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最終章 大団円へ
第17話 ビッグランナウェイ2
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謙が叫ぶ!
「くらえっ!」
アレックスが叫ぶ!
「サノバビッチッ!!!」
二人の噴射口から勢いよく聖水が飛び出した。
―ザザアーーーーー
本能のみで行動する牛鬼が聖水を浴びた。
「ぐぅ・・・ぎゃーーーあーーっ」
激しい痛みに驚いた牛鬼たちは、あたふたと逃げ動き回りながらも見る見る体が溶けていく。
―あふっ・・・みゅーうーーーー・・・・・
黒衣の二人の放水は的確に牛鬼の群れに浴びせられる。
―ザァアーーー
神楽衆の演奏が激しくなってきた。
―ピイーッ!ドン!ドンドン! ドドンドドドドン!カンカンカンカン!
―おおおおおおおーーーーーーおおおおおおーーーーーーーーーっ
聖水を浴びせられた牛鬼は苦しみの声を上げる間もなく次々に溶けていくが、
まだまだ次々とアパートの下から牛鬼は這い出てくる・・・
―ざわざわざわ・・・・・
「アレックス、俺は裏に回る頼むぞっ!オーバーゼアー!」
「OK、KEN!!」
「アレックス!バック!レギオンズッ!」
アレックスの後方から新たなレギオンが襲いかかろうとしていた。
謙は背中のショットガンを正面に回し、構え、何発も弾丸を発射した。
―ドンッ!ガシャ ドンッ! ガシャ ドンッ!・・・・
アレックスも目の前の牛鬼に夢中で聖水を浴びせていた。
黒衣のスーパースター大場謙は放水をしながら水流で暴れまわるホースを抱き込みアパート裏に放水しながら走り続け、ぐるりと牛鬼を消滅させた。
静華のテレパシーが響く
「最上級の警戒、このまま魂散華、開始」
―ドンドドン ドンドドン ドンドドン チン!カン!・・・
―おおーおおおおおおおーーーーーーーーーーーっ
氏子衆が魂を込め合唱する。
神座舞台の和華が周囲の安全を確認しながら地面下の亡霊たちに向かい話しかけた。
スピーカーから和華の澄んだ声が響き渡る・・・
「悪魔は・・・私たち榊原一族が引き受けます、遠慮は要りません、これが最後の機会になるでしょう・・・、
さあ、みなさん観音菩薩様と地蔵菩薩様が導いてくださいます
今すぐ、ここに集まってください・・・
何をしているっ!男も女も、馬も牛も豚も鳥も!遠慮しないっでっ!
迷える魂たちよ集まりなさいっ!!」
小学生の和華姫が叫んだ。
空から鐘の音が響いた。
―カーン!
燈明の上に居る菩薩様の光が強く大きくなった。
小さな光が和華や燈明の周囲に大量に集まりだした・・・
公園跡の地面から三本木の地面からアパートの地面から
浮かび上がってくる光の玉たち
50・・100・・200・・・300・・・
橋の上で辞表を提出したはずの刑事が言う
「武藤さん、あれって・・・・」小辻がつぶやく。
「うん、そうらしい・・・すごいな・・・」
「和華ちゃん、すげぇー・・・」小林刑事も見とれて口を開けたままになっている。
御燈明周辺の光の数が増して行き
神座舞台では和華の祈りが最高潮になる。
アパート周辺の地面は水浸しになり、しぶきが掛かったか護摩壇の炎が少し弱くなった。
「式くん、油と護摩木を頼む」政一郎が言った。
「了解です・・・」
ヘルメットを被った式が護摩壇に追加の火をくべる。
しかし手は震え、その口からは情けない細い声で題目が唱えられていた・・・
「なんみょーほーれんげーきょー・・・・」
『こえーよおー・・・・』
息を切らし謙がヘッドセットで話す。
「アレックス大丈夫か?」
「ノープロブレム、イッツア、ナイスデイ!」
「はははオーライッ!」謙が右手を上げ親指を立てて突き出した。
「アリガト ゴザイマース!」手を振るアレックス。
和華が叫びスピーカーから合図が現場に響き渡る。
組んだ指を解き、両手を思い切り天に向かって突き上げた。
「魂散華!かみさまぁっーーーーーー!」
その声に反応するかのように上空のおくらげ様が
『ピカ、ピカ』と激しく明滅し燈明の上に浮かんだ二つの菩薩光が空に向かって上昇を始めると、それを追うように小さな光の玉たちが
大量に空高く天に向かって上昇していった。
遠く離れた位置にいる待機組の者たちから感嘆のざわめきが起こった。
「うわぁー、おーーーーーー・・・」
静華のテレパシーが告げる。
「四天王フォーメーション、神楽、氏子衆、青龍、白龍、頭領、頼んだわよ、お兄様、一度、おさがりください」
「あい、わかった」
政一郎は一礼をすると護摩壇から降りて神楽衆達の居るテントに向かった。
和華も柴刀を持って舞台から下がり脇に待機した。
式には、なんの指示も無い。
『あれ?政一郎さん・・・行っちゃったよ・・・ちょっとぉアパートの周りに赤い目した黒い人影がいっぱい居るじゃないか・・・』
いろいろ見えるようになってしまった式は気持ちが小さくなっていた。
尾形君と事件を調べまわっていた日々。
見えないからこそ強がってみたりカッコをつけたりしていたが
今は自分を睨みつける異界の者達を前に震え上がっていた。
いつ襲いかかってくるか解らない・・・
その上、自分には何も出来ない事がよくわかった。
怪談を集め調子を放いてきた自分自身がマヌケで笑えてきた。
「ははっ・・・はははは・・・」
すると刀鍛冶衆の5人と青鬼たち4人が護摩壇のところに出てきた。
手には柴刀と呼ばれる神代文字が刻まれた刀を握っている。
それは素戔嗚尊様の御名前が刻まれており破壊の神「シバ」から着ている呼び名だった。
青鬼たち4人は、やはり神代文字の刻まれた長い棒を持っている。
霊体の4人は思いを実体化するため心の修行をした結果、武器を持てるようになった。
そして9人は鬼屋周辺の黒い影の悪魔たちと睨み合った。
次いでヘッドセットから静華の声が聞こえた。
「菅原さん山場です私の声スピーカーにつないでください何が起こるか解りません最上級の警戒願います、謙さんとアレックスさんも下がってください」
「了解」「ラジャー」
神楽衆・氏子衆は休みなく精一杯演奏し唄を歌う。
―はあーーーーーーはあーーーーーーはあーーーーーーあーーーー
―ドンドン ジャラララン シャン!ドンドン ジャラララン シャン!
