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第4章 守る力・守り抜く覚悟
日常
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蔵乃巣学園は小中高一貫のエスカレーター校だ。
だから登校時間の校門は小学生~高校生が押し寄せ、割とカオスな様相になる。
「「おねえさん、おはようございまーす」」
「はい、おはようございます」
「はいはーい、おはようさん」
警備会社から出向してきた白黒2人の警備員は、不審者を警戒しつつも生徒たちに慣れた調子で応対する。
そんなところに、小さなツインテールの小学生がやってきた。
「ちーっす、よろしく頼んます」
「あ、舞奈様おはようございます。入ってください」
金髪のクレアは舞奈を警備員室に招き入れる。
拳銃と弾倉を受け取って金庫に仕舞う。
いつもの朝の日課である。
「この前はベティが失礼しました」
金庫の鍵を戻しがてら、クレアは舞奈に頭を下げる。
「いやまあ、ありゃ、あんたが悪いわけじゃないし」
そう答え、舞奈は思わず苦笑する。
先日、舞奈と明日香は、高等部の教室で暴れている保護者を追い出すべくベティやクレアと一芝居うった。
なのにベティが付与魔法を暴走させて暴れ回った。
舞奈たちは散々苦労した挙句にベティを止めて、辛くも教室から退避した。
「やー、あの時は大変だったっすね」
そんなベティは生徒の相手をしながら、ちらりと舞奈を見やる。
そして清々しく笑う。
「あんたのせいだろう……」
舞奈はベティをジト目で睨む。
ベティは先日の失態などすっかり忘れた様子だ。
その切り替えの早さが、ある意味うらやましい。
「おねえさんがおやつ食べてるー」
「いいなー」
見やると、ベティは好物のささみスティックを食べていた。
「あたしにもちょうだいーい」
「すまないけど、こいつはお姉さんの朝ごはんなんだ」
「あんたは四六時中、朝メシ食ってるな……」
舞奈は肩をすくめる。
何か文句を言いたくて仕方がないのだが、タイミングが見つからなくて困る。
ベティは気にせず生徒の相手を続ける。
「あ、チャビーちゃん、ゾマちゃん、おはようさん!」
「ベティさん、おはよー」
「おはようございます」
連れ立ってやって来たのは2人の少女+α。
ひとりは低学年みたいにちっちゃな少女。
もうひとりは保護者みたいに長身で物静かな少女。
チャビーと園香である。
どちらも舞奈のクラスメートだ。
「後ろの彼女もおはようさん!」
「……おはようございます」
2人の後に続くのは、陰気な表情の女子高生。
園香の護衛をしている諜報部の執行人だ。
「ねえねえ、ベティさん。あれやってー」
「はいよー」
チャビーのリクエストに笑顔で答え、長身のベティは腕を真横にぴんとのばす。
小さなチャビーはその腕に飛びついて、ブラブラゆれる。
舞奈に匹敵するくらい鍛えられた腕は、鉄棒のようにビクともしない。
「マイはすっごく強いけど、こればっかりはできないもんねー」
チャビーはニコニコ笑顔で人間鉄棒を楽しむ。
「おねえさん、わたしもー」
「わたしもぶらぶらしたいー」
「よーし! それじゃぁこっちの腕につかまって」
低学年の少女にせがまれて、ベティは身をかがめてつかまらせる。
その後ろでもじもじしていた少女をつかんで一緒に持ち上げる。
3人の幼女は歓声をあげた。
さすがの舞奈も、チャビーと違って年相応ではあるものの所詮は小5だ。
鋼鉄の肉体とはいえ、小学生の背丈でこれはできない。
長身のベティを、舞奈はムスッと睨む。
そして、チャビーを見守っていた園香を見やる。
何か言おうとして、やっぱりやめて、何食わぬ顔で微笑みかける。
「ゾマはやらなくていいのかい?」
「うん。わたしじゃベティさんが大変そうだから」
小5にしては長身な園香は、困ったように笑う。
でも気を取り直して、
「それに、見てるのも楽しいよ」
そう言って笑った。
「そうだな。ゾマと2人であれを見るのも、まあオツかもな」
「そんな、マイちゃんったら」
園香は照れる。
その後から、執行人の少女が何か言いたげな表情で舞奈を見やった。
それには気づかず舞奈は笑う。その時、
「あ、ボス。おはようさんっす」
