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臍帯篇
Queen
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そのとき、ぼくはきゅうけいしつのすみっこにひとりですわっていた。
ぐずぐず、はなみずたらしてないていた。
だけども、こえだけはださないようにがんばった。
ここはいえじゃない。まだびょういんだ。
たくさんのひとがいる。
おかあさんやりくにもばれないようにしなきゃいけないとおもったから、とてもがまんした。
あ、ちがうんだった。
あのひとはぼくのおかあさんじゃない。
さいしょにあったときからわかっていたんだ。
でも、あのひとはいってくれた。あたしはふみくんのおかあさんよって……。
だから、ぼくはうれしくてあまえてしまった。
りくも、ぼくをおとうとだってぎゅってしてくれた。
でも……
それもきのうまでだ。
きょう、りくにほんとうのおとうとがうまれた。
あかちゃんのなまえはまだきまってないけれど、りくにとってはなまえのあるぼくなんかよりたいせつなおとうとだ。
ばかだな。
どうして、ぼくはここのかぞくになれるってかんがえちゃったんだろう。
あのひと……さわこさんも……ほんとうはぼくなんていらないんだ。
それはあたりまえのことだとおもう。
わるいのはぼく。
かんちがいしたこのぼくだ。
やさしくてきれいなさわこさん。そのひとはぼくのおかあさんじゃない。
でも、すきなきもちはかわらない。
きらいになりたくない。
おかあさんじゃないのに、すきなままでいたいんだ。
このきもち、どうしたらいいんだろう?
きゅうにへやがあかるくなった。
おどろいてふりかえると、そこにいたのはさわこさんでもりくでもない。
なまえは……だれだっけ?
きのうまで、ぼくはそのひとをおとうさんとしかよんでいなかった。
だから、まだなまえはよくおぼえていなかった。
そのひとはさわこさんとけっこんしたひとで、りくとまだなまえのないあかちゃんのおとうさんだ。
ふみひこ
きのうまで"おとうさん"だったそのひとは、ぼくのなまえをしずかによんだ。
おしごとがおわって、いまきたのかな?
このひとは、さわこさんがりくをぶったところはみていない。
そのこえはきこえているけれど、ぼくはなみだをみられたくなかったので、むししてふりかえらなかった。
ふみひこ
もういちどなまえをよんで、そしてぼくをだっこした。
なんていわれるんだろう。
ないてるぼくをなぐさめてくれるのかな?
それとも、かってにびょうしつをとびだしたからおこられるかも。
でも、どっちでもなかった。
そのひとはきゅうにうたをうたいだした。
しかも、なにをいってるのかわからない。にほんごじゃないみたい。
どうしてだろう……
なにをいってるのかわからないのに、それでもぼくにはそのいみがわかった。
みみではなく、からだのなかがそれをわかっていた。
Radio Ga Ga
そのひとはうたうことをやめて、ぼくにそういった。れでぃおがが……って。
ふみひこはくいーんのなかでも、このうたがいちばんすきなはずだよ
だって、おれもこのうたがいちばんすきだから
そのひとはわらってそういった。
りゆうになってないきがする。
それに、ぼくはそのうたをいまはじめてきいたんだ。
そのひとはぼくをだっこしながら、もっとぎゅってだきしめた。
おれはらじおだ
みみもとでそういった。
ぼくにはそのいみがわからない。らじおってなに?
だけど、そのいみをきくまえに、そのひとはつづけてしゃべった。
おれにはあんてながあるんだ
ふみひこのかんがえてることがじゅしんできるあんてながな
らじお……あんてな……ごさいのぼくにはむずかしすぎる。
それからなんにちかたって、ぼくはそのひとから、きらきらひかるまるいいたをもらった。なんまいもなんまいも。
すきなときにきいたらいい
くいーんはおまえをいやしてくれるから
ぼくはへやにおいてあったきかいに、きらきらひかるまるいいたをいれた。
そのきかいには、らじおもついていた。
Radio Ga Ga
知る必要のある全てのことを、ラジオではなく僕はQueenから学んだ。
いや、
学んだというよりも……うまく表現できないけれど、そこには故郷のような懐かしさを感じてしまう。
故郷か。知った風な事を。
そんなもの最初からないくせに。
僕が辛うじて知る実の父親は写真に写った姿だけ。
高木次彦
高木一彦の双子の弟――それが僕の父だ。
彼が死んでしまったので、僕は四歳から高木一彦の元に引き取られた。
ところで、四歳まで僕はどこで育ったのだ?