テントの中に神楽衆、隣に菅原組、その後ろで西条先生と茂木副署長が話をしていた。
「先生、どうしました」
「あ、いや昔の事を思い出してしまって、どうも涙もろくて・・・」
先生はハンカチで目を抑えていた。
「民谷さんの事ですか」
「はい、きっとどこかで祭りを見ていると思います」
「そうですか、でも、とっくに生まれ変わって居るかもしれませんよ」
「なるほど・・・なんだか夢の中に居るようで・・・」
「それは私も同じです・・・あの静華さんや和華さんは神降ろしというより、まるで彼女たち自身が神の化身のように思えてきました」
「ふむ、そうですな・・・」先生が頷きます。
「あの空の光、氏子衆さんたち、応援というより自ら進んで働いてるようにも見えます、まるで彼女たちが信望厚い神様のように見えてきました」
「ふむ、それは私も感じていました、もしアマテラス様もしくは
瀬織津姫様がいらっしゃったら、あのような感じかと・・・」
「まさか・・・」
静華がテレパシーで身内に話す。
「乱切りはしない牛鬼も居ないしな、屋根の上からかすかに赤い光が漏れているが周囲の悪魔たちは傀儡だ一丁前に剣を持ってはいるが敵ではない、
すべて消滅させてくれ余裕があれば遊んでやれ頭領、頼んだぞ」
「はい」
刀鍛冶衆の頭領・玄彗が答えた。
「解体は古式数え斬、四天王全員で行います、父上、おじい様、和華、お願いします、木村さん、始めてください」
左に剣一郎、右に城一郎、後方に和華が、それぞれ位置に着いた。
氏子衆の唄い頭、木村に指示が出る。
スピーカーから静華の声が響く
「解体は古式数え斬で始めます」
街では相変わらず雨が降っていて不思議な事に現場周辺のみが晴れている状態だった。
―はあーーーーーー 木村が一人唄い始め神楽衆が続く・・・
―キーン!
神座の静華が台座の宝剣の前で一礼し宝剣を持ち上げ、
ゆっくりと鞘から抜き出した。
いよいよ宝剣を使用しての抜刀演舞の開始だった。
宝剣の刃渡りは60センチほどで神代文字が彫られている。
「四天王、悪魔へ三行半の礼」
「ハッ!」四人同時でアパートに向かって刀を構えた。
静華の声がスピーカーから低く聞こえる。
「イザ、ヤアァァァァ・・・・」
その時アパート周辺の黒い影たちが神座に向かって前進してきた。
ゆらり、ゆらりと
玄彗が叫ぶ
「くるぞ!」
真っ先に青龍・白龍が黒い影たちに襲い掛かり大きな手で握潰したり尻尾でなぎ倒したがアパートの中から次々に黒い悪魔の兵隊たちが出てくる。
やられた兵隊たちは強くは感じられず刀で斬ると黒い煙になって消滅していく、だが数が多かった・・・
練彗が兵隊の剣を刀で受けてみるとガキン!と手応えがあった。
『これは・・・怪我をするぞ』
素早く身をかわし胴切り、次いで右、左と切り、前に突き、後方の兵隊を滝切りで真っ二つにした。
周囲を見回すと数の多さに仲間たちも必死に闘っていた。
瀬津と艶、赤鬼と青鬼は華麗に剣をかわし棒を回転させ兵隊の頭部を叩き喉を突き次々に消滅させていく。
「ハイッ!!イヤァーアーーーーッ!」
天の助けで雷がアパートを再度直撃する。
―ピカピカ ドドーン!
すると兵隊たちの動きが止まり、その隙に皆で黒い悪の兵を倒しまくった。
静華が叫ぶ
「木村さん続けてっ!」
―はあーーーーーあああーーーーー
静華は神座舞台で宝剣を振り腕と宝剣に氣を込め攻撃の準備を始めた。
―ブンッ!ブンッ!
呼応するように和華達も氣を柴刀に溜め込みながら振りかざし構えた。
手に汗握り見学していた西条先生が呟く。
「おぉ刀が柴刀が・・・」
四天王の四人と、それぞれの刀が光りを放ち始める。
木村の唄が響き、それに合わせて静華が舞う。
―あーーーーーっ金もいらなきゃ名誉もいらぬううーーー
わたしゃも少しかみさまのおーおおおーおおーーーーーーーー
氏子衆が合唱する。
―おやくにたちとうおーーーーございまあーすうーーーーーー
―キーン! ドン ドン ドンドンドンドンドンドンッ!
―「われらの静華さまっ!!」
―はぁーあーーーーえらいやっちゃ えらいやっちゃ よいよいよいよい
―キーン! ドン ドン ドンドンドンドンドンドンッ!ジャラララン!
「四天王・古式・数え斬っ!」
四天王、静華・剣一郎・城一郎・和華が同時に片足を上げ切り込む姿勢で構えた。
―えらいやっちゃ えらいやっちゃ よいよいよいよい・・・唄と神楽が続く
―キーン! ドン ドン ドンドンドンドンドンドンッ!ジャラララン!
第一刀。
「ヒーッ」
四人同時にアパートに向かって真横に刀を振る。
―ギャンッ ガリガリガリガリガリリーッ!
アパートの壁に真横のひび割れが発生した。
「フーッ!」
二度、四人揃って真横に刀が振られると
―バアン!バリバリバリバリリー!
屋根が崩れ落ちかけ壁に大穴が空いて赤い光が見えてきた。
「マルダァ!全部に火をくべてくれーっ!」
しゃがみ込み、あっけにとられていたマルダが静華に怒鳴られた。
刀鍛冶衆と青龍・白龍もまだ残りの兵隊たちを倒している。
―えらいやっちゃえらいやっちゃ よいよいよいよい えらいやっちゃ
―キーン! ドン ドン ドンドンドンドンドンドンッ!ジャラララン!
