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第4章
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洗濯機が回っている間、俺は夕食のことを考える。
あえて昼は抜く。ごはん派の俺もさすがに米オンリーの食事に早くも飽きてきた。
けれども、あるのは米のみ。
だったら食事の回数を減らして、空腹という最高のスパイスで料理のグレードを上げるしかない。
スパイス? そうだ、味を変えてみるか。
焼きオニギリはどうだろう?
握ったオニギリにハケで醤油を塗って網の上で焼けば、ずいぶんと味も食感も変わるんじゃないか?
ただ、どうやって握ればいい?
もう氷を触りながら握るのは無様すぎてイヤだ。
そんな現実問題に直面しながらも、オムスビの薄いピンクのブラジャーがずっと俺の脳裏からこびりついて離れない。……情けないまでにエロいぞ、俺。
だってしょうがないじゃん。思春期ど真ん中なんだしさ。
アイツ、どれくらい胸あんだろ?
C? いや、Dかな? クソ、もっとガン見すればよかった。
いや、オムスビじゃない。今はオニギリのことに専念しよう!
そう思いつつも、俺が思い浮かべるオニギリはどうしても薄いピンク色になってしまう。
レースフリルの薄いピンクオニギリ……衣と食、究極のコラボだ。
あのカップ、ちょうどオニギリ作るのにいい大きさなんだよな。
あの片乳部分にアツアツのごはんをはさんで右のカップと左のカップを重ねて、それをニギニギすれ……あ!
茶碗二つ重ねれば、直接アツアツごはんに触れなくてもオニギリできるじゃん!
これだ、これだよ!
ありがとう、オムスビのブラジャー!
ありがとう、俺の煩悩!
これで今日の晩飯は安泰だ!
*
ドキドキしながら洗濯が終了するのを待っていた時、内線が鳴った。
「何だ?」
クールな声で対応。
『ホス』
干す?
「オムスビが?」
『ソウ』
珍しいな。やっぱり下着見られるのが恥ずかしいのか。
俺は半ばガッカリしながらも、表面上は喜んで見せた。
「いい心掛けだ。やっと自ら動くことを覚えたな。あと少しで脱水が終わるから、その頃にまた電話する。あ、言っとくけど、洗濯ネットにオマエのブ……ブ……ブラ入れてないからなッ!」
いざ、声に出そうとすると抵抗がある。たかが下着にカッコ悪いな。これじゃ、アイアム童貞と自己紹介してるに等しい。
「形が崩れても知らないぞ?」
『ノン』
「……ノン?」
いきなりフランス語?
『ワイヤー』
ノンワイヤーか。それは洗濯ネットに入れなくても大丈夫な部類なのかな。
しばしの沈黙の後、
『……ミタ』
「見た? 何が?」
『……シタカラ』
下から見たか、という疑問文らしい。
そうだった。
俺はブラジャーばかりに頭が支配されてたが、オムスビはノーパンでもあったのだ。
「絶対に見てない」
『ウソツキ』
「嘘じゃないよ。神に誓って言うけれど何も見えてない。本当だ。もし見えてたら、俺の額には間違いなく包丁が突き刺さってたぞ」
『ハズレタ』
マジで狙ってたのか。
『シタギ』
「うん、下着が何だ?」
『サワルナ』
あくまで上から目線だな。
「わかってるよ。触らない。洗濯が済んだら電話する。オムスビは洗濯機から自分の分だけ二階に持ってって、そこの部屋で乾かせばいい。ハンガーをこっちで用意しとく。……それでいい?」
『ホウチョウ』
「さすがに包丁までは用意できない」
毅然たる態度で俺は要求を突っぱねる。
『ドウシテ』
「身の危険を感じたから。あれはキミを安心させるため護身用に渡したんであって、俺がキミの投げる標的になりたいからじゃない。悪いけど、あの包丁はキッチンから隠しておくよ」
『……』
オムスビ、長考に入る。
俺は辛抱強く返事を待っていたところで、思わず「あッ!」と声を出しかけた。
「ご、ごめん! また後で!」
慌ててそう断ってから電話を切ると、テーブルをはさんで当たり前のようにそこに座ってるじいさんと狐珠に向かって「いつからここに?」と声をひそめて訊いた。
じいさんはコホンと空咳して、
「ちょうど『神に誓って言うけれど』あたりじゃな。先日は世話になった。勝手に邪魔してすまんのう」
横の狐珠は何故か罪人の如く縄で縛られて無言を貫いている。
どうやらこれまでの悪事がバレたらしい。
「……どういうことです? まだ二日経ってませんよ?」
俺はじいさん……いや、神様に向かってそう訊ねた。今日は仙人のような杖は持参していない。
「むしろ、遅れてすまんかった。恩人にあのような最低の娘と一晩過ごさせて申し訳なかったと思うておる。狐珠の不始末を見抜けんワシのせいじゃ。すまんかったのう」
俺は狐珠を見たが、たいして反省してるようには見えなかった。それでこそ狐珠らしいが……。
「お粗末ながら、貴殿より奉納された絵馬の漢字が二十八しかないことに今朝方ようやく気づいたのじゃ。狐珠に問いただしたところ、失敗を隠そうとするあまり身勝手な行動に出たという事実が発覚し、今こうして使いの者共々お詫びに参ったのじゃよ。まことにすまんかったのう」
「何回謝るんです?」
「あ、こりゃすまん」
「ワザと言ってるんですか? そもそも、謝るポイントが違う。絵馬の漢字が二十九だろうが二十八だろうが関係ない。俺にしたらどっちも迷惑だったんですよ。そこんとこは理解してますか?」
「何とな!」
驚愕の神様は目を丸くさせて俺を見る。
「今、理解した」
「……」
それだけかい!