フミヒコ、この世にあなたの母親は完全に存在しないの。過去も現在も未来もね
どうやら、その謎は簡単に解けそうにない。
いくらQueenを聴いたところで。
ぐずぐず、はなみずたらしてないていた。
だけども、こえだけはださないようにがんばった。
ここはいえじゃない。まだびょういんだ。
たくさんのひとがいる。
おかあさんやりくにもばれないようにしなきゃいけないとおもったから、とてもがまんした。
あ、ちがうんだった。
あのひとはぼくのおかあさんじゃない。
さいしょにあったときからわかっていたんだ。
でも、あのひとはいってくれた。あたしはふみくんのおかあさんよって……。
だから、ぼくはうれしくてあまえてしまった。
りくも、ぼくをおとうとだってぎゅってしてくれた。
でも……
それもきのうまでだ。
きょう、りくにほんとうのおとうとがうまれた。
あかちゃんのなまえはまだきまってないけれど、りくにとってはなまえのあるぼくなんかよりたいせつなおとうとだ。
ばかだな。
どうして、ぼくはここのかぞくになれるってかんがえちゃったんだろう。
あのひと……さわこさんも……ほんとうはぼくなんていらないんだ。
それはあたりまえのことだとおもう。
わるいのはぼく。
かんちがいしたこのぼくだ。
やさしくてきれいなさわこさん。そのひとはぼくのおかあさんじゃない。
でも、すきなきもちはかわらない。
きらいになりたくない。
おかあさんじゃないのに、すきなままでいたいんだ。
このきもち、どうしたらいいんだろう?
きゅうにへやがあかるくなった。
おどろいてふりかえると、そこにいたのはさわこさんでもりくでもない。
なまえは……だれだっけ?
きのうまで、ぼくはそのひとをおとうさんとしかよんでいなかった。
だから、まだなまえはよくおぼえていなかった。
そのひとはさわこさんとけっこんしたひとで、りくとまだなまえのないあかちゃんのおとうさんだ。
ふみひこ
きのうまで"おとうさん"だったそのひとは、ぼくのなまえをしずかによんだ。
おしごとがおわって、いまきたのかな?
このひとは、さわこさんがりくをぶったところはみていない。
そのこえはきこえているけれど、ぼくはなみだをみられたくなかったので、むししてふりかえらなかった。
ふみひこ
もういちどなまえをよんで、そしてぼくをだっこした。
なんていわれるんだろう。
ないてるぼくをなぐさめてくれるのかな?
それとも、かってにびょうしつをとびだしたからおこられるかも。
でも、どっちでもなかった。
そのひとはきゅうにうたをうたいだした。
しかも、なにをいってるのかわからない。にほんごじゃないみたい。
どうしてだろう……
なにをいってるのかわからないのに、それでもぼくにはそのいみがわかった。
みみではなく、からだのなかがそれをわかっていた。
Radio Ga Ga
そのひとはうたうことをやめて、ぼくにそういった。れでぃおがが……って。
ふみひこはくいーんのなかでも、このうたがいちばんすきなはずだよ
だって、おれもこのうたがいちばんすきだから
そのひとはわらってそういった。
りゆうになってないきがする。
それに、ぼくはそのうたをいまはじめてきいたんだ。
そのひとはぼくをだっこしながら、もっとぎゅってだきしめた。
おれはらじおだ
みみもとでそういった。
ぼくにはそのいみがわからない。らじおってなに?
だけど、そのいみをきくまえに、そのひとはつづけてしゃべった。
おれにはあんてながあるんだ
ふみひこのかんがえてることがじゅしんできるあんてながな
らじお……あんてな……ごさいのぼくにはむずかしすぎる。
それからなんにちかたって、ぼくはそのひとから、きらきらひかるまるいいたをもらった。なんまいもなんまいも。
すきなときにきいたらいい
くいーんはおまえをいやしてくれるから
ぼくはへやにおいてあったきかいに、きらきらひかるまるいいたをいれた。
そのきかいには、らじおもついていた。
Radio Ga Ga
知る必要のある全てのことを、ラジオではなく僕はQueenから学んだ。
いや、
学んだというよりも……うまく表現できないけれど、そこには故郷のような懐かしさを感じてしまう。
故郷か。知った風な事を。
そんなもの最初からないくせに。
僕が辛うじて知る実の父親は写真に写った姿だけ。
高木次彦
高木一彦の双子の弟――それが僕の父だ。
彼が死んでしまったので、僕は四歳から高木一彦の元に引き取られた。
ところで、四歳まで僕はどこで育ったのだ?
フミヒコ、この世にあなたの母親は完全に存在しないの。過去も現在も未来もね
どうやら、その謎は簡単に解けそうにない。
いくらQueenを聴いたところで。
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