53 / 55
18.憂鬱な放課後
18-4
しおりを挟む
「やっほー! 雛子、どうしたの? 今日は鞠乃っちと帰らないの?」
後ろから急に肩を叩かれ、怖い顔のまま振り向いてしまった。冷たい視線をごまかすことができないまま、理央を見た。
「理央……、草薙はどうしたの?」
「さっきまで一緒にいたけど、雛子がなんか凹んでそうだったから。一人で帰って貰った」
理央は気にした様子もなく隣を歩きはじめる。
理央の無神経さが妙に癇に障った。
自分のことを心配して追いかけてくれたのだろうが、その気まぐれを許すことができなかった。
「で、どうしたの?」
「別に」
雛子は不機嫌な表情を隠さない。
「あたしと雛子の仲じゃん? なんでも相談してよ。さっき、ライン来てたんだけど、今日カラオケ半額だって。ちょっと寄ってく?」
理央は言って、スマホを取り出した。
「草薙を一人で帰らせるなんてかわいそうだろ。草薙と帰ってやりなよ」
雛子は取り繕った笑みをむける。
「えー、でももうこっちまで来ちゃったし」
「うちは本当に大丈夫だから。草薙と帰りな。ほら、連絡してあげるよ」
雛子は理央の手からスマホをひったくると、友だちリストから草薙のアカウントを見つけて、通話をかけようとする。
「ちょっと!! 勝手にやめてよ!!」
理央が甲高い声をあげ、雛子の手からスマホを取り返そうとする。
雛子は逆の手に持ち替えて、彼女の手を避けた。
怒った理央はさらに身を乗り出し、雛子の手を引っ掻くようにしたスマホを奪い取ろうとしたときだった。
スマホは雛子の手から滑り落ちて、車道側に転がった。
わざと落としたわけではなかった。
それだけは絶対になかったと誓える。理央に奪われないように必死だったし、そのときはとにかく誰とも一緒に居たくない一心で、そこまで意地悪なことを考える余裕もなかった。
まずい、と思ったときにはスローモーションになっていた。
車道に転がったスマホ、不意に耳をついたエンジンの音、スマホを追いかけて泳ぐ理央の手。
バキッという嫌な音が響いて、数秒後にはもうスマホは車に轢かれていた。
「あああああああ、あたしのスマホ!」
理央が悲壮な声をあげた。
慌てて拾い上げてホームボタンを押すも、画面は明るくならない。ガラスは粉々に割れているし、地面に強く押し付けられてか、大きく陥没してる個所もある。
「ごめん……わざとじゃないんだ」
雛子は真っ青な顔で言った。
理央は雛子の言葉を無視して、スマホからメモリーカードをとりだそうとした。取り出し口は壊れていてうまく開かない。爪でこじ開けて、メモリーカード掻きだすと、半分を内部に残して、欠けた破片がこぼれ落ちた。
「うっそ……割れてるんだけど……」
「ほんとごめん」
雛子は謝ることしかできなかった。
確かに、気まぐれで自分を気遣った理央に腹を立てていたのは事実だし、スマホだってわざと壊すつもりはなかった。とはいえ、結果的に自分がしてしまったことに比べれば、どれも言い訳にならないことだった。
「あり得ないんだけど! 人のスマホ触るとか普通ある?」
立ち上がって雛子を睨みつける。
「うちもちょっと気が滅入ってて」
「そういうことするやつだとは思わなかった。分かるじゃん? 大事なものだって! もう聞けなくなった人の連絡先とか、大事なメモとか、写真とかいっぱい入ってるんだよ?」
理央の目からぼろぼろと涙が零れ落ちた。
「うん、だから、ごめん……」
「ほんとに許せない!! データ取り出せなかったらマジで絶交だから」
理央はそれだけを言い捨てると、スマホを握りしめて走り去ってしまった。
雛子はため息をつく。
すぐに携帯ショップに駆け込んだところで、どうにかなるとは思えなかった。あれだけひどく潰れていたら、メモリーカードも内部データも取り出せる状況にないだろう。
スマホの中にどんなデータが入っていたか、雛子は思い浮かべることができた。
どこかに出かけたときは、みんなで自撮りを撮ったし、気軽にはいけないお洒落なカフェで頼んだケーキセットとか、夜遅くまで学校に残ったときに撮った夜景とか、それこそコロッケを四つも頼んだときにも写真を撮ったはずだ。
草薙とのデートのときに行ったお店の写真も、見せてもらったことがある。
「将棋部の部停が解除されたら、一年間、冬眠中のクマみたいに耐え忍ぶんだ」
理央、そういって草薙の写真を一生懸命貯めていた。
それらはもう二度と撮ることはできない。
ときどき見返して思い出すことも、誰かと写真フォルダを見せあいながら、これは何の写真で、これはどんな思い出と話し合うこともできない。
どうしてこう自分はダメにしてしまうんだろうか。
大切な友人を二人も失った。
もう理央とも以前の関係には戻れないだろう。たとえ自分を許してくれることがあったとしても、それは許したというだけで、なかったことにはならない。
もしかしたら理央も鞠乃みたいに、事あるごとにチクチクと自分を責めるようになるのかもしれない。
嗚咽がこぼれた。
もとに戻したいと思った。
仲が良かったころに。なんでも話せて、本気で親友だと思えた頃に。
友だちだったら許しあえるとか、また仲直りできるとは思えなかった。たとえ、そうであったとしても傷は残る。
はあ、最悪だ。
後ろから急に肩を叩かれ、怖い顔のまま振り向いてしまった。冷たい視線をごまかすことができないまま、理央を見た。
「理央……、草薙はどうしたの?」
「さっきまで一緒にいたけど、雛子がなんか凹んでそうだったから。一人で帰って貰った」
理央は気にした様子もなく隣を歩きはじめる。
理央の無神経さが妙に癇に障った。
自分のことを心配して追いかけてくれたのだろうが、その気まぐれを許すことができなかった。
「で、どうしたの?」
「別に」
雛子は不機嫌な表情を隠さない。
