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第10章 亡霊

戦闘1-1 ~仏術vs異能力

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 奈良坂は意を決し、片手で抱えたチャビーを庇うように半身に身構える。

 奈良坂が維持している妖術は2つ。

 身体に魔力を巡らせて内側から強化する【増長天法《ヴィルーダケナ・クローダ》】。
 召喚した筋肉をまとうことにより肉体を強化する【持国天法《ドゥリタラーシュトレナ・クローダ》】。
 仏術士が誇る二段重ねの付与魔法エンチャントメント

 対して奈良坂を遠巻きに囲む誘拐犯は5人。

 槍を携えたコスプレのような甲冑。
 長ドスを手にした背広。
 何かの武道を構えた巨漢。
 武器はもっていないが下品な腕時計をつけた中年男。
 少し離れた場所で見ている流麗な少年。彼は魔道士メイジ――道士だ。

 彼らをすべて倒せるなんて思っていない。
 奈良坂が生き延びる唯一の手段は、チャビーを連れて逃げることだ。

 だから奈良坂はスカートの内側から符の束を取り出す。
 それを躊躇なく周囲にまき散らし、不動明王アチャラ・ナータの咒を紡ぐ。
 先手必勝!

 符は一斉に燃え上がって数多の火矢と化し、炎の輪となる。
 そして術者の一声とともに全周囲に飛翔する。
 即ち【不動火車法アチャラナーテナ・アグニチャクラ】。

「くぅ!?」
「なんだと!?」
 火の粉を散らす火矢の群に男たちは怯む。

 奈良坂は続けざまにスカートから金剛杵ヴァジュラを取り出す。
 両端が尖った鉄の小杖が、飛び散った炎に照らされて鈍く光る。

 突破口を開くべく甲冑めがけて帝釈天インドラの咒を唱える。
 金剛杵ヴァジュラから電撃が放たれる。
 即ち【帝釈天法インドレナ・ヴィデュット】。
 攻撃魔法エヴォケーションを不得手とする仏術としては例外的に、魔道具アーティファクトを用いた強力な雷の術。
 その威力は砲撃に匹敵する。

 雷撃の狙いを彼に定めたのは金属の甲冑が電撃の威力を倍増させるとふんだからだ。

 ……だが雷撃は甲冑に弾かれて霧散した。

「【装甲硬化ナイトガード】!?」
 身に着けた防具を強化する異能の名をひとりごち、目を見開く。

「てめぇ!? 魔法使いか!」
 甲冑は叫びながら、鋭い槍で奈良坂を突く。

「俺様の拳で叩き伏せる!」
 巨漢も拳を叩きつける。
 尋常ならざる屈強な巨躯は、身体を強化する【虎爪気功ビーストクロー】の賜物だろう。

 だが思わず目をつむる奈良坂の目前で、槍と拳は虚空に阻まれて止まった。
 甲冑と巨漢は驚愕する。
 奈良坂の腕にはめられた数珠が揺れる。

「【不動行者加護法アチャラナーテナ・ラクシャ】。重力場による障壁を張り巡らせる仏術です」
 少年が涼やかな声で、奈良坂の術の正体を言い当てる。

 この術は空間に対するアプローチの違いにより神術の【護身神法ごしんしんぽう】ほど強度はない。
 だが数珠を媒体にして相当量のダメージを防ぐことができる。
 加えて数珠の破壊と引き換えに、防ぎきれない最後の一撃を無にすることもできる。

「このアマァ! ふざけた真似しやがって!」
「バリアかね。わたしも加勢しよう」
 背広は逆手に握った長ドスを振り上げ、奈良坂を守る不可視の壁に振り下ろす。
 中年男は拳に炎を宿らせて殴る。
 前者の異能は不明|(あるとしたら)だが、後者は恐らく【火霊武器ファイヤーサムライ】。

 男たちは槍と長ドス、鉄拳と炎の拳を不可視の障壁に叩きつける。

「ひぃ~~」
 奈良坂はチャビーを抱きかかえたまま縮こまる。

 打撃の嵐が障壁を揺るがし、手首の数珠を揺らす。
 障壁が破られるのも時間の問題だ。
 だが、どちらにせよ奈良坂に障壁越しに攻撃する手段はない。
 状況を打開しようとすれば、障壁を解除するしかない。

