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introduction
gratitude
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セリスナの話によれば、南端の村から王都へ向かう三人組の運び屋に同行していた際、あるトラブルに巻き込まれたという。
彼女の煎じた腹痛薬が効かなかったから、約束の報奨は支払わないと因縁をふっかけられたのだ。
実際はそんなことなく、服用した男はすぐに痛みが治まり無事に王都へ到着したのだが、どうやら彼らは最初から金を踏み倒す腹だったらしい。
それどころか、事もあろうにリーダー格のその男はセリスナに「俺の情婦になれ」とせがんだのだ。
にべなくそれを断り執拗に金を要求し続けたセリスナに対し、憤慨した彼らは暴行の後に力ずくで彼女からフレベルを奪う暴挙にでた。そして、王都から北東にあるリョンの町でその馬を売りさばいたという。
気丈なセリスナは気落ちすることなく、すぐさま彼らの後を追った。
リョンの厩舎で程なく愛馬を見つけるも、そこでつけられた値は金貨12枚……とてもセリスナが買い戻せる額ではなかった。
そこで思いついたのが、託宣後の祝い金をもらったばかりの12歳に狙いを定める(姑息な)作戦だったのだが、あいにくリョンには託宣に該当する子供は最短でも80日は待たねばならなかった。
対象者がそうそう都合よく待機している筈もなく北へ北へ……そんなこんなでついに流れ着いたのが大陸最北の町――カムチャカというワケだ。
「かむちゃかニ運ヨク託宣受ケル子供イタアル。シカモだぶる託宣、2バイ2バーイ。アターシャ、らっきーアルゾヨ!」
「じゃ、最初からオレ達目的で【閑古鳥】に来たのか。たまたま双子でよかったな。一人分の祝い金だとフレベルを買い戻せないし」
「ちょっと待ってよっ! ハークは勝手にすればいいっ。でもボクは”ウ○コたれ助”なんかにびた一文出さないからねっ!」
仮に対象が馬でなく人だとしても、コイツはセリスナのために出費などしないだろう。まあ、そこんとこはオレがどうにかエリスを説得するとして、だ。
「リョンへ発つ以前にオレ達はいろいろと旅支度しなきゃならない。……どうだろう、セリスナ。手始めに何を用意すればいいかな?」
「そんなの巨乳に訊かなくてもボクにお任せ♪ ナイフ、ランプ、鞄に詰め込んでたら悪漢や軍に追われても大丈夫さ。目玉焼きが乗ったトーストは欠かせない。あと、リンゴが一つに飴玉二つ。ハーク、そこで何してやがるっ? 40秒で支度しなっ! 鳩にお別れの挨拶も忘れずにっ!」
「……エリス、頼むから邪魔しないでくれよ。こっちは真剣なんだ」
「し、失敬だなっ! ボクだって真剣だってばよっ?」
「別方面でな。しかも何言ってんだがサッパリわかんないし」
不満そうに唇を尖らせるも反論はない。反論できないからだ。
地球出身のオレですらそうなんだ。日本のアニメなど当然知る筈もない亜人間セリスナは普通にスルー。
「護身用ないふ、水袋アルナ。ヒトマズ、ソレダケアル。火口箱トらんぷナラアターシャ持ッテルアルシ、りょんマデ馬車移動アルカラ」
「護身用か。そうだな、とりあえずはそれで十分だ。得物選びはリョン以降に先延ばしするとして、当面の目的はフレベルを買い戻すこと。問題はその次だよ。オレは”サーペントマスター”としてヘビ退治を極めなきゃならないんだけど、セリスナはそんな職業って聞いたことある?」
「”さーぺんとはんたー”ハアルアルガ”さーぺんとますたー”ナル言葉ハ耳ニシタコトナイアル。何故ナラ、へびニ咬マレタラ普通死ヌアルノナ。熟達シタ者含メテ、ミンナ命ガケアル。はーくミタイニ死ナナイ者イナイアルノヨ」