謝るならこのタイミングじゃないのか?
「男子たるもの、理想のオナゴと二人きりで過ごすなど夢のまた夢、誰もが無条件で喜ぶアバンチュール・イベントだと思っておったのに」
「その代償が自宅に監禁ですか? おまけに連絡の手段まで奪われてしまってる。おかげで入学早々手に入れたDFのポジションを呆気なく失いそうですよ。和歌山にいる親にもメールできてないし」
「その点なら心配いらん」
真っ白な長い顎鬚を自慢げに触りながら、神様はニヤリと笑った。
「ワシは神、全てにおいて万能じゃぞ。貴殿の親御さんやサッカー部の顧問にはこちらから連絡済みじゃ。ここの御札が剥がれた明日には、貴殿は何事もなく日常生活に戻れるであろう」
聞き捨てならない。
「明日って……今すぐ剥がしてくれないんですか?」
「すまんのう」
いや、ここで謝るなよ。
「御札は期日が来れば自然と剥がれる仕組みになっておる。それまでは、さすがにこのワシにもどうにもできんでな」
「全てにおいて万能なんですよね? だったらそこを何とかしてくださいよ」
「無理じゃ」
即答である。
「万能の神であるワシがあの御札を書いたのじゃ。であるからして、ワシ以上の力を持つ者でない限り、あの御札の効力を無にはできん」
「呆れた……。俺の代わりに親や顧問に連絡したくらいで『俺様万能、俺TUEEEEEE』ですか? もういいです。どうぞお引き取り下さい。洗濯も終わったし、オムスビに知らせなくちゃならないので」
「オムスビ?」
「二階の女の子です。本名を名乗ってくれないので、今のところそう呼んでます」
神様と狐珠は意味ありげに顔を見合わせると、二人は同時に俺を見た。
「では、そのオムスビとやらを引き取らせていただこう」
あえて昼は抜く。ごはん派の俺もさすがに米オンリーの食事に早くも飽きてきた。
けれども、あるのは米のみ。
だったら食事の回数を減らして、空腹という最高のスパイスで料理のグレードを上げるしかない。
スパイス? そうだ、味を変えてみるか。
焼きオニギリはどうだろう?
握ったオニギリにハケで醤油を塗って網の上で焼けば、ずいぶんと味も食感も変わるんじゃないか?
ただ、どうやって握ればいい?
もう氷を触りながら握るのは無様すぎてイヤだ。
そんな現実問題に直面しながらも、オムスビの薄いピンクのブラジャーがずっと俺の脳裏からこびりついて離れない。……情けないまでにエロいぞ、俺。
だってしょうがないじゃん。思春期ど真ん中なんだしさ。
アイツ、どれくらい胸あんだろ?
C? いや、Dかな? クソ、もっとガン見すればよかった。
いや、オムスビじゃない。今はオニギリのことに専念しよう!
そう思いつつも、俺が思い浮かべるオニギリはどうしても薄いピンク色になってしまう。
レースフリルの薄いピンクオニギリ……衣と食、究極のコラボだ。
あのカップ、ちょうどオニギリ作るのにいい大きさなんだよな。
あの片乳部分にアツアツのごはんをはさんで右のカップと左のカップを重ねて、それをニギニギすれ……あ!
茶碗二つ重ねれば、直接アツアツごはんに触れなくてもオニギリできるじゃん!
これだ、これだよ!
ありがとう、オムスビのブラジャー!
ありがとう、俺の煩悩!
これで今日の晩飯は安泰だ!
*
ドキドキしながら洗濯が終了するのを待っていた時、内線が鳴った。
「何だ?」
クールな声で対応。
『ホス』
干す?
「オムスビが?」
『ソウ』
珍しいな。やっぱり下着見られるのが恥ずかしいのか。
俺は半ばガッカリしながらも、表面上は喜んで見せた。
「いい心掛けだ。やっと自ら動くことを覚えたな。あと少しで脱水が終わるから、その頃にまた電話する。あ、言っとくけど、洗濯ネットにオマエのブ……ブ……ブラ入れてないからなッ!」
いざ、声に出そうとすると抵抗がある。たかが下着にカッコ悪いな。これじゃ、アイアム童貞と自己紹介してるに等しい。
「形が崩れても知らないぞ?」
『ノン』
「……ノン?」
いきなりフランス語?
『ワイヤー』
ノンワイヤーか。それは洗濯ネットに入れなくても大丈夫な部類なのかな。
しばしの沈黙の後、
『……ミタ』
「見た? 何が?」
『……シタカラ』
下から見たか、という疑問文らしい。
そうだった。
俺はブラジャーばかりに頭が支配されてたが、オムスビはノーパンでもあったのだ。
「絶対に見てない」
『ウソツキ』
「嘘じゃないよ。神に誓って言うけれど何も見えてない。本当だ。もし見えてたら、俺の額には間違いなく包丁が突き刺さってたぞ」
『ハズレタ』
マジで狙ってたのか。
『シタギ』
「うん、下着が何だ?」
『サワルナ』
あくまで上から目線だな。
「わかってるよ。触らない。洗濯が済んだら電話する。オムスビは洗濯機から自分の分だけ二階に持ってって、そこの部屋で乾かせばいい。ハンガーをこっちで用意しとく。……それでいい?」
『ホウチョウ』
「さすがに包丁までは用意できない」
毅然たる態度で俺は要求を突っぱねる。
『ドウシテ』
「身の危険を感じたから。あれはキミを安心させるため護身用に渡したんであって、俺がキミの投げる標的になりたいからじゃない。悪いけど、あの包丁はキッチンから隠しておくよ」
『……』
オムスビ、長考に入る。
俺は辛抱強く返事を待っていたところで、思わず「あッ!」と声を出しかけた。
「ご、ごめん! また後で!」
慌ててそう断ってから電話を切ると、テーブルをはさんで当たり前のようにそこに座ってるじいさんと狐珠に向かって「いつからここに?」と声をひそめて訊いた。
じいさんはコホンと空咳して、
「ちょうど『神に誓って言うけれど』あたりじゃな。先日は世話になった。勝手に邪魔してすまんのう」
横の狐珠は何故か罪人の如く縄で縛られて無言を貫いている。
どうやらこれまでの悪事がバレたらしい。
「……どういうことです? まだ二日経ってませんよ?」
俺はじいさん……いや、神様に向かってそう訊ねた。今日は仙人のような杖は持参していない。
「むしろ、遅れてすまんかった。恩人にあのような最低の娘と一晩過ごさせて申し訳なかったと思うておる。狐珠の不始末を見抜けんワシのせいじゃ。すまんかったのう」
俺は狐珠を見たが、たいして反省してるようには見えなかった。それでこそ狐珠らしいが……。
「お粗末ながら、貴殿より奉納された絵馬の漢字が二十八しかないことに今朝方ようやく気づいたのじゃ。狐珠に問いただしたところ、失敗を隠そうとするあまり身勝手な行動に出たという事実が発覚し、今こうして使いの者共々お詫びに参ったのじゃよ。まことにすまんかったのう」
「何回謝るんです?」
「あ、こりゃすまん」
「ワザと言ってるんですか? そもそも、謝るポイントが違う。絵馬の漢字が二十九だろうが二十八だろうが関係ない。俺にしたらどっちも迷惑だったんですよ。そこんとこは理解してますか?」
「何とな!」
驚愕の神様は目を丸くさせて俺を見る。
「今、理解した」
「……」
それだけかい!
謝るならこのタイミングじゃないのか?
「男子たるもの、理想のオナゴと二人きりで過ごすなど夢のまた夢、誰もが無条件で喜ぶアバンチュール・イベントだと思っておったのに」
「その代償が自宅に監禁ですか? おまけに連絡の手段まで奪われてしまってる。おかげで入学早々手に入れたDFのポジションを呆気なく失いそうですよ。和歌山にいる親にもメールできてないし」
「その点なら心配いらん」
真っ白な長い顎鬚を自慢げに触りながら、神様はニヤリと笑った。
「ワシは神、全てにおいて万能じゃぞ。貴殿の親御さんやサッカー部の顧問にはこちらから連絡済みじゃ。ここの御札が剥がれた明日には、貴殿は何事もなく日常生活に戻れるであろう」
聞き捨てならない。
「明日って……今すぐ剥がしてくれないんですか?」
「すまんのう」
いや、ここで謝るなよ。
「御札は期日が来れば自然と剥がれる仕組みになっておる。それまでは、さすがにこのワシにもどうにもできんでな」
「全てにおいて万能なんですよね? だったらそこを何とかしてくださいよ」
「無理じゃ」
即答である。
「万能の神であるワシがあの御札を書いたのじゃ。であるからして、ワシ以上の力を持つ者でない限り、あの御札の効力を無にはできん」
「呆れた……。俺の代わりに親や顧問に連絡したくらいで『俺様万能、俺TUEEEEEE』ですか? もういいです。どうぞお引き取り下さい。洗濯も終わったし、オムスビに知らせなくちゃならないので」
「オムスビ?」
「二階の女の子です。本名を名乗ってくれないので、今のところそう呼んでます」
神様と狐珠は意味ありげに顔を見合わせると、二人は同時に俺を見た。
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