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5.友情の確からしさ
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しおりを挟む雛子は小学四年生のときにこの町に越してきた。父親の仕事の都合だった。転勤族ではなかったので、移り住むことになったのはその一回だけ。
それでも小学四年生での転校は雛子にとって最悪の時期だった。
前の学校には仲の良い友だちがいた。
小学一年生の「おともだち」なんかではなく、本当に気が合って、なんでも話せる仲だった。
「転校したら手紙を書くね」
その子は最後に遊んだときにそう言ってくれた。
「うん、毎週手紙出すよ」
雛子もそう返した。
お互いにそんなことを約束して、雛子はこの町に越してきた。
結局その手紙はそのうち続かなくなってしまうのだが、雛子はあの約束が嘘だったとは今でも思っていない。
あのとき、心の底からずっと手紙のやり取りが続くと思えた。
多分、今、あの日に戻って同じ約束をしても、その瞬間は手紙のやり取りがずっと続くと確信していると思う。
現実としてどうなるかは、雛子にはどうでもよかった。友だちとの別れを惜しむ瞬間に、この子とはずっと友だちだと思えたことが一番重要な真実だと思った。
その感覚を以前、雛子は鞠乃と理央に説明したことがある。
「確率だけは好きになれないわ。ねえ、二人は確率できる?」
はじまりは鞠乃のセリフだった。
その日は中学の期末テストの最終日で、雛子と理央と北条鞠乃と三人で帰っていた。
「あたしも確率って苦手」
「良かった、理央ちゃんも同じなのね」
「第一、なんなの。あの同様に確からしいって。らしいっておかしいよね? 確かなの? それともらしいなの?」
鞠乃は数学自体は苦手ではなかった。応用問題や文章問題でつまづくこともなかったし、定期テストでも常に八〇点は取っていた。
しかし、確率だけはどうも苦手なようだった。
「あのさ、同様に確からしいって言葉、うち何となく分かるんだよね」
雛子は数学も確率も苦手ではないが、それとは別に「同様に確からしい」という言葉はすんなり受け入れることができた。
「あたしも分かるよ! 同様に確からしい!!ってマジびんびんくるよね」
「びんびんくるの!?」
理央のセリフに鞠乃は驚いている。
「感じない? サイコロとか見てると、『同様に確からしいぞ!!』って感じするじゃん。もうびんびん」
「いや、うちはそういうのじゃないんだけどなあ。例えばさ、うちらって友だちだろ?」
改めて口に出すと陳腐な言葉だが、この説明にはこの言葉がぴったりだと思った。
「そりゃもちろん!」
「まあ、そうかしらね……」
理央と鞠乃がそれに頷いた。
「でも、今この中のうちの一人が転校したら、最初は連絡とったり、遊びに行ったりしててもさ、そのうち疎遠になると思うんだよな」
「なにそれ悲しい話?」
「いや、でも実際、疎遠になるだろ。やっぱりスゲー無理してまで会ったりとかってできないじゃん。でも、今は友だちだって思えるだろ?」
「だって、あたしら、友だちじゃん?」
「それが確からしさなんだよ。未来はどうなるか分からないけど、今はそれが確かに思えるってこと」
「なるほど、友情の確からしさだね」
鞠乃はそう言って手を打った。文系の鞠乃には意外にもこういう説明が納得しやすかったようだ。
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