上 下
10 / 55
4.コロッケ1つ

4-3

しおりを挟む
「まあね。母子家庭だからね」
「それがさ、あたしのお母さん、最近恋してるみたいなんだよね」
 理央は続けてそう言った。
「あんたのお母さん、きれいだもんな」
「いや、良いんだけどさ、あたしが失恋して落ち込んでるときに、ママが色気づいてるの見るの辛くない? なんか夜遅くに帰ってきた後、幸せそうにスマホを握りしめて笑ってるんだよ?」
「え、超乙女じゃん」
 理央の一途さはそこから来ているのかと雛子は妙に納得する。

「羨ましくってさ!」

「でしょうね」
「あれやりたいよ! あたしもスマホ握りしめて、『あ~幸せ!!』って感じをかみしめたくない?」
「分かるよ」
「雛子、ちょっと今日、イケメンなライン送ってきてよ。バイト終わりに確認して、嬉しくなるようなやつ」
「無茶ぶりがすごいな」
 そんな話をしながら、二人はコロッケを食べ終えて、帰路につく。
「一回やってみて」
「分かった」
 どんなラインを送ろうかと雛子は思案を始めた。
 さばさばした性格と男っぽい口調のせいか、雛子はよく女子から頼られることがあった。以前には一度も話したことのない隣のクラスの女子から告白されたこともある。
 ショートヘアではあるものの、決してボーイッシュというわけではないのだが、なんとなくそういう役回りを求められるようになっていた。
「じゃあ、またあとでね」
 理央はバス停のベンチに座ると、期待に満ちた表情で手を振った。

「おう」
 バイト終わりに確認して嬉しくなるようなラインなど思いつきそうもない。
というか、それは受け手の問題だろう。
 彼氏からラインが来れば、どんな内容でもうれしいだろうし、友だちから送られてきたラインではそうときめけるものではない。
 かなりの無理難題だが、雛子は理央の無茶ぶりに付き合うつもりだった。
 多分、明日から草薙の代わりをしてと言われても、とりあえずは協力してみたはずだ。
 それは二人の間柄では当たり前のことで、それに理由なんかないのだが、誰かからなぜ?と聞かれれば、恐らく雛子は理央と出会ったときのことを思い出しただろう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

My Angel -マイ・エンジェル-

甲斐てつろう
青春
逃げて、向き合って、そして始まる。 いくら頑張っても認めてもらえず全てを投げ出して現実逃避の旅に出る事を選んだ丈二。 道中で同じく現実に嫌気がさした麗奈と共に行く事になるが彼女は親に無断で家出をした未成年だった。 世間では誘拐事件と言われてしまい現実逃避の旅は過酷となって行く。 旅の果てに彼らの導く答えとは。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

処理中です...