
――何処までも走って行けるだろう……
ロッカーの仁義を果たすように歌を締めくくって、結界も消える。
だから舞奈は身をよじって重心を動かし、コンクリートの床に着地する。
萩山は床に激突しかける。
だが明日香が斥力場の盾をクッション代わりに受け止める。
そんな3人を、退避していた執行人たちが囲んだ。
彼らは不敵な笑みを浮かべた舞奈を見やる。
すまし顔の明日香を見やる。
そして呆けた表情の……だが傷ひとつ負っていない無事な萩山を見やって、笑った。
「何てこと……!?」
舞奈は舌打ちし、明日香も驚きに目を見張る。
目前にあらわれたそれは、小山のように巨大な毛玉だった。
その上に、ひょろりとした萩山の上半身が生えている。
その様を、舞奈は魔法を暴走させた悟に似てると思った。
美佳を復活させようとした悟は、美佳の身体を寄り集めたような塊になった。
そして毛髪を欲した彼は、七色の毛が生えた塊になった。
「俺は……!? 俺は……そうか……」
萩山は変わり果てた自身の姿を見やり、
「はは……こんな風になるんだなあ……もっとちゃんと調べておけばよかったよ……」
力なく笑った。
調査不足と自嘲しつつも、ようやく理解したらしい。
自身の行為が、取り返しのつかない事態を招いてしまったことを。
彼はその身に取りこんだ魔力を制御しきれなかった。
だから強大な魔力は暴発した。
しかもそれは異変の始まりに過ぎない。
「でももういいんだ……あんたたちは逃げてくれ……俺はもう……だめだ……力が抑えきれないんだ」
囁くように萩山は語る。
毛山の上の本体は離れているのに【風歌】によって声は聞こえる。
彼の言葉は真実だ。
じきに暴走した魔力は術者本体を飲みこみ、魔法の一部へと変える。
彼の知らない三剣悟のように。
あるいは魔獣になったネコポチのように。だが、
「それにこんなに……毛が生えたんだ。ずっとこの日を……待ってたんだ……」
「いや、下に生える毛は髪じゃないだろ」
舞奈は彼に軽口を返す。
普段の会話と同じように。
その口元には不敵な笑みが浮かぶ。
「逃げる理由なんかないさ。最初に言ったろ? 歌を聞きに来たってな」
言って「だから」と笑みを浮かべる。そして、
「聞かせてくれよロッカー! あんたの……あんた自身の歌を!」
叫びながら走り出した。
魔力の暴走により結界の構造が変化したのだろう。
先ほどまで目前にいた、萩山だった毛山と舞奈の距離は、今やかなり離れている。
それでも構うものかと笑う。
距離を引き離されたのなら追いつけばいい。
過ちを犯したのなら正せばいい。
何かを失ったのなら……それ以上の何かをその手につかめばいい!
「……!!」
毛山の上で萩山は驚く。
舞奈の言葉の意味に気づいたからだ。
魔力の暴走は、かき集めた魔力が自身のそれを上回ることにより引き起こされる。
だから暴走を抑えるには、自分自身の魔力を高めればいい。
萩山にとって、それはロックだ。
そして、かき集められ暴走した魔力を弱めるのは舞奈と、明日香の役目だ。
その役目を完遂してやると、舞奈は宣言したのだ。だから、
――ここはコンクリートの壁に囲まれた……
――冷たい鉄の檻の中……
――ボクらは堕とされ翼を無くしたANGEL……
萩山は、かすれた声で歌い始める。
曲目はファイブカードの『堕天使のINNOCENT∵WISH』。
――だからボクらは古びた鎖、引き千切って……
――何処へ続くか知れない彼方を目指して、走り出す……
上半身は元の萩山のままだから、そのまま手にしたギターを奏でる。
舞奈も口元に笑みを浮かべて走り出す。
「どこかに魔力の焦点があるはずよ!」
背後から明日香の声。
「それを見つけて破壊して! そうすれば暴走している魔力が霧散するわ」
「オーケー!」
答えつつ、舞奈は拳銃を握りしめて走る。
目指すは彼方にゆらめく巨大な毛玉。
その頂上に、生えるような状態で囚われた萩山。
――ボクは走る走る走る息が切れるまで、走る!