「ミーッ!」
「ヨーッ」
―フォン フォフォン フォン
華麗に回転しながら数え斬が続き建物が次々崩れだした。
―ガン!メキメキッバリッ ゴーンガリガリガリ
中央の鉄製階段も真っ二つになり崩れ落ちた。
―ドドーンッ!ドンドン・・・
「イーッ」
―ガツ!ガリガリガリガリーッ!バキーッ!
「ムーッ、イザ・ヤアッアーッ!」
静華が上段から宝剣を振り下ろすと建物全体が八つ裂きになり
壁のヒビが大きな穴になった。
―ドカンッ!
『固くかんじるわ・・・なぜ?』
「ナーッ、イザ!」―ブン、ブン!両手で持つ宝剣が重くなってきた。
―ダダーンッ!
ついに屋根が落ち壁も砕け落ちてきた。
現場周辺で人々、大きな感嘆の響めきが起こった。
「おおおおー!」
アパートの内部もひどく破壊され赤い光で照らされて見える。
『あの光、あいつのせいね・・・』
「ヤーッ!」静華が宝剣で攻撃を続ける。
―ブン、ブン!
残っていた左右の壁がまるで巨大な手で押し倒されるように倒れた。
―バキッ!バキバキバキバキーッーーー!
すると周辺も赤い光で包まれだした。
「コーッ!イザ・ヤアァーッ!」九回目もう一度、上段から振り下ろした。
静華は体力の消耗が激しいようで歯を食いしばっている。
―バキン!ドンッ!
柱が折れるような音が響き少し地響きが起こった。
演奏が変わる。
―ピイーーーーーピイーーーーッ キーン!カン!ドンドン!
唄が掛け声に変わる。
―おーーーーーおおーーーーーーーやあっ!おおおーーーーーーーーー
「トゥーッ!」
―ブン!ブン!
四人一緒に十字を切った。
すると瓦礫と化したアパートの地面が二度ズシン、ズシンと波打った。
その途端に悪夢のような黒い兵隊たちは一斉に姿を消し刀鍛冶衆はテントに下がり
青龍と白龍もテントの前に陣取った。
地面の下から太く低い聞きなれない呪文の声が聞こえてきた。
それは主と呼ばれていた悪魔の声。
「ヘル、ヘル、イアッ、イアッイスタァー」
5メートルはあるかと思われる真っ赤な光の玉が地面から無音で伸び上がり護摩壇の前に出現した。
そのせいか護摩壇の炎が弱まった。
もうマルダの精神状態は壊れかけていた。
『あっ、また火が消えそうだ・・・油・・木をくべなきゃ・・・』
刀を構えたままの静華が注意した。
「マルダッ危ない、やめろっ」
赤い光の玉を恐れもせずにマルダは、夢遊病者のように、よろよろと油と護摩木を抱えて近づいて行くとバラバラと護摩木をくべて
油を注ぎ、さらに燈明に向かおうとしたとき目の前の悪魔に叩き払われた。
―バチン!
ヘルメットが割れて、ヘッドセットも外れ体が、ふっ飛んだ。
無言のままのマルダが地面に横たわった。
「マルダァー!」静華が叫んだ。
『やばい・・・死んだかな・・・』
雑魚どもの始末をしていた青龍たちも一瞬動きが止まった。
「あっ」
「あれぇーマルダ殺られたの?な、青龍?」
「うっかりしてたなぁー・・・」
赤い光の玉は霊視出来る者が見るとヤギのような頭部で上半身は人間、下半身がゴリラのような・・・見るからに大きな悪魔だった。
静華は、ほのかに輝く宝剣を構え半眼になり悪魔を霊視をしている。
『亡霊たちを押さえ込み隙あらば人間を手にかけ犠牲者を増やしてきたのは、お前だな、いつから、この日本にいる?元は蘇我馬子の弟子じゃないのか?正体見たりっ!!』
どうしたことか目の前の光景と巨大な悪魔に圧倒され誰も動けなくなってしまった。
静華が宝剣を構え悪魔に言った。
「おのれぇーっよくも馬瑠蛇をっ!リューゴーショーキートウッ!
ワクグウアクラーセツッ!神を恐れよ!!」
静華が悪魔の中に光は無いか霊視で探ってみたが、ただの黒い肉体だった。
『心はもうないな魔物になる前に魂は握りつぶされたのか・・・ポルターガイストでくるか?
それとも超サイコキネシスか?・・・・ん?こないな・・・・あれのせいか?』
悪魔は毎度のことだが話し合いなど皆無、だが希に知性や心の残る高度な悪魔がいる。
静華は、まじまじと悪魔を観察した。
抜刀演舞でか、それとも神様のイカズチが効いたのか悪魔の右側の角が根元から折れていて両肩の傷口からも黒々とした瘴気エネルギーが漏れ出していた。
悪魔が神座に向かってきた。
―ズン ズン ズン
その時、空にいた、おくらげ様から白い一筋の光線が発射され宝剣に強い光を与えた。
「しめたっ!イザァッ!ヤアッ!」
静華は渾身の力で光り輝く宝剣を悪魔の胸に向かって突き出した。
悪魔は両手で宝剣を握り胸に突き刺さる前に受け止めた。
剣一郎と城一郎はテレパシーで会話をすると悪魔の左右に行き
柴刀を悪魔の腕に突き刺した。
「イザ・ヤアッアー!」
悪魔は苦しそうにしたが宝剣を掴んだまま離さない、呪文で城一郎と剣一郎を吹き飛ばした。
「グウゥーーーーバキシムッ!」
「おのれぇえええええーーーーイザッ! イザッ! イザッアーー!」
両手で宝剣を握りグイグイと胸に突き刺すべく静華が足を踏ん張り押したが宝剣は前に進まない・・・握る両手に力が入り足腰全部使って宝剣と自分の体を前に押した。
「アビラッアアアーーッ!!」
神楽衆たちが音を出し始めた激しい太鼓の乱れ打ち鐘も厘も打ち鳴らし無言の行のまま静華を応援し始めた。
―ダンッ!ドン!ドンドン!ドンドンドンドンドン!ダンッ!ドンドン
―カーン!カーン!カーン!カーン!カーン!
―キーン!ベンベンジャンジャンジャンジャンッジャン!ジャンッ!