「ハークお兄ちゃんだけじゃないもんっ! ボクだってヘビの毒に平気なんだぞっ!」
ここぞとばかり存在感をアピールするエリスだが、コイツの職業は”フール”だ。
「リョンまでの馬車賃が三人で600ラント(銀貨6枚分)……フレベルに12000ラント費やすとしてもまだ7000ラント前後は残ってる。護身用ナイフと水袋だって金貨1枚でお釣りがくるだろう。ただ、それ以降の雑費や得物購入となると全然足らないのは目に見えている。南へ行く前に、どうにかして稼がなきゃいけないな」
「ちょっ!! だからボクの分まであてにしないでよっ! 言っとくけど、ボクは20日前に2500ラント分の買い物を済ませたばかりなんだからねっ。後払いだけどっ」
「はぁ……? エリス、そんなのオレは聞いてないぞ! 20日前って託宣を受ける前じゃないか! 一体そんな大金、何に使ったんだ?」
「何に使おうがボクの自由じゃん! 少なくとも”ウ○コたれ助”に使うよりよっぽど有益だよっ! もういい、ボクは寝るっ! ハークお兄ちゃん、灯り消してっ! 巨乳はとっとと自分の部屋に戻るっ!」
言うが早いか、エリスはベッドでふて寝を決め込んでしまった。どうも2対1の図式が気に入らないらしい。オマエが勝手に孤立の道を突き進んでるだけなんだぜ?
7000-2500か……。
何を買ったか知らないが、まだマイナスじゃないんで良しとしよう。これ以上エリスを追いこんだら、ますますフレベルを取り戻すのが困難になるし。
それに……。
相談なしはお互い様だよな。
「ソレジャ、マタ明朝」
残った燻製肉を手に、セリスナがすんなり退出していった。
灯りを消したオレは横になり、真っ暗な部屋で考える。
(いよいよ、これが本当のお別れか)
転生後、ずっと世話になったヴァープズ家……随分と両親から邪険に扱われてきたけれど、今のオレやエリスがあるのも彼らのおかげなのは否定できない事実だ。
感謝の意味を込め、オレは1枚の金貨を枕の下にソッと潜ませる。
彼女の煎じた腹痛薬が効かなかったから、約束の報奨は支払わないと因縁をふっかけられたのだ。
実際はそんなことなく、服用した男はすぐに痛みが治まり無事に王都へ到着したのだが、どうやら彼らは最初から金を踏み倒す腹だったらしい。
それどころか、事もあろうにリーダー格のその男はセリスナに「俺の情婦になれ」とせがんだのだ。
にべなくそれを断り執拗に金を要求し続けたセリスナに対し、憤慨した彼らは暴行の後に力ずくで彼女からフレベルを奪う暴挙にでた。そして、王都から北東にあるリョンの町でその馬を売りさばいたという。
気丈なセリスナは気落ちすることなく、すぐさま彼らの後を追った。
リョンの厩舎で程なく愛馬を見つけるも、そこでつけられた値は金貨12枚……とてもセリスナが買い戻せる額ではなかった。
そこで思いついたのが、託宣後の祝い金をもらったばかりの12歳に狙いを定める(姑息な)作戦だったのだが、あいにくリョンには託宣に該当する子供は最短でも80日は待たねばならなかった。
対象者がそうそう都合よく待機している筈もなく北へ北へ……そんなこんなでついに流れ着いたのが大陸最北の町――カムチャカというワケだ。
「かむちゃかニ運ヨク託宣受ケル子供イタアル。シカモだぶる託宣、2バイ2バーイ。アターシャ、らっきーアルゾヨ!」
「じゃ、最初からオレ達目的で【閑古鳥】に来たのか。たまたま双子でよかったな。一人分の祝い金だとフレベルを買い戻せないし」
「ちょっと待ってよっ! ハークは勝手にすればいいっ。でもボクは”ウ○コたれ助”なんかにびた一文出さないからねっ!」
