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6.コロッケ3つ
6-2
しおりを挟む「じゃあ、一回だけ。一回だけデートしようよ。絶対楽しくするから。それでもう少し遊んでも良いかなって思ったら、付き合う。やっぱり良いかなって思ったらふってくれていいから。それでどう?」
まっすぐな目で見つめられるほど、理央は逆に冷めていった。
自分が井上と付き合うことは絶対にないと分かった。
「うん、わかった。今週の土曜日でどう?」
それなのに理央は頷いていた。
§§§
「あたし、頭おかしいよ!! 全然好きじゃないのに!! 井上とデートできる状態じゃないのに!!」
「悪い、理央、今ちょっと面白くなってきたなって思ったわ」
雛子はそう言って意地悪な笑みを浮かべた。
「ひとでなし!」
「でもさ、やっぱり人って分かんないだろ? 二人きりで会うとちょっと違うかもしれないし、デートしてみると良いやつだったりするだろうし」
「じゃあ、雛子がデートしてきてよ」
「うん、そうしてあげたいんだけどな、うちも井上はちょっとなあ……」
「タイプじゃないの?」
「だって、あいつサッカーバカだろ」
「分かる」
「はあ……なんで良いよって言っちゃったんだろう。本当に嫌なのに! 草薙くんとだったら、夜の二時に呼び出されたって喜んでいくのに」
「理央はDVとかされても別れられないタイプだな」
「草薙くんはDVとかしないし」
「でも、正直さ、あんたってそういう悩みとかないと思ってたよ」
「どういうこと?」
「理央って告白されなれてるだろ? いつも適当にいなしてて、別にヒドい振り方するわけじゃないんだけど、期待を持たせないと言うか、諦めさせるのが上手いと言うか」
雛子の言うとおりだった。
理央は今まで何度か告白されたことはあったが、そのたびにうまくいなしてきた。
そういった立ち振る舞いは苦手ではなかったし、振り方次第では、気まずくならず、傷つけずに振ることができると思ってきた。
それが間違いだということに理央は気が付いた。
今まで傷つけずにいれたのは、相手の好意に無頓着だったからだ。気まずくならなかったのは、相手に今まで通り接することを強いていたからだ。
それが悪いということはない。フラれた側の気持ちをフる側が背負い込む必要はないのだが、今の理央にはすべてが自分のことのように思えた。
「はい、コロッケ四つね」
できあがったコロッケを受け取り、二人は代金を支払った。
「こうなりゃ、ヤケだ!! ヤケコロッケだ!」
「見てるだけで胸焼けしそう」
理央はコロッケの入った袋を抱えるように持って、欲張りな王様みたいにぱくついていく。雛子はそれを見ながら、自分のコロッケをかじった。
こんなものは三つも四つも食べるものではないと思うのだが、ヤケだからしょうがないのだろう。
二つ目のコロッケを食べ終わったところで、理央は涙もろくなった。
「あたしってやな奴かな?」
一つ残ったコロッケを眺めながら、ぽつりと言い出した。
「コロッケで酔った?」
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