―はぁーえらいやっちゃ えらいやっちゃ よいよいよいよいっ!
静華と睨み合う悪魔が魔式術を使った。
悪魔の目の色が黒から白になった。
『イア イア ランドルムッ!!』
周囲の景色が一瞬で変わり同じ部屋と同じ景色、窓の外には同じ家々が並んでいる。
宝剣を構えたままの静華は冷静だった。
「フーンこれが、お前らのブラックラビリンスとかいうやつか無駄だ馬鹿者、私を誰だと思っている、この裏切り者が、この黒迷宮を最初に木星の地獄に作ったのは、この私だぞ、自分を信じられなくなり悪魔に成り下がった、お前には、もう消滅しか道は無い。
こんなまやかしが効くとでも思っているのか?、あの唄を聞け、地球が滅亡すると知った古代人は魂を信じ輪廻を信じ最後に唄い踊ったのが、あの歌だ。
あれは、お前の最後を祝う唄だ、どうだ思い出したか私を・・・」
『イア ハスター・・・』
和華は迷宮にいる静華と悪魔の魂を見た、静華に乗り移った素戔嗚尊様の姿を・・・
ハッと我に返り刀を舞台に置くと静華に走り寄って後ろから腰を押して加勢した。
「おねえさまっーー!」
懸命に静華を支えた。
その時、空から一つの光の玉が筋を描き物凄いスピードで飛来してきた。
―グオォォォーーーーーーー
「静華さまああああああーーーーーーーっ!」
その光の玉はいきなり赤い光の玉、悪魔に体当たりを食らわした。
「そうりゃああああああっー」
―ゴンッ!ドンッ!!!
「グゥアアアアアアーーーーーッ」
不意打ちを喰らった悪魔が頭を抑え痛みに声を上げ宝剣の押し合いをしていた静華と和華も後方に吹っ飛んで頭を打ってしまった。
「うっ」
和華は舞台の下に転げ落ち静華は一瞬、気を失ってしまった。
宝剣が舞台に落ちた。
―ガランッ!
それをマルダは頭から血を流しぼんやりと見ていたが
悪魔は苦しみながらも静華に手をかけようとしているのが見えた。
『大変だ・・・静華さんがあぶない・・・・』
「うぅ・・・いったぁー・・・」静華が呻き目が覚めるとマルダが舞台に上がって宝剣を手に取ろうとしていた。
「ダメッ!マルダ触っちゃ駄目っ!!」
悪魔は、まだ頭を押さえ苦しんでいた。
マルダが宝剣を手に取ると持ち手部分が熱くなり赤くなった。
両手があっという間に焼けて手のひらを大火傷した。
「ぎゃぁーーーーーっ」
手のひらが焼き付きマルダが悲鳴をあげた時マルダの目玉がぐるりとひっくり返った。
「現破刃鬼!」野太い声がマルダの体から響いた。
マルダは宝剣を握ったままの姿勢で白目を剥き気を失って
仁王立ちになった。
不思議なことに宝剣はひとりでに宙に浮いたかと思うと
剣先が悪魔の胸に向かっていった。
しかし視える人にだけ見えていた。
マルダのもうひとつの体が肉体から離れみるみる大きくなり背中に翼が生え宝剣を奪い取ると悪魔の胸にザンッと突き刺した。
野太い低い声が響き渡る。
「アラッハバキッ!!」
「グアッ・・・」
宝剣の先端は悪魔の胸に刺さったが、悪魔は、また刃を両手で掴み胸に突き刺すのを阻んだ。
「グウッ・・・」悪魔に心は無かった。
アラハバキが前を向くと青龍と白龍が飛んできた光の玉を、どやしつけていた。
「この大馬鹿野郎っ!見ろ!大事な祭り!和華様も静華様も吹っ飛ばしやがって、どうすんだっ!このばかああああー!」
「だあってー静華様が危ないと思ったからあー・・・」
これは青龍と白龍の策略だった。
新米・黒龍・タイガを夜叉ヶ池に案内し八大龍王様に託したのは今から百年前まで遡った夜叉ヶ池だった、青龍・白龍は時間を操り百年前の今日にタイガを送り込み罪滅ぼしの行に着かせたのだった。
アラハバキが見ると黒い龍がいた、なんだか見覚えがある。
「おい龍達よ、おい黒龍、お前は誰だ名を名乗れ」
悪魔に宝剣を突き刺したまま余裕のアラハバキが問うと
「はい、帯雅と申します・・・あれ?マルダさん?えーっ?」
タイガは数回、瞬きをした。
「お前タイガか?大きくなったなあ立派な角生やして、ついこの間、夜叉ヶ池に行ったばかりじゃないか?随分と立派な龍になったなあー」
「いやぁーそれほどでもおー」ニッコリと笑う黒龍・帯雅。
「ちょうどいい、この悪い奴お前羽交い締めにしろ青龍・白龍は悪魔の両腕締め上げてくれ、さあ早くしろ」
「ハーイ」
三匹の龍に押さえ込まれた悪魔、アラハバキが胸に深々と宝剣を突き刺すと断末魔の悲鳴を上げ悪魔は塵となり消滅した。
「ガァアオーーーッ!!」
やがてマルダは小さくなり頭から血を流し気を失って倒れると自然に宝剣が舞台の中空に戻ってきて、落ちた。
―カラン!
上空にいた神々の光や、おくらげ様はフッと一瞬で、すべて消えてしまい空が暗くなった。
すると同時に雨が降ってきた・・・・
チラチラと燃える御燈明と護摩壇の明かりが見える。
散々祟をなしてきたアパートはバラバラに破壊されて、
只の瓦礫の山が地面にあった。
現場の者たちは何が起きたのか理解できず周囲がシンと静まり返った。
三人の龍が静華を見守っている。
静華はフラフラと歩いて神座からころげ落ち失神している和華を片膝で抱える。
スピーカーから祭師・榊原静華の声が響いた。
「悪魔消滅、解体之儀、終了です」
「やったああああああーーーー!!」
「うわぁああああーーーーー!!」
「うおーーっバンザーイッ!」
無言を貫いていた神楽衆が声を上げると、それが周囲に伝播していき
遠巻きに見学待機していた人々も巻き込んで
歓声と拍手が嵐のように現場を包み込んだ。
それは、いつまでも・・・鳴り止むことはなかった。
「くらえっ!」
アレックスが叫ぶ!