 奈良坂はチャビーを抱えてうずくまりながら、今にも千切れそうな数珠を弄って弱気を無理やりに抑えこむ。

 自身の腕の中には無垢で幼い少女がいる。
 なんで自分が、この子が、こんな目に合わなくちゃならないのか?
 そんなことはわからない。
 けど、2人の命運を自分が握っていることだけは確かだ。

 だから奈良坂は憧れの志門舞奈がそうしているように、次の一手を確実なものとするべく自分の手札を確認し、次の一手を考える。

 右手には金剛杵ヴァジュラが握られているが【帝釈天法インドレナ・ヴィデュット】は先ほど弾かれたばかりだ。
 ……いや、相手が【装甲硬化ナイトガード】でなければ通用する。

 加えてスカートの裏から【梵天創杖法ブラフマナ・ダンダ】に使う特殊戦闘呪符を取り出せる。
 たしかアサルトライフルAK47を召喚する符だったはずだから、雷撃が効かなければこれを使おうと心に決めた。

 そして狙いは【火霊武器ファイヤーサムライ】の中年男。
 なぜなら【虎爪気功ビーストクロー】より【火霊武器ファイヤーサムライ】のほうが防御は弱いし、彼は年齢的に他の男たちより身体能力が劣っていると思われるからだ。
 背広は最初から眼中にない。
 異能力者が持てる異能はひとりにひとつ。現時点では彼の異能がわからない。

 突破した後は、わき目もふらず走る。
 それしかない。

 よくよく見やると、ここはどこかのビルの地下にある駐車場だ。
 二段構えの身体強化を駆使して車が通る道を走れば、外に出られる。
 ドアを開けて変な部屋に入りこむよりずっといい。

 これなら、いける!

 決意を決めた奈良坂の目前、障壁を攻撃する男たちの向うで、少年の側にいつの間にか薄汚い男が2人、立っていた。
 男たちの手には火のついた煙草。
 重力場の障壁越しですら臭う煙が、彼らが脂虫であることを示していた。
 だが異能力を使う泥人間に比べれば、異能を持たない脂虫は雑魚だ。

 少年は長く奇怪な嘯を繋げ、何らかの術を行使しようとしている。
 恐らくは大魔法インヴォケーション

 だが施術中には動けないのだから恐れは無用。
 むしろ術が発動する前に逃げるべきだ。

 一方、男たちは障壁を殴るのに飽きたか、殴るペースが単調かつ適当になっていた。
 今がチャンスだ!

 奈良坂はチャビーを見やり、目的地である外を見やり、深呼吸する。

 己を鼓舞するように帝釈天インドラの咒を唱える。

 そして立ち上がり、障壁を解除した。

「……!?」
 男たちは不意に障壁が消えてつんのめる。
 そのうちのひとり、中年男に金剛杵ヴァジュラを向けて攻撃魔法エヴォケーションを解き放つ。
 先ほどの雷よりさらに激しく輝く雷撃が、轟音をあげながら男めがけてほとばしる。

 だが男を焼き尽くすはずの雷撃は、不意に男を覆った炎にはじかれて消えた。

「え……?」
 先ほどまで【火霊武器ファイヤーサムライ】だと思っていた男は、その身に炎の衣をまとっていた。

「【火行・防衣ホシン・ファンイ】!? ……こっちも道士!?」
 奈良坂は戸惑う。

 だが咄嗟に思いつき、無我夢中で摩利支天マリーチの印と咒を脳裏に描く。
 だが姿を消すのは自分じゃない。
 炎の衣に守られて嗜虐的に笑う中年男に金剛杵ヴァジュラを押しつけ、術を行使する。途端、

「何だと!? 何がおこった!?」
 男は叫びながら、あらぬ方向に向かって身構えた。
 即ち【摩利支天神鞭法マリーチナ・バンダ】。
 対象を透明化のフィールドで裏向に覆う妖術だ。

 それによって前後不覚になった男の脇を潜り抜ける。

 そして二段構えの身体強化による脚力にまかせて走る、走る、走る。だが、

「……!?」
 不意に足元をすくわれて転んだ。
 抱えたチャビーをかばって横向きに倒れる。
 手から離れた金剛杵ヴァジュラがアスファルトの地面を転がる。

 自身の足元を見やる。
 足首を、エレメントで形作られた3つの鎖の枷が縛めていた。
 水の鎖、石の鎖、鉄の鎖。
 それぞれ【水行・縛鎖シュイシン・フーソ】【土行・岩鎖ムシン・イアンソ】【金行・鉄鎖ジンシン・ティエソ】。