――羽は無くても2本の足があるから!
巨体を覆う長い毛が風もないのにゆらめき、数体のデーモンが飛び出す。
霜をまとわせた氷のルキフグスだ。
デーモンたちは濃密な霜に覆われる。
それが凝固し氷の塊となり、舞奈めがけて一斉に飛来する。
即ち【堕天の落氷】。
その質量とスピードは、氷でできた砲弾。
まともに当たれば人の身体などひとたまりもない。
だが舞奈は素早く横に跳び、身をかがめて幾つもの氷塊を避ける。
余裕の笑みを浮かべたまま。
その残像を、冷気を振りまきながら巨大な氷の塊が貫く。
萩山は驚愕に目を見開く。
先ほどまでの萩山は、それでも生身の舞奈を相手に手加減をしていた。
小さなデーモンたちが放った無数の魔弾は、当たっても死ぬことはなかった。
例えば【閃雷】は脂虫に数発撃ってようやく気絶させられる程度の威力だ。
だが今や彼は魔力に取りこまれ、暴走している。
暴走した魔力は手加減などしない。
術者から供給され続ける魔力を、全力で周囲に叩きつける。
――ボクは歌う歌う歌う声がかれるまで、歌う!
――天使のリングなくても願いがあるから!
萩山はギターをかき鳴らしながら舞奈を見やる。
その表情には迷いが浮かぶ。
気づいたのだ。
彼の歌は、暴走した魔力から彼自身を守る最後の砦だ。
だが同時に、暴走した魔力そのものも彼の歌で強化される。
それでも舞奈は萩山に顔を向け、鮫のような凄惨な笑みを返す。
気遣いなど無用だと。
何故なら舞奈は最強だから。
――走り続けるうちにキミと出会った
――キミはボクの隣で歌ってた
――何を願い走るのか忘れたまま
――気づくと皆で歌ってた
そんな舞奈の前に、何体ものデーモンが飛び出る。
暴走した魔力が生みだした悪魔の群。
次なるは金髪をなびかせた雷のベルフェゴールだ。
そのうち1体を、舞奈の背後からのびた一条の稲妻が飲みこむ。
稲妻の砲弾は次いでその横にいた1体を穿ち、次いで別の1体へと飛び火する。
即ち【鎖雷】の魔術。
――それが愚かだなんてボクだって思うさ
――皆はボクらを指さして笑うさ
――けれどそれこそが冷たい壁を打ち砕く、POWER!
残るベルフェゴールは先ほどの氷の一撃と同様に、一斉にプラズマの塊へと変じる。
先ほどの明日香の雷砲よりやや大きいそれは【堕天の落雷】。強力な落雷の呪術。
それらが一斉に、先ほどのの意匠返しのように舞奈めがけて飛来する。
さしずめ雷弾の弾幕だ。
だが舞奈は笑う。
先ほど明日香が屠った数匹分の隙間めがけて身を躍らせ、雷弾の雨をやり過ごす。
一瞬遅れて背後で幾つもの光が弾ける。
閃光。
爆音。
オゾンの匂い。
次いで舞奈は左手で短機関銃を抜く。
そして、またしても出現したベルフェゴールめがけて撃つ。
姿を変えようとしていた数体が爆発する。
今度は炎を媒体に大爆発を引き起こす【地獄の爆裂】だ。
悪魔術によるデーモンのイメージは、高等魔術による大天使のそれに対応する。
火雷を司るベルフェゴールは大天使ミカエルに。
大地と氷を司るルキフグスは大天使ウリエルに。
水と情報伝達を司るリリスは大天使ガブリエルに。
風と治療を司るアドラメレクは大天使ラファエルに。
生命と死を司るバールは大天使ザドギエルに。
魔力と感情を司るアスタロトは大天使ハニエルに。
だが悪魔は大天使の代わりにはならない。格が違うのだ。
それが魔術を研究し再構成した高等魔術と、呪術の源だけを代用した悪魔術の差だ。
それでも悪魔術師は歌う。
おそらく彼らが、彼ら自身であるために。
――だから走る走る走る走る倒れるまで、走る!