「サノバビッチッ!!!」
二人の噴射口から勢いよく聖水が飛び出した。
―ザザアーーーーー
本能のみで行動する牛鬼が聖水を浴びた。
「ぐぅ・・・ぎゃーーーあーーっ」
激しい痛みに驚いた牛鬼たちは、あたふたと逃げ動き回りながらも見る見る体が溶けていく。
―あふっ・・・みゅーうーーーー・・・・・
黒衣の二人の放水は的確に牛鬼の群れに浴びせられる。
―ザァアーーー
神楽衆の演奏が激しくなってきた。
―ピイーッ!ドン!ドンドン! ドドンドドドドン!カンカンカンカン!
―おおおおおおおーーーーーーおおおおおおーーーーーーーーーっ
聖水を浴びせられた牛鬼は苦しみの声を上げる間もなく次々に溶けていくが、
まだまだ次々とアパートの下から牛鬼は這い出てくる・・・
―ざわざわざわ・・・・・
「アレックス、俺は裏に回る頼むぞっ!オーバーゼアー!」
「OK、KEN!!」
「アレックス!バック!レギオンズッ!」
アレックスの後方から新たなレギオンが襲いかかろうとしていた。
謙は背中のショットガンを正面に回し、構え、何発も弾丸を発射した。
―ドンッ!ガシャ ドンッ! ガシャ ドンッ!・・・・
アレックスも目の前の牛鬼に夢中で聖水を浴びせていた。
黒衣のスーパースター大場謙は放水をしながら水流で暴れまわるホースを抱き込みアパート裏に放水しながら走り続け、ぐるりと牛鬼を消滅させた。
静華のテレパシーが響く
「最上級の警戒、このまま魂散華、開始」
―ドンドドン ドンドドン ドンドドン チン!カン!・・・
―おおーおおおおおおおーーーーーーーーーーーっ
氏子衆が魂を込め合唱する。
神座舞台の和華が周囲の安全を確認しながら地面下の亡霊たちに向かい話しかけた。
スピーカーから和華の澄んだ声が響き渡る・・・
「悪魔は・・・私たち榊原一族が引き受けます、遠慮は要りません、これが最後の機会になるでしょう・・・、
さあ、みなさん観音菩薩様と地蔵菩薩様が導いてくださいます
今すぐ、ここに集まってください・・・
何をしているっ!男も女も、馬も牛も豚も鳥も!遠慮しないっでっ!
迷える魂たちよ集まりなさいっ!!」
小学生の和華姫が叫んだ。
空から鐘の音が響いた。
―カーン!
燈明の上に居る菩薩様の光が強く大きくなった。
小さな光が和華や燈明の周囲に大量に集まりだした・・・
公園跡の地面から三本木の地面からアパートの地面から
浮かび上がってくる光の玉たち
50・・100・・200・・・300・・・
橋の上で辞表を提出したはずの刑事が言う
「武藤さん、あれって・・・・」小辻がつぶやく。
「うん、そうらしい・・・すごいな・・・」
「和華ちゃん、すげぇー・・・」小林刑事も見とれて口を開けたままになっている。
御燈明周辺の光の数が増して行き
神座舞台では和華の祈りが最高潮になる。
アパート周辺の地面は水浸しになり、しぶきが掛かったか護摩壇の炎が少し弱くなった。
「式くん、油と護摩木を頼む」政一郎が言った。
「了解です・・・」
ヘルメットを被った式が護摩壇に追加の火をくべる。
しかし手は震え、その口からは情けない細い声で題目が唱えられていた・・・
「なんみょーほーれんげーきょー・・・・」
『こえーよおー・・・・』
息を切らし謙がヘッドセットで話す。
「アレックス大丈夫か?」
「ノープロブレム、イッツア、ナイスデイ!」
「はははオーライッ!」謙が右手を上げ親指を立てて突き出した。
「アリガト ゴザイマース!」手を振るアレックス。
和華が叫びスピーカーから合図が現場に響き渡る。
組んだ指を解き、両手を思い切り天に向かって突き上げた。
「魂散華!かみさまぁっーーーーーー!」
その声に反応するかのように上空のおくらげ様が
『ピカ、ピカ』と激しく明滅し燈明の上に浮かんだ二つの菩薩光が空に向かって上昇を始めると、それを追うように小さな光の玉たちが
大量に空高く天に向かって上昇していった。
遠く離れた位置にいる待機組の者たちから感嘆のざわめきが起こった。
「うわぁー、おーーーーーー・・・」
静華のテレパシーが告げる。
「四天王フォーメーション、神楽、氏子衆、青龍、白龍、頭領、頼んだわよ、お兄様、一度、おさがりください」
「あい、わかった」
政一郎は一礼をすると護摩壇から降りて神楽衆達の居るテントに向かった。
和華も柴刀を持って舞台から下がり脇に待機した。
式には、なんの指示も無い。
『あれ?政一郎さん・・・行っちゃったよ・・・ちょっとぉアパートの周りに赤い目した黒い人影がいっぱい居るじゃないか・・・』
いろいろ見えるようになってしまった式は気持ちが小さくなっていた。
尾形君と事件を調べまわっていた日々。
見えないからこそ強がってみたりカッコをつけたりしていたが
今は自分を睨みつける異界の者達を前に震え上がっていた。
いつ襲いかかってくるか解らない・・・
その上、自分には何も出来ない事がよくわかった。
怪談を集め調子を放いてきた自分自身がマヌケで笑えてきた。
「ははっ・・・はははは・・・」
すると刀鍛冶衆の5人と青鬼たち4人が護摩壇のところに出てきた。
手には柴刀と呼ばれる神代文字が刻まれた刀を握っている。
それは素戔嗚尊様の御名前が刻まれており破壊の神「シバ」から着ている呼び名だった。
青鬼たち4人は、やはり神代文字の刻まれた長い棒を持っている。
霊体の4人は思いを実体化するため心の修行をした結果、武器を持てるようになった。
そして9人は鬼屋周辺の黒い影の悪魔たちと睨み合った。
次いでヘッドセットから静華の声が聞こえた。
「菅原さん山場です私の声スピーカーにつないでください何が起こるか解りません最上級の警戒願います、謙さんとアレックスさんも下がってください」
「了解」「ラジャー」
神楽衆・氏子衆は休みなく精一杯演奏し唄を歌う。
―はあーーーーーーはあーーーーーーはあーーーーーーあーーーー
―ドンドン ジャラララン シャン!ドンドン ジャラララン シャン!
