コロッケを待ちながら

１０．ステーキ

10-2

　見ればレジのすぐ横に焼き肉のたれや、すき焼きの割り下が売ってある。ワサビ塩や、おろし醬油は個包装の使い切りタイプで追加料金を取られることはあっても、おばちゃんの手間が増えることはなさそうだ。
　とはいえ、ワサビ塩やおろし醬油はやりすぎな気がした。
　店先の端っこで立って食べるのだから、優雅なディナーとはいかない。おろし醬油やワサビ塩はふさわしくないような気がしたし、白ご飯が欲しくなってから後悔したって遅いのだ。
「塩コショウで」
　隣で理央がうんうん、と頷いた。
「じゃあ、ちょっと待っててね」
　おばちゃんがトレイを取り出して、ステーキ肉をカットしはじめた。
「で、何があったの？」
　理央は顔を赤くしながら話し始めた。

　　　　　§§§

　理央と草薙は同じ掃除班に属していた。席を六人ごとの塊で区切って班を作るので、一学期のあいだはずっと同じ班だった。
　とはいえ、三つの掃除箇所を六グループで回すのだから、二週間のうち一週間は掃除をしない週がある。
　そのうえ大体は男女で固まって掃除をするので、草薙と話をする機会はほとんどない。
　トイレ掃除のときなんかは男子トイレと女子トイレで完全に分かれるし、掃除が終わるとそのまま解散になるので、最後に顔を合わせることもなかった。
　だから、同じ班とはいえ、草薙と話すチャンスがあるとは思ってなかった。
　ふたりの班はその週、教室の掃除当番だった。
　教室の掃除は、最後にジャンケンでゴミ出しの人間を決めることになる。
　理央はそのジャンケンに負けてゴミ出しをすることになった。他の生徒が急いで部活に向かう中、理央はゴミをまとめた。
　先週の班がゴミ袋を捨て忘れたようで、ゴミ袋は二つになった。パンパンに入ったゴミ袋を両手にさげて教室を出ようとしたところで、草薙が声をかけてきた。

「一個持とうか？」
「良いの？」
「一人で行くのは大変じゃない？」
「でも、草薙くんは部活じゃん」
「ううん、今日は部活ないから」
　言われてハッとした。急に話しかけられて動揺していたせいか、将棋部が部停になったことをすっかり忘れていた。
「そっか、ごめん」
「いや、良いんだ。持つよ、一個」
　草薙がゴミ袋を掴んだ。
「ありがと」

「残念だったね。せっかく部活頑張ってたのに」
　廊下を歩きながらそんな話をした。