――そうさ立ちふさがるものすべてを蹴散らして、走る!
さらに舞奈の目前に、流水の髪をなびかせたリリスたちが出現する。
同時に舞奈の頭上を、背後から放たれた幾つもの雷弾が通り過ぎる。
明日香の【雷弾・弐式】。
プラズマの砲弾を投射する雷術だ。
それが砲撃支援のように、何発も放たれる。
本来は単発のその魔術を、明日香は手にした杖の先から連続発射しているのだ。
普段は火炎放射に使う双徳神杖を、雷弾への魔力の供給に使っているらしい。
そんな幾筋もの雷弾が流水のデーモンたちを撃ち抜く。
明日香はもちろん射撃の腕前も相当なものだ。
それが反動のない攻撃魔法ならなおさらだ。
数を減らしたリリスは別々の軌道をとって舞奈めがけて突撃する。
それらが水の塊になる前に舞奈は拳銃を構え、狙い違わず数体を撃ち抜く。
大口径弾に貫かれたリリスは飛沫になって飛び散る。
それでも残ったリリスたちは、水塊と化して舞奈に襲いかかる。
即ち【堕天の落水】。
だが、もちろん舞奈はすべて避ける。
石や氷のルキフグスを並走されて防護されなかったのは幸いだ。
銃弾はともかく、明日香の攻撃の前に防御は無意味と察したか?
否、敵の攻撃魔法を行使しているのは、魔力に宿った仮初の意思だ。
複数種のデーモンを使って戦術を組み立てるような知性はないのだろう。
暴走した魔力が術者を取りこむまで、手持ちの魔力をぶつける以外の手札はない。
――だから歌う歌う歌う歌う狂うまで、歌う!
――そうさ限界なんてさ無視して振り切って、歌う!
走る舞奈の目前で、あらわれかけたデーモンは毛玉の中に戻る。
舞奈は訝しみ、
「止まって!」
真後ろから明日香の叫び。
そのクロークの内側から焼け焦げた4枚のドッグタグがこぼれ落ちる。
瞬間移動の魔術【戦術的移動】で転移してきたのだ。
「大魔法を使うつもりよ」
「妨害できるか?」
背に問いつつ、舞奈は毛山の上の萩山を見やる。
「……無茶言わないで」
間髪いれぬ無情な答えに、だが納得するしかない。
明日香は魔法消去の魔術【対抗魔術・弐式】を使える。
だが大魔法を構成するほどの強大な魔力に対して小細工は無意味。
逆に消去を反転されて術具を失うのが関の山だ。
あるいは暴走によってコントロールを失っているとはいえ、術者は萩山だ。
狙撃なりで彼を無力化すれば術は霧散する。
最悪でも貯めこんだ魔力が非効率かつ低威力な攻撃として拡散するだけだ。
だが萩山は魔力の暴走に目を見開きながらも、舞奈を信じて歌っている。
自分の魔法を、自分の歌を取り戻すために。
失くしたもの代わりを見つけるために。
だから奴の本体に手出しはしない。
そう舞奈は思っていたが、明日香の考えも同じなのだろう。
だから2人の前に、澄んだ音色と白い冷気を引き連れて氷の壁が起立する。
分厚く冷たい氷の壁を形成する【氷壁・弐式】の魔術。
その目前、氷の壁の向こうで毛玉の中から無数の火球が放出され、周囲に浮かぶ。