「……ですからボスはやめてくださいと」
姫カットの黒髪をなびかせて、明日香がやってきた。
「よっ、明日香」
「ちょっと舞奈、なに通行人の邪魔になってるのよ」
「あたしが邪魔になってるわけじゃないだろう」
舞奈は文句を言う。
だが明日香は構わずクラスメートたちに挨拶すると、さっさと教室へ向かった。
生真面目な明日香は、朝の校門で時間を潰すのが嫌なのだ。
だから舞奈も、明日香と並んで教室に向かった。
園香は舞奈の背中を見守って、一瞬だけ寂しそうに笑う。
でもチャビーが園香を呼んだので、笑顔で振り向いた。
そして4人とも朝のホームルームには余裕のある時間に教室に着いた。
校門で時間を潰していたのにである。
蔵乃巣学園初等部5年は、生活態度もすこぶるいい。
生徒たちの大半は時間に余裕をもって登校している。
テックもすでに席に座って、タブレットでゲームをしている。
みゃー子はロッカーの上でのびをして水槽の金魚に警戒されている。
チャビーは席について宿題をしていて、側で明日香が教えている。
生活態度がいいからといって、頭がいいわけではない。
まあ、わからないから教えてもらおうとするだけマシなのかもしれないが。
園香はチャビーを見守っている。
チャビーは普段、仲の良い園香に勉強を教えてもらっている
だが明日香のほうが勉強は得意だ。
だから、いれば明日香が教えることが多い。
「なあ、ゾマ」
舞奈は珍しく控えめに、園香に声をかける。
「その……この前はすまない。守ってやるはずだったのに、あんなことになって」
「そんな、マイちゃんのせいじゃないよ」
「でもさ……」
らしくもなく、言葉に詰まって言い淀む。
舞奈は側の少女を守りたかった。そのために身体と技を鍛え続けた。
3年前の過ちを繰り返さないように。
けれど、園香の家に赴いたあの時、舞奈の目の前で園香は連れ去られた。
そして明日香の、テックの、奈良坂の協力によって、無事に救出された。
だが何かひとつ手違いが起こっていたら、取り返しのつかないことになっていたかもしれない。それが恐ろしかった。
謝罪することであの事件が無かったことになるなら、そうしたかった。
だが過去をなかったことにすることなんて、できるはずがない。
だから、舞奈は言葉を重ねる。
過去の重圧から、未来への不安から、逃れようとするように。
そんな舞奈に、園香はニコリと笑いかける。
「それに、マイちゃんも明日香ちゃんも、わたしのために、あんな危ないところまで来てくれたんだよね。ありがとう」
園香は微笑む。
その無垢な微笑みに、舞奈も思わず表情を和らげる。
「平気だよ。わたしが危ない目にあっても、マイちゃんが助けに来てくれるもの」
園香は笑う。
自分が彼女にすがろうとしているのと同じくらい彼女が自分を求めていてくれていると、錯覚してしまうくらい艶やかに。
過去と同じように失いかけた少女の笑みは、失った過去と同じくらい優しい。
美しく、そしてなまめかしい。舞奈には、そう思えた。
「だから、だいじょうぶ」
包みこむような笑みを浮かべたまま、園香は告げる。
「わたしはマイちゃんといつもいっしょだよ。いなくなったりしないよ」
その無垢な笑顔につられて、思わず舞奈も笑った。その時、
「ううう、もう限界~」
「わっ。チャビーちゃんが大変だ」
見やると、明日香のスパルタ学習に耐えかねたチャビーがつぶれていた。
園香はあわてて駆け寄る。
園香との楽しい時間を邪魔されて、舞奈は口をとがらせる。
その側に、入れ替わりに明日香がやって来た。
(ったく、いいところを邪魔しやがって)
思わず心の中で、理不尽な悪態をつく。
「ちったぁ加減しろよ。相手は小5だぞ」
「わたしも小5よ。あなたもね」
明日香は舞奈に冷ややかに見やる。
「それに、あなたと真神さんがナニしてようが、わたしに関係ないでしょ?」
「ああ、そうだな」
舞奈は不貞腐れる。
明日香は肩をすくめる。
そして「そうそう」と言葉を続けた。
その声色に、舞奈の表情が変わる。
「仕事か?」
「ええ。【機関】巣黒支部直々の依頼よ。詳細は放課後に支部で聞くわ」
明日香は言った。
舞奈は無言で先をうながす。話に先がある表情だったからだ。
「はっきりとは聞いていないんだけど、今回の依頼は諜報部の護衛だそうよ」