「そんな、まさか全員が……」

 驚愕する奈良坂の前に、4人の男が歩み寄る。

 炎の衣を身にまとった中年男。
 流れる水をマントのようにまとった背広。
 巨大な岩石塊を盾のように携えた巨漢。
 同様に鉄の盾を構えた甲冑。

 奈良坂が対峙していたのは異能力者ではない。5人の道士だったのだ。

 ――それでも。
 手の中の少女の重みが奈良坂を絶望から遠ざける。

 奈良坂は九字を切り、足元を縛める鎖に触れる。
 九字による魔法消去は反撃を『形』に肩代わりさせられる。
 だが純粋な術の行使者としてはそれなりに優秀な奈良坂の消去は、反撃されることなく成功した。まずは鉄の鎖が解体され、魔力の粉となって消える。

 この調子で残る2つを解除すれば逃げられる。
 だから次なる九字を切る。

 ――奈良坂の脳裏を、いつかチャビーと園香と桜と歩いた公園の情景がよぎる。
 あの時は舞奈たちが屋台をしているのを見つけて、皆で楽しんだ。

 ――展覧会に出展した絵が金賞をとったことを思い出す。
 美術館の一角に飾られた自身の作品を見て、嬉しくも少しくすぐったい思いをした。
 正規の保健所からの依頼で同じ犬を描いたポスターが、支部の掲示板を飾った。

 ――舞奈とリコと、桜の家を訪れた時のことを思い出す。
 見なれた日常の中に憧れの舞奈がいることが、なんだか嬉しかった。

 あの日常に帰りたい。
 だって奈良坂の周りにいる優しい人たちは、友人がいなくなると悲しむから。

 3度目の九字が最後の鎖を消去する。

 男たちはゆっくりと奈良坂に歩み寄る。
 奈良坂との間にはまだ距離がある。

 だから奈良坂はチャビーを抱えて立ち上がる。
 目くらましのために摩利支天マリーチの咒を唱えつ、走る。
 出口はすぐそこ。だが、

「……!?」
 目の前のコンクリートの壁が、アスファルトの路地が黒ずんだ。
 車道の出口がどす黒い何かに覆われ、周囲を例えようもない悪臭が満たす。

 少年の側に、2匹の脂虫が浮かんでいた。
 ヤニを摂取し続けた人型の醜い怪異の四肢はあらぬ方向に捻じ曲げられ、苦悶の表情を浮かべながら黒い塵と化して崩壊していく。
 そして壊れた脂虫の塵に汚されるように、ゆっくりと世界が黒ずんでいく。

「【大尸来臨郷ダシーライリンシャン】……!?」
 脂虫を贄にして戦術結界を創造する大魔法インヴォケーション
 少年が行使していた術はこれだったのだろう。

 だが今さら理解しても、もう遅い。
 奈良坂には結界から抜け出すための手札はない。
 術者を倒す以外には。

 だが少年は遠吠えのように長く不吉な嘯を紡ぐ。すると、

「そんな……」
 結界の端から湧き出るように、無数の人影があらわれた。
 それらは一様に錆びたカタナや鉄パイプを構えていた。
 ボロを着こみ、溶け落ちたような顔をしていた。

 泥人間だ。
 奈良坂は5人の道士に加え、無数の泥人間に包囲されたのだ。

 呆然と立ちすくむ奈良坂を、歩み寄ってきた巨漢が蹴り倒す。

「ぐっ!?」
 奈良坂はアスファルトの路地に叩きつけられる。
 抱いていたチャビーが手を離れて路地を転がる。

「ああっ」
「『ウィツロポチトリの心臓』に乱暴は!?」
「なあに、死にはしない」
 巨漢は幼い少女を拾いあげると、少年へ放り渡す。
 少年はチャビーを受け止めてよろける。
 そして少女を抱えたまま奈良坂に背を向け、去っていく。

