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17.鞠乃と雛子の過去について
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「雛子ちゃん、行ってきなよ。谷口くんがそう言ってるんだしさ」
ぎょっとして鞠乃を見た。
まさか、ここで口を挟んでくるとは思わなかったからだ。
鞠乃は自然な愛想笑いを浮かべている。二人の会話にちょっと口を挟んでみたといった雰囲気を醸しており、谷口には鞠乃の心中には気づいていない。だが、雛子には鞠乃が怒っていることはハッキリと分かった。
「え、鞠乃まで」
「わたしが同じ立場だったらやっぱりちゃんとお礼が言いたいな。雛子が行けば、谷口くんのお母さんもきっと喜ぶと思うよ」
「だよな」
「え、本当に良いの?」
「むしろ来てほしいくらいだよ」
谷口が返事をしたが、その言葉は鞠乃に向けられたものだった。
「行っておいで」
「来てくれるのか? いつにする? 永瀬が暇なときで良いんだけど……」
雛子は仕方なく、今週の土曜日を指定した。
その休み時間以降、鞠乃はまったく話をしにこなくなった。
昼休みに弁当を食べるために集まったときも、鞠乃は来ず理央に「あれ、今日鞠乃っちどうしたの?」と聞かれて雛子は返事に困ることになった。
結局、学校では一度も会話をしなかったのだが、だからといってそのままにしておくわけにもいかず、雛子はいつも通り一緒に塾に行くために鞠乃を迎えに行った。
鞠乃とちゃんと話ができるとすれば、そのタイミングだとも思っていた。
「なんで黙ってたの!?」
家から出てくるなり鞠乃は言った。
「黙ってたわけじゃないけど……言い出せなかったんだよ」
「それはわたしが哀れだからでしょう。あの子を助けようって言い出して、あの子を保護したのもわたしだったのに。雛子ちゃんは怖がってばっかだったのに!!」
「でも、最終的にはちゃんと見てたし」
「それでわたしは感謝されなかった。雛子ちゃんばっかり良い思いして」
「でも、うちが悪いわけじゃないだろ」
「じゃあ、谷口くんには言ったの? あそこにわたしもいて、リードとかおやつを買いに行ってたって」
「言う暇がなかったんだよ。きなこを病院に連れて行かなきゃっていうし」
「独り占めしたんだ。わたしが谷口くんのことずっと好きって知ってたくせに」
「鞠乃は気にしないって言ってただろ。きなこが無事で、飼い主が見つかったらそれでいいって」
「谷口くん以外だったら、それでよかった!!」
鞠乃は声を荒げて言った。普段はおしとやかな鞠乃がここまで感情をむき出しにするのを雛子は見たことがなかった。
「谷口くん泣いてたって言ってたよね?」
ふと思い出したように鞠乃が言った。
雛子は嫌な予感がした。
「言ったけど」
「どんなふうに泣いてたの? わたしがいない間に何があったか全部話して」
「大袈裟だよ。なんにもないって」
「じゃあ、なんで谷口くんはあんなにもじもじしてたの? 雛子ちゃんがなんかしたんでしょ」
「そんなわけないだろ。女子を家に呼ぶんだから、もじもじくらいするだろ」
「良いから。あの日何があったか全部言って」
しつこく鞠乃に迫られて、雛子はすべてを話した。
谷口がどんなふうに泣いていたか、きなこが泣き出した谷口の頬をなめたことや、感極まった谷口に抱き着かれたことも。
鞠乃は黙って聞いていたが、それが雛子には耐えられなかった。いっそのこと口汚い言葉で自分を非難してくれた方がマシだったし、わっと泣き出してくれたら、こっちだって取り繕うことができた。
胡散臭い言い訳を散々並べ立てていることに空しくなって、最後には雛子も黙りこくってしまった。
「本当はわたしが招待されるところだったんだね」
鞠乃は言った。
「え?」
ぎょっとして鞠乃を見た。
まさか、ここで口を挟んでくるとは思わなかったからだ。
鞠乃は自然な愛想笑いを浮かべている。二人の会話にちょっと口を挟んでみたといった雰囲気を醸しており、谷口には鞠乃の心中には気づいていない。だが、雛子には鞠乃が怒っていることはハッキリと分かった。
「え、鞠乃まで」
「わたしが同じ立場だったらやっぱりちゃんとお礼が言いたいな。雛子が行けば、谷口くんのお母さんもきっと喜ぶと思うよ」
「だよな」
「え、本当に良いの?」
「むしろ来てほしいくらいだよ」
谷口が返事をしたが、その言葉は鞠乃に向けられたものだった。
「行っておいで」
「来てくれるのか? いつにする? 永瀬が暇なときで良いんだけど……」
雛子は仕方なく、今週の土曜日を指定した。
その休み時間以降、鞠乃はまったく話をしにこなくなった。
昼休みに弁当を食べるために集まったときも、鞠乃は来ず理央に「あれ、今日鞠乃っちどうしたの?」と聞かれて雛子は返事に困ることになった。
結局、学校では一度も会話をしなかったのだが、だからといってそのままにしておくわけにもいかず、雛子はいつも通り一緒に塾に行くために鞠乃を迎えに行った。
鞠乃とちゃんと話ができるとすれば、そのタイミングだとも思っていた。
「なんで黙ってたの!?」
家から出てくるなり鞠乃は言った。
「黙ってたわけじゃないけど……言い出せなかったんだよ」
「それはわたしが哀れだからでしょう。あの子を助けようって言い出して、あの子を保護したのもわたしだったのに。雛子ちゃんは怖がってばっかだったのに!!」
「でも、最終的にはちゃんと見てたし」
「それでわたしは感謝されなかった。雛子ちゃんばっかり良い思いして」
「でも、うちが悪いわけじゃないだろ」
「じゃあ、谷口くんには言ったの? あそこにわたしもいて、リードとかおやつを買いに行ってたって」
「言う暇がなかったんだよ。きなこを病院に連れて行かなきゃっていうし」
「独り占めしたんだ。わたしが谷口くんのことずっと好きって知ってたくせに」
「鞠乃は気にしないって言ってただろ。きなこが無事で、飼い主が見つかったらそれでいいって」
「谷口くん以外だったら、それでよかった!!」
鞠乃は声を荒げて言った。普段はおしとやかな鞠乃がここまで感情をむき出しにするのを雛子は見たことがなかった。
「谷口くん泣いてたって言ってたよね?」
ふと思い出したように鞠乃が言った。
雛子は嫌な予感がした。
「言ったけど」
「どんなふうに泣いてたの? わたしがいない間に何があったか全部話して」
「大袈裟だよ。なんにもないって」
「じゃあ、なんで谷口くんはあんなにもじもじしてたの? 雛子ちゃんがなんかしたんでしょ」
「そんなわけないだろ。女子を家に呼ぶんだから、もじもじくらいするだろ」
「良いから。あの日何があったか全部言って」
しつこく鞠乃に迫られて、雛子はすべてを話した。
谷口がどんなふうに泣いていたか、きなこが泣き出した谷口の頬をなめたことや、感極まった谷口に抱き着かれたことも。
鞠乃は黙って聞いていたが、それが雛子には耐えられなかった。いっそのこと口汚い言葉で自分を非難してくれた方がマシだったし、わっと泣き出してくれたら、こっちだって取り繕うことができた。
胡散臭い言い訳を散々並べ立てていることに空しくなって、最後には雛子も黙りこくってしまった。
「本当はわたしが招待されるところだったんだね」
鞠乃は言った。
「え?」
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