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第6章 Macho Witches with Guns

奈良坂

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 讃原さんばら町の小洒落た街並みを眺めながら、舞奈はだらだら歩く。
 悟の屋敷を抜け出した舞奈は、道すがら悟と明日香の密談の意味を考えていた。

(サト兄が、三種の神器を使って何かしようとしている……?)
 会話の内容から、それは間違いないと予測できる。

 悟が何かを望むとすれば、思い当たる事柄はひとつしかない。
 ファイゼルは、エンペラーを崇拝していた。
 それと同じように、三剣悟は今なお美佳を愛している。
 その証拠に、彼の部屋には今でもあの頃の写真が立てかけてある。
 舞奈と同じように。

 だが舞奈は首をかしげる。

 それなら、彼にとってアイオスとは何なのだろうか。
 アイオスが悟のために三種の神器を集めていたのなら、アイオスは悟のために罪を犯し、数々の危険を冒したことになる。
 そんな彼女を前にして、悟はなおも美佳の幻を追っているのだろうか?

 そうやって考えるうち、ふと見知った後姿が視界に入った。
 野暮ったい感じのセミロングを気弱げにゆらせた、セーラー服の少女だ。

「よっ、奈良坂さんじゃないか。今日も可愛いな」
 幾度かの事件によって距離の縮まった執行人エージェントに駆け寄る。

「きゃっ。ま、舞奈さん……!?」
 右手をスカートの下に這わせる。
 線の細さとは裏腹な、肉厚でプルンと張りのある至高の感触。
 思わず口元がゆるむ。

 伏せ目がちで弱気な彼女と最初に出会ったのは、【機関】支部の受付前だ。
 そのとき舞奈は、彼女に絡んでいた不良まがいの異能力者たちをやっつけた。
 その後、張の依頼で神鏡(八咫鏡)を取り戻すべく泥人間の住処を探す舞奈たちの前に、彼女は当の泥人間に追われてあらわれた。

 その次に出会ったとき、彼女は刀也と一緒だった。
 アイオスに誘拐された園香を取り戻すべく新開発区を走る舞奈たちの前に、2人は半ば邪魔するような形であらわれた。
 刀也は終始邪魔にしかならなかった。
 だが奈良坂は、生き埋めになりかけた舞奈たちの前に駆けつけてくれた。

 その後、彼女は園香の護衛を務めることになった。
 だが九杖サチへの襲撃のとばっちりのような形で泥人間の道士に襲われた。
 その際にアイオスがあらわれて泥人間たちを蹴散らしたらしいが、動揺して正気を失っていたらしい奈良坂の証言があいまいなので真相はわからない。
 だがその後、彼女は舞奈たちが取り逃がした道士を偶然に倒した。

 そして先日、奪われた魔道具アーティファクトを取り戻すべくファイゼルを追った。
 急造の追跡チームは奈良坂と舞奈と、そして一時休戦したアイオスだった。
 ファイゼルとその手下たちとの戦闘は彼女には荷が重いものだったが、意外にもアイオスが守ってくれたおかげで、彼女は生き延びることができた。

 その直後にピクシオン・ブレスが暴走し、宇宙的恐怖にさらされた彼女はアイオスともども正気を失ってしまった。
 だがどうにか危機を脱し、彼女は【機関】で治療を受けた。
 そして、今は引き続き園香の護衛をしながら日々をうかうかと過ごしている。

 彼女は気弱で要領も悪くて胸も小さく、仏術が使える以外に取り得もない。
 だが素直で正直者で、お尻はふくよかな可愛げのある少女だ。

 そんなことを考えつつ、ふと見上げる。
 すると、泣きそうな表情でうつむいた彼女と目があった。

「いや、スマン。調子に乗ってた……」
 ちょっと尻を撫でるだけのつもりが、こね回すように揉みしだいていた。

 困ったものだ。
 子供だから許されているが、やっていることは件の変態シスターと変わらない。

「まったく、悪い手だ」
 舞奈は右手の甲を左手ではたく。
 そして被害者の控えめな胸に目を落とし、
(お尻は安産型だけど、やっぱり胸はちっちゃいな)
 舌なめずりする。ちっとも反省していない。

「ところで、護衛の調子はどうだい?」
 ひどいセクハラを誤魔化すように、眼鏡の奥の気弱げな瞳に問いかける。
 実のところ、もはやアイオスは園香を狙っていない。
 だから護衛など必要ないのだが。

「それは、その、護衛はもうおしまいなんです……」
 奈良坂はおどおどと言った。

「あの、園香さんに危険が及ぶことはもうないって上層部が判断して……。それで、その、別の任務ができて……」
「別の仕事? 執行人エージェントも大変だな」
「はい……。あ、あの、アイオスさんと組んだ時のことを覚えてますか?」
 そう問われて、うなずき返す。

 ファイゼルを追ったときの話だ。
 エンペラーの手下だった彼は、2つの魔道具アーティファクトを奪って逃げた。
 かつての主を復活させるためだ。

 彼と戦ったのは舞奈と奈良坂、それにアイオスだ。
 アイオスは本来は舞奈たちと敵対するはずの立場だった。
 だが悟のために、三種の神器を取り戻そうとしていた。

 戦闘の末にファイゼルは散り、エンペラー復活の野望は阻止された。

 そしてピクシオン・ブレスが暴走し、明日香が狙撃によって解決し、気づくとアイオスは再び行方をくらませていた。

「それで、その、アイオスさん、また何かしているみたいなんです……」
「あいつも懲りないな。今度は何だ?」
「それは、その、あ、あの時手に入れた魔道具アーティファクトを使って……」
 奈良坂は、説明しあぐねて口ごもる。

「三種の神器と、ミカのピクシオン・ブレスを使って、か」
 明日香と悟との会話を思い出す。
 悟はアイオスに、三種の神器を集めさせていたらしい。
 アイオスが――悟がしようとしているのは、舞奈が危惧していることなのだろうか?

「教えてくれ。魔道士メイジにとって、あの宝物にはどんな意味がある?」
「ご、ごめんなさい、ブレスについては、わたしは何も……」
 奈良坂は腰を引かせ、瞳を涙でうるませながらも、

「で、でも、三種の神器のことなら……」
 おずおずと言った。
 舞奈は無言で先をうながす。

「その、伝承によると、剣は力を奪い、玉は力を操り、鏡は力を形と成すといわれているそうです……」
 その言葉に、舞奈の眼が細められる。
 同じ伝承を先日の事件の際にも聞いた気がする。

「その3つを組み合わせれば、天地に満ちる雑多な魔力を組み合わせて、奇跡に等しい強力な魔法を行使することができると言われています……」
「何でも願いが叶う宝物ってわけか」
 例えばエンペラーを蘇らせようと試みたファイゼルのように。

(やっぱりサト兄は……)
 舞奈の口元に乾いた笑みが浮かぶ。
 悟の部屋には、今なお美佳の写真が立てかけられている。

(サト兄は、ミカを蘇らせようとしている……?)
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