暴走した萩山の魔力は、着実に大魔法を形作る。
「防げるのか?」
「大魔法を防いだことなら、以前にもあるわ」
今度は不敵な笑みを浮かべつつ、明日香は次なる真言を紡ぐ。
同時に敵の施術も完成する。
毛玉のあらゆる個所から大量のベルフェゴールが吐き出された。
そして一斉に火球となって掃射される。
その数は無数。
先ほどの氷塊や雷球など及びもつかない、さしずめ火球の嵐だ。
即ち【地獄の爆発】。
――その先にあるのが楽園だなんて
――そんな保障は何処にもないけど
――走り続けた者しか行けない
――すごい場所だとボクは信じるさ
無数の火球が黒煙と異音を引き連れながら氷壁に激突し、爆発する。
爆音と振動が分厚い壁を揺らす。
半透明の壁一面が炎の色に塗りつぶされる。
氷の冷気に混じる熱。
氷の壁は一時、炎の濁流を食い止める。
だが、その勢いに次第に砕かれ、溶かされ、遂には氷の欠片となって飛散した。
残る火球が2人めがけて殺到する。
その直前、完成した【雷壁】の魔術が2人の前に電磁バリアを形成した。
群れなす火球を、爆発を、放電するドーム状のバリアが阻む。
それでも明日香は真言を続ける。
バリアを突き破った1発とその爆発を、さらにその内側に形成した斥力場が弾く。
そして宣言通りに大魔法を防ぎ切り、残った力場を解除しながら笑う。
対する萩山はその凄まじい攻防に目を見開いていた。
その表情が、やがて安堵と興奮の笑みへと変わる。
決して戦闘慣れしていない彼のロックが芸術なのと同じだ。
明日香の魔術もまた、アートの域に達している。
……彼女の歌は惨事だが。
――だから走る走る走る走る振り向かずに、走る!
――それがボクの生き方さだから振り向かずに、走る!
氷壁の残骸を跳び越え、舞奈は走る。
暴走し、自動的に暴れる魔力にも隙はできる。
大技を防がれた後の、今がそうだ。
萩山のふもとにたどり着いた舞奈は、そのまま毛山を駆け上がる。
巨大な毛山の下側は、生物に似て異なる材質でできた土台になっているようだ。
まあ頂上に萩山が埋まっているのだから当然だ。
舞奈はそこを、七色の毛をかきわけながら走る。
かつて怪物と化し悟を相手にそうしたように。
だが今回はダミーのピクシオンをけしかけた隙に後ろから近づくのではない。
真正面から奴を目指して走る。
それでいい。
不意に風を感じ、拳銃を仕舞って改造拳銃を抜く。
銃弾に魔法がかけられたのだ。
得物を斥力場で強化する【力弾】。
この魔術は他の付与魔法や特殊炸裂弾に比べて指向性が強く、感覚的には拳銃からライフル弾が発射されるようなものだ。
そのチョイスは、魔力の焦点を狙い打てるようにとの配慮からだろう。
舞奈は背後を盗み見て笑う。
かつて舞奈は仲間を失った。
だが今は後ろに明日香がいる。
舞奈が失ったものを手放し、そして見つけたパートナーが。だから――
――だから歌う歌う歌う歌う何も考えずに、歌う!
――それがボクのやりたいことだから躊躇わずに、歌う!