仮に対象が馬でなく人だとしても、コイツはセリスナのために出費などしないだろう。まあ、そこんとこはオレがどうにかエリスを説得するとして、だ。
「リョンへ発つ以前にオレ達はいろいろと旅支度しなきゃならない。……どうだろう、セリスナ。手始めに何を用意すればいいかな?」
「そんなの巨乳に訊かなくてもボクにお任せ♪ ナイフ、ランプ、鞄に詰め込んでたら悪漢や軍に追われても大丈夫さ。目玉焼きが乗ったトーストは欠かせない。あと、リンゴが一つに飴玉二つ。ハーク、そこで何してやがるっ? 40秒で支度しなっ! 鳩にお別れの挨拶も忘れずにっ!」
「……エリス、頼むから邪魔しないでくれよ。こっちは真剣なんだ」
「し、失敬だなっ! ボクだって真剣だってばよっ?」
「別方面でな。しかも何言ってんだがサッパリわかんないし」
不満そうに唇を尖らせるも反論はない。反論できないからだ。
地球出身のオレですらそうなんだ。日本のアニメなど当然知る筈もない亜人間セリスナは普通にスルー。
「護身用ないふ、水袋アルナ。ヒトマズ、ソレダケアル。火口箱トらんぷナラアターシャ持ッテルアルシ、りょんマデ馬車移動アルカラ」
「護身用か。そうだな、とりあえずはそれで十分だ。得物選びはリョン以降に先延ばしするとして、当面の目的はフレベルを買い戻すこと。問題はその次だよ。オレは”サーペントマスター”としてヘビ退治を極めなきゃならないんだけど、セリスナはそんな職業って聞いたことある?」
「”さーぺんとはんたー”ハアルアルガ”さーぺんとますたー”ナル言葉ハ耳ニシタコトナイアル。何故ナラ、へびニ咬マレタラ普通死ヌアルノナ。熟達シタ者含メテ、ミンナ命ガケアル。はーくミタイニ死ナナイ者イナイアルノヨ」
「ハークお兄ちゃんだけじゃないもんっ! ボクだってヘビの毒に平気なんだぞっ!」
ここぞとばかり存在感をアピールするエリスだが、コイツの職業は”フール”だ。
「リョンまでの馬車賃が三人で600ラント(銀貨6枚分)……フレベルに12000ラント費やすとしてもまだ7000ラント前後は残ってる。護身用ナイフと水袋だって金貨1枚でお釣りがくるだろう。ただ、それ以降の雑費や得物購入となると全然足らないのは目に見えている。南へ行く前に、どうにかして稼がなきゃいけないな」
「ちょっ!! だからボクの分まであてにしないでよっ! 言っとくけど、ボクは20日前に2500ラント分の買い物を済ませたばかりなんだからねっ。後払いだけどっ」
「はぁ……? エリス、そんなのオレは聞いてないぞ! 20日前って託宣を受ける前じゃないか! 一体そんな大金、何に使ったんだ?」
「何に使おうがボクの自由じゃん! 少なくとも”ウ○コたれ助”に使うよりよっぽど有益だよっ! もういい、ボクは寝るっ! ハークお兄ちゃん、灯り消してっ! 巨乳はとっとと自分の部屋に戻るっ!」
言うが早いか、エリスはベッドでふて寝を決め込んでしまった。どうも2対1の図式が気に入らないらしい。オマエが勝手に孤立の道を突き進んでるだけなんだぜ?
7000-2500か……。
何を買ったか知らないが、まだマイナスじゃないんで良しとしよう。これ以上エリスを追いこんだら、ますますフレベルを取り戻すのが困難になるし。
それに……。
相談なしはお互い様だよな。
「ソレジャ、マタ明朝」
残った燻製肉を手に、セリスナがすんなり退出していった。
灯りを消したオレは横になり、真っ暗な部屋で考える。
(いよいよ、これが本当のお別れか)
転生後、ずっと世話になったヴァープズ家……随分と両親から邪険に扱われてきたけれど、今のオレやエリスがあるのも彼らのおかげなのは否定できない事実だ。
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