「待ってくださ……ぐぁ!?」
 少年とチャビーを追おうとした奈良坂の腹に、巨漢の拳がめりこむ。
 奈良坂はたまらず殴り飛ばされ、再び路地を転がった。

「……なんだ、あのガキほど強くないじゃないか」
 男はひとりごちるように言うと、倒れ伏す奈良坂に歩み寄る。
 他の3人の男も奈良坂を囲む。
 その周囲に、無数の泥人間が輪を作る。

「わたし……舞奈さんみたいに……」
 あの日常に帰りたかった。
 舞奈みたいに、笑って帰りたかった。けど、

「手間取らせやがって!」
 甲冑が、槍を構えて嗜虐的に笑う。

 奈良坂の視界の中で、その姿が歪む。
 眼鏡のフレームが曲がったのかもしれない。

「てめぇが剣次兄さんの仇だな!!」
 甲冑が叫ぶ。

「待て」
 巨漢がそれを押し止める。
 そして奈良坂を睨みつける。

「楽に死ねると思うな。じっくりといたぶり殺してやる」
 口元を歪めて言いながら、巨漢は奈良坂の髪を掴んで何処かへと引きずっていく。
 奈良坂は、ただ激痛と恐怖に耐えるしかなかった。

 一方、舞奈と明日香は屍虫を一掃し終わっていた。

 予想外にあっさりと殲滅できたのは大屍虫がいなかったからだ。
 攻撃魔法エヴォケーションを的確に撃ちこむ明日香だけでなく、ショットガンモスバーグ M500短機関銃ステアー TMPで武装したガードマンたちも奮戦してくれたからという理由もある。
 また彼らが1丁しかないアサルトライフルステアー AUGを舞奈に託した柔軟さの賜物でもある。

 だが、そうして勝ち取った勝利が滓田妖一の予測を超えていなければ意味がない。
 数ばかり多かった奴らが足止めに過ぎないのは明確だ。

 だから舞奈は急ぎ携帯でテックに連絡する。
 ワンコールでつながった。

『……舞奈。奴らの足取りがわかったわ』
 舞奈たちが泥人間を片づける間に、テックはライトバンの行方を追ってくれていた。
 市内各所の防犯カメラの映像を分析した結果、最も可能性が高いのは商業地区の賃貸ビルらしい。

「【機関】にも情報のリークを頼む。あと鷹乃ちゃんの携帯の番号教えたっけ?」
『聞いてないけど、調査済みよ』
「さすがテック! そっちにも教えてやってくれ。飛んでチャビーを追ってる」
『わかったわ』
 言うが早いか通話が切れる。
 テックはすぐさま仕事にとりかかってくれるはずだ。

 一方、明日香はドッグタグと紙片を取り出す。
 半装軌装甲車デマーグを再び召喚するためだ。
 そのとき、

「My good! まだ生きてる奴がいる!」
 ガードマンの叫びとともに、1匹の屍虫が舞奈めがけて飛びかかる。

「野郎……!?」
 アサルトライフルAUGは弾切れ。
 舞奈は素早くナイフを抜き――

 連なる銃声。新手の音。

「――舞奈ちゃん、明日香ちゃん、無事だったアルね」
 ここで聞くはずのない声に、溶け落ちる怪異の向うを凝視する。

「張……?」
 そこには丸々と肥えた中華料理屋の店主がいた。
 禿頭を光らせた饅頭のような顔に、いつもと同じ人の良い笑みを浮かべている。

 張は小ぶりだが武骨なアサルトライフルT86を構えていた。
 銃口から硝煙を立ち上らせるそれを、張は口訣を唱えて符に戻す。
 いまの1匹を屠ったのは彼だ。
 にもかかわらず、

「……すまん、占いの結果は今度聞きに行くよ」
 舞奈は張から目をそらす。

 今は一刻を争う。
 このまますぐに滓田妖一を追ったとしても、間に合う保証はない。
 他の案件に関わり合う余裕などあるはずもない。

「仕事の依頼アル」
「……今、それどころじゃないんだ」
 苛立ちの滲んだ声で張の言葉を突っぱねる。

 テックの情報によって、鷹乃はチャビーを誘拐したライトバンを追っている。
 式神にリンクした彼女は文字通り飛べるだけでなく、占術を使える。
 今度こそ奴らに出し抜かれることはないだろう。

 だが彼女ひとりで滓田妖一の潜伏先を特定し、その一味を叩きのめしてチャビーを救いだしてくれると盲信できるほど強くはないのも事実だ。
 最強のSランクは鷹乃じゃない。舞奈だ。
 そして滓田妖一は、その舞奈を出し抜くための計画を着々と進めている。

