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第5章 過去からの呼び声
応戦 ~銃技&戦闘魔術vs地蔵
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「……なあ、明日香さんよ」
四角い墓石の陰にへばりつき、舞奈は隣の墓に声をかける。
舞奈の手には、硝煙香るアサルトライフル。
そして返事の代わりは折り重なる銃声。
墓石の陰からはみ出たツインテールを銃弾がかすめ、思わず身をすくめる。
「何よ」
同じように隣の墓に身を隠す明日香の肩には戦闘クローク。
こちらを見やる暇も惜しんで作業を続ける。
ぬかるんだ墓地の地面に紙片を広げてドックタグを並べているらしい。
さらに隣の墓の陰では、刀也が身を縮こまらせてガタガタ震えていた。
「ちゃんと準備してきて良かっただろ?」
ヤケクソ気味にドヤ顔しつつ、墓石の陰から様子を窺おうと顔を出す。
だが集中砲火に慌てて引っこめる。
ツインテールを結っていた赤いリボンの先が千切れ飛んだ。
「百均のリボン、それが最後なんだぞ」
毒づく。
視界の隅に映った射手の正体は地蔵だ。
霊園予定地の敷地の隅に並んでいたお地蔵様が、旧陸軍の軍帽を被り、軍曹の肩章を付けて、宙を舞いながらアサルトライフルで撃ってきたのだ。
「だいたい、人が住んだ訳でもない街の墓場に、何で兵隊が化けて出るんだよ!?」
地蔵まではいい。
そもそも、今回の依頼は墓地と地蔵の調査だ。
だから念のために、石をも砕くアサルトライフルを準備してきた。
だが、その地蔵たちが撃ってくるなんて完全に予想外だ。
「こっちが教えて欲しいわ! 幽霊の材料なんてまだ何もないのよ!!」
ここは新開発区のはずれに位置する霊園予定地。
街になれなかった街の、墓地にすらなっていない予定地である。
葬られた者などいないはずだ。
『舞奈、まだ生きてる?』
「今のところはな」
ポケットの中の携帯電話に返事を返す。
旧陸軍の扮装をして撃ってくるありがたくもないお地蔵様について、取り急ぎテックに調べてもらっていたのだ。
『やっぱり、入口で拾ったっていうコケシが怪しい』
「こいつがか……?」
舞奈は、コートのポケットから木彫りのコケシを取り出し、見やる。
朱墨で赤い衣装が描かれた、古ぼけたコケシだ。
『大戦末期に戦死した兵隊の愛人がその辺りで後を追って、かなり祟ったみたい。
流しの陰陽師が夫婦のコケシを作って霊をなだめたそうよ』
「その兵隊さんとやらの階級は分かるか?」
『軍曹』
舞奈はやれやれ肩をすくめる。
墓石の向こうで撃ちまくっている地蔵たちも軍曹だ。
おそらく、騒ぎの原因は墓地ではなくコケシであろう。
コケシに宿った想い人への情念が何らかの原因で暴走したのだ。
それが魔力となって光ったり、地蔵に宿って飛んだり軍曹の仮装をさせているのだ。
魔力の材料は意思や感情といった精神的なパワーだ。
そして今の状況の元凶は、コケシを雑に扱って投げた刀也だ。
舞奈は隣の墓を睨む。
墓の陰では刀也が震えていた。
『その陰陽師、ハート型の祠に軍曹のコケシと女のコケシを一緒に納めたみたい』
先ほど様子をうかがった際に、墓地の奥にそれらしい家具が置かれていた。
風か何かで女のコケシが転がり落ちて、夫婦が離れ離れになったのだろう。
「ひちりぼっちは寂しいってか。泣かせるよ、まったく!」
祠に手元のコケシを並べれば地蔵は止まり、依頼も無事に完了するはずだ。
だが、そこまで辿り付いて軍曹と愛人を再会させるためには、地蔵の群を突破しなければならない。
ちなみに「地蔵を止めたらコケシを返す」という説得は無理だろう。
こういう状態の女に理性的なアプローチなど無意味だ。
なので隣にいる理性の塊に声をかける。
「明日香。奥に可愛いハートが見えるだろ?」
「聞こえてたわ。祠まで辿り着きたいって言うんでしょ」
「ああ、手はあるか?」
「1回だけなら地蔵を殲滅できるわ」
「じゅうぶんだ。……10秒後に頼む」