テントの中に神楽衆、隣に菅原組、その後ろで西条先生と茂木副署長が話をしていた。
「先生、どうしました」
「あ、いや昔の事を思い出してしまって、どうも涙もろくて・・・」
先生はハンカチで目を抑えていた。
「民谷さんの事ですか」
「はい、きっとどこかで祭りを見ていると思います」
「そうですか、でも、とっくに生まれ変わって居るかもしれませんよ」
「なるほど・・・なんだか夢の中に居るようで・・・」
「それは私も同じです・・・あの静華さんや和華さんは神降ろしというより、まるで彼女たち自身が神の化身のように思えてきました」
「ふむ、そうですな・・・」先生が頷きます。
「あの空の光、氏子衆さんたち、応援というより自ら進んで働いてるようにも見えます、まるで彼女たちが信望厚い神様のように見えてきました」
「ふむ、それは私も感じていました、もしアマテラス様もしくは
瀬織津姫様がいらっしゃったら、あのような感じかと・・・」
「まさか・・・」
静華がテレパシーで身内に話す。
「乱切りはしない牛鬼も居ないしな、屋根の上からかすかに赤い光が漏れているが周囲の悪魔たちは傀儡だ一丁前に剣を持ってはいるが敵ではない、
すべて消滅させてくれ余裕があれば遊んでやれ頭領、頼んだぞ」
「はい」
刀鍛冶衆の頭領・玄彗が答えた。
「解体は古式数え斬、四天王全員で行います、父上、おじい様、和華、お願いします、木村さん、始めてください」
左に剣一郎、右に城一郎、後方に和華が、それぞれ位置に着いた。
氏子衆の唄い頭、木村に指示が出る。
スピーカーから静華の声が響く
「解体は古式数え斬で始めます」
街では相変わらず雨が降っていて不思議な事に現場周辺のみが晴れている状態だった。
―はあーーーーーー 木村が一人唄い始め神楽衆が続く・・・
―キーン!
神座の静華が台座の宝剣の前で一礼し宝剣を持ち上げ、
ゆっくりと鞘から抜き出した。
いよいよ宝剣を使用しての抜刀演舞の開始だった。
宝剣の刃渡りは60センチほどで神代文字が彫られている。
「四天王、悪魔へ三行半の礼」
「ハッ!」四人同時でアパートに向かって刀を構えた。
静華の声がスピーカーから低く聞こえる。
「イザ、ヤアァァァァ・・・・」
その時アパート周辺の黒い影たちが神座に向かって前進してきた。
ゆらり、ゆらりと
玄彗が叫ぶ
「くるぞ!」
真っ先に青龍・白龍が黒い影たちに襲い掛かり大きな手で握潰したり尻尾でなぎ倒したがアパートの中から次々に黒い悪魔の兵隊たちが出てくる。
やられた兵隊たちは強くは感じられず刀で斬ると黒い煙になって消滅していく、だが数が多かった・・・
練彗が兵隊の剣を刀で受けてみるとガキン!と手応えがあった。
『これは・・・怪我をするぞ』
素早く身をかわし胴切り、次いで右、左と切り、前に突き、後方の兵隊を滝切りで真っ二つにした。
周囲を見回すと数の多さに仲間たちも必死に闘っていた。
瀬津と艶、赤鬼と青鬼は華麗に剣をかわし棒を回転させ兵隊の頭部を叩き喉を突き次々に消滅させていく。
「ハイッ!!イヤァーアーーーーッ!」
天の助けで雷がアパートを再度直撃する。
―ピカピカ ドドーン!
すると兵隊たちの動きが止まり、その隙に皆で黒い悪の兵を倒しまくった。
静華が叫ぶ
「木村さん続けてっ!」
―はあーーーーーあああーーーーー
静華は神座舞台で宝剣を振り腕と宝剣に氣を込め攻撃の準備を始めた。
―ブンッ!ブンッ!
呼応するように和華達も氣を柴刀に溜め込みながら振りかざし構えた。
手に汗握り見学していた西条先生が呟く。
「おぉ刀が柴刀が・・・」
四天王の四人と、それぞれの刀が光りを放ち始める。
木村の唄が響き、それに合わせて静華が舞う。
―あーーーーーっ金もいらなきゃ名誉もいらぬううーーー
わたしゃも少しかみさまのおーおおおーおおーーーーーーーー
氏子衆が合唱する。
―おやくにたちとうおーーーーございまあーすうーーーーーー
―キーン! ドン ドン ドンドンドンドンドンドンッ!
―「われらの静華さまっ!!」
―はぁーあーーーーえらいやっちゃ えらいやっちゃ よいよいよいよい
―キーン! ドン ドン ドンドンドンドンドンドンッ!ジャラララン!
「四天王・古式・数え斬っ!」
四天王、静華・剣一郎・城一郎・和華が同時に片足を上げ切り込む姿勢で構えた。
―えらいやっちゃ えらいやっちゃ よいよいよいよい・・・唄と神楽が続く
―キーン! ドン ドン ドンドンドンドンドンドンッ!ジャラララン!
第一刀。
「ヒーッ」
四人同時にアパートに向かって真横に刀を振る。
―ギャンッ ガリガリガリガリガリリーッ!
アパートの壁に真横のひび割れが発生した。
「フーッ!」
二度、四人揃って真横に刀が振られると
―バアン!バリバリバリバリリー!
屋根が崩れ落ちかけ壁に大穴が空いて赤い光が見えてきた。
「マルダァ!全部に火をくべてくれーっ!」
しゃがみ込み、あっけにとられていたマルダが静華に怒鳴られた。
刀鍛冶衆と青龍・白龍もまだ残りの兵隊たちを倒している。
―えらいやっちゃえらいやっちゃ よいよいよいよい えらいやっちゃ
―キーン! ドン ドン ドンドンドンドンドンドンッ!ジャラララン!
