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16.鞠乃と雛子その3
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しおりを挟む「昨日、どうしてこなかったの?」
鞠乃は校門を出るとぽつりとそう言った。
「久しぶりに理央と帰ってたんだよ。なんか文句ある?」
雛子は冷たく言い放った。
昨日、授業が終わったときには、鞠乃を置いて帰ることが痛快だった。過去のことであてつけがましい態度を取ってきたり、脅してきたりする彼女にちょうどいい意趣返しだと思った。
そもそもの原因はこちらにあると言っても、こうしつこく蒸し返されるのであれば、こっちだってときどきヒドい仕打ちをしてやりたくなる。
それなのに時間が立つうちに、だんだんととてもひどいことをしているような気分になり、今ではすごく気が重い。
「なんでそんなことするの? 最近ずっと一緒に帰ってたのに」
「草薙が風邪ひいたとかで、理央が帰ろうって言うからさ」
「そうじゃなくて、なんで黙って帰ったの? なんか言ってくれればよかったのに」
「悪かったな」
昨日はこんなやりとりも痛快に思えたはずなのに、今ではただ気がめいるだけだった。
「次やったら、雛子ちゃんが中学生のときにしたこと。言いふらすからね」
「あんたな、そういうのが嫌がられてるって分からないの。脅したりとか、あてつけがましいことばっかり言ったり、何回も何回も蒸し返したり、そんなことばっかしてるから、あんたとは帰りたくないんだよ」
雛子はついに我慢できなくなった。
別に過去のことを言いふらされるのが嫌なんじゃない。こうやって脅されたり、蒸し返されたりするのが嫌なのだ。そうじゃないときはもっと楽しく過ごせるのに。
「それがわたしだから。中学生のときの、一度も傷ついたことがないかのようににこにこしてるわたしはもういないの。大体、こうなることが分かってたのに、なんで一緒に帰ろうって言ってきたの?」
鞠乃はそう言い返してきた。
「鞠乃こそ、なんで一緒に帰ることにしたんだよ。うちが図書室に来たときに断ればよかっただろ。うちのこと恨んでるくせに」
「わたしは、周りからいつもひとりぼっちだと思われるのが嫌なだけ。雛子ちゃんだって理央ちゃんに気を使わせたくないから、一緒に帰ってるだけでしょ?」
「ああ」
「だったら、良いでしょ。お互いに一人でいたくないだけなんだから、わたしは別に態度を改めるつもりなんかないし」
「じゃあ、黙って帰るのもこっちの勝手だろ。なんで一々、あんたに連絡しなきゃいけないんだよ」
「それが償いだから」
「なんだよそれ。大体、一年以上前の話をいつまで引きずるつもりだよ」
雛子は拒絶したくなった。
そのことに関してはもう忘れたかった。自分だって苦しい思いをしたし、環境も大きく変わり、ようやく過去に置いてこれそうになってきた。
それなのに、鞠乃はまだそれを許してくれない。
「雛子ちゃんは分かってないよ。雛子ちゃんはわたしが終わった恋のことをいつまでもねちっこく根に持ってると思ってる。でも、違うんだよ。わたしはあのとき好きな人と大事な友だちを同時に失った。そして、それまでの自分も殺した。あの後の出来事が今も続いてるんだよ」
「それはそうだけど……」
それを言われると反論できなくなってしまう。
頭が痛い。胸が苦しい。
視界がチラつくほど、気分が塞ぎ、叫び出したい衝動を覚えた。どうせ、うちが悪いんだろ。
分かってる。うちが全部悪いんだ。
でも、あのことで一番大事な友だちを失ったのは、こっちも同じだ。雛子はそう言いたかった。
でも、その言葉を口にすることはできなかった。
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