「オーケー」
手早く明日香に指示を出す。
地蔵のアサルトライフルは小癪にも式神の一種だ。
弾倉は無限に湧いて出るが弾倉内の弾丸は有限らしい。
だから地蔵が弾をこめるタイミングを見計らったのだ。
そして、鼓動を数える。
10、9……。
ライフルを足元に下ろし、ジャケットの裏から拳銃を抜く。
6、5……。
明日香は真言を唱えつつ左手で印を結ぶ。
右手には、ベルトで吊られたドッグタグ。
電撃の雨を降らせる【雷嵐】の魔術を使うつもりだ。
3、2……。
舞奈は意識を研ぎ澄まし、無数の雷撃弾による合図に備える。
そして次の瞬間、
「うぉーりゃー!!」
雄叫びとともに、2つ隣の墓石からクセ毛の少年が飛びだした。
「トウ坊! なんの真似だ!?」
腰を浮かせたまま呆然と見やる舞奈の前で、刀也を1ダースの銃弾が襲う。
だが少年が手にした長剣が黒い輝きを放つ。
斥力場が、所有者を蜂の巣にするはずだった銃弾を弾き落とす。
「おまえらがぐずぐずしてるから、力を貸してやるのさ! 感謝しろよな!」
先ほどまでの怯えっぷりが嘘のような余裕の笑み。
魔剣にこめられた異能力が銃弾を弾くと気づいたらしい。
「余計なお世話だ! 座ってろ!」
舞奈は叫ぶ。
明日香も無言で同意する。
【雷嵐】は広範囲に電撃弾を降らせる魔術だ。
そして、銃弾をも防ぐ【重力武器】も魔術の雷弾までは防げない。
この術を使えば彼は黒焦げだ。
明日香はベルトを捨てて一語を唱え、生成済みの魔力を別の術へと昇華させる。
突きつけた掌から放たれた稲妻は手近な地蔵を穿つ。
そして、そこからさらに別の地蔵めがけて突き進む。
雷光は、そうやって6体あまりの地蔵に飛び火する。
即ち【鎖雷】。
だが砕けて地に落ちた地蔵は、最初に命中した2体のみ。
欠けた身体に放電の余韻をまとわりつかせつつ、4体の地蔵が振り返る。
銃声。
「明日香!?」
「かすっただけ! それより祠を!」
白煙を引くグレネードが4体の地蔵を穿ち、四散させる。
先ほど明日香が召喚し、別の墓石に潜伏させていた式神だ。
式神が動くということは、主に指示を与える余力が残されているということだ。
だから舞奈は祠に向きなおる。
残りの地蔵は刀也に目を向けている。
その隙に、舞奈は墓石から飛び出し、奥の祠めがけて走り出す。
右手に拳銃、左手には祟りの元凶たるコケシ。だが、
「クソガキ! オレ様に抜け駆けして何を企んでやがる!」
舞奈の進路に刀也が躍り出た。
6体の地蔵に撃たれつつも黒い魔剣に守られた少年の表情は気楽だ。
だが舞奈はそうじゃない。
「何もないよ!! せめてここで大人しく壁になってろ!」
言った瞬間、鼻先をかすめた流れ弾にギョッとする。
怯む間も惜しんで、刀也の脇をすり抜ける。
だが、刀也はその背に追いすがり、舞奈を追いかけてきた。
しかも地蔵の一斉射撃を浴びながらだ。
「馬鹿野郎!! こっち来んな!」
「分かったぞ! お目当てはあのハートだな!」
刀也は舞奈に並走しながら、してやったりと笑みを浮かべる。
「だから何だ」
言った途端に、舞奈の背中を狙ってアサルトライフルが火を吹いた。
横に跳んで避ける。
そんな舞奈の前で、クセ毛の少年は意気揚揚とハート型の祠に走り寄る。
「おい馬鹿! やめろ!」
漆黒の長剣を振りかぶり、古ぼけた木製のハートに向かって振り下ろす。
霊をなだめるハートの祠は木っ端微塵に砕け散り、木片をまき散らした。
思いもかけぬ少年の暴挙に、舞奈の目が点になる。
さらに、転がり落ちた軍服姿のコケシを少年の運動靴が踏み砕いた。
「やったぜ! 怪異にトドメを刺したのは、このオレだ!!」
刀也は満面の笑みを浮かべて言いはなつ。
舞奈の手の中で、赤いコケシからドス黒い怨念のオーラを湧き上がった。
コケシの吊り上がった双眸は真紅の怒りに満ち溢れていた。
激憤は空飛ぶ地蔵にも伝播し、銃を構えた地蔵すべての顔が憤怒に歪んだ。
さらに墓地のいたる所で、怒髪天を衝く仁王のような地蔵が浮かび上がった。
だが、その中で最も激怒したのは、