萩山の歌にこもった悪魔のイメージはアスモデウス。
高等魔術におけるカマエル――鉄の戦争、闘争心を司る大天使に対応する。
そのイメージを、金属を操る術をもたない悪魔術師は完全には使いこなせない。
だが萩山は、そのイメージを死に物狂いで喚起しようとしている。
即ち、勇気の魔法を。
だから舞奈も、彼の心意気に答えたい。
彼自身を救うことによって。
そう思った瞬間――
「――うわっ!?」
不意に舞奈の足元が崩れた。
毛玉の山は暴走した魔力で形成された、いわば巨大なかつらだ。
だから術者の――暴走した魔力自体の意思で解体して再構成することも可能だ。
「野郎! 小賢しいことしやがって!」
毛山を構成していた火の粉や岩石といっしょに、落下しながら舌打ちする。
形を変えただけで、周囲の魔力は減じていない。
萩山も実質的には解放されていない。
邪魔者を振り落とした後、魔力は再び毛山になって彼自身への侵食を再開する。
そしてかつての悟のように、彼は魔法そのものになって、魔法といっしょに消える。
「……させるかよ」
それでも舞奈の口元には笑みが浮かぶ。
鮫のように凄惨な笑みが。
落下しながら、銃口の先に萩山を捉える。
正確には彼が手にしたギター。
明日香の言葉を思い出す。
魔力の焦点が、暴走した魔力の礎となっている。
焦点を破壊すれば、暴走した魔力は再び形を成すことはない。
足場を崩された舞奈のように拠り所を失い、霧散する。
だから魔力が実質的な防御手段にならない今の状況はチャンスですらある。
ならば焦点は何処か?
かつて悟にとって、三種の神器が焦点だった。
ネコポチにとってはハーモニウム・シールドの欠片が焦点だった。
そのパターンからすると、十中八九、手にしたギターがそうだろう。
だがチャンスは1回。
これほど強力な魔力を一手に引き受ける焦点なのだ。
それを確実に破壊するには、改造拳銃の弾倉に残った斥力場の弾丸すべて命中させる必要がある。
そして舞奈に魔力を見ることはできない。
明日香にならわかるはずだ。
だが、この距離では萩山が所持した何かというくらいしか判別できないだろう。
そもそも意見を求める余裕はない。
さらに、脳裏をよぎる微かな違和感。
悟は三種の神器に美佳の復活への希望を託していた。
ネコポチにとって破片は母親と自身を繋ぐへその緒のようなものだった。
萩山にとってのギターは、それらと同じものだろうか?
彼の情動の受け皿になるほどのものだろうか?
もちろん彼はロッカーだ。
ギターを大事にしていないわけでもないだろう。
だが、それは舞奈にとっての拳銃と同じようなものに思える。
大切な何かを失くす前から、持っていたものだ。
ならば舞奈が失くしたものを取り戻せる力を得たとしたら、それを何処に隠す?
落下する風に吹かれて舞奈の可愛い赤いジャケットが揺れる。
小さなツインテールとリボンが揺れる。
それらは美佳が遺したものじゃなくて、女装マッチョの物まねだったけど――
――銃声、銃声、連なる銃声。
硝煙香る改造拳銃を片手で構えた舞奈の口元には笑み。
目前の萩山が浮かべた表情は、驚愕。
その上には弾痕ひとつ。
正確には額の上、頭皮をぎりぎりにかすめる軌道。
斥力場の弾丸は、そこにあった何かを正確に射抜いていた。
10発の弾丸を同じ場所に命中させる程度のことは、舞奈にとって造作もない。
それが、たとえ落下しながらであっても。
「――!?」
萩山は驚愕に目を見開く。
その頭上で、穴の開いた毛髪が輝く。
そして輝く長い金髪は光の粉になって、消えた。
まるで綺麗な悪夢から覚めるように。
――そこできっと空と大地は混ざり合う……
――ボクはボクだけの空を取り戻した、FALLEN ANGEL……
――何処までも走って行けるだろう……
ロッカーの仁義を果たすように歌を締めくくって、結界も消える。
だから舞奈は身をよじって重心を動かし、コンクリートの床に着地する。
萩山は床に激突しかける。
だが明日香が斥力場の盾をクッション代わりに受け止める。
そんな3人を、退避していた執行人たちが囲んだ。
彼らは不敵な笑みを浮かべた舞奈を見やる。
すまし顔の明日香を見やる。
そして呆けた表情の……だが傷ひとつ負っていない無事な萩山を見やって、笑った。
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