その言葉に、舞奈の口元に笑みが浮かぶ。
自らに課した少女を守り抜くという責務を果たす機会が、再び訪れたからだ。
だから登校時間の校門は小学生~高校生が押し寄せ、割とカオスな様相になる。
「「おねえさん、おはようございまーす」」
「はい、おはようございます」
「はいはーい、おはようさん」
警備会社から出向してきた白黒2人の警備員は、不審者を警戒しつつも生徒たちに慣れた調子で応対する。
そんなところに、小さなツインテールの小学生がやってきた。
「ちーっす、よろしく頼んます」
「あ、舞奈様おはようございます。入ってください」
金髪のクレアは舞奈を警備員室に招き入れる。
拳銃と弾倉を受け取って金庫に仕舞う。
いつもの朝の日課である。
「この前はベティが失礼しました」
金庫の鍵を戻しがてら、クレアは舞奈に頭を下げる。
「いやまあ、ありゃ、あんたが悪いわけじゃないし」
そう答え、舞奈は思わず苦笑する。
先日、舞奈と明日香は、高等部の教室で暴れている保護者を追い出すべくベティやクレアと一芝居うった。
なのにベティが付与魔法を暴走させて暴れ回った。
舞奈たちは散々苦労した挙句にベティを止めて、辛くも教室から退避した。
「やー、あの時は大変だったっすね」
そんなベティは生徒の相手をしながら、ちらりと舞奈を見やる。
そして清々しく笑う。
「あんたのせいだろう……」
舞奈はベティをジト目で睨む。
ベティは先日の失態などすっかり忘れた様子だ。
その切り替えの早さが、ある意味うらやましい。
「おねえさんがおやつ食べてるー」
「いいなー」
見やると、ベティは好物のささみスティックを食べていた。
「あたしにもちょうだいーい」
「すまないけど、こいつはお姉さんの朝ごはんなんだ」
「あんたは四六時中、朝メシ食ってるな……」
舞奈は肩をすくめる。
何か文句を言いたくて仕方がないのだが、タイミングが見つからなくて困る。
ベティは気にせず生徒の相手を続ける。
「あ、チャビーちゃん、ゾマちゃん、おはようさん!」
「ベティさん、おはよー」
「おはようございます」
連れ立ってやって来たのは2人の少女+α。
ひとりは低学年みたいにちっちゃな少女。
もうひとりは保護者みたいに長身で物静かな少女。
チャビーと園香である。
どちらも舞奈のクラスメートだ。
「後ろの彼女もおはようさん!」
「……おはようございます」
2人の後に続くのは、陰気な表情の女子高生。
園香の護衛をしている諜報部の執行人だ。
「ねえねえ、ベティさん。あれやってー」
「はいよー」
チャビーのリクエストに笑顔で答え、長身のベティは腕を真横にぴんとのばす。
小さなチャビーはその腕に飛びついて、ブラブラゆれる。
舞奈に匹敵するくらい鍛えられた腕は、鉄棒のようにビクともしない。
「マイはすっごく強いけど、こればっかりはできないもんねー」
チャビーはニコニコ笑顔で人間鉄棒を楽しむ。
「おねえさん、わたしもー」
「わたしもぶらぶらしたいー」
「よーし! それじゃぁこっちの腕につかまって」
低学年の少女にせがまれて、ベティは身をかがめてつかまらせる。
その後ろでもじもじしていた少女をつかんで一緒に持ち上げる。
3人の幼女は歓声をあげた。
さすがの舞奈も、チャビーと違って年相応ではあるものの所詮は小5だ。
鋼鉄の肉体とはいえ、小学生の背丈でこれはできない。
長身のベティを、舞奈はムスッと睨む。
そして、チャビーを見守っていた園香を見やる。
何か言おうとして、やっぱりやめて、何食わぬ顔で微笑みかける。
「ゾマはやらなくていいのかい?」
「うん。わたしじゃベティさんが大変そうだから」
小5にしては長身な園香は、困ったように笑う。
でも気を取り直して、
「それに、見てるのも楽しいよ」
そう言って笑った。
「そうだな。ゾマと2人であれを見るのも、まあオツかもな」
「そんな、マイちゃんったら」
園香は照れる。
その後から、執行人の少女が何か言いたげな表情で舞奈を見やった。
それには気づかず舞奈は笑う。その時、
「あ、ボス。おはようさんっす」
「……ですからボスはやめてくださいと」
姫カットの黒髪をなびかせて、明日香がやってきた。
「よっ、明日香」
「ちょっと舞奈、なに通行人の邪魔になってるのよ」
「あたしが邪魔になってるわけじゃないだろう」