「いい加減にしろ! この恥ン滓ヤロオォォォ!!」
コケシでも地蔵でもなく、ただの人間の少女だった。
四角い墓石の陰にへばりつき、舞奈は隣の墓に声をかける。
舞奈の手には、硝煙香るアサルトライフル。
そして返事の代わりは折り重なる銃声。
墓石の陰からはみ出たツインテールを銃弾がかすめ、思わず身をすくめる。
「何よ」
同じように隣の墓に身を隠す明日香の肩には戦闘クローク。
こちらを見やる暇も惜しんで作業を続ける。
ぬかるんだ墓地の地面に紙片を広げてドックタグを並べているらしい。
さらに隣の墓の陰では、刀也が身を縮こまらせてガタガタ震えていた。
「ちゃんと準備してきて良かっただろ?」
ヤケクソ気味にドヤ顔しつつ、墓石の陰から様子を窺おうと顔を出す。
だが集中砲火に慌てて引っこめる。
ツインテールを結っていた赤いリボンの先が千切れ飛んだ。
「百均のリボン、それが最後なんだぞ」
毒づく。
視界の隅に映った射手の正体は地蔵だ。
霊園予定地の敷地の隅に並んでいたお地蔵様が、旧陸軍の軍帽を被り、軍曹の肩章を付けて、宙を舞いながらアサルトライフルで撃ってきたのだ。
「だいたい、人が住んだ訳でもない街の墓場に、何で兵隊が化けて出るんだよ!?」
地蔵まではいい。
そもそも、今回の依頼は墓地と地蔵の調査だ。
だから念のために、石をも砕くアサルトライフルを準備してきた。
だが、その地蔵たちが撃ってくるなんて完全に予想外だ。
「こっちが教えて欲しいわ! 幽霊の材料なんてまだ何もないのよ!!」
ここは新開発区のはずれに位置する霊園予定地。
街になれなかった街の、墓地にすらなっていない予定地である。
葬られた者などいないはずだ。
『舞奈、まだ生きてる?』
「今のところはな」
ポケットの中の携帯電話に返事を返す。
旧陸軍の扮装をして撃ってくるありがたくもないお地蔵様について、取り急ぎテックに調べてもらっていたのだ。
『やっぱり、入口で拾ったっていうコケシが怪しい』
「こいつがか……?」
舞奈は、コートのポケットから木彫りのコケシを取り出し、見やる。
朱墨で赤い衣装が描かれた、古ぼけたコケシだ。
『大戦末期に戦死した兵隊の愛人がその辺りで後を追って、かなり祟ったみたい。
流しの陰陽師が夫婦のコケシを作って霊をなだめたそうよ』
「その兵隊さんとやらの階級は分かるか?」
『軍曹』
舞奈はやれやれ肩をすくめる。
墓石の向こうで撃ちまくっている地蔵たちも軍曹だ。
おそらく、騒ぎの原因は墓地ではなくコケシであろう。
コケシに宿った想い人への情念が何らかの原因で暴走したのだ。
それが魔力となって光ったり、地蔵に宿って飛んだり軍曹の仮装をさせているのだ。
魔力の材料は意思や感情といった精神的なパワーだ。
そして今の状況の元凶は、コケシを雑に扱って投げた刀也だ。
舞奈は隣の墓を睨む。
墓の陰では刀也が震えていた。
『その陰陽師、ハート型の祠に軍曹のコケシと女のコケシを一緒に納めたみたい』
先ほど様子をうかがった際に、墓地の奥にそれらしい家具が置かれていた。
風か何かで女のコケシが転がり落ちて、夫婦が離れ離れになったのだろう。
「ひちりぼっちは寂しいってか。泣かせるよ、まったく!」
祠に手元のコケシを並べれば地蔵は止まり、依頼も無事に完了するはずだ。
だが、そこまで辿り付いて軍曹と愛人を再会させるためには、地蔵の群を突破しなければならない。
ちなみに「地蔵を止めたらコケシを返す」という説得は無理だろう。
こういう状態の女に理性的なアプローチなど無意味だ。
なので隣にいる理性の塊に声をかける。
「明日香。奥に可愛いハートが見えるだろ?」
「聞こえてたわ。祠まで辿り着きたいって言うんでしょ」
「ああ、手はあるか?」
「1回だけなら地蔵を殲滅できるわ」
「じゅうぶんだ。……10秒後に頼む」
「オーケー」
手早く明日香に指示を出す。
地蔵のアサルトライフルは小癪にも式神の一種だ。
弾倉は無限に湧いて出るが弾倉内の弾丸は有限らしい。
だから地蔵が弾をこめるタイミングを見計らったのだ。