「あたしと雛子の仲じゃん? なんでも相談してよ。さっき、ライン来てたんだけど、今日カラオケ半額だって。ちょっと寄ってく?」
理央は言って、スマホを取り出した。
「草薙を一人で帰らせるなんてかわいそうだろ。草薙と帰ってやりなよ」
雛子は取り繕った笑みをむける。
「えー、でももうこっちまで来ちゃったし」
「うちは本当に大丈夫だから。草薙と帰りな。ほら、連絡してあげるよ」
雛子は理央の手からスマホをひったくると、友だちリストから草薙のアカウントを見つけて、通話をかけようとする。
「ちょっと!! 勝手にやめてよ!!」
理央が甲高い声をあげ、雛子の手からスマホを取り返そうとする。
雛子は逆の手に持ち替えて、彼女の手を避けた。
怒った理央はさらに身を乗り出し、雛子の手を引っ掻くようにしたスマホを奪い取ろうとしたときだった。
スマホは雛子の手から滑り落ちて、車道側に転がった。
わざと落としたわけではなかった。
それだけは絶対になかったと誓える。理央に奪われないように必死だったし、そのときはとにかく誰とも一緒に居たくない一心で、そこまで意地悪なことを考える余裕もなかった。
まずい、と思ったときにはスローモーションになっていた。
車道に転がったスマホ、不意に耳をついたエンジンの音、スマホを追いかけて泳ぐ理央の手。
バキッという嫌な音が響いて、数秒後にはもうスマホは車に轢かれていた。
「あああああああ、あたしのスマホ!」
理央が悲壮な声をあげた。
慌てて拾い上げてホームボタンを押すも、画面は明るくならない。ガラスは粉々に割れているし、地面に強く押し付けられてか、大きく陥没してる個所もある。
「ごめん……わざとじゃないんだ」
雛子は真っ青な顔で言った。
理央は雛子の言葉を無視して、スマホからメモリーカードをとりだそうとした。取り出し口は壊れていてうまく開かない。爪でこじ開けて、メモリーカード掻きだすと、半分を内部に残して、欠けた破片がこぼれ落ちた。
「うっそ……割れてるんだけど……」
「ほんとごめん」
雛子は謝ることしかできなかった。
確かに、気まぐれで自分を気遣った理央に腹を立てていたのは事実だし、スマホだってわざと壊すつもりはなかった。とはいえ、結果的に自分がしてしまったことに比べれば、どれも言い訳にならないことだった。
「あり得ないんだけど! 人のスマホ触るとか普通ある?」
立ち上がって雛子を睨みつける。
「うちもちょっと気が滅入ってて」
「そういうことするやつだとは思わなかった。分かるじゃん? 大事なものだって! もう聞けなくなった人の連絡先とか、大事なメモとか、写真とかいっぱい入ってるんだよ?」
理央の目からぼろぼろと涙が零れ落ちた。
「うん、だから、ごめん……」
「ほんとに許せない!! データ取り出せなかったらマジで絶交だから」
理央はそれだけを言い捨てると、スマホを握りしめて走り去ってしまった。
雛子はため息をつく。
すぐに携帯ショップに駆け込んだところで、どうにかなるとは思えなかった。あれだけひどく潰れていたら、メモリーカードも内部データも取り出せる状況にないだろう。
スマホの中にどんなデータが入っていたか、雛子は思い浮かべることができた。
どこかに出かけたときは、みんなで自撮りを撮ったし、気軽にはいけないお洒落なカフェで頼んだケーキセットとか、夜遅くまで学校に残ったときに撮った夜景とか、それこそコロッケを四つも頼んだときにも写真を撮ったはずだ。
草薙とのデートのときに行ったお店の写真も、見せてもらったことがある。
「将棋部の部停が解除されたら、一年間、冬眠中のクマみたいに耐え忍ぶんだ」
理央、そういって草薙の写真を一生懸命貯めていた。
それらはもう二度と撮ることはできない。
ときどき見返して思い出すことも、誰かと写真フォルダを見せあいながら、これは何の写真で、これはどんな思い出と話し合うこともできない。
どうしてこう自分はダメにしてしまうんだろうか。
大切な友人を二人も失った。
もう理央とも以前の関係には戻れないだろう。たとえ自分を許してくれることがあったとしても、それは許したというだけで、なかったことにはならない。
もしかしたら理央も鞠乃みたいに、事あるごとにチクチクと自分を責めるようになるのかもしれない。
嗚咽がこぼれた。
もとに戻したいと思った。
仲が良かったころに。なんでも話せて、本気で親友だと思えた頃に。
友だちだったら許しあえるとか、また仲直りできるとは思えなかった。たとえ、そうであったとしても傷は残る。
はあ、最悪だ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜
赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。
これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。
友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!
【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件
木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか?
■場所 関西のとある地方都市
■登場人物
●御堂雅樹
本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。
●御堂樹里
本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。
●田中真理
雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる