絵心向上への道

よん

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BL

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 結論から言うと、僕は遅刻しなかった。
 遅刻はしなかったが、無断欠勤をやらかした。あの絵に激高したエビスが本当に水道管を破裂させて仕事どころじゃなくなったからだ。
 僕と嫁はてんやわんやの大騒ぎ。その隣でカンラカンラ笑う悪魔の如きエビス。
 この時点で嫁は一度もエビスの姿を見ていない。
 大家さんにこっぴどく叱られ、業者の人が引き取った後に第二波が僕達夫婦を襲った。
 特上の寿司十人前が届いたからだ。
 混乱する嫁に更なる追い打ち。
 このタイミングで姿を現したエビスは事もあろうに僕に抱きつき、「私達、付き合ってるの」などと言いやがった。

「ち、違うんだ! 話せばわかる!」

 犬養毅も効果なし。
 聞く耳持たずの嫁は鬼の形相で僕を引っ掻き蹴飛ばしグーで鳩尾みぞおちを殴った後、彼女は泣きながら着の身着のまま実家へ戻ってしまった。
 残された僕は、血反吐を吐きながら嘲るエビスに詰め寄った。

「いい加減にしろ! おまえのせいで何もかもがムチャクチャじゃないか! 何て日だッ!」
「わかったか? 女神である私を怒らせるとこうなるのだ」
「嫌がらせレベルが少しも女神らしくねえ! どーすんだよ? たかが絵くらいで嫁まで巻き込みやがって!」
「出て行く間際にウニとイクラを一つ残らず頬張って、最後にもう一発おまえの顔面に正拳突きを食らわせた逞しい嫁のことなど心配するな。おまえがミッションさえクリアすれば、私の力でここに戻してやろう。次のお題は」「待てぃ! こんな状況で絵なんか描けるかよ!」
「描かんことには先に進めんぞ?」
「……納得いかねーけど、わかったよ。てか、絵を描く趣旨が当初と変わってんじゃねーか!」
「全てはおまえのためだ。お題……【BL】」
「は? 何だよ、今までと違ってその抽象的なお題は?」
「BL……ボーイズラブだ。おまえがBLでイメージするものを絵で表現してみろ」
「僕はそんなジャンル書かないぞ」
「巷で流行ってるから描けるに越したことはないだろ。少なくとも、おまえの三文小説よりは比べ物にならないくらい需要がある」
「つくづく傷口に塩を塗りやがる。わかったよ、描きゃいーんだろ!」




















































     



「……おまえ、こんなキモい絵で腐女子がハスハスするとでも思っているのか?」
「今はこれが限界だ。色々あり過ぎて頭の中ファ~なってるし」
「何で二人ともハゲなんだ? 坊主ラブじゃない。ボーイズラブだ!」
「髪を描いたら美少女に見える恐れがある。あえて男を強調してみた。あと、頭の中がファ~ってなってやたら小峠の顔がチラついたのも影響してる」
「一度、自分の画力に対して真摯に向き合ったらどうなんだ? おまえに美少女なんか描けるわけないだろ! ツッコミどころは髪だけじゃない。ハゲ二匹の生首連ねて何がしたいんだ? 体も描け! 交尾したまま滑空するトンボかよ!」

 ダメだ。
 頭の中ファ~なってて、エビスのダメ出しが何も入ってこない。

 嫁、頼むから帰ってきてくれ。全ては誤解なんだ。

 それと、ウニとイクラ……せめて一貫ずつくらい残してほしかった。
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