「ミーッ!」
「ヨーッ」
―フォン フォフォン フォン
華麗に回転しながら数え斬が続き建物が次々崩れだした。
―ガン!メキメキッバリッ ゴーンガリガリガリ
中央の鉄製階段も真っ二つになり崩れ落ちた。
―ドドーンッ!ドンドン・・・
「イーッ」
―ガツ!ガリガリガリガリーッ!バキーッ!
「ムーッ、イザ・ヤアッアーッ!」
静華が上段から宝剣を振り下ろすと建物全体が八つ裂きになり
壁のヒビが大きな穴になった。
―ドカンッ!
『固くかんじるわ・・・なぜ?』
「ナーッ、イザ!」―ブン、ブン!両手で持つ宝剣が重くなってきた。
―ダダーンッ!
ついに屋根が落ち壁も砕け落ちてきた。
現場周辺で人々、大きな感嘆の響めきが起こった。
「おおおおー!」
アパートの内部もひどく破壊され赤い光で照らされて見える。
『あの光、あいつのせいね・・・』
「ヤーッ!」静華が宝剣で攻撃を続ける。
―ブン、ブン!
残っていた左右の壁がまるで巨大な手で押し倒されるように倒れた。
―バキッ!バキバキバキバキーッーーー!
すると周辺も赤い光で包まれだした。
「コーッ!イザ・ヤアァーッ!」九回目もう一度、上段から振り下ろした。
静華は体力の消耗が激しいようで歯を食いしばっている。
―バキン!ドンッ!
柱が折れるような音が響き少し地響きが起こった。
演奏が変わる。
―ピイーーーーーピイーーーーッ キーン!カン!ドンドン!
唄が掛け声に変わる。
―おーーーーーおおーーーーーーーやあっ!おおおーーーーーーーーー
「トゥーッ!」
―ブン!ブン!
四人一緒に十字を切った。
すると瓦礫と化したアパートの地面が二度ズシン、ズシンと波打った。
その途端に悪夢のような黒い兵隊たちは一斉に姿を消し刀鍛冶衆はテントに下がり
青龍と白龍もテントの前に陣取った。
地面の下から太く低い聞きなれない呪文の声が聞こえてきた。
それは主と呼ばれていた悪魔の声。
「ヘル、ヘル、イアッ、イアッイスタァー」
5メートルはあるかと思われる真っ赤な光の玉が地面から無音で伸び上がり護摩壇の前に出現した。
そのせいか護摩壇の炎が弱まった。
もうマルダの精神状態は壊れかけていた。
『あっ、また火が消えそうだ・・・油・・木をくべなきゃ・・・』
刀を構えたままの静華が注意した。
「マルダッ危ない、やめろっ」
赤い光の玉を恐れもせずにマルダは、夢遊病者のように、よろよろと油と護摩木を抱えて近づいて行くとバラバラと護摩木をくべて
油を注ぎ、さらに燈明に向かおうとしたとき目の前の悪魔に叩き払われた。
―バチン!
ヘルメットが割れて、ヘッドセットも外れ体が、ふっ飛んだ。
無言のままのマルダが地面に横たわった。
「マルダァー!」静華が叫んだ。
『やばい・・・死んだかな・・・』
雑魚どもの始末をしていた青龍たちも一瞬動きが止まった。
「あっ」
「あれぇーマルダ殺られたの?な、青龍?」
「うっかりしてたなぁー・・・」
赤い光の玉は霊視出来る者が見るとヤギのような頭部で上半身は人間、下半身がゴリラのような・・・見るからに大きな悪魔だった。
静華は、ほのかに輝く宝剣を構え半眼になり悪魔を霊視をしている。
『亡霊たちを押さえ込み隙あらば人間を手にかけ犠牲者を増やしてきたのは、お前だな、いつから、この日本にいる?元は蘇我馬子の弟子じゃないのか?正体見たりっ!!』
どうしたことか目の前の光景と巨大な悪魔に圧倒され誰も動けなくなってしまった。
静華が宝剣を構え悪魔に言った。
「おのれぇーっよくも馬瑠蛇をっ!リューゴーショーキートウッ!
ワクグウアクラーセツッ!神を恐れよ!!」
静華が悪魔の中に光は無いか霊視で探ってみたが、ただの黒い肉体だった。
『心はもうないな魔物になる前に魂は握りつぶされたのか・・・ポルターガイストでくるか?
それとも超サイコキネシスか?・・・・ん?こないな・・・・あれのせいか?』
悪魔は毎度のことだが話し合いなど皆無、だが希に知性や心の残る高度な悪魔がいる。
静華は、まじまじと悪魔を観察した。
抜刀演舞でか、それとも神様のイカズチが効いたのか悪魔の右側の角が根元から折れていて両肩の傷口からも黒々とした瘴気エネルギーが漏れ出していた。
悪魔が神座に向かってきた。
―ズン ズン ズン
その時、空にいた、おくらげ様から白い一筋の光線が発射され宝剣に強い光を与えた。
「しめたっ!イザァッ!ヤアッ!」
静華は渾身の力で光り輝く宝剣を悪魔の胸に向かって突き出した。
悪魔は両手で宝剣を握り胸に突き刺さる前に受け止めた。
剣一郎と城一郎はテレパシーで会話をすると悪魔の左右に行き
柴刀を悪魔の腕に突き刺した。
「イザ・ヤアッアー!」
悪魔は苦しそうにしたが宝剣を掴んだまま離さない、呪文で城一郎と剣一郎を吹き飛ばした。
「グウゥーーーーバキシムッ!」
「おのれぇえええええーーーーイザッ! イザッ! イザッアーー!」
両手で宝剣を握りグイグイと胸に突き刺すべく静華が足を踏ん張り押したが宝剣は前に進まない・・・握る両手に力が入り足腰全部使って宝剣と自分の体を前に押した。
「アビラッアアアーーッ!!」
神楽衆たちが音を出し始めた激しい太鼓の乱れ打ち鐘も厘も打ち鳴らし無言の行のまま静華を応援し始めた。
―ダンッ!ドン!ドンドン!ドンドンドンドンドン!ダンッ!ドンドン
―カーン!カーン!カーン!カーン!カーン!
―キーン!ベンベンジャンジャンジャンジャンッジャン!ジャンッ!
―はぁーえらいやっちゃ えらいやっちゃ よいよいよいよいっ!