そして、鼓動を数える。
10、9……。
ライフルを足元に下ろし、ジャケットの裏から拳銃を抜く。
6、5……。
明日香は真言を唱えつつ左手で印を結ぶ。
右手には、ベルトで吊られたドッグタグ。
電撃の雨を降らせる【雷嵐】の魔術を使うつもりだ。
3、2……。
舞奈は意識を研ぎ澄まし、無数の雷撃弾による合図に備える。
そして次の瞬間、
「うぉーりゃー!!」
雄叫びとともに、2つ隣の墓石からクセ毛の少年が飛びだした。
「トウ坊! なんの真似だ!?」
腰を浮かせたまま呆然と見やる舞奈の前で、刀也を1ダースの銃弾が襲う。
だが少年が手にした長剣が黒い輝きを放つ。
斥力場が、所有者を蜂の巣にするはずだった銃弾を弾き落とす。
「おまえらがぐずぐずしてるから、力を貸してやるのさ! 感謝しろよな!」
先ほどまでの怯えっぷりが嘘のような余裕の笑み。
魔剣にこめられた異能力が銃弾を弾くと気づいたらしい。
「余計なお世話だ! 座ってろ!」
舞奈は叫ぶ。
明日香も無言で同意する。
【雷嵐】は広範囲に電撃弾を降らせる魔術だ。
そして、銃弾をも防ぐ【重力武器】も魔術の雷弾までは防げない。
この術を使えば彼は黒焦げだ。
明日香はベルトを捨てて一語を唱え、生成済みの魔力を別の術へと昇華させる。
突きつけた掌から放たれた稲妻は手近な地蔵を穿つ。
そして、そこからさらに別の地蔵めがけて突き進む。
雷光は、そうやって6体あまりの地蔵に飛び火する。
即ち【鎖雷】。
だが砕けて地に落ちた地蔵は、最初に命中した2体のみ。
欠けた身体に放電の余韻をまとわりつかせつつ、4体の地蔵が振り返る。
銃声。
「明日香!?」
「かすっただけ! それより祠を!」
白煙を引くグレネードが4体の地蔵を穿ち、四散させる。
先ほど明日香が召喚し、別の墓石に潜伏させていた式神だ。
式神が動くということは、主に指示を与える余力が残されているということだ。
だから舞奈は祠に向きなおる。
残りの地蔵は刀也に目を向けている。
その隙に、舞奈は墓石から飛び出し、奥の祠めがけて走り出す。
右手に拳銃、左手には祟りの元凶たるコケシ。だが、
「クソガキ! オレ様に抜け駆けして何を企んでやがる!」
舞奈の進路に刀也が躍り出た。
6体の地蔵に撃たれつつも黒い魔剣に守られた少年の表情は気楽だ。
だが舞奈はそうじゃない。
「何もないよ!! せめてここで大人しく壁になってろ!」
言った瞬間、鼻先をかすめた流れ弾にギョッとする。
怯む間も惜しんで、刀也の脇をすり抜ける。
だが、刀也はその背に追いすがり、舞奈を追いかけてきた。
しかも地蔵の一斉射撃を浴びながらだ。
「馬鹿野郎!! こっち来んな!」
「分かったぞ! お目当てはあのハートだな!」
刀也は舞奈に並走しながら、してやったりと笑みを浮かべる。
「だから何だ」
言った途端に、舞奈の背中を狙ってアサルトライフルが火を吹いた。
横に跳んで避ける。
そんな舞奈の前で、クセ毛の少年は意気揚揚とハート型の祠に走り寄る。
「おい馬鹿! やめろ!」
漆黒の長剣を振りかぶり、古ぼけた木製のハートに向かって振り下ろす。
霊をなだめるハートの祠は木っ端微塵に砕け散り、木片をまき散らした。
思いもかけぬ少年の暴挙に、舞奈の目が点になる。
さらに、転がり落ちた軍服姿のコケシを少年の運動靴が踏み砕いた。
「やったぜ! 怪異にトドメを刺したのは、このオレだ!!」
刀也は満面の笑みを浮かべて言いはなつ。
舞奈の手の中で、赤いコケシからドス黒い怨念のオーラを湧き上がった。
コケシの吊り上がった双眸は真紅の怒りに満ち溢れていた。
激憤は空飛ぶ地蔵にも伝播し、銃を構えた地蔵すべての顔が憤怒に歪んだ。
さらに墓地のいたる所で、怒髪天を衝く仁王のような地蔵が浮かび上がった。
だが、その中で最も激怒したのは、
「いい加減にしろ! この恥ン滓ヤロオォォォ!!」
コケシでも地蔵でもなく、ただの人間の少女だった。
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