 舞奈に立ち止まっている暇はない。

 それでも張は言葉を続ける。

「件の彼女が……チャビーちゃんが誘拐されたアルね? 首謀者は奴アルよ」
 普段の彼からは予想もつかないような温度のない声だった。

「……知ってやがったのか」
 舞奈は張を睨みつけ、だがすぐに冷静さを取り戻す。

「でも、もうどっちでもいいんだ。あたしはチャビーを救いだす。奴が邪魔するならもう一度倒すだけだ」
「奴は何度でも蘇るアル」
「チャビーの命はひとつしかない」
 あいつの兄ちゃんと同じでな、という言葉を苦渋の表情で飲みこむ。
 だが張も譲らない。

「元を断たなければ、何度倒しても蘇ってチャビーちゃんを狙うアルよ。おそらく次はもっと周囲の被害を考えない、容赦のない手段を使うアル」
「……!?」
「それに、舞奈ちゃんたちはチャビーちゃんの正確な居場所がわかるアルか?」
「別の知り合いが奴を追ってる」
 虚勢のように口元を笑みの形に歪める。
 だが張はそんな舞奈を真正面から見つめる。

「ならチャビーちゃんを取り戻す算段は? 奴らは全員が道士アルよ」
「道士なのはキムって奴だけのはずだ。他の5人は異能力を持ってるだけだ」
 あの日、異能力者から奪った異能を。
 舞奈は憎々しげに虚空を睨む。

「それは一年前の話アルよ」
「どういうことだ?」
「……今の奴らは違うアル。奴らはもう『滓田妖一』ではないアルよ」
 今度は張が、顔に苦渋を滲ませる。

 その表情の意味、言葉の意味は舞奈にはわからない。
 彼らの知っている何かを舞奈は知らないし、それを今、問いただす暇はない。
 だから、語るべきことを語る。

「なら、なおさらあたしたちが行かなきゃ始まらないだろう。鷹乃ちゃんひとりじゃ道士6人の相手は無理だ」
 だが張はニヤリと笑う。

「舞奈ちゃんたちに匹敵する魔法戦力を提供できる、といったらどうアルか? 加えて【機関】に圧力をかけて救出作戦を確実なものにできるアル」
「そんなコネをどうやって……」
 言いかけて、そして気づく。

「まさか【組合C∴S∴C∴】が……?」
 舞奈は驚愕する。
 魔道士メイジによる魔道士メイジの為の組織であるはずの【組合C∴S∴C∴】が、たったひとりの異能すら持たぬ少女のために動いてくれる。
 しかも【機関】の執行人エージェントたちまで動かして。

 それが本当なら、願ってもない話だ。
 どんなに強くても、舞奈はひとりしかいないのだから。

 そして【組合C∴S∴C∴】とパイプを持っている張のことを、舞奈は昔からよく知っている。
 さらにハニエルと幾度か言葉を交わした感触から、【組合C∴S∴C∴】を信用のおける組織のように思える。だから、

「【掃除屋】へ依頼アル」
 張は饅頭のような顔に、不敵な笑みを浮かべてみせた。

「依頼人は【組合C∴S∴C∴】。依頼内容は、復活した滓田妖一の完全な排除。報酬は――」
 言って舞奈を見やる。

「――誘拐された日比野千佳ちゃんの奪還。及び【機関】への協力要請。奪還対象および、要請に対して派遣された人員の安全確保」
「その依頼、受けた」
 言って舞奈もニヤリと笑った。

「よかったアル。ならば足も準備するアルよ」
 張はいつもの人の良い笑みを浮かべ、
「明日香ちゃんの半装軌装甲車デマーグより速いアルよ」
 新たな符を取り出した。

 同じ頃。

「そろそろ楽にしてやる! 止めだ!」
 甲冑が叫ぶ。
 成す術もなく倒れ伏し、無数の傷から血を流す奈良坂めがけ、槍が振り下ろされる。
 鋭い穂先がギラリと光り――

 ――そして砕けた。

「何!?」
 甲冑は根元からへし折られた槍を見つめる。

 その足元に、折れた刃が突き刺さった。

 鋭く磨かれた鉄隗に、2つの影が映りこんだ。
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