静華と睨み合う悪魔が魔式術を使った。
悪魔の目の色が黒から白になった。
『イア イア ランドルムッ!!』
周囲の景色が一瞬で変わり同じ部屋と同じ景色、窓の外には同じ家々が並んでいる。
宝剣を構えたままの静華は冷静だった。
「フーンこれが、お前らのブラックラビリンスとかいうやつか無駄だ馬鹿者、私を誰だと思っている、この裏切り者が、この黒迷宮を最初に木星の地獄に作ったのは、この私だぞ、自分を信じられなくなり悪魔に成り下がった、お前には、もう消滅しか道は無い。
こんなまやかしが効くとでも思っているのか?、あの唄を聞け、地球が滅亡すると知った古代人は魂を信じ輪廻を信じ最後に唄い踊ったのが、あの歌だ。
あれは、お前の最後を祝う唄だ、どうだ思い出したか私を・・・」
『イア ハスター・・・』
和華は迷宮にいる静華と悪魔の魂を見た、静華に乗り移った素戔嗚尊様の姿を・・・
ハッと我に返り刀を舞台に置くと静華に走り寄って後ろから腰を押して加勢した。
「おねえさまっーー!」
懸命に静華を支えた。
その時、空から一つの光の玉が筋を描き物凄いスピードで飛来してきた。
―グオォォォーーーーーーー
「静華さまああああああーーーーーーーっ!」
その光の玉はいきなり赤い光の玉、悪魔に体当たりを食らわした。
「そうりゃああああああっー」
―ゴンッ!ドンッ!!!
「グゥアアアアアアーーーーーッ」
不意打ちを喰らった悪魔が頭を抑え痛みに声を上げ宝剣の押し合いをしていた静華と和華も後方に吹っ飛んで頭を打ってしまった。
「うっ」
和華は舞台の下に転げ落ち静華は一瞬、気を失ってしまった。
宝剣が舞台に落ちた。
―ガランッ!
それをマルダは頭から血を流しぼんやりと見ていたが
悪魔は苦しみながらも静華に手をかけようとしているのが見えた。
『大変だ・・・静華さんがあぶない・・・・』
「うぅ・・・いったぁー・・・」静華が呻き目が覚めるとマルダが舞台に上がって宝剣を手に取ろうとしていた。
「ダメッ!マルダ触っちゃ駄目っ!!」
悪魔は、まだ頭を押さえ苦しんでいた。
マルダが宝剣を手に取ると持ち手部分が熱くなり赤くなった。
両手があっという間に焼けて手のひらを大火傷した。
「ぎゃぁーーーーーっ」
手のひらが焼き付きマルダが悲鳴をあげた時マルダの目玉がぐるりとひっくり返った。
「現破刃鬼!」野太い声がマルダの体から響いた。
マルダは宝剣を握ったままの姿勢で白目を剥き気を失って
仁王立ちになった。
不思議なことに宝剣はひとりでに宙に浮いたかと思うと
剣先が悪魔の胸に向かっていった。
しかし視える人にだけ見えていた。
マルダのもうひとつの体が肉体から離れみるみる大きくなり背中に翼が生え宝剣を奪い取ると悪魔の胸にザンッと突き刺した。
野太い低い声が響き渡る。
「アラッハバキッ!!」
「グアッ・・・」
宝剣の先端は悪魔の胸に刺さったが、悪魔は、また刃を両手で掴み胸に突き刺すのを阻んだ。
「グウッ・・・」悪魔に心は無かった。
アラハバキが前を向くと青龍と白龍が飛んできた光の玉を、どやしつけていた。
「この大馬鹿野郎っ!見ろ!大事な祭り!和華様も静華様も吹っ飛ばしやがって、どうすんだっ!このばかああああー!」
「だあってー静華様が危ないと思ったからあー・・・」
これは青龍と白龍の策略だった。
新米・黒龍・タイガを夜叉ヶ池に案内し八大龍王様に託したのは今から百年前まで遡った夜叉ヶ池だった、青龍・白龍は時間を操り百年前の今日にタイガを送り込み罪滅ぼしの行に着かせたのだった。
アラハバキが見ると黒い龍がいた、なんだか見覚えがある。
「おい龍達よ、おい黒龍、お前は誰だ名を名乗れ」
悪魔に宝剣を突き刺したまま余裕のアラハバキが問うと
「はい、帯雅と申します・・・あれ?マルダさん?えーっ?」
タイガは数回、瞬きをした。
「お前タイガか?大きくなったなあ立派な角生やして、ついこの間、夜叉ヶ池に行ったばかりじゃないか?随分と立派な龍になったなあー」
「いやぁーそれほどでもおー」ニッコリと笑う黒龍・帯雅。
「ちょうどいい、この悪い奴お前羽交い締めにしろ青龍・白龍は悪魔の両腕締め上げてくれ、さあ早くしろ」
「ハーイ」
三匹の龍に押さえ込まれた悪魔、アラハバキが胸に深々と宝剣を突き刺すと断末魔の悲鳴を上げ悪魔は塵となり消滅した。
「ガァアオーーーッ!!」
やがてマルダは小さくなり頭から血を流し気を失って倒れると自然に宝剣が舞台の中空に戻ってきて、落ちた。
―カラン!
上空にいた神々の光や、おくらげ様はフッと一瞬で、すべて消えてしまい空が暗くなった。
すると同時に雨が降ってきた・・・・
チラチラと燃える御燈明と護摩壇の明かりが見える。
散々祟をなしてきたアパートはバラバラに破壊されて、
只の瓦礫の山が地面にあった。
現場の者たちは何が起きたのか理解できず周囲がシンと静まり返った。
三人の龍が静華を見守っている。
静華はフラフラと歩いて神座からころげ落ち失神している和華を片膝で抱える。
スピーカーから祭師・榊原静華の声が響いた。
「悪魔消滅、解体之儀、終了です」
「やったああああああーーーー!!」
「うわぁああああーーーーー!!」
「うおーーっバンザーイッ!」
無言を貫いていた神楽衆が声を上げると、それが周囲に伝播していき
遠巻きに見学待機していた人々も巻き込んで
歓声と拍手が嵐のように現場を包み込んだ。
それは、いつまでも・・・鳴り止むことはなかった。
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