舞奈は文句を言う。
だが明日香は構わずクラスメートたちに挨拶すると、さっさと教室へ向かった。
生真面目な明日香は、朝の校門で時間を潰すのが嫌なのだ。
だから舞奈も、明日香と並んで教室に向かった。
園香は舞奈の背中を見守って、一瞬だけ寂しそうに笑う。
でもチャビーが園香を呼んだので、笑顔で振り向いた。
そして4人とも朝のホームルームには余裕のある時間に教室に着いた。
校門で時間を潰していたのにである。
蔵乃巣学園初等部5年は、生活態度もすこぶるいい。
生徒たちの大半は時間に余裕をもって登校している。
テックもすでに席に座って、タブレットでゲームをしている。
みゃー子はロッカーの上でのびをして水槽の金魚に警戒されている。
チャビーは席について宿題をしていて、側で明日香が教えている。
生活態度がいいからといって、頭がいいわけではない。
まあ、わからないから教えてもらおうとするだけマシなのかもしれないが。
園香はチャビーを見守っている。
チャビーは普段、仲の良い園香に勉強を教えてもらっている
だが明日香のほうが勉強は得意だ。
だから、いれば明日香が教えることが多い。
「なあ、ゾマ」
舞奈は珍しく控えめに、園香に声をかける。
「その……この前はすまない。守ってやるはずだったのに、あんなことになって」
「そんな、マイちゃんのせいじゃないよ」
「でもさ……」
らしくもなく、言葉に詰まって言い淀む。
舞奈は側の少女を守りたかった。そのために身体と技を鍛え続けた。
3年前の過ちを繰り返さないように。
けれど、園香の家に赴いたあの時、舞奈の目の前で園香は連れ去られた。
そして明日香の、テックの、奈良坂の協力によって、無事に救出された。
だが何かひとつ手違いが起こっていたら、取り返しのつかないことになっていたかもしれない。それが恐ろしかった。
謝罪することであの事件が無かったことになるなら、そうしたかった。
だが過去をなかったことにすることなんて、できるはずがない。
だから、舞奈は言葉を重ねる。
過去の重圧から、未来への不安から、逃れようとするように。
そんな舞奈に、園香はニコリと笑いかける。
「それに、マイちゃんも明日香ちゃんも、わたしのために、あんな危ないところまで来てくれたんだよね。ありがとう」
園香は微笑む。
その無垢な微笑みに、舞奈も思わず表情を和らげる。
「平気だよ。わたしが危ない目にあっても、マイちゃんが助けに来てくれるもの」
園香は笑う。
自分が彼女にすがろうとしているのと同じくらい彼女が自分を求めていてくれていると、錯覚してしまうくらい艶やかに。
過去と同じように失いかけた少女の笑みは、失った過去と同じくらい優しい。
美しく、そしてなまめかしい。舞奈には、そう思えた。
「だから、だいじょうぶ」
包みこむような笑みを浮かべたまま、園香は告げる。
「わたしはマイちゃんといつもいっしょだよ。いなくなったりしないよ」
その無垢な笑顔につられて、思わず舞奈も笑った。その時、
「ううう、もう限界~」
「わっ。チャビーちゃんが大変だ」
見やると、明日香のスパルタ学習に耐えかねたチャビーがつぶれていた。
園香はあわてて駆け寄る。
園香との楽しい時間を邪魔されて、舞奈は口をとがらせる。
その側に、入れ替わりに明日香がやって来た。
(ったく、いいところを邪魔しやがって)
思わず心の中で、理不尽な悪態をつく。
「ちったぁ加減しろよ。相手は小5だぞ」
「わたしも小5よ。あなたもね」
明日香は舞奈に冷ややかに見やる。
「それに、あなたと真神さんがナニしてようが、わたしに関係ないでしょ?」
「ああ、そうだな」
舞奈は不貞腐れる。
明日香は肩をすくめる。
そして「そうそう」と言葉を続けた。
その声色に、舞奈の表情が変わる。
「仕事か?」
「ええ。【機関】巣黒支部直々の依頼よ。詳細は放課後に支部で聞くわ」
明日香は言った。
舞奈は無言で先をうながす。話に先がある表情だったからだ。
「はっきりとは聞いていないんだけど、今回の依頼は諜報部の護衛だそうよ」
その言葉に、舞奈の口元に笑みが浮かぶ。
自らに課した少女を守り抜くという責務を果たす機会が、再び訪れたからだ。
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