断片或いは欠片

すずしろ

文字の大きさ
上 下
7 / 13

探偵クライマックス~こうして冤罪は作られた~

しおりを挟む
「犯人は貴方です」
そう探偵は断言して私に指を指した。決して逃がさないとばかりに双眸が睨みつけてくる。その揺るぎない自信はどこから来るのか。

あと人に指を指すな。

「何の根拠があってそんなことを言うのですか?い、言いがかりは止めて下さい」
何でここでどもるのか。怪しまれてしまうじゃないか。

「佐藤さんが殺された日、アリバイが無いのは貴方だけなんですよ」
「自宅にいたと言っているでしょう」
「それを証明してくれる人はいますか?」
「そ…れは…」
言い淀んでしまう。一人暮らしで況して深夜だ。証明してくれる人なんていようはずがない。他の容疑者はこの分だとアリバイは立証されているのだろう。

「こ、殺す動機が無い」
「佐藤さんが亡くなる数日前貴方と言い争う声を聞いた人がいるんですよ。かなり声を荒げていたそうです」
「声を荒げるなんて大げさな」
「言い争ったことは否定しないんですね」
淡々と退路を防ぎ探偵は私を追い詰めていく。この探偵は加虐趣味に違いない。獲物を狩る肉食獣のように眼はギラギラしていた。

「仕事のことで意見が衝突したのは認めます。しかしそんなことで」
「ははは。人は簡単に人を殺せる。それこそ些末な事ででもね」

「そ…そんなに言うのなら証拠は!勿論あるんでしょうね?ここまで人を貶めて犯人に仕立て上げようとするぐらいなのだから!!」
何処の三文芝居の犯人役だ。苦し紛れに言った台詞はいかにも犯人臭い。
「貶めるだの仕立て上げるだの人聞きの悪い。」

私が犯人じゃ無いのは私自身がよく分かっている。しかし状況だけ見れば私を犯人にした方が収まりが良いのだろう。探偵は私を犯人と見なして都合の良い証拠で外堀を埋めているのだ。

「証拠ならあるんですよ。佐藤さんが必死に残してくれていました」
「?何を訳の分からないことを」
「佐藤さん右手にはボタンが確りと握られていました。金色の変わったデザインのボタンでした。」
ボタン?そういえば上着の袖のボタンが無くなって別のボタンを付けた事がある。あれはいつだった?

「これ。貴方のものでしょう?」
探偵はポケットからボタンを取り出し私に見せた。確かに私の上着のボタンに酷似している。口ぶりから私の物だという裏は取れているのだろう。

「違う…私じゃない」
「悪足掻きもいい加減にしてください」
長い溜息を吐いて苛立ち気味に探偵は言った。

「違う。違う。私は殺っていない!」
私は首を何度も左右に振り尚も言い募った。そんな私に探偵は冷たい視線を向ける。

「誰かに嵌められたんだ!私じゃない!!」
「誰かとは誰です?」
「それは……」
真犯人など私に分かるはずが無い。

「詳しくは警察で。弁明があるならそこですると良い」
最後は警察に丸投げするのか。
隣室で待機していたであろう警察官が入ってくるなり私に手錠をかけた。

結論ありきで私を犯人に仕立て上げた探偵より、弁護士を雇って警察と遣り取りをした方がまだマシかもしれない。

そんなことを考えつつ私は警察官と共にパトカーに乗った。

佐藤さんを殺した真犯人は分からないけれど、私を嵌めた人物は今ならハッキリ言える。

『探偵が私を嵌めたんだ』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

バーチャル女子高生

廣瀬純一
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...